分布
オーストラリア(クイーンズランド州東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州、タスマニア州)。分布域内では、熱帯雨林、亜熱帯雨林、ユーカリなどの硬葉樹林、高山地帯などの淡水の河川や湖沼などに生息している。
形態
全長はオスで最大630mm、メスで最大550mm、尾長は85 - 150mm、体重はオスで1 - 3kg、メスで0.7 - 1.8kg。全身には1cm²当たり600本以上の柔らかい体毛が生えている。体毛の色は背面は褐色から茶褐色で、腹面は乳白色である。外側の毛は水を弾き、内側の毛は保温性に優れている。
名前の通りカモのように幅が広く、ゴムのような弾性のあるくちばしを持ち、外見上の大きな特徴の一つとなっている。このくちばしには鋭敏な神経が通っていて、獲物の生体電流を感知することができる。一方、カモノハシには歯がなく、長らく謎とされてきたが、三重大学などの共同研究チームの調査では、くちばしの向きや電気感覚を脳に伝える三叉神経が発達したために歯の生える空間が奪われ、歯の消滅につながったと考えられている。
四肢は短く、水掻きが発達している。オスの後脚には蹴爪があり、この蹴爪からは後述の毒が分泌されている。メスも若い時には後脚に蹴爪があるが、成長の過程で消失する。
哺乳類ではあるが乳首は持たず、メスが育児で授乳の際は、腹部にある乳腺から乳が分泌される。
毒
カモノハシはオスもメスも蹴爪を持って生まれるが、オスのみが毒の混合物を分泌する蹴爪を持っている。この毒は主にディフェンシンのようなタンパク質類(DPL)で構成されており、その中の三種はカモノハシ特有のものである。
このディフェンシンのようなタンパク質はカモノハシの免疫機構により生産されている。イヌのような小動物を殺すのには十分な強さの毒で、ヒトに対しては致死的ではないものの、被害者が無力になるほどの強い痛みがある。その痛みは大量のモルヒネを投与しても鎮静できないほどであるという。毒による浮腫(むくみ)は傷の周囲から急速に広がり、四肢まで徐々に広がっていく。事例研究から得られた情報によると、痛みは持続的な痛みに対して高い感受性を持つ感覚過敏症となり、数日から時には数か月も続くことが指摘されている。だが、ヒトがカモノハシの毒で死亡した例は報告されていない。毒はオスの足にある胞状腺で生産されており、この腎臓の形をした胞状腺は後肢の踵骨の蹴爪へ、管によってつながっている。メスのカモノハシは、
ハリモグラ類と同じで、未発達の蹴爪の芽があるが、これは発達せずに1歳になる前に脱落し、足の腺は機能を欠いている。
毒は哺乳類以外の種によって生産される毒とは異なった機能を持つと考えられている。毒の効果は生命に危険を及ぼすほどではないが、それでも外敵を弱めるには十分な強さである。オスのみが毒を生産し、繁殖期の間に生産量が増すため、この期間に優位性を主張するための攻撃的な武器として使われると考えられている。
生態
群れは形成せず単独で生活し、夕方や早朝に活動が最も活発になる薄明薄暮性である。
水中では目を閉じて泳ぐが、くちばしで生体電流を感知し獲物を探す。動かなければ最大で11分ほど水中に潜っていることができるが、通常は1-2分程度である。食性は肉食性で、
昆虫類、甲殻類、貝類、ミミズ、魚類、
両生類などを捕食する。
陸上を移動する場合、前足が地面に着く時に水掻きのある指を後ろに折りたたむようにして歩く。
水辺に穴を掘って巣にする。巣穴の入り口は水中や土手にあり、さらに水辺の植物などに隠れ、外からはわからないようになっている。
繁殖期は緯度によるが8月から10月である。繁殖形態は哺乳類では非常に珍しい卵生で、巣穴の中で1回に1-3個の卵を産む。卵の大きさは約17mmで、卵殻は弾性がありかつ粘り気のある物質で覆われている。卵はメスが抱卵し、約10-12日で孵化する。子供はくちばしの先端に卵嘴を持ち、卵嘴を使用して卵殻を割って出てくる。成体の4分の3程度の大きさになるまでに離乳し、約4か月で独立する。
メスは約2年で成熟する。寿命は最大で21年。
最終更新:2019年05月03日 21:32