File12 エセ放送委員は今日も通常運転
「え、え、あーー只今マイクのテスト中……」
どの学校にも放送室というものは必ず存在する。それは主に放送委員が使用するものであり、一般生徒には全く縁のない場所。
そのため放送委員も仕事がある時以外はあまり近寄らないほとんど人気のない場所となっていた。
「おしっ、マイクの調子もいいみたいだし行ってみよう、お昼のチクリタイム!」
そんな場所でもあることにも関わらず一人の男が放送室のマイクに向かって何やら話しかけている。
白いカッターシャツの下から透けて見えるカエルをあしらったキャラクターのイラスト。それはケロヨンと呼ばれるマスコットキャラクターなのだがそこは置いておくとしよう。
「えーー、まずはこのコーナーの常連さん! いつも昼休みに周回走ばっかりしてる陸上部部長、萬代超流《ばんだいこえる》さんです! 許可なしに昼休みの校庭の使用は禁止されてるし、あんまり生体電気弄ってると身体壊すぜ? 次に調理室で肉焼いてる馬鹿な発火能力者ー……」
旗から見れば『何言ってんだこいつ?』といったとこだが、この少年、嘉納鳴嘉《かのうなるき》はなにも適当なことを言っているわけではない。
というか、むしろ事実だ。
嘉納の能力、能力反応《AIMリアクト》は誰かが能力を行使した時に、その場所と、どの程度の威力かを知ることができる能力なのだ。
一見地味に思えるこの能力もこの学園では結構役に立つ(主にチクリに)。
ノリノリでチクリまくっている嘉納はそこでピタリと口を止めた。
「えーー、お怒りの放送委員が今現在こちらに向かっているので今日はこれまで! また今度ーー」
そさくさと放送室から飛び出す嘉納。そのわずか数秒後、計3名の男女がご立腹な様子で放送室へと入っていった。
(にしし、俺の力は能力だけじゃなくこの勘の良さもあるんだよね)
標的を逃し、悔しがっている放送委員を満足気に眺めると、嘉納はその場を立ち去った。
特にやることはなかったが午後の授業には出る気がしないので、学校からは下校。
着の身着のままにそこら辺をうろつく嘉納。しかし結局やることはなく、ただただ時間だけが過ぎていく。
嘉納はあまりにも暇なので自身の能力を使ってあたりを調べる。
しかしこれといってめぼしい能力の反応は……
あった。
嘉納の能力に反応したのは一箇所に集中する数多の能力。
まるで多くの能力者が寄って集って一人に攻撃を集中しているかのような惨状が自然と連想できた。
好奇心と興味に押されてその能力の反応がする場所へと向かう嘉納。
その場所は角を曲がったすぐ近くにあった。
“オズの魔法使い”。
主に学生をターゲットにした屋内の大型のアミューズメントパーク“だった”場所。
かつてはその名前にそぐわない、入場者がまるで『魔法の国に行った』と錯覚するくらいに優れた演出やアトラクションがあり、高評価を得ていた場所だ。
しかし今現在ではとっくのとうに潰れていて、取り壊しをを待つだけの空虚な建物。
たしかアトラクションの不備で事故が起きたことが原因だったらしい。
しかしそんな風に廃れて人っ子ひとりいなさそうな場所から能力の反応がするというのは一体どういうことだろうか。
「なんか面白そうなものが待ってるヨカーン!」
嘉納はどうもこういう事件の匂いがするものには自分から関わっていかないと気が済まない、やじうま精神の持ち主らしい。
周りの能力を探知しながら入り口の戸を開ける。
錆びついた金属が擦れ、今にも朽ち果ててしまいそうなドアは嘉納を受け入れうかのようにゆっくりと開いた。
瞬間
ズドン!! と、突然二階のほうから大きな振動が伝わってくる。それはまるで象が飛び跳ねてるのかと錯覚するくらいの大きさだった。
(今の能力は重力操作系の能力だな……物体に掛かる重力を何倍にもして床にでも叩きつけたのか?)
