もうちょっとで夏休みを迎えるある夜のこと。一般人が寝静まった深夜に蠢く者達。彼等は自らを救済委員と呼ぶ。

「ここは私が!」
「あ、待って安田さん!!」

救済委員とは、風紀委員や警備員に救われなかった者・正当に評価されない者・それらを嘆く者で構成された組織である。
よく言えば風紀委員や警備員の目が届かない所を補助する自警団のような存在であり、
悪く言えば風紀委員や警備員でもないのに、勝手に犯罪者を取り締まっている存在である。

「(この石を『劣化転送』で・・・)」


バチバチ!!


「キャッ!!」
「爆竹だと!?ハッ!危ないでござる、安田殿!!」
「えっ?」
「死ねええぇぇ!!」

スローガンは何の因果か風紀委員と同じ『己の信念に従い正しいと感じた行動をするべし』というのを掲げている。
主な標的はスキルアウトや無能力者狩りである。今夜はその標的の1つであるスキルアウトを潰しているのだ。

「やらせはせぬぞおおぉぉ!!!」
「鴉!?」
「グハッ!!」
「かつて誓った決意・・・それは決してか弱き者達を見捨てないこと!!俺は俺の誓いに殉じるまでよ!!」
「し、師匠!!」


ピカー!!


「あの光の色は・・・」
「警備員が駆け付けて来たっていう刺界の合図ってね。もしかしたらさっきの爆竹のせいかも?」
「どうする花多狩?」
「すぐにここから離れるべきね。仲場は刺界と連絡を取りながら逃走ルートの確保を!農条は残存しているスキルアウト達を撒いて頂戴!」
「わかった。すぐに合図を送るからな」
「了解ってね。さぁ、『土砂煙幕』の出番だ!そりゃあああ!!」

警備員の接近を知り、戦闘の中断を決める花多狩。彼女は穏健派救済委員の中では指揮官的役割を負っている。
それは、彼女が何の能力も持たないレベル0であることと無関係とは言えないであろう。
そんな彼女の指示を受け、農条は己の能力『土砂煙幕』によって作った土団子を戦闘可能なスキルアウトにブン投げる。
スキルアウトの体や近くの地面に触れた土団子は爆発し、煙幕を発生させる。土団子自体に直接的な威力は無いが、
煙幕を張ることで逃走に役立てるという応用も可能なのだ。

「さあ!!安田さんも早く!」
「で、でも・・・」
「安田ちゃん!ここはさっさとズラがるんだ!警備員に見付かったらメンドクサイってね!」

この場を離れることに躊躇する安田もとい春咲の手を花多狩と農条が引っ張って退散していく。
春咲は思わず後ろを振り向く。その視線の先には煙幕に苦しむスキルアウトと急行してきた警備員の姿があった。






「ふ~、結構ヤバかったってね。間一髪ってヤツ?」
「でござるな。拙者も冷や汗をかいてしまった」
「刺界の的確な誘導が無かったら捕まってたかもな。サンキュ、刺界」
「滅相もありません!!自分には先輩方を後方から補佐する程度のことしかできません!!むしろ、共に前線で戦えないことを恥じております!!」
「そんなことはないわ、刺界。私だって・・・レベル0だけど、こうやって皆に指示を出すことで共に戦えているもの。
大事なのは“自分にできる最大限のこと”を見極めることよ。そして、貴方はそれをちゃんと見極められているわ」
「ありがとうございます!!花多狩先輩!!」
「・・・!!くっ・・・」

ここは、第7学区のある倉庫街の一角。穏健派救済委員の溜まり場の1つである。
彼等は、先程の警備員の追跡を掻い潜ってここに辿り着いたのである。

「“指示を出す”ねぇ・・・。それだけじゃ無いでしょ、花多狩姐さん。もしそれだけなら『演算銃器』なんて物騒な物はいらないし」
「能力者じゃ無い私にとって、これは護身用の武器よ。無能力者狩りとも戦う時もあるんだし、これくらいの武装は必要よ」

花多狩が肩にぶら下げているソレは、引き金の手前に太いマガジンが二本突き刺さった、奇妙なフォルムの大型拳銃。
『演算銃器』と呼ばれる学園都市製の銃器は、花多狩にとっては切り札的武器でもある。

