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新月は煙にまぎれて - (2012/07/19 (木) 20:43:58) の1つ前との変更点

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ボチャンッ 小さな水柱が上がり、すぐに消える。もう一度石を投げる。 ボチャンッ 水柱が立ち、二つの波紋は水面に模様を作っていく。 俺はそんな光景を黙って見てる。 デイパックに入っていたタバコとライターをポケットからとり出すと、そいつに火をつける。 殺し合いの中で音と光、煙に臭いを発散するなんて何とも馬鹿げた行為だ。冷静な自分がどこかでそう囁いたが俺はそいつを無視した。 肺いっぱいに煙を吸い込み一服、満足げに鼻から思いきり煙を吐き出していく。 予想以上に甘ったるい煙に若干顔をしかめつつも、俺はタバコをくわえ、小石遊びを再開する。 ぽちゃん、どぼん、ぼちゃん。 タバコの煙とにおいが空間を満たしていく。 単調でリズミカル。静寂で落ち着いた川面。対照的に俺の内心は大荒れだ。 水面に映った波紋は今や数え切れないほど、川じゅうに広がっていった。 「殺し合い、か」 絶望的だった。 この勝負、勝てる気がしなかった。 ホールにいた人数は目測だが、ざっと100人程度。カタギじゃないただの一般人ならば正直何人いようと負ける気はしない。 だが問題なのはその100人が明らかにタダものじゃない奴らだらけだってことだ。 暗闇と混乱で確かではないが、ジョースター一行がいた気がした。そのジョースター一行暗殺の命を受け、肩を並べた同僚も何人かいた気がした。 そしてなにより――― ジュウゥゥゥ…… 咥えていた煙草を地面に落とし、靴の裏で踏んづける。 口の中に残った甘ったるい香り、後味の悪さに少しだけ吐き気がした。 100人いようが、いや、1000人いたって間違えようがない。全身からとめどなく滲み出る冷や汗、医療メスを突き立てられているかのような圧倒的プレッシャー。 ああ、間違いない。間違いようがない。 ホンの少し前に俺は直々にその感覚を全身で味わったからだ。そのプレッシャーを前に、頭を垂れることを選んだのだから。 この殺し合いには間違いなく『DIO様』が参戦しておられる。 「…………けッ」 この時点で詰み。チェック・メイトのゲーム・セット。下らない出来レースだってんだ、この殺し合いなんてな。 どれだけ強力なスタンド使いであろうと、何百何千の武器を持ってこようと、百戦錬磨の手練れの暗殺者だろうと。 あの人の前では無力だ。あの方に、勝つなんてのは不可能。 そしてこの殺し合いのルール上、生き残れるのはたった一人。それが意味するもの、即ち俺が辿るであろう道は一つ――― 「…………くそったれがッ」 殺し合いに反逆するDIO様の勝ち馬に乗る。そういう手段もあるかもしれない。 あのDIO様が首輪をつけられただけで、命を握られた状態であのオッサンの言うことに素直に従うとは思えない。あの人は王だ。必ずや何かしらの方法であのオッサンは始末される。 その反逆が無事に上手くいけば、この俺も殺されることなく首輪をはずし………… ドボォオン……ッ いいや、そんな都合のいいことが起こるはずがない。一度ならず二度の暗殺の失敗。 任務を果たせなかった俺に残されてるのは“死”のみ。 今さらノコノコDIO様の元へ駆けつけ、俺はどうする気だってんだ? 間抜けヅラ下げて、暗殺に失敗しました、すみません、命だけはご勘弁を、そう懇願する気か? 下らねェ。まったくもって下らねェ。 頭ん中がお花畑、能天気の恥知らずならそうするかもしれねェな。だが俺は違う。俺はそうはできねェし、したくもない。 状況は八方ふさがりだ。いや、八方ふさがりどころか悪化の一途を辿っていやがる。 