Deperted ◆H7btjH/WDc


鈴木正一郎は、宍戸を返り討ちにしたそのすぐあとに、移動を始めていた。
まっすぐエリアを突き進み、住宅街の一角についた。
人気は全くなかったが、周辺には微かに異臭を感じる。
そのにおいをたどってみると、そこにはトマックが倒れていた。

「おい!大丈夫かトマック!」

妙なにおいは、ずばりそこから漂っていた。焦げたヌンチャクの欠片と、包丁の破片、黒焦げになった布切れのようなものが転がっていて、地面も少し黒ずんでいた。
異常な空気が漂っている。

「何があったんだ!目を覚ませ!」

正一郎は、必死の形相でトマックの胸倉を掴み、彼を起すために頬を軽くはたき続けた。
だが、トマックは一向に目覚めようとはしない。

「……誰がこんなことを…」
「う…うぅ…ゲホッ!ゴホッ!」

突然トマックは、激しい咳とともに目を覚ました。

「何があった!詳しく状況を話せ。誰がお前と…この一帯をこんなにした?」

トマックは、完璧に目を覚ましていたが、酷く震えていた。
とても尋問なんて出来ないくらいにだ。
正一郎は直感した。このゲームに、乗っている下衆がトマックを襲撃したんだ。と

「俺……」
「言わなくていい。恐かったんだろう?」
「ああ…怖かったんだ。だから俺……」

「ゲームに乗ろうと思ったんだ。ハハ…」

「ハ?」正一郎の表情は、突然変わった。
右手の血管は浮かび上がり、あからさまに憤怒したという感じだ。
だがそこはグッと抑える。話は続いているのだから。

「でさ……朱広竜に最初に会ったんだ。お……俺…死にたくなかったから殺そうと思ったんだ」

いつもの彼からは想像できないくらいに、今の彼は女々しかった。
口数もいつもより格段に多く、嫌味にすら聞こえる。
「朱広竜はどうなったんだ?教えてくれ」

今の正一郎に、トマックを気遣う気持ちなど皆無だった。

「返り討ちにされたよ。アイツすごく強かった。全身ボコボコにされてあちこち痛いんだ……助けてくれよ鈴木……!」

トマックは、必死の形相で正一郎に手を伸ばす。そして彼もその手を握った。

そして一言「ダメだ」

トマックの右手の、親指以外の全ての指が、音を立てて砕けた。

「あああああああああっ」

「で?続きは何だ。朱広竜は格ゲーのキャラじゃないだろ?お前をボコしたくらいであたり一面こんなになるわけがない。続きを言え」

最初に見せた正一郎の優しい表情は、跡形もなく消え去り、今はあくと見なしたトマックに対する憎悪の念だけがあった。

「うあああ…」
叫ぶトマックの口も、すぐに塞がれる。

「続けろ」

正一郎から放たれる圧倒的な威圧感に気圧されてか、トマックは頭を垂れて、呟いた。


「松村だ。松村友枝が助けてくれた」
「どういう風に」

「よく憶えてないけど…あいつは死んだ」

正一郎の、固い表情が、一瞬だけ驚愕で緩んだ。
「それで?」

「よく分からないけど突然あいつ爆発したんだ。爆弾を渡されてたんだと思う。そのあとすぐに逃げようと思ったんだけど痛さのあまり気絶しちまったんだ」
「でも分かったよ鈴木!俺考え直した!やっぱみんなで協力し……」

