「BAN」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

BAN」(2009/04/27 (月) 19:52:33) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*BAN ◆zmHe3wMKNg 長かった夜は明け、開き放しになっている扉から朝日が射し込んむ。 G-5地点に佇む木造のログハウス。そこにさり気無くと設置されていた スピーカーから定時が来たことを告げる放送が流れた。 「若狭です。みんなー、元気にやってるかー? じゃあ六時になったから放送するぞ。  まず死んだ友達の名前を呼ぶぞー」 機械的に放送される若狭の声。 しかし、それを聞ける者はここには居ない。 小屋の中で横たわっているのは二つの全裸死体。 「……うぅ……。」 否、その内の片方はまだかろうじて生きていた。だから放送で名前は呼ばれなったのだ。 息も絶え絶えでとてもそれを聞ける状態ではなかったが。 もっとも、放送で誰が死んだのか、もはやこの者には関係のない話だろう。 「……あぁ……。」 その者の僅かに開いている目に太陽の光が当たり、それに何かの希望を見出すかのように震える手を伸ばした。 「……がん、ばれ……。」 一言、呟いた直後。手がぱたりと床に落ち、その者は完全に息絶えた。 ---- 時間は少し遡る。 「……うぅん……なぁに……?」 あまりの騒がしさに眠りを妨げられた苗村は、長い眠りからようやく覚めようとしていた。 しかしなにか、違和感を感じる。妙にスースーするのだ。 眠り眼のままゆっくり上半身を起こし、ふと顔を下げる。 「ひ!?」 あまりにあんまりな状況に、完全に意識が覚醒する。 「なんで!?なんで服着てないの!?」 すぐさまベッドのシーツで体を隠し、部屋を見渡した。 「……なに……これ……!?」 狼族の獣人、ノーチラスがベッドのすぐ横で私の拳銃を胸にめり込ませて死んでいる。 更に、部屋の向こう側、扉のすぐ傍で私を襲った男、 ウィリアム・ナカヤマ・スペンサーがうつ伏せに倒れて死んでいる。 しかも、こいつらも服を着ていない。 ログハウスで全裸になっている男性が二人と女性が一人 その異様な現状に苗村おぞましい嫌悪感を感じた。 考えたくもない。だが。この状況で考えられる可能性は。 私を気絶させた中性的な美少年ウィリアムは私が動かないことをいいことに 服を剥き、行為に及ぼうとした時に乱入してきた狼男ノーチラスに襲われそのまま殺し合いに。 いや、それではノーチラスまで全裸な理由がない。 ウィリアムを殺して私を襲おうとしたのならノーチラスが死んでいるのはおかしい。 ということはつまり、出会った二人は合意の上で私を犯すことにし。 輪姦する順番で揉めて殺し合いになった。気絶している私のすぐ横で。 「……嫌ぁ。」 醜悪で最悪な想像をして。想像を絶する悲しみに襲われる。 あぁ、そうえば眠っている間にも胸や尻に気味の悪い感覚を感じていた。 もはや想像した状況は確定的に明らか。 「…ぐ…うぅ…ひぐっ…。」 情けなさと恥ずかしさに涙をこぼす。 どうして? どうして私ばっかりこんな目に? 唯一の救いは二人が既に相打ちになって死んでいることか。 「……うぅ……。」 向こうに倒れているノーチラスじゃない方の男が唸った。 「ひぃっ!?」 恐怖で体が膠着する。 生きている。まだあいつは生きていたんだ! ……駄目だ。あいつが目覚めたら酷い目に遭わされる。絶対に。 こうなったら、もう、私が完全に息の根を止めるしかない! なにか、体の底から力が湧き出るような感覚を感じた。 そこに芽生えたのは、恐怖ではなく有頂天になった激しい怒り。 ベッドから降りた苗村は、床に転がっていた金属バットを手に取り立ち上がった。 ――許さない。止めを刺す。殺す。 ――こいつらなんかに!私を殺させてたまるか! ◆ ◆ ◆ 「……うぅ……。」 朦朧とする意識の中ウィリアムは覚醒した。 徐々にここで起きたことを思い出す。 さっきの自分はいけなかった。 怒りに負け、怒りのまま能力を行使し、手加減のない力でノーチラスを殺してしまった。 自分は殺し合いなどしたくはなかったのに。僕は決して許されない罪を犯してしまった。 