裏設定 ジャック・バッティの半生

彼が物心ついた時には既に親族や兄弟姉妹は死亡。天涯孤独の身であった。【ヴァランレーヌ】の孤児院で育っていた彼はある夜、一人の少女と出会う。
その少女こそ後に『詠歌女王』と渾名され民衆から畏怖される"リュミノシテ"だった。
まだ幼かったジャックはその少女が次期女王候補と気付かずに、道に迷ったのだろうと親切心から声を掛けた。
一方、リュミノシテは今と違い、子供時代はとても活発で生意気な性格をしており、孤児院付近を偶然彷徨いていたのも屋敷から抜け出していたからだ。
屋敷に連れ戻そうとする追手と勘違いしたリュミノシテはジャックを当初、邪険に扱い逃亡するが本物の追手に見つかり、捕まりそうになってしまう。
何だか放っておけないと追いかけて探していたジャックがその光景を目撃。後ろから鈍器で追手の頭を思い切り殴り付け怯ませた隙に、リュミノシテの手を引いてその場から逃げ去った。

そのことからリュミノシテは自らの勘違いを悟り、ジャックに謝罪。ジャックも大して気に留めていなかったので受け入れ、この瞬間に身分を越えた友人関係が生まれた。
リュミノシテから屋敷に連れ戻されたくないと言われたジャックは、人の多い場所に行くのは見つかるかもと思い、孤児院に帰る事を辞めて二人で適当に人のいなさそうな所で寝泊まりした。
「まるで秘密基地みたいね。私、こんなの初めて」
無邪気に微笑むリュミノシテの言葉を聞いて、確かにその通りだとジャックは思う。ジャックは無口で感情を表現しない性格の為か、今まで友達と呼べる程仲良くなった人が居なかった。だから、秘密基地などそういった子供らしい遊びをして来なかった。
―――あぁ、そうか。これが、友達か。
生まれて初めて友達が出来たということにようやく気付いたジャックは、大切にしようと誓う。
家族の暖かみを知らないジャックにとって、誰かの温もりを感じるのもこの時が初めてだったのだ。

彼と彼女の奇妙な同居生活は、数週間後に終わりを告げる。ある日、なけなしの金で食料を購入したジャックが秘密基地に戻ってくると、留守番をしていた筈のリュミノシテが何処にも見当たらない。
誘拐を疑ったジャックは秘密基地を飛び出して付近を探したものの、全く見付からなかった。
ある日突然現れた友達は、ある日突如姿を消した。
言い表せない虚無感と失意に苛まれ、目的を失ったジャックは孤児院への帰路につく最中、家電量販店の店先に並べられていたTVのニュースの音声と映像に驚き思わず足を止める。
リュミノシテの名前が、写真が映し出されていた。
ニュースの見出しは、次期女王最有力候補誘拐事件解決!というものだった。
何者かの差金で攫われてしまったリュミノシテ様は救出され、今は屋敷で休んでおられます、とアナウンサーが読み上げていた所だった。
真実を知るジャックからすればとんだ笑い話で、フィクションだと分かるのは当然だった。
実際、次期女王が屋敷を抜け出し何処の馬の骨とも知れぬ子供と遊んでいたなど世間に公表出来る訳も無い。架空の事件、架空の犯人の手で酷い目に合わされた悲劇のヒロインにしてしまう方が民の同情と支持を集められるというものだ。
最も、幼いジャックはそんな政治の裏側を、大人の策略を見抜けなどしなかった。ただ、ジャックにはこの日々のお陰で一つの目標が生まれていた。
いつか大人になったら、女王の側で誰よりも女王をお守りしてみせる。そうすれば、例えリュミノシテが俺のことを覚えていなかったとしても近くに居られるから、と。
たったそれだけの思い出を理由にして、やがて成長した彼は、女王に直接仕えるまでに成り上がった。

彼は自らの思いが既に友情ではなく、恋に変わっていると理解しておらず、またするつもりもない。
恋を知らない生物は、恋事情に疎く、そして何かを愛する感情に気付くことは出来ないからだ。
そして、恋に気付けたとしても彼は感情を吐露などしない。誰にも見せない、知らせない、教えない。
ジャックが望んでいるのは、リュミノシテの幸福と平穏だけ。側に居られる、いざという時は身代わりになれるかもしれない。彼はそう思えるだけで十分だった。

リュミノシテが、ジャックのことを。たった一人の友人と過ごした日々さえ、覚えていないとしても。

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最終更新:2017年02月17日 16:35