第14章 三位一体の夜襲


 昼の太陽がギラギラと照り付ける中、前方に森林地帯を臨む街道を、パスキル軍近衛騎士団少年騎士隊が粛々と行軍していた。後方には陸自機動打撃部隊の車両群が延々と続いている。
「ったく、やっと戦えると思ったのに、あたしらは戦線の後方で待機だってよ。しかも、あんな得体の知れない連中に反撃を頼むなんて、一体どうなってんだ?」
 アントワ・アーデンは愚痴をこぼした。
「レンス、何とか言えよ」
「あ、うん……」
「そこで停まれ! 誰か!?」
 チャッという金属音と共に、低いが鋭い誰何の声がどこからか聞こえてきた。
「パスキル帝国軍近衛騎士団少年騎士隊だ。自衛隊の主力部隊を先導してきた」
 隊長のフォン・シーマイルが間髪置かずに答えた。
「失礼しました。どうぞお通り下さい。偵察隊は撤収準備を終えて、この先で待機しています」
 左右の路肩に生い茂った藪が分離して数名の自衛隊員になり、土嚢で囲われた12.7ミリM2重機関銃を運び去っていった。敵がやって来た際、即座に十字砲火を浴びせられるようにしていたのだ。
 100メートルほど進んだところで、部隊は偵察小隊と接触した。船橋は指揮通信車から降りると、同じく偵察警察車から降りてきた斉木と敬礼を交わした。
「警戒監視任務、どうも御苦労だった。前進基地へ戻って、ゆっくり休んでくれ」
「言われるまでもありませんや。ここで車両を偽装してから、森に入って下さい」
 偵察小隊は機動打撃部隊の来た道を戻り始めた。その最後尾を走る1台の偵察バイクが、レンスの目の前で音を立てて停まった。
「よう、久し振りだな」
 40ミリグレネードランチャー付きの89式小銃を肩掛けにした運転手が言った。
「あ、あの時の!」
 彼が真河潔だということに気付いたレンスは、思わず声を上げた。
「少し話くらいしたかったが、連日炎天下で監視ばかりしてたんで、疲れちまった。また今度な」
 それだけ言うと、真河は仲間の後を追って走り去っていった。
「この前、あの人を試しに乗竜させてやったんだけどさ、すぐ振り落とされて救護所へ担ぎ込まれちゃったんだぜ。あ、言ったっけ?」
「ああ、うん……」
 アントワが底意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうに喋る傍ら、レンスは気のない返事をした。
「元気出せよ。これが一段落してから、ゆっくり話せばいいじゃないか」
 レンスは黙ったまま、真河の後ろ姿を見送った。