でも、後悔はしない。 あの時ノーチラスは苗村をレイプしようとしていたのだ。 恐らく、苗村が恐怖に駆られて襲ってきたように、彼もこのような環境に置かれたストレスで 頭がおかしくなっていたのだろう。だから、殺すしかなかった。苗村を護るためには。 もう戻れない。自分は信念を貫くのだ。この地獄の島で、昔の僕のように虐げられてきた 苗村を守り抜く。そう心に決め、ゆっくり瞼を開く。 金属バットを持った全裸の苗村が、殺意を込めた目でそれを振りかぶっているのが見えた。 「………!?」 驚愕したウィリアムは条件反射で跳ね起き、今寝ていた場所の床に穴が空いた。 「待て!やめろ!やめてくれ!苗村!」 「……このぉ!」 すぐ構えなおした苗村は即座に構えなおして横なぎにバットを振る。 ウィリアムはそれを素早く後退してかわす。しかし。 「がぁ!?」 予想以上の速度に対応できず、折れた左腕に金属バットが叩き込まれた。 思わず意識が飛びそうになる。 三度、苗村が大きくバットを引き、全力で叩きつけようとする。 「……調子に、乗るなクソアマ。焼き殺すぞ!」 怒りに満ちた瞳で睨みつけ、右手を伸ばし。発火能力を発動しようとする。 ――だが。 「……ぉぷっ!?」 能力は発動せず、代わりに心臓が圧迫される気配を感じ、血を吐いた。 口元を押さえながら、島に来てから力を使った回数を思い出して数えてみる。 苗村が撃ってきた弾丸を止めた時シールドを使用。 苗村を威嚇した時パイロキネシスを使用。 ノーチラスの腕を燃やしたときにパイロキネシスを使用。 扉を破壊した時にサイコキネシスを使用 そして拳銃をノーチラスの胸に突き刺すのに限界を超えた力でサイコキネシスを使用 大したインターバルもないまま今回が六回目。 明らかに使用回数の上限を超えていた。 苗村の横薙ぎにフルスイングした金属バットが止まることなく胸に直撃し、 ウィリアムの肋骨を叩き折った。 「うぐぁっ!!」 床に転がり悶絶する。しばらく暴れ、ウィリアムは仰向けになって動かなくなった。 「…………。」 苗村は、倒れているウィリアムにゆっくり近づき、馬乗りになった。 以外とスタイルのいい裸体が目に写る。傍から見たら刺激的な状況なのに 死がすぐそこまで迫っている現状ではまったく興奮する気になれなかった。 「……ばれっ。」 苗村は金属バットを大きく上段に振り上げた。 体が全く言うことを聞かず、頼みの綱の能力も、使ったら確実に心臓が止まって死ぬ。 つまり、どう足掻いても自分はここで死ぬのだ。苗村に殺される。守りたかった筈の苗村に。 …なぜ、なんだ。これが、ノーチラスを殺した報いだとでもいうのか? どうする?最期に苗村を道連れにしてみるか?いや、それでは本当に何の意味もなくなる。 …こんな筈ではなかった。何故こうなった?どこで間違えた?なぜ止められなかった? その時、ふと違和感を感じた。 なぜ自分は苗村の金属バットを二度も避けられなかった? 超能力がなくても身体能力は自分が勝っている筈だった。なのに手も足も出なかったのは? …つまり…ひょっとして、自分が思っている以上にこの娘は。 血が垂れている口元が何故か少し緩んだ。 僕には虐げられている苗村を護る義務があると信じていた。だが、自分は教室の苗村のことしか知らない。 苗村をただの虐められっ娘だと思い込んで、本当の彼女を見ようとしなかったのは、自分だったのではないか。 ――そうか、なんだ、僕が護ってやらなくても、十分強かったんじゃないか、苗村。 ウィリアムは瞼を閉じ、命と引き換えになったであろう最期の能力の行使を放棄した。 「くたばれっ!この!変態野郎!」 ……頑張れ苗村、君ならきっと……。 ぐしゃっ。 剣道有段者が容赦なく振りおろした金属バットが、ウィリアムの頭蓋骨にめり込んだ。 ―――――――――――――――――――――――― 「みんな色んな人が死んで悲しいだろうけど、人生は別れの連続です。  今の内に慣れて耐えられるようにしないといけませーん。じゃあ今日も一日頑張ろうなー」 そこでぶつりと音を立てて、声が消えた。 そして、再び静寂が訪れた。 「あれぇ?おかしいなー?」 白いシーツをタオルのように巻きつけて山を降りた苗村は放送に違和感を感じた。 