トマックの右手に、尖った何かが刺さった。再び木霊する叫び。
「銃はないか……残念だよ」
デイパックから取り出したアイスピックで、正一郎はトマックを血に染めたのだ




「鈴木くん!衝動的にラーメン食べたくなることってない?」

ある日の放課後、松村友枝にそう言われた。

「あぇ?」彼は半分以上眠っていて、話を聞き逃していた。
「眠そうだねー昨日の夜遅かったの?」
「ああまさにそう。で、なんだっけ」
「ラーメン!ラーメンのこと!」

友枝の話では、学校の近くにすごく美味しいラーメン屋があるというのだ。
駅から徒歩10分という少し遠い場所にそれはあった。

「いらっしゃ……」

白い付けヒゲをつけた内木聡右の姿があった。

「オヤジさんラーメン二つ!」
「何でお前がここにいんだ?」

友枝と正一郎は、ほぼ同時に、全く違うテンションでそう言い放った。

「え?鈴木君知り合い!?」
「知り合いってお前内木聡右だろ。同じクラスの」

「え?」

友枝は、もう一度オヤジさんを見つめる。
彼の顔から、滝のように汗が流れ出てきていた。

「えぇぇぇぇぇ!?」どうやら彼女は、本当に気付いていなかったようだ。




「いや、朽樹やサーシャには黙っててやるよ」
「マジでか!?」

既に口ヒゲを外していた聡右は喚起した。
普通なら正一郎は絶対にチクるのに。

「他にもバイトしてる生徒は腐るほどいる。それにそんな小さい悪には興味ないんでな」
「えらく上機嫌だな。鈴木。何かあった?」

「…………ああ」正一郎は、遠くを見つめるように静かに笑みを浮かべながら言った。
「内木くん!鍋!鍋!」

「……あああ!!」

友枝のその言葉は聡右に響いたが、時既に遅し。ずんどう鍋は怒りの声を上げ、そして噴出した。

結局、熱い蒸気は友枝の左手薬指に噴きかかり、彼女を火傷させた。
聡右は当然頭を下げ、包帯を巻いてやった。

「ホントにゴメン!!ラーメン食わしてやれなくて!」
「いいよ~ こういうのには慣れてるし。でも今度来たときはタダで食べさせてねー」
「俺も気にしてない。それにもう暗いからな。補導されるなよ」
「あん?俺は大丈夫だって」
「……そうか」

正一郎は、聡右に疑いの視線を浴びせながら、友枝と共に去っていった。

「何ちゅうベタなラブコメ展開だよ」

遠くから去り行く二人を見つめ、聡右はニヤニヤとほくそ笑む。

「そーーーうーーーーすーーーーーけーーーーー」
「父さんのシマの屋台で何やってんだコルアアアア!!」

聡右は、突然走ってやってきた鬼崎喜佳に、跳び蹴りを喰らわされた。

「よ……喜佳!?何で…」
「心配だからずっと見てたのよ!ネットカフェからね!!」

そう言って喜佳は、背中を押さえて苦しむ聡右を、怒鳴りながら踏みつけ続けた

「まあ…あんたに何もなかったからよかったんだけど……」
「ん?何か言った?」
「言ってない!」

喜佳は顔を真っ赤にして、聡右を強く踏みつけた。


辺りはもう暗くなっていた。
二人は駅に向けてゆっくりと歩いていた。

「お前どっち方面だっけ?」
「市内方面だよー」
「へぇ…俺は生まれも育ちもこの町だから知らなんだよ」
「だがこの町のことは知ってる。変な奴が出るらしいから駅までは送るよ」
「えへへー。ありがとう」

友枝は、包帯の巻かれた薬指をじっと見つめていた。

「痛むか?」
「ううん?何だかロマンチックな火傷の仕方しちゃったから…」

「いつかこの火傷に……安くてもいいからきれいな指輪を付けたいな~って」

やわらかな笑みを浮かべる友枝を見て、正一郎も静かに微笑んだ。

余談だが、ヤクザ狩りが初めて起きたのは、昨日の夜のことだった





そして今。自分と宍戸から奪った支給品を改めて確認する正一郎の姿があった。
その近くには喉を貫かれ、絶命したトマックの姿もあった。

トマックは本当に気絶していたのか?
本当に恐慌していたのか?
鈴木正一郎に見せた表情は嘘か真か?

それを知っているのは、今さっき死んだ彼だけだ。
トマックの死体に見向きもしないまま、正一郎は辺りを見回す。
爆発による衝撃は、小規模だったが、デイパックなどは跡形もなく吹き飛んでいた。
もちろん友枝も。本当に彼女がいた。ということも俄かには信じがたいほどに。

正一郎は、彼女が無害であることをよく知っている。
死ぬべきではない奴だ。とも思っていた
トマックが死んでしまった以上、真偽を確かめる術はない――――朱広竜を見つける以外には。

もし友枝が生きていても、彼女が殺し合いに乗っていたら、彼は彼女でも殺すつもりでいる。
そうならないことを願いつつ、正一郎は無言のままその場を去った。

【A-5 市街地/一日目・深夜】

【男子十五番:鈴木 正一郎(すずき-せいいちろう)】
【1:俺(ら) 2:あんた(たち) 3:○○(名字さん付け)】
[状態]:健康
[装備]:錆びた鉄パイプ(現地調達)、アイスピック
[道具]:支給品一式×2、不明支給品(確認済み。武器ではない)、バイクのチェーン(現地調達)
[思考・状況]
基本思考:脱出派(危険思想対主催)
0:危険人物と判断した奴を殺しながら脱出の道を探す
1:ことの一部始終を知る朱広竜を探す
2:生きているかもしれない松村友枝を探す
3:脱出不可能なら自分以外の誰か一人を生き残らせる
[備考欄]
※ 彼はクラスメイトの人間関係を色々誤解しています

【男子二十一番:トマック 死亡】
【残り42人】


※chapter10:TOWERから約50分が経過しています
和音さん追原弾も、その場にいない確率が高くなってます


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JASTICE HEART 鈴木正一郎 殺戮行
TOWER トマック 死亡

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最終更新:2009年02月23日 14:24