「ゴホン。えー、ではこれより会合を再開する。各自手に入れたり聞き及んだりした情報を報告してくれ!」
時刻は午後10時半を回った。すったもんだの末にようやく会合を再開できる運びとなり、花多狩主導の下進行していく。
「くそっ!思い出せない!!俺は何をしようとしたのだ!?七刀の奴め・・・」
「誰かさんをボコった罰でも当たったんじゃねぇの?」
何箇所か切り傷のある雅艶に界刺が小さい声で話し掛ける。
雅艶は七刀の『思想断裁』により、各救済委員の裸身及びヌード絵を描きたがる理由に至る記憶を“断裁”された。
故に、『ヌード絵を描く』という思考そのものが成立しなくなっているのだ。
「フン。お前如きに説教される筋合いは無い!」
「ハン。その記憶の忘却こそ、他の連中がお前の思考を否定したっていう証明なんじゃねぇのか?」
「何だと!?」
「そこ!!雅艶と刺界!!うるさい!!」
「くっ!」
「ふふ~ん」
花多狩の叱責を受けて押し黙る雅艶と気分を良くする界刺。
「はい、それじゃあ報告を再開して頂戴、峠」
「最近『書庫』で色々調べてたんだけど、どうやら低能力者を中心に違法ドラッグが拡大的な情報があったわ」
「違法ドラッグ?」
「ええ。“レベルが上がる”を謳い文句にしているみたい。確かにレベルが上がったって情報もあるみたいだけど・・・それと引き換えに薬物中毒に苦しむ的なオチみたい」
「(あの峠って娘・・・風紀委員なのかよ、雅艶?)」
「(馴れ馴れしく呼ぶな。峠は元風紀委員、それだけの話だ)」
「(ふ~ん)」
花多狩と峠の会話を聞きながらコソコソ話を展開する界刺と雅艶。
「そのドラッグの出所って判明しているの?」
「ええ、一応」
「・・・何処?」
「『
ブラックウィザード』よ。あの過激で有名な大型スキルアウト組織」
「『ブラックウィザード』!?」
「な、何よ、荒我。いきなり大声を挙げて」
峠の口から『ブラックウィザード』という単語が零れた途端に荒我が大声を挙げた。他のメンバーも荒我に注目する。
「まさか・・・あの時薦められた薬や注射って・・・」
「もしかしてあなた・・・『ブラックウィザード』に所属していた的な過去でもあるの?」
「んなわけねぇだろ!!誰があんなトコに入ったりするかよ!!」
「落ち着け、拳。峠・・・拳はな、昔自分が所属していたスキルアウトを『ブラックウィザード』に潰されてんだよ」
峠の疑問に反発する荒我を抑え、荒我の過去を説明する斬山。彼は、『ブラックウィザード』に所属するスキルアウトを潰され、その後も転々とする荒我を救っていた。
「成程。そんな過去が・・・。荒我。『ブラックウィザード』に関する情報をあなたは何か知っているの?」
「・・・姐さんには悪いけど、余り有益な情報は無ぇな。その所属していたスキルアウトでも俺は下っ端だったし。
『ブラックウィザード』と接触したのは、上の連中だ。どうやらその違法ドラッグを薦められて上の連中が断ったのが理由で潰されたみたいだけど」
「そう・・・」
「でもよ、その違法ドラッグ・・・当時と一緒かは知らねぇが、確かに“レベルが上がる”って言ってしきりに俺達に薦めていたぜ。
俺は薬や注射が昔から大嫌いだったからしなかったけど。んで、俺達の仲間がその薬を打って・・・おかしくなった。それは今でもよく覚えている」
かつて荒我が所属していたスキルアウトに違法ドラッグを薦めた『ブラックウィザード』。その目的は何なのか。
当時の荒我には知る由も無かったが、確かなことは1つ。『ブラックウィザード』によって荒我の居場所は潰されたということ。
「あいつ等・・・まだ性懲りも無くそんなくだらねぇ真似してやがったのかよ!」
「はいはい、許せないのはわかったけど。そんな正義感燃える的な気概を見せても、あなた1人でどうこうできないわよ?」
「確かに・・・。『ブラックウィザード』は数あるスキルアウトの中でも、かの『軍隊蟻』に比肩する巨大な組織よ。しかも『軍隊蟻』とは違って過激って言われるし」
「ぐっ・・・」
峠と花多狩の冷静な意見に声を詰まらせる荒我。『ブラックウィザード』という組織の強大さは荒我も身に染みてわかっている。
だが、この心の底から湧き上がる怒りは、中々抑えられるものでは無い。
「ハハッ!昔の犬小屋も無残に潰されていたってワケ。つまり、負け犬なのね。数ある犬の中でも特に悲惨な負け犬。フフッ!」
「てめぇ・・・!!」
「はいはい~!!姐さん!その『ブラックウィザード』に関連して報告したいことが」
何度目かになる躯園の挑発に苛立つ荒我。その空気をすぐにでも払拭したいかのように、
金属操作が報告のための挙手をする。
「何かしら、金属操作。その『ブラックウィザード』関連の報告って」
「麻鬼と色々調べてたんだけど、最近その『ブラックウィザード』と小さな衝突が何回か発生しているスキルアウトがあるみたいなんですよ」
「あの『ブラックウィザード』と?確かに『ブラックウィザード』は弱小スキルアウトを無理矢理吸収合併して大きくなった組織だから、