 ネワディン軍陣地は、気だるい雰囲気に包まれていた。参謀のカフカルドは、彼の司令部である簡素な机の前に座ったまま、悶々たる気分でそれを体感していた。
 連戦連勝に慣れ切った兵士は、見るからに緊張感を欠いていた。翌昼の再進撃を前にこの調子では、奇襲を受ければひとたまりもない。本来ならば、片っ端から鉄拳で兵の態度を修正するよう各指揮官に命令しなければならないところだが、その指揮官すら兵と変わりない。彼の考えからすれば、まさに呆れた状況であった。
 敵がどれほど弱かろうと、戦場では一瞬たりとも気を抜いてはならない。何の娯楽も慰安もない最前線では確かに休息は必要だが、それでも限度というものはある。もっとも、今までの弱小国や少数民族相手の戦であれば、まだ大目に見ることができた。奇襲を受けたとしても、その程度はたかが知れているし、すぐさま返り討ちにできるからだ。
 しかし今回は何かが違うことを、カフカルドは本能的に感じ取っていた。また、それを裏付けるまではいかなくとも臭わせる事象があった。
 まず挙げられるのが、あまりにもパスキル軍の防備に力が入っていないことだ。普通なら、侵攻軍に対して全力を挙げて防衛線を張り、全滅するまで戦い抜くのが鉄則である。仮に圧倒的な戦力差があろうともだ。しかし、今回のパスキル軍の行動はそれには該当しない。兵士らしい人影が全く見当たらないのだ。さらに、陣地らしい陣地も見当たらなければ、軍団の進撃を遅らせるための障害物も見当たらない。
 その次に、不気味な大音声である。パスキル軍の後衛がいると思われる地域からは相当な距離があるにもかかわらず、明瞭に警告が響いてくる。しかも、日没までに撤退しない場合はどのような損害が出ようと関知しないという内容だ。ただの世迷い言と片付けるのは簡単だったが、今ではなぜかそうとは思えなくなっていた。
 彼は机を離れると、三脚架に載せられた大型望遠鏡を覗いてみた。レンズに映るのは、東西を海に囲まれた荒涼たる大地と、その後方に鬱蒼と広がる森林地帯だけである。
 可能性があるとすれば、森林内に多数の伏兵が潜んでいることだが、それでもネワディン軍騎兵隊と戦って勝ち目はない。数々の激戦で鍛え抜かれた竜騎兵と、密林内で恐るべき殺戮能力を発揮できるヴェロキラプトルに対しては、いかに巧妙な罠も伏兵も無力だ。
 それでも、だ。とにかく行動を起こさねばならない。
 カフカルドは、新たに置かれていたレーマールの司令部天幕に足を向けた。隣り合う大小2つのテントのうち、彼は迷うことなく大きい方のテントに踏み込んだ。
「………」
 よく肥えた中年の料理人が、右手に包丁、左手に食材の包みを持ち、彼の方を向いたまま固まっていた。テントの中には、他にも高級食材や調理器具が山と積まれてあった。
「……驚かせてすまん」
 彼は一言詫びてからテントを出た。大きい方のテントは司令部天幕ではなく、レーマールのためだけに豪勢な食事を作るべくやって来た料理人の厨房だったのである。
 カフカルドはまたも呆れながら、改めて小さい方のテントに入った。
「レーマール閣下!」
「何だ、騒々しい」
 レーマールはもう昼だというのに靴も履かず、軍服をだらしなく着崩したまま、天蓋付きの豪華なベッドに寝転がっていた。彼の姿を一目見て、これでは兵達がだらけても仕方ないかもしれぬと、カフカルドは思った。だが、すぐに気を取り直して再度口を開いた。
「偵察隊の出動を進言いたします。場合によっては、砲兵隊の支援砲撃も……」
「何を大それたことを言っておるのだ、貴様は。腰抜けのパスキル軍が国境周辺から残らず逃げ出したことは知っておろうが。焦らずとも明日には進撃を再開する。それまで待て」
「では明朝まで、部隊を国境の外側まで一時後退させて下さい」
 その途端クワッと目を見開き、レーマールがベッドから跳ね起きた。
「馬鹿を言うなッ! 貴様気でも違ったか!? 後退せよとは一体どういうことだ!」
 態度を豹変させたレーマールは、顔を真っ赤に茹で上がらせ、口から唾を飛ばしながらわめいた。
「敵の出方を見るためです。もしそれに反応して敵が戻ってくれば、より容易に叩けるかと……」
「必要ないッ! 実体のない脅しに屈して兵を退かせたと噂が広まれば、国中の、いや大陸中の物笑いになるわ!」
「体面よりも、兵の命と作戦全体を第一に考えるべきだと思いますが?」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れッ! それほど心配ならば、貴様だけ夜まで望遠鏡にへばり付いておれ!!」
「……了解しました」
 カフカルドは敬礼をしてから、今度こそ大きな溜め息をついてテントを出た。