「安田殿。大丈夫でござるか?」
「は、はい。ケガとかは特に」
「あ!でもライダースが土で汚れちゃってるね。俺が慌てて土団子を投げちゃったからなあ。ゴメン」
「い、いいんです。逃走のために土団子による煙幕は必要でしたし。ボーっとしていた私が悪いんです」
「安田ちゃん・・・」
「安田嬢よ!!」
「ビクッ!!は、はい。な、何でしょう、啄さん?」
「お前は・・・似ている」
「はい?」
「かつて俺を救ったあの娘に。俺はあの娘によって生まれ変わることができたのだ」
「え・・・え~と」
「そんなお前が救済委員に入ってきたことに俺は運命を感じずにはいられない!!俺は、お前が傷付く所を、汚れてしまう所を見たくない!!」
「あ、あの~」
「ということで、これを汚れてしまったライダースの代わりに着用するのだ!!刺界のコレクションなるこの『閃天動地』を!!」
「ただの電飾が付いたスーツじゃないですか!!すごい大層なネーミングですけど、これってただの変態スーツですよね!?」
「今度から十二人委員会ではこの『閃天動地』の着用を義務付けようと検討している最中なのだ。どうだ?お前も入るか?」
「何勝手に怪しい委員会に所属させようとしてるんですか!?そもそも十二人委員会って名前の通り、もう十二人いるんじゃないんですか?」
「いや、実を言うと俺、志道、ゲコ太、刺界以外の8名は欠番なのだ」
「はいっ!?それって十二人委員会じゃ無いですよね?四人委員会ですよね?」
「その論理ではな。それにお前が加われば五人委員会になるぞ」
「だから、人を勝手に所属させないで下さい!!そもそも十二人委員会って何ですか!?」
「元は俺が作った組織だ。組織の概要や成り立ちを話せば長くなるが・・・そうだな、まず」
「いや、いいです。結構です。聞きたくありません。興味も関心も一切無いので、はい」
「そうか?それは残念だ。ということでこの『閃天動地』を・・・」
「何が『ということで』ですか!?そもそも女の子を無理矢理着替えさせること自体に何の疑問も抱かないんですかー!!?」

啄達の騒がしい声が深夜の空気に木霊する。そのやり取りを眺めながら花多狩は農条に声を掛ける。

「どう思う、農条」
「どう思うって、花多狩姐さん?」
「安田さんのことよ。貴方から見てどう?」
「安田ちゃんか・・・。何て言うか、すごい意地っ張りに見えるってね」
「意地っ張りね・・・。私も似たような感想よ」

2人が話すのは春咲について。ここの所続いている春咲の行動について。

「所謂スタンドプレイ・・・とでも言うのかしら。協調性が欠けているというか、無理矢理出張るというか。
デビュー戦もそうだし今回もそうだったけど、自分が前へ出るって意思が強過ぎるわ。彼女自身は否定するけど」
「最初の自己紹介の時は結構弱気な娘と思ってたけど、案外我が強いタイプだったのかな?」
「それにしたって戦闘慣れしていないのは今日の戦闘でも明らかなんだし。あんな行動を続けていれば・・・本当に命が危ないわ」
「・・・うん」
「そもそも人に頼ることを嫌がってるのがねえ。そりゃあ救済委員って結構自分がーってタイプは多いけど。特に過激派の連中はね。
でも、安田さんの場合は・・・何だか無理をしている風にしか見えないわ」

まだ出会って間もない花多狩や農条の目から見ても春咲の行動や態度に危ういモノが潜んでいることがわかってしまう。
それは、春咲が無理をしていることに他ならない。

「どうして彼女みたいな人が救済委員になりたがったのか・・・。よくわからないわ」
「俺もってね。・・・そこんトコはどうなのさ、刺界?」

農場が声を掛けたのはガスマスクを装着した刺界もとい界刺。彼は啄達の輪から離れており、花多狩達の近くに腰を下ろしていた。

「お前みたいな奴が何であんな娘に付いているのか疑問ってね。アドバイスみたいなことも一切しないし。・・・もしかして惚れた弱み?」
「農条・・・茶化さないの。でも、私も農条と同意見よ。貴方みたいに自分のできることを見極めている人が何で・・・。
こんなことを言うのは失礼かもしれないけど・・・貴方は安田さんの何を尊敬しているの?」