暗殺失敗の俺を始末しようとDIO様は既に刺客を放ってるかもしれねェ。暗殺リストのナンバー1はこの俺、ホル・ホース。そんな笑えない冗談が本物になってるかもしれねェんだ。 その上ッ! 目をそむけたくなるような事実だが……あの暗闇のホール、DIO様と同等か、それ以上にヤバい奴がいやがった。しかも残念なおまけつきで、それが2,3人……何人いるかもわからねェほどに、な。 新しい煙草に火をつける。急に横薙ぎの風が吹き、灯しかけたライタ―の火をかっさらっていった。 タバコを吸いたくなる気分にもなるってもんだ。自暴自棄? ああ、確かにな。少し大胆になってるってのは俺も百も承知。 それでも俺は、手放しに降参、なんてことはできねェんだ。現実逃避に、自傷行為。それができればどれだけ楽か。 そうはいかないのはひとえに俺の性故。鞍替え、裏切り、八方美人。 NO.2の身軽さは俺のポリシーにして。もはや体にしみ込んだ本能そのものだ。 煙を吸う、煙を吐く。いつもの煙にいつもとは違う臭い。 生き残りたいならば、例え確率が低かろうと勝負に出るしかあるまい。 そう、これはギャンブルだ。一発勝負の大勝負。 殺されるとわかっていてノコノコその元に駆けつけるほど俺は忠義に溢れた部下でじゃない。 認めている。そして敬意も畏怖もある。No.1は確かにあんただ。間違いなくあんたはこの世で一番強く、美しく、まさしく最強の男。 だがな……だからこそだ。だからこそ、俺はあんたと決別するんだ。 No.2にはNo.2のプライドがある。勝負は一対一じゃねェ。それを卑怯とあんたは言いやしないだろうな。それを含めてもあんたは負けはしない、そう確信してるんだから。 決別だ。 俺はもう二度と、あんたに跪づきやしない。 できることならばあんたとは二度と顔を合わせたくない。 だがもしも必要ならば。 最後の足掻きに迫られたならば。 「俺は躊躇いなく引き金を引くぜ、“DIO”」 生き残るためならば―――俺の覚悟は決まった。 ★ 奇妙な、だが美しく幻想的な光景だった。 両脇に並びたつ欧米風住宅街、アーチ状のモダンなレンガ造りの橋、穏やかに流れる川。そしてその川の中央、水面に“立つ”一人の女性。 絵画から抜け出てきたような光景、おとぎ話のワンシーンのような街並みと女性の佇まい。 見る人百人いれば百人が溜息を洩らすことであろう。その美しさに。その妖しくも漂う夜の淑やかな色気に。 一歩、二歩、三歩。地を歩くようにしっかりとした歩調で女性は河を下っていく。円状の波紋がガラスのような川面を揺らし、また消えていく。反射して映った月の輝きは、まるで舞台上のスポットライトそのもの。 だがそのはっきりとした足取りとは裏腹に。どうしてこうも彼女は危うく見えるのだろうか。 どうして今にも消えてしまいそうに見えるのか。 儚い幻、雲に隠れ輪郭隠すその月に。どうしてこうも彼女は重なるのか。 「――…………ジョセ、フ」 鈴のように微かで揺れるリサリサの声。 意図せずとも零れ落ちてしまった、そう感じさせるような呟き。 ゆらり、ゆらり。自らが作り出した波紋は鏡写しの顔をぼやけさせる。 今にも泣き出しそうな、消えてしまいそうな真っ白な顔。 泣きたかった。悲しみと情けなさ、押しつぶされそうになる自分を慰めようと、声をあげ、喉が張り裂けんばかりに叫びだしたかった。 自分の過ちで息子を敵に立ち向かわせてしまったこと。母親らしいこと、一つもできなかったこと。守るべき存在の“子”に守られ、それどころか救われてしまったこと。 そして、そのお馬鹿でお調子者で、大胆不敵で、立派に立派に成長して、誰に対してであろうと『自慢の息子です』と胸を張っていえるほどになったジョセフ・ジョースターは…… 「…………しん、だ」 正確にいえば殺したのだ。 師匠である自分が。波紋戦士リサリサが。母親としてのエリザベス・ジョースターが。 そう、殺したのは私。 私のせいでジョセフは。私が犯した失態が。私が、私が、私が私が私が―――――!! だが、見間違えるわけがないのだ。だからこそ、人違いなんてことは絶対にないと断言できるのだ。 そんな息子を、赤の他人と勘違いすることなんてあるはずがないのだ。 であるならば、死んだはずのジョセフ・ジョースターが椅子に座らされていたのはなぜ? 首輪を爆発され、再び死んだのはなぜ? 彼は死んでいなかったのか? 『優勝者には何でも……文字通り何でもだッ! 願い事を叶えることを約束しようッ! 金も! 名誉も! 地位も! 名声もッ! 叶えられないものはないッ この世の真理! 覇権! 君が望むもの全てが優勝商品だッ!』 「…………死者が、生き返った、とでも……?」 両側の家で反響した自らの声。問いに対する答えとなるわけではない。だが口に出したリサリサ自らの声が彼女の中を震わせた。 折れかけ、今にも消えてしまいそうになっていた、何かを。 救えないと思っていた。 二度と見ることは叶わないと諦めていた。 母親としての自分なんぞとうに捨てていたつもりだった。 だがッ! それを再びに手入れることが可能であるならばッ! 自らの失敗をッ! 失った過去を取り戻せるというのならばッ! 胸ポケットにしまっていたサングラス。 いくら眩いといっても月明かりの前では不要なほどに濃淡なレンズを取りだすと、ゆっくりと、いつも通り鼻の上にちょこんとかける。 その瞳に何を映したのだろう。 希望か? 絶望か? 静まり返る住宅街。足は止まり、波一つない川面。 意志はきまった。 タバコを取り出し、一煙。 感情を押し殺した冷徹極まりない声。 彼女はリサリサとしてでもなく。エリザベス・ジョースターとしてでもなく。母親としてでもなく。 必要であるならば。最後の足掻きが許されるのであれば。 「覚悟は決まったわ」 取り戻すためならば―――私はもう躊躇わない。 ★ ガンジス河は、すべてをやさしく包み流れ続ける河。 この河には生まれてから死ぬ前の全てが縮図としてある。 であるならば。 バトル・ロワイアル、この舞台に走る一本のこの河は。 一体何を包み込んでいくのだろうか。 裏切りに打算? 慈愛と自愛? 納得とプライド? 河はゆっくりと流れ続けるのみ。 しかし、ひとたび血の雨が降ったならば。いくつもの屍体が放り込まれたならば。悲しみの涙で水かさが増したならば。 河は激流となりて全てを飲み込むだろう。 全てを! 【D-2 河べり/1日目 深夜】 【ホル・ホース】 [スタンド]:『エンペラー』 [時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後。 [状態]:健康 [装備]:マライアのタバコ&ライタ― [道具]:基本支給品、不明支給品1 [思考・状況] 基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る。 1.とりあえず利用できそうな “No.1” を探す。 【A-3 河/1日目 深夜】 【リサリサ】 [時間軸]:ジョセフの葬儀直前。 [状態]:健康 [装備]:承太郎のタバコ&ライタ―(第三部) [道具]:基本支給品、不明支給品1 [思考・状況] 基本行動方針:優勝してジョセフを蘇らせる。 1.覚悟は決まった。ゲームに乗る。 *投下順で読む [[前へ>喰霊-零-]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>欲望]] *時系列順で読む [[前へ>喰霊-零-]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>欲望]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[リサリサ]]|050:[[戦う女と泣けない復讐者]]| |&color(blue){GAME START}|[[ホル・ホース]]|046:[[揺れた煙は地に落ちる]]|