短期間の内に結構な回数の縄張り争いが多発しているってよく耳にするけど。・・・もしかして『軍隊蟻』と?」
「いや、違う。『軍隊蟻』は基本的に専守防衛というか、定まった縄張りからは出てこないみたいだから。つまり、今回報告するスキルアウトじゃ無いよ」
「じゃあ、一体何処のスキルアウトなの?」
『ブラックウィザード』程の大型組織になれば、そんじょそこらのスキルアウトでは即座に潰されている筈。
その『ブラックウィザード』と“数回”衝突しているということは、そのスキルアウトには『ブラックウィザード』と対抗できる戦力があるということを示している。
それ程のスキルアウトを救済委員として無視することはできない。花多狩は金属操作に問う。
「え~とっすね、そのスキルアウトってのは・・・」
「『紫狼』。だろう?」
「「?」」
今まさに金属操作が答えようとした瞬間に、先回りするかのようにその組織名を挙げたのは―界刺。
「『紫狼』って、確か路地裏にたむろしているようなスキルアウト同士が集まったコミュニティ的形態で・・・どっちかと言えば穏健派だったわ。
そんなスキルアウトにあの『ブラックウィザード』を迎え撃つ戦力なんて無かった筈。刺界・・・あなた、何を知っているの?」
花多狩だけでは無い。この場にいる救済委員全員が界刺に注目する。
「その情報は古い。確かに昔の『紫狼』は姐さんの言う通りの組織だったけど、今は事情が違っているよ」
「事情?」
「ああ。そんなに前の話じゃないけど、そこのリーダーを務めていた男が何者かに襲われて重傷を負ったそうだ。
その為に、当時『紫狼』の幹部だった男の1人が新しいリーダーに就いた。そいつがヤバいらしくてね、
一気に過激派っぽい真似をするようになった。以前には無かった一般人や風紀委員に危害を加えるような真似をし始めている」
「そ、そんな・・・」
「いや、姐さん。刺界の言う通りだぜ。なあ、麻鬼?」
「ああ」
界刺の発言を信じられない花多狩だったが、界刺の発言が真実であることを金属操作達が証言する。
「確かに姐さんの言う通り、昔の『紫狼』はスキルアウトにしては大人し目のグループだったけど、
刺界が言った通りリーダーが代わって以降は戦力を増強しているみたい。縄張りも段々拡大しつつあるって話もある」
「どうやら、以前のリーダーに不満を持つ者も少なからずいたらしいな。それに、今の『紫狼』は加入に能力者のある無しという制限を設けていないようだ。
中には高位能力者も居ると聞く。後、これはあくまで未確認情報だが現リーダーがある傭兵を雇ったそうでな。その男・・・とてつもなく強いそうだ」
「傭兵?もしかして・・・そいつも能力者なの?」
「その当りについては未だ不明だ。だが、その傭兵の力であの『ブラックウィザード』の猛攻を押し返したという情報が幾つかある」
「マ、マジかよ・・・。あの『ブラックウィザード』を相手にたった1人で・・・!!」
「!!・・・その戦績が、もしあなたの言う傭兵単独でもぎ取ったものだとしたら・・・脅威という言葉すら生温いわ」
麻鬼の調査を聞いた荒我と花多狩は身震いを止められない。『ブラックウィザード』の実力は実際に見たことは無いものの、その逸話は何度も耳にしている。
その巨大な組織を単独で相手取るような人間がいたとしたら・・・そいつは“怪物”としか言いようが無い。
「なぁ、刺界。もしかして、その傭兵について何か知ってたりする?」
「・・・いや、俺もその傭兵に関しては初耳だ。よくその情報を拾ってこれたね」
「そりゃあ麻鬼だからな。情報収集に関しては風紀委員顔負けさ」
「・・・」
界刺と金属操作の会話に麻鬼は反応しない。むしろ、金属操作の言葉を受けて不機嫌になったように見える。
「あ、あれ?俺って何か変なこと言った?」
「・・・別に」
金属操作の質問にも素っ気無く答える麻鬼。その反応に困惑する金属操作だが、会合はその間にも進んで行く。
「とりあえず、その『紫狼』についても注意が必要ね。もしかしたら、『軍隊蟻』も動く事態になるかもしれないし」
「確かに注意を払うに越したことはない。フッ、全くの期待外れと思っていたが、案外役に立つじゃないか。なぁ、刺界?」
「・・・」
花多狩の意見に同意する雅艶が界刺を挑発するように言葉を向けるが、界刺は反応しない。
「他に報告のある者は・・・・・・いないみたいね。もう11時も過ぎているし、ここら当りで閉幕にしましょうか」
午後11時を回ったのを確認した花多狩が会合の閉幕を提案する。各メンバーに異論がある筈も無く、
「他に意見も無いようだから、これにて会合は終了します!各自今回の報告で話題に挙がった『ブラックウィザード』と『紫狼』についてはよくよく注意してね」
こうして、色んな波乱が起きた会合も無事に閉幕と相成ったのである。
continue!!
最終更新:2012年05月11日 22:57