 陸自機動打撃部隊は、国境地帯後方の林の際で待機していた。車両は完全に偽装され、外部からは茂みの一部にしか見えないようになっている。恐竜を可能な限り刺激せぬため、ライトとエンジンを切り、隊員は乗車したままであった。
 00式指揮通信車のキャビンに陣取った船橋二佐は、個人用液晶モニターに表示された部隊の布陣状況を確認していた。
 混成機動大隊の実戦部隊は、機甲中隊・航空中隊・特科小隊・高射特科小隊から成っている。現在作戦に参加しているのは、航空中隊の一部と高射特科小隊、機甲中隊に属する偵察小隊を除く全ての部隊だ。また、これに普通科大隊から1個中隊が加えられていた。
「大隊長、攻撃予定時刻です」
 うむと副官に頷くと、船橋は無線のスイッチを入れた。
「全車、エンジン始動。擬装解除。状況を開始せよ」
 轟然とエンジン音を響かせ、車両群が一斉に林から姿を現した。同時に、乗員が走行の支障となるような擬装を剥ぎ落としていった。
「ドラゴンヘッドより戦車・迫撃砲・特科各小隊へ。ワッチウインドの座標指示に従い、割り当てられた目標を撃破しろ」
 船橋の号令一下、4門の105ミリ戦車砲と8門の81ミリ迫撃砲、4門の120ミリ重迫撃砲が、数千人単位で密集していた重装甲歩兵団に榴弾を撃ち込んだ。
 運動エネルギーで装甲車両を撃破する徹甲弾と異なり、榴弾には大量の炸薬が充填されている。爆発すると、カミソリの刃のように薄く鋭い破片を飛び散らせて兵員を殺傷するのである。鋼鉄製の鎧を全身に纏った重装甲歩兵も、榴弾の雨の前にはなす術もなく粉砕されていった。
 初弾命中率は例外なく100パーセントだった。OH-1観測ヘリによる上空偵察で、敵の布陣状況は手に取るように把握されていたからだ。また、ネワディン軍がパスキル側の戦力を侮り切っており、その反攻がないことを前提とした兵力展開をしていたことも、自衛隊に味方していた。

 OH-1は国境の方角に機首を向け、高度300メートルでホバリングしていた。
「ナイトコブラ、こちらワッチウインド。これより攻撃目標を指示する。用意はいいか」
 FLIRの暗視映像が映し出された液晶モニターから目を離さぬまま、極めて機械的な口調で鳥屋三佐は言った。彼に課せられた任務は、地上部隊の誘導と弾着観測、対戦車ヘリ小隊の指揮だった。
「こちらナイトコブラ・ワン。用意よし。オールグリーン」
 3機のAH-1Sコブラ対戦車ヘリが、彼のOH-1の後方から接近中だった。
「ワッチウインドよりナイトコブラ・ワン。前方に移動目標多数。殲滅せよ」
「了解。全機散開。攻撃せよ」
 鳥屋に負けず劣らずの機械的な口調で小隊長が命じると、コブラは素早く編隊を解き、それぞれが叩くべき敵に向かって殺到していった。
 コブラのコクピットはOH-1と同様のタンデム複座になっており、前席にガナーが、後席にパイロットが座る。ガナーの頭の動きに連動して、機首のセンサー・ターレットと20ミリバルカン砲が動く。 ヘルメットに装着されたファインダーで、照準を合わせられるのである。無論、昼夜を問わずにだ。
 コブラが攻撃したのは700騎の竜騎兵団だった。彼らは、前衛に展開していた重装甲歩兵団が砲撃されたのを受け、文字通り闇雲に突撃を開始したところだった。
 ネワディン王国正規軍部隊の中で最も恐れられている竜騎兵とヴェロキラプトル群も、赤外線の眼で闇夜を見通し、時速200キロ以上の高速で飛び回り、ミサイル、ロケット、バルカン砲を叩き込む攻撃ヘリにとっては、単なる生きた標的に過ぎなかった。
 隊列には広範囲制圧用の2.75インチロケット弾が撃ち込まれ、分裂した小集団にはバルカン砲弾が浴びせられ、焼け焦げた鉄片の混じった骨肉ミンチと化していった。
 700騎の精鋭は、その勇猛果敢な士気とは関係なく数分で全滅した。
「ナイトコブラ・ワンより全機、国境及びその後方にある構造物と陣地をピンポイント爆撃する。TOW発射用意」
 小隊長の指令を受けた各機のガナーは、今度はTOW対戦車ミサイルの照準を合わすべくスコープを覗き込んだ。

