それは、暗夜に浮かぶ1つの光。

「俺を包むこの『暗黒時空』。これは何人たりとも防ぐことは叶わぬもの(という設定)」

それは、闇夜に浮かぶ1本の光線。

「だが、足りぬ。この力だけでは虐げられている者達を救うにはまだ遠い(という設定)」

それは、暗闇に浮かぶ幾つもの光線。

「故に俺は欲した。『暗黒時空』に匹敵する力を!そして・・・遂に手に入れた!(という設定)」

それは、漆黒に浮かぶ何人もの光。

「さぁ、その目に焼き付けよ!!俺の、いや、俺達の『閃天動地(ライトニングブレイク)』を!!(という設定)」

どこかからリズムの良い音楽が流れてくる。それに伴ってブレイクダンス(自称)をする光を纏う人間達。

「さすが啄先輩!!自分、頑張ったかいがありました!!」
「何を言う刺界!!お前の力が無ければこの『閃天動地』は完成しなかったのだ。大いに誇るがいい」
「ありがとうございます!!」
「いい後輩ができたな、鴉よぉ。こりゃあ、彼を十二人委員会に加えてやってもいいんじゃないか?」
「拙者もその意見に賛成だ!師匠、拙者からもお願い申し上げます」
「うむ。俺は一向に構わんぞ。どうだ、刺界?我が十二人委員会の一員としてその力を振るってみないか?」
「自分のような若輩者に何という有難きお言葉。もし許されるなら、自分、精一杯努めさせて頂きます!!」
「そうか!!よし、皆の者!!新たな仲間が我が十二人委員会へ加入した!!さあ、宴だ!!今日は力の続く限り踊りまくるぞ」
「「「おおおおお!!!!」」」





「・・・・・・何ですか、あれ」
「・・・・・・えーと」
「・・・・・・適当に見て見ぬ振りをしていればいいってね」

最近救済委員に加入した安田もとい春咲は、眼前で繰り広げられている意味不明な踊りについて先輩に助言を求めたが、
その先輩達―花多狩と農条―も何やら口をごもらせていた。

「あの黒いコートの方がさっきから言ってる十二人委員会って何ですか?」
「・・・・・・うーんと」
「・・・・・・適当に聞き流していればいいってね。妄想世界の住人の言葉は現実世界の俺達には意味不明ってね」

黒いコートを羽織る男―啄鴉―は何を隠そう妄想に生きる男である。彼にとって妄想が全て、妄想世界の原理が彼の行動原理である。

「『閃天動地』って何のことですか?」
「・・・・・・えー、あー」
「・・・・・・どうやら刺界が持ってきた電飾を仕込んだスーツのことらしい。イルミネーションダンスって言うらしいってね」
「花多狩さん。さっきから唸ってばかりですよ」
「・・・ごめんなさい、安田さん。この光景・・・私の理解力を超えているみたい」
「・・・確かに」

さっきから深夜という時間帯にも関わらず色んな電飾を光らせて踊りみたいな動作をしている啄、仲場、ゲコ太マスク、刺界もとい界刺の4人。
一般人が見たらまず間違いなく変質者と誤解される彼等の容貌や動作は、れっきとしたダンスの1形式である。
事の発端は、以前のファーストコンタクトの際に姿を見せなかった啄が2日前に現れたことだ。
その折に、啄と界刺が意気投合してしまったのである。両者が同じ光学系能力者であったことも関係あるかもしれない。
そして今日、界刺は電飾が仕込まれたスーツを持ってきたのである。彼のコレクションらしいそれは、一見すると奇妙な服であった。
しかし、啄はそれをいたく気に入り、彼の言う所の『暗黒時空』に代わる新能力を見出すために救済委員活動をほったらかしにして今に至るのだ。
ちなみに春咲と同じくガスマスクに覆われた界刺も顔には見せないが(見えない)どこか満足そうな雰囲気を醸し出していた。

「今日の救済委員活動、安田さんのデビュー戦だったのにこれじゃあ無理そうだわ」
「確かに。こいつ等をほったらかしにしてたら後々俺達にもしわ寄せがあるかも」
「・・・というか意外でした。私、てっきり救済委員って単独活動とばかり」
「昔はね。まあ、今も単独でやる奴はいるけど・・・。ようは効率重視ってね」
「それもあるけど・・・やっぱり誰しも1人というのは不安なのよね。だから、こうやって連帯するのかも」
「・・・そうですか」
「思う存分暴れられなくて不満?」
「いえ!そんなことは」

花多狩の少し意地悪な質問を否定する春咲。不満なんかあるわけない。本音では・・・ホッとしているのだ。だって自分は・・・。

『ふ~ん、そっか。多分だけど・・・死ぬよ、君?』
「(!!な、何をホッとしているのよ、私!こんなことでホッとしていたら、何のためにここにいるのかわからなくなるじゃない!!)」

ふと界刺が言った言葉を思い出し、心の中で活を入れる春咲。風紀委員の仲間達を欺いてまで救済委員に入ったのはどうしてか。
それは、自分の力を証明するためである。自分が強いことを証明するためである。
決して弱さを認めるためでは無い。決して他人を頼るためでは無い。決して。

「はい、コレ。あなたのケータイ」
「へっ!?」
「ボーっとしないの。これは連絡用のケータイよ。自前のケータイだと色々不都合でしょ?
言っておくけど、毎月の使用分はちゃんと払ってもらうわよ?」
「は、はい」
「これは落としちゃダメだからね。風紀委員や警備員に拾われたら面倒だから。それと・・・そいつ等に仲間の情報を売るのは絶対にダメよ。無いとは思うけど」
「そうそう。アシが付くのは勘弁ってね」
「・・・わかりました」

花多狩の忠告を受け、春咲は再び思考に身を委ねる。何故なら自分は現役の風紀委員なのだから。
もちろん、売ったりなんかするつもりは無い。他ならぬ自分のために。

『だからさ、君の仲間へチクるのもやめとくよ』
「(私は・・・あの時どう思ったんだろう?支部の仲間に知られなくてホッとしたのかな?それとも・・・)」

そして思い出す。界刺のあの言葉を。
自分の仲間にバラすと言い、バラすのをやめたと言い、何故か自分と同じく救済委員に入った目の前の男が放った言葉を。


「(知られて・・・殴られて・・・説得されて・・・止めて欲しかったのかな?)」

continue!!

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最終更新:2012年05月01日 17:05