さっき自分が確実に殺した筈のウィリアムとかいう外人の名前が呼ばれてないのだ。 これは精神的な揺さ振りを狙った偽装情報かもしれない。つまり実際何人死んだのか判らないということ? いい加減な内容に少し腹を立て、すぐに気を取り直す。それにしても。 今の自分は実に無様な格好だ。ログハウスにあったのは靴位で、 何故か私の服もあいつらの服もどこにも見当たらなかった。 ――初めて、人を殺した。 だが、その後湧き上がった感情は嫌悪感でも罪悪感でもなく。 ネットゲームの困難なミッションをやり遂げた時に似た素晴らしい充実感。 具体的に言うと「よっしゃー(^O^)/」という気分になっていた。 「くすっ。あははっ。なぁーんだ、簡単じゃない!」 所詮これも、ネットゲームと同じ、ゲームに過ぎないのだ。要領は何も変わらない。 私はシティー。ネットゲームでその名を知らぬ者は居ない有名人。 私はリアルでもシティーになって雑魚プレイヤー共を人工的に淘汰してやるのだ。 思考はクールでクリアー。恐怖は克服した。 ――これより私は反撃を開始する。 &color(red){【男子三番:ウィリアム・ナカヤマ・スペンサー 死亡】} &color(red){【残り32人】} 【E-4 平地/一日目・朝方】 【女子二十番:苗村都月】 【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)】 [状態]:ほぼ全裸、恐怖を克服、妄想による狂気 [装備]:金属バット [道具]:支給品一式×2、S&W M56オート(5/15)、M56オートのマガジン(3) シアン化カリウム [思考・状況] 基本思考:生き残る 0:何か着る物が欲しい 1:容赦なく相手を殺す 2:家に帰りたい [備考欄] ※全裸にべッドのシーツで身を包んでいる状態です。 ※放送の内容が真実なのか怪しんでいます。 *時系列順で読む Back:[[交渉人]] Next:[[CROSS POINT]] *投下順で読む Back:[[交渉人]] Next:[[CROSS POINT]] |[[ノーチラス…]]|&color(red){W・N・スペンサー}|&color(red){死亡}| |[[ノーチラス…]]|苗村都月||
*BAN ◆zmHe3wMKNg 長かった夜は明け、開き放しになっている扉から朝日が射し込んむ。 G-5地点に佇む木造のログハウス。そこにさり気無くと設置されていた スピーカーから定時が来たことを告げる放送が流れた。 「若狭です。みんなー、元気にやってるかー? じゃあ六時になったから放送するぞ。  まず死んだ友達の名前を呼ぶぞー」 機械的に放送される若狭の声。 しかし、それを聞ける者はここには居ない。 小屋の中で横たわっているのは二つの全裸死体。 「……うぅ……。」 否、その内の片方はまだかろうじて生きていた。だから放送で名前は呼ばれなったのだ。 息も絶え絶えでとてもそれを聞ける状態ではなかったが。 もっとも、放送で誰が死んだのか、もはやこの者には関係のない話だろう。 「……あぁ……。」 その者の僅かに開いている目に太陽の光が当たり、それに何かの希望を見出すかのように震える手を伸ばした。 「……がん、ばれ……。」 一言、呟いた直後。手がぱたりと床に落ち、その者は完全に息絶えた。 ---- 時間は少し遡る。 「……うぅん……なぁに……?」 あまりの騒がしさに眠りを妨げられた苗村は、長い眠りからようやく覚めようとしていた。 しかしなにか、違和感を感じる。妙にスースーするのだ。 眠り眼のままゆっくり上半身を起こし、ふと顔を下げる。 「ひ!?」 あまりにあんまりな状況に、完全に意識が覚醒する。 「なんで!?なんで服着てないの!?」 すぐさまベッドのシーツで体を隠し、部屋を見渡した。 「……なに……これ……!?」 狼族の獣人、ノーチラスがベッドのすぐ横で私の拳銃を胸にめり込ませて死んでいる。 更に、部屋の向こう側、扉のすぐ傍で私を襲った男、 ウィリアム・ナカヤマ・スペンサーがうつ伏せに倒れて死んでいる。 しかも、こいつらも服を着ていない。 ログハウスで全裸になっている男性が二人と女性が一人 その異様な現状に苗村おぞましい嫌悪感を感じた。 考えたくもない。だが。この状況で考えられる可能性は。 