 野ざらしの簡易寝台で仮眠していたカフカルドは、重く響く雷鳴のような音で目を覚ました。
「敵襲! 敵襲ーっ!!」
 どこかの隊の兵が、叫びながら走り回っていた。周りにいる将兵らも、状況を把握できずに浮き足立っているように見えた。
 カフカルドは簡易寝台から跳ね起きると、怒声を放った。
「全員落ち着け! 各自、持ち場に戻らんかっ!」
 近くにいた隊長クラスの士官を呼び止めて訊いた。
「何があったのか報告しろ!」
「判りません! ですが、敵の奇襲を受けたのは間違いありません!」
「どこの部隊がやられているのだ!?」
「前線部隊と我が後方部隊の両方へ同時攻撃が仕掛けられた模様であります! 敵勢力は不明で、前線との連絡は全く取れなくなっています!」
「大至急、伝令を出せ!」
「はっ!」
 指揮官が走り出すのを見送った後、カフカルドは周囲を見渡した。前線部隊が展開している方角から、無数の火柱が炸裂音と共に噴き上がっている。いや、前線だけではない。国境までの後方地帯もまた同様だった。
(敵は一体……何者なのだ?)
 思考回路が飽和して火花を上げる寸前の頭脳で、彼はそれだけを考えていた。
 と、ぞっとするような、しかし一方で奇妙な興奮を覚えるような、空気を切り裂く鋭い音が聞こえてきた。何かの物体が炎を吐きながら猛烈なスピードで頭上を擦過したと感じた直後、鼓膜が破けるほどの轟音が生じ、激しい爆風がカフカルドを地面に叩き伏せた。
「ぐっ……」
 いくらか時間が経ってから、彼は意識を取り戻した。
 体中を打撲した痛みに、声にならぬ悲鳴が出た。軍帽と軍服から露出していた顔と手の平は、擦り剥けて血まみれになっていた。軍用手袋をしておくべきだったと後悔しながら顔を上げたカフカルドは、声を失った。辺りに設営されていた櫓や陣地が残らず破壊され、燃えていたのである。自軍が保有している大砲を多数用いたとしても、到底もたらすことのできない破壊だった。

 地上で修羅場が展開されていたのと時を同じくして、山脈群島の西方10キロの沖合を航行中の試験艦「しゅり」とイージス艦「くろひめ」、護衛艦「かすみづき」は、ネワディン軍に対する艦砲射撃を実施せんとしていた。作戦の混乱や陸自部隊への誤射を避けるため、砲撃は山脈群島の敵補給路へ加えられることになっていた。
「艦長、船橋二佐より入電。『我、攻撃中ナリ。支援砲撃ヲ開始サレタシ』とのことです」
 護衛艦隊旗艦「しゅり」の艦橋で、通信長が安達原に報告した。
「よし、こちらも動くぞ。全艦、対地戦闘用意。砲術長、射撃指揮は任せる」
「はっ! 対地戦闘用意! 射撃指揮装置起動! 主砲射撃用ー意!」
 各艦の主砲が旋回し、陸地に照準を定めた。海自のみならず、現代の海軍が対地艦砲射撃の訓練を行うことは皆無である。まさに腕の見せ所であった。
「陸自観測ヘリの暗視映像データリンク状態、良好。光学照準装置、赤外線モードにチェンジ。試射の後、熱源の密集しているエリアへ弾着を順次修正します」
「よし。くれぐれも弾幕に隙を作るなよ。砲撃開始」
「撃ちー方始めー!」
 現代の戦闘用艦艇に搭載されている主砲は、破壊力と射程距離こそかつての戦艦や巡洋艦の副砲程度でしかなく、搭載数も1門から2門と問題にならないほど少ない。が、発射速度と命中精度の高さは、それを補って余りあるものがある。
 暗い海上に連続して閃光が生じ、若干の間を置いて山間部に無数の爆炎の花を咲かせる。ウイングに詰めている隊員が、その様子を興奮した口調で報告してきた。
 通常の触発信管と空中起爆式の近接信管の両方をランダムにセットした砲弾は、起伏の激しい山間部で十二分にその威力を発揮した。安達原ら乗員達にとって救いだったのは、そこで繰り広げられている惨劇が見えないことだった。

