Girls' youth ◆EGv2prCtI.
チャイムが響く。
六時限目、オギエ先生(恐面なのに気弱な狼族の先生だ)の退屈な英語の授業がやっと終わった。
鬼崎喜佳は教科書をまとめながら思う。
思えばこの一週間はずっと退屈だった。
そこで喜佳は屈伸してから思い立ったように手前の席の
麻倉美意子に声をかけて、そして提案した。
「ねえ、今度の土曜日隣町に行かない?」
美意子は少し考慮して、それから言った。
「他に誰か誘う?」
もちろん。
人数が多い方が楽しいに決まっている。
「鬼崎さん!」
喜佳と美意子は振り向いた。
美意子の二つ隣の席、
朽樹良子の声だ。
「私もいい?」
「うん、いいよ良子……そうだ」
喜佳は頷いて良子の言葉を了承した後、少し間を置いて続けた。
「長谷川さんも誘おっか」
長谷川沙羅。あの最近入ってきた転入生。
クラスの人間とはあまり接しようとはしないが、はっきり言ってかなり浮いている。
喜佳自身、そんな沙羅に興味があった。
「長谷川沙羅さん? どうして急に?」
不思議そうに良子が聞いてきた。
やはり突然こんなことを言い出すのに違和感を感じるのだろうか。
「あの人ってまだクラスに溶け込めてないでしょ。だから歓迎のつもりで誘うのよ」
そう言いながら、喜佳はまだ教科書を読んでいる沙羅に近寄った。
そして声をかけた。
「長谷川さん、ちょっといい?」
――
土曜日。
居候の
内木聡右にちょっかいを出すのも程々に善佳は駅前まで自転車を走らせた。
隣町には電車でおよそ十五分程で着く。
自転車でも行けない距離ではないのだが、しかし沙羅が自転車を修理に出していて使えないと言うことで全員電車で移動と言うことになったのだ。
隣町は最近大型デパートがオープンしたらしく、まだそこには行っていない。
そんな訳で喜佳は隣町に行くことを提案した。
やがて待ち合わせの市内地図板の前に全員集まった。
美意子は楽しげで、良子は明るくて、沙羅は――何故か知らないが暗かった。
「長谷川さん、もしかして具合悪いの?」
良子が心配そうに沙羅の様子を窺った。
沙羅は、良子を向いて首を振った。
「いや、大丈夫」
この後も沙羅はとにかく口数が少なかった。
まるで何かを無理しているように。
――やはり具合が悪いのではないのだろうか?
喜佳まで心配になってきた。
やがて隣町に着いて、すぐにデパートに立ち寄った。
聞いた通りの大型で、地元の町には仕入れられてないような物ばかりが並べられてあった。
何より大体のものが揃っている。
小遣いを使い切ってこの先一ヶ月ジリ貧になっても構わない程――ではないが。
まあ少なくともカラオケ代や帰りの電車代は残さなきゃいけないし。
買い物を終えて、善佳達は商店街の通りを歩いていた(この道の方がカラオケ屋に近いからだ)。
沙羅は相変わらず良子や美意子と会話を交わそうとはしなかった。
ようやくそこで喜佳は感づいたのだが――
――沙羅はただの口ベタなのだろうか?
だからクラスの人間とあまり付き合おうとしないと?
ははあ、なるほど。
そのことを本人に聞こうとした時――
「ひったくりー!」
向かい側から叫び声が響いた。
美意子が素早く反応したのか、もうその時には走り出していた。
続けて喜佳達三人もそれを追う。
すると――曲がり角の数メートル先、自転車に乗った男が片手に小さめの黒いショルダーバックを持って急スピードでこちらに向かってきた!
そしてその奥に何かを取られて気が動転してるのか、その場から動こうとしない少女。
その顔に喜佳は見覚えがあった。
――クラスメートの
古賀葉子だ!
「えいっ」
素早く美意子がかっ飛んできた自転車の横に飛び蹴りを入れた。
当然自転車はバランスを崩して転倒し、男は地面にたたき付けられる。
そのまま間髪入れずに善佳と沙羅が男を取り押さえ、その間に良子はたまたま近くに居た見回りの警官を呼んできたようだ。
こうして、引ったくり犯は速攻あえなく御用となった。
ショルダーバックも無事葉子の元に返ってきたようだ。
めでたしめでたし。
「何の騒ぎですか? 鬼崎さん、朽樹さん」
警官が男を連行する間、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。
「楠森君?」
良子が、その声の主に反応する。
喜佳もそちらに顔を合わせると髪を後ろにまとめた男――
楠森昭哉が、何故かそこに立っていた。
「ええ、俺の家はあそこですから」
そう言って、昭哉がここから少し離れた場所を指を差した。
――古本屋。
ああ、そうか。
喜佳は納得した。
はじめどうして葉子がここに居るのかさっぱり分からなかったが、通りでここに読書が趣味の葉子が居る筈だ。
「いつもはうちの本屋に入ってくる新刊のものを読んでるんだけど、ネットの友達に古い本を勧められて」
事情聴取が終わった葉子がそう語る。
「とにかく一人は危ないわ。最近は物騒なんだから」
そう良子が葉子に注意した。
まあ確かに最近は、とは言うが物騒なことは以前から変わらない気がする。
「やだやだ、良子お母さんのお叱りですか?」
からかうように善佳は良子の肩をこづいた。
良子が不機嫌そうに叫ぶ。
「鬼崎さん!」
「これですね?」
古本屋から戻って来た昭哉が本を葉子に手渡した。
喜佳から見てもカバーがかなり黄ばんでいて、相当な年代物であることが分かる。
「うん」
葉子はショルダーバックから財布を取り出し、それからお金を取り出して昭哉に手渡した。
「ありがとうございました」
昭哉が、丁寧にお辞儀をした。
カラオケであらかた歌い終えた後の帰りの電車内。
喜佳は引ったくり犯を捕まえた時のことを思い出した。
あの時、沙羅は美意子のようにほとんど戸惑い無く自然に動いていた。
普通なら周りの通行人のように呆然としている筈だ。
「あんた」
椅子に座る沙羅に、喜佳は話しかけた。
「え?」
急に話しかけられて驚いたのか沙羅は不思議そうにこちらを見ていた。
まあ、カラオケ屋でもあまり話さなかったし。
「なかなかやるじゃない」
最終更新:2009年02月16日 13:18