他に反応したのはレベル3程度の発火系能力、念動力系能力、肉体強化系能力などなど。数えればきりがないので省略するがレベル3の能力者が上に少なくとも10人はいた。
能力者同士の喧嘩なのだろうか、と考えながら嘉納は一階をあちこちと巡り、二回へ続く動きの止まったエスカレーターを階段の代わりに登っていく。
(……!!)
エスカレーターを登った先に突然視界を占拠したのは頭。
まるでロケットのようにこちら目掛けて飛んでくる人間の頭だった。
「……っぶなっ!!」
すんでのところでその人間ロケットを回避した嘉納。
避けられたその男はそのまま一直線に進んでいき壁に衝突する。
どうやら嘉納を攻撃してきたわけではなく、ただ単にこちらに吹っ飛ばされてきただけだったらしい。
そんな変な吹っ飛び方があるか? と嘉納はツッコミを入れながらも開いた視界から前方を見直す。
このフロアはボウリング場だったらしくあちこちに古びたボールやピンが転がっていた。
――――人間と、一緒に。
(おいおいおいおい!! なんだよこりゃ!!)
嘉納が見たものは地面にへばりつくようにして倒れる何人もの男達。そして、その中心に立つ一人の少年。
割れた窓ガラスから風が入り込み、暗幕をゆらゆらと揺らす。そこからホンの僅かに入り込んできた日の光がその少年の顔を照らした。
左目を覆う前髪に、整った顔立ち。そして風輪の制服を着た少年は自分を取り囲む不良達を一通り眺めてこう言った。
「次は吹っ飛ばされたいか? 比喩抜きで」
そんな言葉を放つのは、同じ風輪学園の百城鋼。序列は嘉納よりも上の第8位。
通常ならば能力者同士が戦闘を繰り広げるこんなデンジャラスな場所なんてさっさとおさらばする嘉納だが、『なぜ彼がこんなところで不良達と争っているのか』という疑問が嘉納の闘争本能……ならぬ逃走本能を鈍らせていた。
「ひゃはっ、息があがってんゾォ? そんな大口が叩けるのもこれまでだぁ!!」
確かに一対多数で百城は善戦している。ほんとは30人はいただろう男たちを、たった一人でその半数以上をねじ伏せてきたのだから。
しかしそれは決して無傷というわけではなく、多少なりとも傷を負っている。
額からは血を流し、両腕には無数の火傷の痕。見てるだけで痛々しい有様だ。
「かかってこいよ、格下」
目にかかる血を拭いながら、残り10数人当たりの集団を相手に物怖じしない百城。その姿は男たちにも嘉納にも無謀にしか見えなかった。
「そうか、そんなに死にてえなら……お望み通りミンチにしてやんよオォォォォォ!!!」
一斉に百城に飛びかかる男たち。百城はふわりと飛びあがり、それをかわす。
重力干渉《グラヴィティルーラー》。
自身、及び触れたものに掛かる重力を操る能力。百城はこの能力で自分の重力をほぼ無重力状態に近い状態においた。
「けっ、無重力状態じゃ体の自由は利かねえだろ、終わりだっ!」
肉体強化系能力者は3メートル以上高く空を浮く百城目掛けておもいっきり跳躍し、
ブンッ!! と一回り大きく膨れ上がった右腕をそのまま百城に振るう。
確かに手応えはあった。
強化プラスチック製のボーリング玉を粉々に砕く手応えが。
「いっ……てえ!! な、んで、玉が宙に浮いてんだあ!?」
「おいおい、すごいもんだな、肉体強化系の能力者つーのは。ボーリング玉砕いたのを『痛い』程度で済ませられんだから」
男が狙ったのは百城の腹部。男の拳は確かにそこを捉えていた。
しかし百城は殴られる瞬間に手に持ってたボーリング玉を盾に使ったのだった。
「そうか……自分だけじゃなく触れたものの重力さえも操られるってわけか。 それでお前はボーリング玉の重力を操り一緒に宙に浮かせた。 だがっ! もうそんな便利な盾はねえ! 次の攻撃でそのか細い腕をへし折ってやるぜ!!」