ボチャンッ 小さな水柱が上がり、すぐに消える。もう一度石を投げる。 ボチャンッ 水柱が立ち、二つの波紋は水面に模様を作っていく。 俺はそんな光景を黙って見てる。 デイパックに入っていたタバコとライターをポケットからとり出すと、そいつに火をつける。 殺し合いの中で音と光、煙に臭いを発散するなんて何とも馬鹿げた行為だ。冷静な自分がどこかでそう囁いたが俺はそいつを無視した。 肺いっぱいに煙を吸い込み一服、満足げに鼻から思いきり煙を吐き出していく。 予想以上に甘ったるい煙に若干顔をしかめつつも、俺はタバコをくわえ、小石遊びを再開する。 ぽちゃん、どぼん、ぼちゃん。 タバコの煙とにおいが空間を満たしていく。 単調でリズミカル。静寂で落ち着いた川面。対照的に俺の内心は大荒れだ。 水面に映った波紋は今や数え切れないほど、川じゅうに広がっていった。 「殺し合い、か」 絶望的だった。 この勝負、勝てる気がしなかった。 ホールにいた人数は目測だが、ざっと100人程度。カタギじゃないただの一般人ならば正直何人いようと負ける気はしない。 だが問題なのはその100人が明らかにタダものじゃない奴らだらけだってことだ。 暗闇と混乱で確かではないが、ジョースター一行がいた気がした。そのジョースター一行暗殺の命を受け、肩を並べた同僚も何人かいた気がした。 そしてなにより――― ジュウゥゥゥ…… 咥えていた煙草を地面に落とし、靴の裏で踏んづける。 口の中に残った甘ったるい香り、後味の悪さに少しだけ吐き気がした。 100人いようが、いや、1000人いたって間違えようがない。全身からとめどなく滲み出る冷や汗、医療メスを突き立てられているかのような圧倒的プレッシャー。 ああ、間違いない。間違いようがない。 ホンの少し前に俺は直々にその感覚を全身で味わったからだ。そのプレッシャーを前に、頭を垂れることを選んだのだから。 この殺し合いには間違いなく『DIO様』が参戦しておられる。 「…………けッ」 この時点で詰み。チェック・メイトのゲーム・セット。下らない出来レースだってんだ、この殺し合いなんてな。 どれだけ強力なスタンド使いであろうと、何百何千の武器を持ってこようと、百戦錬磨の手練れの暗殺者だろうと。 あの人の前では無力だ。あの方に、勝つなんてのは不可能。 そしてこの殺し合いのルール上、生き残れるのはたった一人。それが意味するもの、即ち俺が辿るであろう道は一つ――― 「…………くそったれがッ」 殺し合いに反逆するDIO様の勝ち馬に乗る。そういう手段もあるかもしれない。 あのDIO様が首輪をつけられただけで、命を握られた状態であのオッサンの言うことに素直に従うとは思えない。あの人は王だ。必ずや何かしらの方法であのオッサンは始末される。 その反逆が無事に上手くいけば、この俺も殺されることなく首輪をはずし………… ドボォオン……ッ いいや、そんな都合のいいことが起こるはずがない。一度ならず二度の暗殺の失敗。 任務を果たせなかった俺に残されてるのは“死”のみ。 今さらノコノコDIO様の元へ駆けつけ、俺はどうする気だってんだ? 間抜けヅラ下げて、暗殺に失敗しました、すみません、命だけはご勘弁を、そう懇願する気か? 下らねェ。まったくもって下らねェ。 頭ん中がお花畑、能天気の恥知らずならそうするかもしれねェな。だが俺は違う。俺はそうはできねェし、したくもない。 状況は八方ふさがりだ。いや、八方ふさがりどころか悪化の一途を辿っていやがる。 暗殺失敗の俺を始末しようとDIO様は既に刺客を放ってるかもしれねェ。暗殺リストのナンバー1はこの俺、[[ホル・ホース]]。そんな笑えない冗談が本物になってるかもしれねェんだ。 その上ッ! 目をそむけたくなるような事実だが……あの暗闇のホール、DIO様と同等か、それ以上にヤバい奴がいやがった。しかも残念なおまけつきで、それが2,3人……何人いるかもわからねェほどに、な。 新しい煙草に火をつける。急に横薙ぎの風が吹き、灯しかけたライタ―の火をかっさらっていった。 タバコを吸いたくなる気分にもなるってもんだ。自暴自棄? ああ、確かにな。少し大胆になってるってのは俺も百も承知。 それでも俺は、手放しに降参、なんてことはできねェんだ。現実逃避に、自傷行為。それができればどれだけ楽か。 そうはいかないのはひとえに俺の性故。鞍替え、裏切り、八方美人。 NO.2の身軽さは俺のポリシーにして。もはや体にしみ込んだ本能そのものだ。 煙を吸う、煙を吐く。いつもの煙にいつもとは違う臭い。 生き残りたいならば、例え確率が低かろうと勝負に出るしかあるまい。 そう、これはギャンブルだ。一発勝負の大勝負。 殺されるとわかっていてノコノコその元に駆けつけるほど俺は忠義に溢れた部下でじゃない。 認めている。そして敬意も畏怖もある。No.1は確かにあんただ。間違いなくあんたはこの世で一番強く、美しく、まさしく最強の男。 だがな……だからこそだ。だからこそ、俺はあんたと決別するんだ。 No.2にはNo.2のプライドがある。勝負は一対一じゃねェ。それを卑怯とあんたは言いやしないだろうな。それを含めてもあんたは負けはしない、そう確信してるんだから。 決別だ。 俺はもう二度と、あんたに跪づきやしない。 できることならばあんたとは二度と顔を合わせたくない。 だがもしも必要ならば。 最後の足掻きに迫られたならば。 「俺は躊躇いなく引き金を引くぜ、“DIO”」 生き残るためならば―――俺の覚悟は決まった。 ★ 奇妙な、だが美しく幻想的な光景だった。 両脇に並びたつ欧米風住宅街、アーチ状のモダンなレンガ造りの橋、穏やかに流れる川。そしてその川の中央、水面に“立つ”一人の女性。 絵画から抜け出てきたような光景、おとぎ話のワンシーンのような街並みと女性の佇まい。 見る人百人いれば百人が溜息を洩らすことであろう。その美しさに。その妖しくも漂う夜の淑やかな色気に。 一歩、二歩、三歩。地を歩くようにしっかりとした歩調で女性は河を下っていく。円状の波紋がガラスのような川面を揺らし、また消えていく。反射して映った月の輝きは、まるで舞台上のスポットライトそのもの。 だがそのはっきりとした足取りとは裏腹に。どうしてこうも彼女は危うく見えるのだろうか。 どうして今にも消えてしまいそうに見えるのか。 儚い幻、雲に隠れ輪郭隠すその月に。どうしてこうも彼女は重なるのか。 「――…………ジョセ、フ」 鈴のように微かで揺れる[[リサリサ]]の声。 意図せずとも零れ落ちてしまった、そう感じさせるような呟き。 ゆらり、ゆらり。自らが作り出した波紋は鏡写しの顔をぼやけさせる。 今にも泣き出しそうな、消えてしまいそうな真っ白な顔。 泣きたかった。悲しみと情けなさ、押しつぶされそうになる自分を慰めようと、声をあげ、喉が張り裂けんばかりに叫びだしたかった。 自分の過ちで息子を敵に立ち向かわせてしまったこと。母親らしいこと、一つもできなかったこと。守るべき存在の“子”に守られ、それどころか救われてしまったこと。 そして、そのお馬鹿でお調子者で、大胆不敵で、立派に立派に成長して、誰に対してであろうと『自慢の息子です』と胸を張っていえるほどになった[[ジョセフ・ジョースター]]は…… 「…………しん、だ」 正確にいえば殺したのだ。 師匠である自分が。波紋戦士リサリサが。母親としてのエリザベス・ジョースターが。 そう、殺したのは私。 私のせいでジョセフは。私が犯した失態が。私が、私が、私が私が私が―――――!! だが、見間違えるわけがないのだ。だからこそ、人違いなんてことは絶対にないと断言できるのだ。 そんな息子を、赤の他人と勘違いすることなんてあるはずがないのだ。 であるならば、死んだはずのジョセフ・ジョースターが椅子に座らされていたのはなぜ? 首輪を爆発され、再び死んだのはなぜ? 彼は死んでいなかったのか? 『優勝者には何でも……文字通り何でもだッ! 願い事を叶えることを約束しようッ! 金も! 名誉も! 地位も! 名声もッ! 叶えられないものはないッ この世の真理! 覇権! 君が望むもの全てが優勝商品だッ!』 「…………死者が、生き返った、とでも……?」 両側の家で反響した自らの声。問いに対する答えとなるわけではない。だが口に出したリサリサ自らの声が彼女の中を震わせた。 折れかけ、今にも消えてしまいそうになっていた、何かを。 救えないと思っていた。 二度と見ることは叶わないと諦めていた。 母親としての自分なんぞとうに捨てていたつもりだった。 だがッ! それを再びに手入れることが可能であるならばッ! 自らの失敗をッ! 失った過去を取り戻せるというのならばッ! 胸ポケットにしまっていたサングラス。 いくら眩いといっても月明かりの前では不要なほどに濃淡なレンズを取りだすと、ゆっくりと、いつも通り鼻の上にちょこんとかける。 その瞳に何を映したのだろう。 希望か? 絶望か? 静まり返る住宅街。足は止まり、波一つない川面。 意志はきまった。 タバコを取り出し、一煙。 感情を押し殺した冷徹極まりない声。 彼女はリサリサとしてでもなく。エリザベス・ジョースターとしてでもなく。母親としてでもなく。 必要であるならば。最後の足掻きが許されるのであれば。 「覚悟は決まったわ」 取り戻すためならば―――私はもう躊躇わない。 ★ ガンジス河は、すべてをやさしく包み流れ続ける河。 この河には生まれてから死ぬ前の全てが縮図としてある。 であるならば。 バトル・ロワイアル、この舞台に走る一本のこの河は。 一体何を包み込んでいくのだろうか。 裏切りに打算? 慈愛と自愛? 納得とプライド? 河はゆっくりと流れ続けるのみ。 しかし、ひとたび血の雨が降ったならば。いくつもの屍体が放り込まれたならば。悲しみの涙で水かさが増したならば。 河は激流となりて全てを飲み込むだろう。 全てを! 【D-2 河べり/1日目 深夜】 【ホル・ホース】 [スタンド]:『エンペラー』 [時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後。 [状態]:健康 [装備]:マライアのタバコ&ライタ― [道具]:[[基本支給品]]、不明支給品1 [思考・状況] 基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る。 1.とりあえず利用できそうな “No.1” を探す。 【A-3 河/1日目 深夜】 【リサリサ】 [時間軸]:ジョセフの葬儀直前。 [状態]:健康 [装備]:承太郎のタバコ&ライタ―(第三部) [道具]:基本支給品、不明支給品1 [思考・状況] 基本行動方針:優勝してジョセフを蘇らせる。 1.覚悟は決まった。ゲームに乗る。 *投下順で読む [[前へ>喰霊-零-]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>欲望]] *時系列順で読む [[前へ>喰霊-零-]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>欲望]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[リサリサ]]|050:[[戦う女と泣けない復讐者]]| |&color(blue){GAME START}|[[ホル・ホース]]|046:[[揺れた煙は地に落ちる]]|

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