 国境上空へ向け、高度3000メートルを2機のFF-X試作水戦が巡航していた。
 彼らにしてみれば、前進基地から戦線までは一瞬の距離だ。発進した直後には、もう戦域に到着していた。
「ワッチウインドよりノワール。爆撃態勢に入れ」
「ラジャー」
 大橋二尉の1号機は750ポンド爆弾1発、木戸二尉の2号機は250ポンド爆弾2発を搭載していた。また、共通の兵装として2.75インチロケット弾38発と20ミリ機関砲弾400発があった。
「夜間の急降下爆撃なんざ、FLIRを使ったとしてもかなり危険だぞ?」
 木戸が言った。
「それ、もう10回言ったろ。命令通りやるだけだ」
 大橋が応じる。
「9回だ。どうせ、そこら中敵だらけなんだぜ。水平爆撃で適当に落っことせば十分だろ」
「念には念を入れよだ。それによ、こいつの夜間精密爆撃能力のデータを持ち帰れば、飛行開発実験団や防衛技研の連中が喜ぶだろうしな」
「おいおい、持って帰られるかどうかも判らんデータのためかよ?」
「JDAMかレーザー誘導爆弾が導入されてりゃ、いちいちこんな危険なことしなくてよかったのになぁ。お隣のヤクザな国のミサイル騒ぎが起きた後、すぐ導入すればよかったんだ。我が国の政治家と役人ときたら、ホントに使えねえ奴らばかりだぜ」
「レーザー誘導爆弾はともかく、JDAMは衛星が存在しないからこっちの世界じゃ使えんぞ」
「あ、そうか」
 2人はしばしの間、危険な任務を与えられたことに対する憂さをバカ話で晴らした。
「ワッチウインドよりノワール。攻撃目標を指示する。峡谷にある補給物資集積場を爆撃した後、周囲に展開中の軍勢を攻撃して帰投せよ」
「了解」
 機首に装備されているFLIRを起動し、ヘッドアップ・ディスプレイにオレンジ色の赤外線映像を投影。次にFCSをAGモードに入れ、搭載されている爆弾全てを選択した。
「現在、目標上空を旋回中。目標捕捉した」
「減速して降下を開始する。熱線反応が特に高い部分へ落とせ。投下したらすぐに離脱して反復攻撃だ」
「ラジャー。ボム・ベイ、オープン。アタック!」
 FF-Xは小型戦闘機には珍しい胴体の爆弾倉を開放し、エンジンの出力を若干落とし、急角度で降下していった。
「レディ……ナウ」
 高度800で投弾。爆風を浴びぬよう、すぐさまエンジンとフラップを全開し、機体を引き起こす。強烈なGがパイロットの肉体を締め上げる。直後、重い衝撃が振動となって機体を震わせた。
 急旋回したFF-Xは、そのまま夜間行軍中の重装甲歩兵の軍勢へ向けてロケット弾をオールモードで発射、さらに機関砲弾を全弾叩き込んだ。ここでも地獄が再現された。
「こちらノワール。ミッションコンプリート。RTB」
 翼を翻すFF-Xの眼下で燃え盛る炎が、その機影を夜空に照らし出した。

 かくして陸海空三位一体の夜襲は幕を上げたが、これは作戦「夜の声」のほんの露払いに過ぎなかった。ネワディン軍にとっての大災厄の夜は、まだ始まったばかりだったのである。


最終更新:2007年10月31日 03:11