男は勝利を確信した笑みを浮かべながら、そこであることに気づく。
何時まで経っても地面に着地しない。
男が行ったのは単なる跳躍、百城の様にいつまでも浮遊できるわけではいというのに。
「―――――ッッ!! まさかテメエ!!」
“百城のように”。
つまりそれは“百城の力”を借りれば同じように空を浮くことができるということ。
「残念だが、もう俺の制御下だ、お前は」
男がボーリング玉をかち割った瞬間、百城はもう片方の手で、伸びきった無防備な男の腕に触れていた。
その男の重力を、自分と同じにするために。
トンッ、と百城は男の頭の上に足を置く。
「重力はなにも軽くすることしかできない訳じゃない。やろうと思えば――――」
ズドン!! と百城を頭の上に乗せた男は一気に急降下して地面に叩きつけられる。
床には僅かな陥没と砂埃、そして地震のような振動がこのフロア全体に響き渡った。
「なるほどね~~、さっきの振動の正体はこれってわけか」
物陰に隠れながら様子を窺っていた嘉納はニヤニヤと顎をさする。
このままこの戦いを観察し続ければお昼の時間のちくりネタがひとつ増える。『驚愕! 数十人の能力者を一人で潰す男』なんて感じのタイトルでどうだろうか。
そんな下らない思惑を巡らす中、百城はさらに敵を片付けていく。
(ふんふん、百城に触れられた者は次々と地面に叩きつけられていくな……あれは触れた瞬間に重力を何倍にもされて立つことすら出来なくなっているのか?)
しかも地面に叩き伏せられた男たちはその衝撃によってほとんどが気絶している。もはや触れば勝ちのような反則級の力だ。
「おい! 木原さんと中円さんは! いないのか!?」
どんどんと倒されてく男たちの中で一人がそんな言葉を叫んだ。
嘉納は興奮しておもわず立ち上がる。
(木原……? 木原ってあの裏でやばいもんと繋がってるって噂されてる木原一善のことか!? く~~っ、やっぱ噂はほんとだったんだ! これでまた一つお昼のちくりネタが増えた!)
数秒後、我に返ってすぐに隠れ直そうとしたがその必要はもうなかった。
その目に映ったのは今まで大暴れしていた男たちがすべて床に倒れ込んでる光景。そこには百城だけが地面に二本の足をつけ佇んでいる。
「いやーーおみごと!! さっすが我が校の第八位! まさに規格外だなーー」
威勢のよい拍手とともに嘉納は百城の前に姿を表す。百城は横目で確認だけすると、
「なんの用だ、12」
それだけポツリと呟く。
もう話す気力も無く、足元はふらつき、まぶたも重く瞳にのしかかっているようだった。
「おいおいアニメに出てくる悪の研究者じゃないんだから順位の数字じゃなく、名前で呼んでくれよな」
「……嘉納鳴嘉。なんの用だ」
いやに素直に訂正した百城。こういうとこではわりと律儀な正確なのかもしれない。
「おおうフルネームで呼んでくれるとは光栄ですな先輩。ま、冗談はおいとくとして、俺がここに来た理由はただ単に暇つぶしとネタ集めのためでーす!」
百城は軽くため息をついて、近くの壁に背中を預ける。
あまりに無反応すぎて張り合いがないと感じつつも嘉納は百城に近づいた。
「なにやってんですか」
「見てわかれよ。通報だ」
どうやら百城は携帯から警備員に通報しようとしてるようだった。
何も聞こえない虚空の空間に虚ろに響くボタンの確認音。嘉納にとってそれはどことなく不気味さを感じさせる音に聞こえて仕方がない。
「ははっ……通報なら外に出てやってもいいんじゃないですか? その傷もさっさとどうにかしないといけないし」
「どこだったかな、警備員《アンチスキル》の電話番号は。たしか登録してたはずなんだが……」
(無視かよ!! もういいし、ある程度ちくりネタは集まったからこんなとこさっさとおさらばしてやる!)