私を気絶させた中性的な美少年ウィリアムは私が動かないことをいいことに 服を剥き、行為に及ぼうとした時に乱入してきた狼男ノーチラスに襲われそのまま殺し合いに。 いや、それではノーチラスまで全裸な理由がない。 ウィリアムを殺して私を襲おうとしたのならノーチラスが死んでいるのはおかしい。 ということはつまり、出会った二人は合意の上で私を犯すことにし。 輪姦する順番で揉めて殺し合いになった。気絶している私のすぐ横で。 「……嫌ぁ。」 醜悪で最悪な想像をして。想像を絶する悲しみに襲われる。 あぁ、そうえば眠っている間にも胸や尻に気味の悪い感覚を感じていた。 もはや想像した状況は確定的に明らか。 「…ぐ…うぅ…ひぐっ…。」 情けなさと恥ずかしさに涙をこぼす。 どうして? どうして私ばっかりこんな目に? 唯一の救いは二人が既に相打ちになって死んでいることか。 「……うぅ……。」 向こうに倒れているノーチラスじゃない方の男が唸った。 「ひぃっ!?」 恐怖で体が膠着する。 生きている。まだあいつは生きていたんだ! ……駄目だ。あいつが目覚めたら酷い目に遭わされる。絶対に。 こうなったら、もう、私が完全に息の根を止めるしかない! なにか、体の底から力が湧き出るような感覚を感じた。 そこに芽生えたのは、恐怖ではなく有頂天になった激しい怒り。 ベッドから降りた苗村は、床に転がっていた金属バットを手に取り立ち上がった。 ――許さない。止めを刺す。殺す。 ――こいつらなんかに!私を殺させてたまるか! ◆ ◆ ◆ 「……うぅ……。」 朦朧とする意識の中ウィリアムは覚醒した。 徐々にここで起きたことを思い出す。 さっきの自分はいけなかった。 怒りに負け、怒りのまま能力を行使し、手加減のない力でノーチラスを殺してしまった。 自分は殺し合いなどしたくはなかったのに。僕は決して許されない罪を犯してしまった。 でも、後悔はしない。 あの時ノーチラスは苗村をレイプしようとしていたのだ。 恐らく、苗村が恐怖に駆られて襲ってきたように、彼もこのような環境に置かれたストレスで 頭がおかしくなっていたのだろう。だから、殺すしかなかった。苗村を護るためには。 もう戻れない。自分は信念を貫くのだ。この地獄の島で、昔の僕のように虐げられてきた 苗村を守り抜く。そう心に決め、ゆっくり瞼を開く。 金属バットを持った全裸の苗村が、殺意を込めた目でそれを振りかぶっているのが見えた。 「………!?」 驚愕したウィリアムは条件反射で跳ね起き、今寝ていた場所の床に穴が空いた。 「待て!やめろ!やめてくれ!苗村!」 「……このぉ!」 すぐ構えなおした苗村は即座に構えなおして横なぎにバットを振る。 ウィリアムはそれを素早く後退してかわす。しかし。 「がぁ!?」 予想以上の速度に対応できず、折れた左腕に金属バットが叩き込まれた。 思わず意識が飛びそうになる。 三度、苗村が大きくバットを引き、全力で叩きつけようとする。 「……調子に、乗るなクソアマ。焼き殺すぞ!」 怒りに満ちた瞳で睨みつけ、右手を伸ばし。発火能力を発動しようとする。 ――だが。 「……ぉぷっ!?」 能力は発動せず、代わりに心臓が圧迫される気配を感じ、血を吐いた。 口元を押さえながら、島に来てから力を使った回数を思い出して数えてみる。 苗村が撃ってきた弾丸を止めた時シールドを使用。 苗村を威嚇した時パイロキネシスを使用。 ノーチラスの腕を燃やしたときにパイロキネシスを使用。 扉を破壊した時にサイコキネシスを使用 そして拳銃をノーチラスの胸に突き刺すのに限界を超えた力でサイコキネシスを使用 大したインターバルもないまま今回が六回目。 明らかに使用回数の上限を超えていた。 苗村の横薙ぎにフルスイングした金属バットが止まることなく胸に直撃し、 ウィリアムの肋骨を叩き折った。 「うぐぁっ!!」 床に転がり悶絶する。しばらく暴れ、ウィリアムは仰向けになって動かなくなった。 「…………。」 苗村は、倒れているウィリアムにゆっくり近づき、馬乗りになった。 以外とスタイルのいい裸体が目に写る。傍から見たら刺激的な状況なのに 死がすぐそこまで迫っている現状ではまったく興奮する気になれなかった。 「……ばれっ。」 苗村は金属バットを大きく上段に振り上げた。 