農条と花多狩は疑問を抱く。
“自分にできる最大限のこと”を理解している者が、“自分にできる最大限のこと”を理解していない者に何のアドバイスもせずにただ見ているだけ。
不可解でしかない2人の関係。疑問しか浮かばない農条と花多狩だったが・・・

「『無能力者やレベルの低い能力者の気持ちを知ろうとすらしない奴なんて生きる価値無し』」
「「えっ?」」
「あの娘はそう言った(厳密には言っていないが)。だから俺は『ここ』にいる。あの娘が言った事が正しいのか。それとも間違っているのか。
あの娘が『ここ』で何を得るのか。希望か・・・それとも絶望か。俺はそれを見極めるために・・・『ここ』にいる。
勘違いするなよ。俺はあの娘のために何かをしようなんざ考えちゃいない。あの娘がどうなろうが知ったこっちゃないよ。個人的にムカつくしな」
「貴方・・・一体」

突如口調が変わったガスマスクの男に警戒心が芽生える花多狩。だが、ガスマスクの男はそんな花多狩の態度を意にも介さない。

「別に君達に危害を加えるつもりは無い。今の所は。それは彼女も同じ。彼女は君達を騙そうとか罰しようとか、そんなことは望んでいないよ。
いや・・・むしろ、彼女は“自分が罰せられること”を望んでいるのかもしれないね」
「“自分が罰せられる”・・・?」
「まぁ、そんなことを今話していてもどうにもならないよ。いずれわかることだし。それまではどうかよしなに、救済委員サン?」

まるで、自分は救済委員では無いとでも言うかのような口振りに言葉を無くす花多狩。

「ハハッ!面白い奴だなあ。君も彼女もってね」
「農条・・・」

そんな花多狩とは対照的に笑い始める農条。

「いいじゃない、花多狩姐さん。俺達に危害を加えるつもりは無いって言っているんだし」
「で、でも」
「彼女が何であんな行動や態度をするのかサッパリわからなかったけど・・・結構根が深そうってね。なのに、君は彼女を見捨てないんだな。
やっぱり・・・惚れた弱みってヤツかな。それともツンデレってヤツ?」
「・・・」
「安田ちゃんが抱えているモノは俺にはよくわからないけど、それってすごく重たいモノなんだってのはわかる。そのせいで彼女が苦しんでいるってのも。
なら、俺達救済委員が責任を持って救ってやらないといけないんじゃないのか、花多狩姐さん?
少なくとも俺は、救済委員ってのはそういう苦しみを抱えてるヤツを見放しちゃあいけないと思ってるってね!」

普段・戦時問わず結構おちゃらけている農条の顔は何時しか真剣な表情になっていた。それは、己が正義を貫くためか。

「・・・そうね。貴方の言う通りだわ、農条。何だか初心を思い出したって気分。私がどうして救済委員になったのかって・・・その初心をね」

花多狩の初心。なんの能力も持たない自分も何か出来ないかと考えたのが救済委員になった根源であった。

「『己の信念に従い正しいと感じた行動をするべし』。今の安田さんがこのスローガンの通りに動いているかは疑問だけど・・・。
だったら、私達が彼女を導いてあげればいいのよね。彼女にも救済委員になろうと思った理由がある。
それは、きっと軽くて・・・でもとても重いモノ。その重いモノを、私達が支えてあげましょう!!」
「そうこなくっちゃってね!よーし!やる気がでてきたぞおおぉぉ!!」

新たな決意を固める花多狩と俄然やる気が出て来た農条。
穏健派救済委員の良心的存在であるこの2人は、何だかんだ言っても他人を見捨てることができない人間である。

「ってことになったけど、刺界はどうすんだ?」
「刺界は・・・やっぱり何もしないの?」

その2人が改めて界刺に問う。問われた界刺は啄達の手によって電飾スーツに着替えさせられようとしている春咲を目に映し、

「ああ。俺は何もしないよ。あの娘に何が起きようとも。ただ見極めるだけさ。・・・・・・今の所はね」


春咲桜に何かあっても自分は何もしない”。そう言い放ったのであった。

continue!!

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最終更新:2012年05月08日 19:42