そんな時、嘉納の能力にある能力が反応する。
(なんだこれ……? 空間認識系の能力か? しかもかなり近い……)
百城と嘉納の周囲は先ほどの戦闘で照明が壊れたため、ほとんど真っ暗で何も見えないような状態。嘉納だって近くに百城がいるのを認識するのがやっとだ。
もしかしたら敵の新手かもしれない。そう身構えた瞬間。
「百城さん!! 危ないッ!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガ!!!! と、連続して響く機関銃のような銃声。
その銃声とともに発せられる弾丸は一瞬にして嘉納たちがいた場所を蜂の巣にしていく。
何分か経ち、銃声が止んだ。
「まったく、ほんと使えねー奴らだよなお前らはョ。自分からおびき出しておいてやられてんじゃねーっつの」
硝煙を放つ右腕を下ろすと、百城に倒された部下を思いっきり蹴飛ばしながら木原一善はそう呟いた。
この場所は木原一派の隠れ家の一つ。
今回は今後邪魔になりそうなレベル4を排除するということで、ここまで百城をおびき寄せたのである。
しかし思った以上に百城はしぶとく部下たちでは手に余るので、こうして一善自身が潰しに来たというわけだ。
「っぶねえ……殺す気かテメエッ……て、木原一善!? やっぱりお前が……!!」
「いいから掴むのを止めろ、重いんだよ」
今の銃撃で完璧に死んだかと思われた二人の声が何故か聞こえてきた。
「あんれぇ? おかしい、おかしいよなぁ? なんでこれだけの弾丸浴びせといて何ともねえ訳? 本当ならグロい死体が二つ出来上がってるはずなのにョ」
実は一善が銃撃を開始する一歩前に、百城は嘉納と自分の重力を操り、上へと飛んで回避していた。
それは嘉納の能力で危機を察知できたおかげであり嘉納の言葉にすぐ反応した百城のお陰でもある。
ストンと、ボロボロになった地面の上に再び着地すると嘉納は口を開く。
「木原一善、あんたが今回この学園で起きてる恐喝や暴行の黒幕なのか?」
「カカカ、だったらどーすんだョ」
「俺のチクリで学園中の晒し者にしてやる」
「ハハッ……そりゃあ面白ぇな」
ただし、と一善は付け加えて。
「ここから無事に帰れたらの話だがなぁ!!」
気がつくと嘉納は後ろにぶっ飛んでいた。それはバックステップなどではなく殴られた衝撃。
「が、あっ!?」
一善との距離は三メートル以上離れていた。だというのにわずか一瞬で一善は嘉納との間合いを詰め打撃を加えてきたのである。
もはや人間の動きではない。
そんな思いが嘉納の脳裏をよぎった時。
「クク、カカカ!! すげえすげえすげえ! 前回の調整でまたパワーアップしてやがる!! あのクソジジイもたまには役に立つじゃねえか!!」
嘉納を殴った右腕を見て嬉しそうに笑う一善の姿が見えた。
(あの腕は……そうか木原の野郎自分の身体をサイボーグ化してんのか、だからあんな動きができるっつーわけね……)
壁に叩きつけられた衝撃でガンガンと揺れる頭を押えながら嘉納は立ち上がる。
「また一つちくりネタが増えたぜ、アンガトさん 木原一善」
「だからさぁ……ここからは出られねぇっつってんだョ」
さっき以上のスピードで一善は嘉納に向かって突進していく。
一善の身体能力の高さは能力の恩恵ではなく、おそらく身体改造の成果と言ったところ。
もし一善が能力を行使しているのならば、嘉納の能力を使って行動を先読みできるのだが、そうでない以上嘉納は一善に対して無力でしかない。
もはやここまでかと、諦め目をつぶる嘉納。
そんな時、再びフロア全体に大きな振動が伝わってきた。
役目を終えてただぶら下がっているだけの照明は振り子のように暴れ、店内全てのものがガタガタと揺れる。
嘉納に向かって突進する一善はグラつき一時停止し、あまりの振動に嘉納は膝をつく。
「お前に用があるのは俺の方だ、木原一善」
その言葉を放ったのは既に満身創痍の百城鋼だった。
木原は百城の方を向き直し、
「おうおう、そういやそうだったな、女目当てでまんまと罠に引っかかった第八位さんョ」
「何!? それはホントか? ホントならまた一つちくりネタが……」