体が全く言うことを聞かず、頼みの綱の能力も、使ったら確実に心臓が止まって死ぬ。 つまり、どう足掻いても自分はここで死ぬのだ。苗村に殺される。守りたかった筈の苗村に。 …なぜ、なんだ。これが、ノーチラスを殺した報いだとでもいうのか? どうする?最期に苗村を道連れにしてみるか?いや、それでは本当に何の意味もなくなる。 …こんな筈ではなかった。何故こうなった?どこで間違えた?なぜ止められなかった? その時、ふと違和感を感じた。 なぜ自分は苗村の金属バットを二度も避けられなかった? 超能力がなくても身体能力は自分が勝っている筈だった。なのに手も足も出なかったのは? …つまり…ひょっとして、自分が思っている以上にこの娘は。 血が垂れている口元が何故か少し緩んだ。 僕には虐げられている苗村を護る義務があると信じていた。だが、自分は教室の苗村のことしか知らない。 苗村をただの虐められっ娘だと思い込んで、本当の彼女を見ようとしなかったのは、自分だったのではないか。 ――そうか、なんだ、僕が護ってやらなくても、十分強かったんじゃないか、苗村。 ウィリアムは瞼を閉じ、命と引き換えになったであろう最期の能力の行使を放棄した。 「くたばれっ!この!変態野郎!」 ……頑張れ苗村、君ならきっと……。 ぐしゃっ。 剣道有段者が容赦なく振りおろした金属バットが、ウィリアムの頭蓋骨にめり込んだ。 ―――――――――――――――――――――――― 「みんな色んな人が死んで悲しいだろうけど、人生は別れの連続です。  今の内に慣れて耐えられるようにしないといけませーん。じゃあ今日も一日頑張ろうなー」 そこでぶつりと音を立てて、声が消えた。 そして、再び静寂が訪れた。 「あれぇ?おかしいなー?」 白いシーツをタオルのように巻きつけて山を降りた苗村は放送に違和感を感じた。 さっき自分が確実に殺した筈のウィリアムとかいう外人の名前が呼ばれてないのだ。 これは精神的な揺さ振りを狙った偽装情報かもしれない。つまり実際何人死んだのか判らないということ? いい加減な内容に少し腹を立て、すぐに気を取り直す。それにしても。 今の自分は実に無様な格好だ。ログハウスにあったのは靴位で、 何故か私の服もあいつらの服もどこにも見当たらなかった。 ――初めて、人を殺した。 だが、その後湧き上がった感情は嫌悪感でも罪悪感でもなく。 ネットゲームの困難なミッションをやり遂げた時に似た素晴らしい充実感。 具体的に言うと「よっしゃー(^O^)/」という気分になっていた。 「くすっ。あははっ。なぁーんだ、簡単じゃない!」 所詮これも、ネットゲームと同じ、ゲームに過ぎないのだ。要領は何も変わらない。 私はシティー。ネットゲームでその名を知らぬ者は居ない有名人。 私はリアルでもシティーになって雑魚プレイヤー共を人工的に淘汰してやるのだ。 思考はクールでクリアー。恐怖は克服した。 ――これより私は反撃を開始する。 &color(red){【男子三番:ウィリアム・ナカヤマ・スペンサー 死亡】} &color(red){【残り32人】} 【E-4 平地/一日目・朝方】 【女子二十番:苗村都月】 【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(達)】 [状態]:ほぼ全裸、恐怖を克服、妄想による狂気 [装備]:金属バット [道具]:支給品一式×2、S&W M56オート(5/15)、M56オートのマガジン(3) シアン化カリウム [思考・状況] 基本思考:生き残る 0:何か着る物が欲しい 1:容赦なく相手を殺す 2:家に帰りたい [備考欄] ※全裸にべッドのシーツで身を包んでいる状態です。 ※放送の内容が真実なのか怪しんでいます。 *時系列順で読む Back:[[交渉人]] Next:[[CROSS POINT]] *投下順で読む Back:[[交渉人]] Next:[[CROSS POINT]] |[[ノーチラス…]]|&color(red){W・N・スペンサー}|&color(red){死亡}| |[[ノーチラス…]]|苗村都月|[[胡蝶の夢]]|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: