書庫 暫定設置
邪気世界(仮称)
無題――最終更新 2011/10/31
八雲通り。
八雲市を貫くように敷かれた大通り。この町の住人であれば誰もが利用する、活気付いた通りだ。
だが、しかし。その裏路地を通る人間というのは、案外少ないもので。
「―――はぁッ……っ、は―――くそっ、何処まで着いてくる気だ!」
少年―――稲葉焔(イナバ・ホムラ)は路地裏を 全 力 疾 走 していた。
黒い学生服はところどころ焦げ、それとなく煙を纏っているようにも思える。
『逃げんじゃねえ! ホムラぁ!』
「逃げるなって言われて逃げねー奴がいるかよ!!」
背後から飛んできた声に目もくれず、焔は走り続ける。複雑に入り組んだ裏路地を曲がり、彼は逃げていた。
彼を追っているのは―――火の玉。
ヒトダマ、という言い回しもできるだろう。ともかく拳ほどの大きさの火の玉が、意思を持って彼を追いかけていたのである。
「んだよお前! 訳分かんねーよ! 喋んなよお前火の玉だろーが!」
『ああ!? 火の玉が喋って何が悪ィんだ!? つーか俺様を「生み出した」のはそもそもテメーだろうが! 何で逃げんだよ!!』
「普通喋らないモノが喋ったら逃げるわバーカ!!」
焔は足を止める。行き止まりにぶち当たったのだ。
仕方なく諦めた様子で、彼はゆっくりと振り返り―――ヒトダマを見据える。
「……何なんだよ、本当に」
『さーてね。俺様が聞きたいくらいだ』
ゆらゆらと揺れる火の玉を視界に焼き付けながら、彼は数時間前の事を思い出す―――
10月末。中間試験から開放された学生達が、期末試験までの“執行猶予”を過ごす時期の事。
八雲市立削峰(ソギミネ)高校の二年生である稲葉焔は、学校帰りにふらふらと街を歩いていた。特に用事があった訳ではないが、だからこそ直帰というのにも少し抵抗があったからだ。
携帯をいじりながら八雲通りを歩いていると、ふと肩に衝撃が。どうやら、前方から歩いてきた誰かとぶつかったらしい。焔は落とした携帯を拾い上げながら、相手に謝罪する。
「……っと。すんません。大丈夫で―――」
すか、と、続けようとして、焔は言葉を紡ぐのを忘れた。眼前に立つその相手に、その少女に―――彼は見蕩れていたのである。
腰ほどまで伸びた白い髪。
最終更新:2011年11月03日 00:20