「――――行け」
百城の言葉に、はい? と嘉納は聞き返す。
「こいつは俺に任せてさっさと行けと言ってるんだ」
「いや、でもその傷じゃ……」
「帰って、チクるんだろ? なら、まずはそのネタを無事にここから持ち帰れよ」
百城は少し笑って、そう促した。
「ギャハハハハハ!! なんなんだョその三文芝居は!! 死亡フラグビンビンじゃねえか!! 安心しろ、どっちも帰さねえからそのフラグは不発だ!!」
一善がゲラゲラと笑ってる間、嘉納は何かを決心したらしく大声で百城に伝える。
「先輩も無事に戻ってきて、俺に罠に引っかかったこと詳しく教えてくださいよ!! それもネタにしますから!!」
嘉納はそのまま来た道を一気に引き返し始めた。
本当なら手を貸すべきなのだ。
どう考えたってあの状態の百城がサイボーグ人間の木原に敵うはずがないし、気絶していた木原の手下だって目を覚ますかもしれない。
「とりあえず……安全な場所に出たら警備員にチクんなきゃ……」
これは逃げるわけじゃない。そう必死に自分に言い聞かせ、嘉納は階段を滑り降りる。
一善は逃げ出した嘉納を追おうとはせず、百城のほうを眺めていた。
「さて、確か百城って言ったか、お前が知りてえのは白高城のことだろ?」
「察しがよくて助かるな」
百城はポケットから一枚の紙切れを取り出す。
そこには『ここで待つ』の一文と、白高城の名前が記されていた。
「これを出したのはお前か、それとも白高城か」
「白高城は今勘のいい風紀委員に見張られてるからよぉ、残念だがそれを書いたのは俺の部下だわ」
なら良かった、と百城は呟いて。
「白高城は、まだお前らほど堕ちてはいないんだな」
「どうだかなぁ……テメエが考えてるほどこの学園の闇は浅くはねえんだョ」
そんな時だった。
ガゴン!! と百城の背中に鈍器で殴りつけられたような強烈な一撃が走る。
その衝撃で百城は地面に倒れこんだ。
「なっ……に!?」
カランカランと背後から金属バッドが落ちる音が聞こえてくる。
前方には未だに一善がいる。
だとしたら今の攻撃は一善ではない第三者によるもの。
「ヒャハっ!! 木原さんやりましたよ! この道原歩がトドメを刺しました!!」
倒れこんだ百城を上から見下す男、道原歩《みちはらあゆむ》。
彼もまたこの学園の不良グループの一員だった。
「ったく……これから痛めつけようと思ってたところを、まあこんなカスいたぶったってなんも面白くねーからいいんだけどョ そんなことよりもう一匹のねずみはどうなった?」
「中円さんがいまごろ潰してると思いますよ。確か12位の野郎の能力は大人数とやりあうときにはあんま使えねえ能力ですし、そこまで手こずらないかと」
「つーことは16位、15位、12位、8位。今んとこ潰してきたのはこんぐれぇか……いやぁ楽しい楽しい!! レベル4の天狗どもの鼻を折るってのはョ!!」
「なんだ? なんか嫌な予感が……」
ある悪寒に嘉納はピタリと足を止めた。
自分の能力には今のところなんの反応もないが、それは百城の能力も反応してないということ。
一度引き返して様子を確かめに行くか?
そんな提案に頭をブンブンと振る。
ここで自分がチクらなければ百城はどうなる? 死ぬまで拘束し続けられるか、言葉もろくに話せない状態で発見されるかの二つに一つだ。
「今はとにかくここから離れるのが先だ……早くしないと」
しかしどこにも出口らしきものが見当たらない。ここに来たときは確かにあったはずなのだが。
もしかして迷子になったか、などと考えていると
「残念だが、ここまでだコネズミ野郎」
中性的な顔立ちに、風輪の制服に身を包んだ一人の少年がいきなり闇から現れ、そんな言葉を口にした。
「誰だあんた……もしかしてあんたも木原一善の仲間ってか」
「そういうことになるな、そして俺はお前の捕獲を命じられてる」
何かしらの合図があったのか、それともこの展開が読めていたのか、中円の後に続いて出てきた男たちが嘉納を取り囲む。
「やれ」
中円のその一言で、男たちは一匹の羊に群がる狼のごとく嘉納に襲い掛かった。
最終更新:2012年04月25日 23:14