胎魔の鼓動 ◆EGv2prCtI.
二階堂永遠は死者を求めていた。
自らの仲間となる器を。
かつて兄がそうしたように、求めるものを手に入れるには死体が必要なのだ。
しかしこの世界では死体が思うように自分の元に来ない。
何の処理も施していない死体に対して妙なこだわりを持つ者がほとんどだからだ。
そのままだと何の価値も無いのに。
よく兄はこんな状態の中、死体にあれを宿してそう出来るようになったと感心する。
もはや兄の知り合いの外科医との繋がりもある理由により断たれてしまった。
だからこそ、今の状況ではそれは到底難しい。
技術はあっても、材料が無いのでは。
クラスメートにも興味はあった。
永遠のクラスは大方タレント揃いだ。
レプリカント、財閥の娘、そして永遠には扱えないような特別な力を持った生徒まで。
そして、自分の左腕の持ち主だったあの男も。
彼らをすぐにでも自分の仲間にしたいのも山々だったが、かなり手間のかかることを行う必要がある。
さすがに永遠にも最低限の常識のラインはあった(あくまで自分が不利益にならないような最低限のライン、だ)。
それに――まさか死体を集めてくれと言ったところであちらは理解などできはしないだろう。
しかし、構わず永遠は一人で動き続けた。
自分と同じ身体の者だけの、公平な世界を作る為に。
そんな時だ。
まだ三年の夏の頃だっただろうか。
修学旅行の何ヶ月か前で、準備が始まっている頃の放課後。
数年前、永遠が生み出されてからの知り合いでクラスメートの
卜部悠がある日、自分に対して不意に口にした。
「これ実際にやってみたら面白いよね」
悠がそう言いながら差し出した小説。
永遠はぱらぱらとページをめくって大まかな内容を把握した。
クラスメート同士の殺し合い。
狂う者。
流れていく血。
死にゆく生徒達。
ラストシーンで、積み重ねられた死体がテレビに写されている光景。
そして、自分の目的とそれを繋ぎ合わせた。
これは――好都合だ。
永遠は小説を悠に返して、そのまま悠の元から離れた。
自分の席に座って――それから、ゆっくりと脳内のプログラム上で計算を始めた。
あの殺し合いを、実際に行うのだ。
今度の修学旅行を利用して。
そして全てが終わった後に死体を回収する。
――これなら法や常識なんて関係無くなる。
常識に縛られる必要も無く死体を、しかもあのクラスメート達のものを集めることが出来る――
まずは、どう生徒達を拉致して管理するかだった。
首輪に関しては問題無かった。
それは永遠の得意分野だ。
場所も当座修学旅行の日程で、無人島に近寄る時間があったのでどうにか出来る。
しかしどうやってクラスメート五十三人をその島に移すのか?
このままでは少し強行になるかも知れなかった。
それでは自分に危険が及ぶ可能性も否めない。
クラスメートに
ルールを説明している時に一瞬でも不意を突かれることだってあるだろう。
いくら永遠の身体が特殊とは言え、ベースが脆い人間のものであることには変わりない。
なるべく無闇にこの肉体を損傷させられるのは避けたかった。
何か他の手段は無いだろうか。
クラスメート達に気付かれず、尚且つ計画を始めるまで自分が仕組んだことを隠蔽出来る手段。
いつだったか、兄の遺品を探っていた時に出てきた絵本の魔法使いのような――
――あった。
手段があった。
永遠は、それから時期を待った。
ラトかテトに協力してもらおうとは思ったが、しかし二人とも断られてしまった(二人して「僕はもうしばらく手が離せないんだ」、「悪いけど今、あたしにそんな余裕ないの」)。
一応「修学旅行」ではなく「今年中」と説明したので計画自体に支障は無いだろう。
しかし、二人の手が借りられないのはかなりの痛手だ。
一応予備の案はあったのだが、しかしそれでも永遠は二人が心変わりするのを待ち続けた。
首輪や管理システムはもう完成している。
後は安全に生徒を移送する力が必要なのだ。
――ラトか、テトが持っている力が。
やがて何ヶ月もの時が過ぎた。
修学旅行まであと二週間。
他の支度は出来たが、もうラト達を待つ余裕は無い。
特にテトは――確か、
太田太郎丸忠信らに目を付けられていたと思う。
無理はない、普通の人間は胸と尻が大きい女性に発情するらしい。
もしかしたらテトが彼らに恨みを持って自分に協力してくれるかも知れないのだ。
それでも未だに来ない。
誰か、他に探すしか無いのだろうか?
それとも自分一人で?
――そう考えていた時、永遠一人しか居ない教室に誰かが入ってきた。
永遠はドアの方向を向き――
――テトだった。
制服がぼろぼろになって、胸の辺りの下着が僅かだが見えていた。
今の時間は夕暮れ時で教室は夕日に照らされていたのだけれど、テトの全身はその日差しで赤く染まって、そして粘着質な光がテトの露出されている体の部分部分で輝いている。
尻尾が完全に垂れ下がっていて、耳は今は途中で折り畳んでいるように見える。
そしてその俯いている猫の顔は――まるで、永遠を睨み付けているかのように怒りで固まっていた。
突然、テトが口を開いた。
「私はラトを愛していたわ。たった一人の運命の人だもの。当然よね」
さすがの永遠も一瞬理解出来なかったが、しかしその言葉の意味を完全に解釈するまでには一秒もかからなかった。
「でも違った……私を愛してくれる人じゃなかった……そして、私を見捨てた……」
テトは顔を上げた。
その時、永遠はこれまで経験したことの無い感覚を覚えた。
体中に何か悪影響をもたらす電流のようなものが走った感じだ。
いや、しかしそんなことは今はどうでもよかった。
もう数秒もしない内にそんな感覚など残滓も残さず消え失せ、今や永遠の心はテトが力を貸してくれることでまた新たに何かを準備する必要が出来た、と言う思考で満たされている。
テトがぼんやりとした印象の、しかしはっきりと聞こえる声調で言った。
「手に入らないのなら、いっそ……」
猫の瞳の奥は何処までも暗く――
最終更新:2009年02月16日 13:18