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未来日記 - (2012/12/09 (日) 02:09:13) の1つ前との変更点

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現在時刻…… 西暦2000年3月17日、20時35分17秒(日本時間)。 4分38秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分37秒前―――― 小説のページをめくる。 4分36秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分35秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分34秒前―――― ――――――――見知らぬホールのど真ん中。 ここだ。このタイミング―――― 何度読み返しても、異常だ。 あの瞬間、周囲の状況は一変した。瞬きをする暇もないその一瞬で、視覚情報が激変したのだ。 いや、視覚だけではない。 図書館特有の古い印刷の臭いも、突如消えてしまった。 手に持っていたA4サイズの紙の束が指先に触れる感覚も、手放した記憶は無いのにいつの間にか無くなっていた。 かわりに、デイパックを背負わされていた。 そして、図書館内の椅子に腰かけていたはずが、ホールでは立たされていた。 身体の重心を移動させた記憶も無い。膝の関節を伸ばした記憶もない。 胸ポケットに差した万年筆も、内ポケットに仕込んだスローイングナイフも、左手首に付けてあった腕時計も、何処かへ行ってしまった。 琢馬の長い人生を綴ったこの【本】にも、今回のような異常な事態は一度も記録されたことは無い。 読み返すだけで、気分が悪くなりそうな【記憶】だった。 【禁止区域】に指定した方がいいかもしれない。誰かに読ませれば、立ち眩みを起こさせることくらいできるかもしれないと、琢馬は考えた。 辺りの景色を見渡す。 日本とは異なる造りをした町並み。足元の自動車用道路の車線は、右側を進行するように描かれている。 星空を見上げると、日本からは見たことがない角度に星座が見える。 そして、道路を挟んだ向かい側に広がる薄黄色の高い壁と、入口であろう門の上に書かれた『MVSEI VATICANI』の文字。 この光景を【記憶】の中から【検索】する。 ……間違いない、『ヴァチカン市国』だ。 ヴァチカンに限らず海外など一度も行ったことは無かったが、世界の主要都市の地図は何となく脳内で全てデータ化していた。 そのデータに従うのであれば、ここはイタリア・ローマ市内の『ヴァチカーノ通り』―― 世界最小の国ヴァチカン。その北側の国境のようだ。 通常、観光客はここからヴァチカン内を見学し、「ヴァチカン美術館」、「システィーナ礼拝堂」を経て、「サンピエトロ広場」に抜けるコースを辿るらしい。 ホールから、「ここ」へ飛ばされた時も、最初と全く同じ現象が起こった。 杜王町の図書館で読書をしていた俺は、ものの数分のうちに、9700km近く離れたローマの地に立たされていた。 全てが一瞬の出来事であった。 謎のホールでの、【記憶】。 殺し合いを行え、だと? 何が起こっている。こんなイカれたゲームになぜ俺が? 人の読書を中断することくらい重い罪は無いのだぞ? その場では自体を飲みこめず、すぐに周りの状況を確認することはできなかった。 だが、大して関係ない。 ホールで見た【映像】を再生し、周囲にいた人間の顔を片っ端から【検索】。 ほとんどが東洋人ではなく知らぬ顔ばかりであったが、中には検索に引っ掛かった顔もあった。 遠目で確認できたのは、『岸辺露伴』。 町で何度もすれ違ったことがある、コソコソした所があるイケ好かない漫画家だ。 本屋で小学生と本を取り合っているのを見た時は、本気で頭のおかしい奴だと思った。 クラスメイトと話を合わせるために奴の漫画を読んだこともあるが、何が面白いのか全く分からなかったな。 ほかには、レストラン・トラサルディーの店主『トニオ氏』。 街中で見かけたことは無いが、杜王町霊園近くにあるレストランの料理人で、千帆と食べに行ったことがある。 あれは美味い料理だった。今でも記憶を頼りに『食べなおす』事も多い。 彼の料理を食べた時、何故か風邪がよくなった。彼の能力だったのだろうか。 ここからは自信がないが、『虹村形兆』。 ぶどうが丘高校1年、虹村億泰の兄。だが彼は去年の4月に死んだはずだ。 そして、アメリカ合衆国の『フィリップス上院議員』。 10年前にエジプトで事故死したと本で見たが、彼とよく似た人物がいた。 既に亡くなっているはずの2人を含め、俺が見た人物たちが本人である確証は無い―――― だが、得体の知れない何かが起こっていることだけは確かなようだ。 そして――――見せしめとなった2人目の、帽子をかぶった白コートの男。 彼も杜王町ですれ違った覚えがあった。 半年以上前、去年の6月末―――― 駅前の広場付近を歩いていた男だ。 当時、気にもしていなかった会話の内容を【再生】する。 『あ、こんにちは 承太郎さん……』 なるほど、名前はジョータローか。 『見た所クツ屋のようだが… 杜王町近くの洋服屋は全て聞いたが、こーいったところには聞き込みを見落としていたぜ』 なにか調べ物をしていたようだな。 『そのボタンの聞き込みですか?「重ちー」のハーヴェストが拾ってきたヤツの証拠品!』 その後は店内に入ってしまったな。 『重ちー』…… 『矢安宮重清』…… 噂を聞いたことがある。行方不明になった中学生だな。 彼らはその行方不明の少年の足取りを追っていたのだろうか? 翌日の新聞の【記憶】も探ってみると、あの日ムカデ屋ではガス爆発が起こり、店主が死亡している。 何か事件に関係していたのかもしれないが、今となっては分からないな。 街中で彼を見かけたのはその一度だけだ。 いや、まてよ? 「ジョータロー」か。 昨年、杜王町のヒトデに関する論文で博士号を取った海洋学者がいた。 名前は「Jotaro Kujo」…… 彼のことか? 海洋学者が何故、杜王町の行方不明者を探していたのだ? そして、彼と一緒に歩いていた少年。あれは広瀬康一だ。 ぶどうが丘高校1年、あの東方仗助たちの友人で、今年1月から織笠花恵の事件を追っていた人間の一人。 やれやれだ。「コイツ」のせいか? 手のひらの上の『本』を一瞥する。 万年筆を治した『東方仗助』、どういうわけか犯人の手首に傷があることをかぎつけた奴ら一派。 この殺し合いとやらに参加させられている人間は、全員なにか特殊な『能力』を持っているのだろうか。 この俺と同じように――――ならば―――――― 「――――――あの男も、ここにいるのか?」 『××××××××! ××××××××××!!』 『×××××××××××××! ×××××××××!』 !? 今の声は―――? どこかで男女の言い争う声――――ッ!? 現状の確認も記憶の整理も放りだし、脊髄反射のように、琢馬は走り出していた。 普段の冷静な彼ならば、こんな無鉄砲な行動を取ることなどなかっただろう。 【感覚】を【記憶】と結び付けてしまう彼には、分かってしまったのだ。 男の声が、彼にとってこの世で最も醜悪な存在である男の物であることを…… そして女性の声が、この世にもう存在するはずのない、大切なヒトの物であることを…… ★ ★ ★ ここは死後の世界というやつだろうか? だとしたら、閻魔様も趣味が悪い…… いや、これは私に与えられた、当然の罰なのかもしれないな。 この17年間、ずっと悪夢を見ていた。 自分の過去に隠された罪の重圧の影響だ。 私は一人の女性の人生を終わらせた。 もし私が死んだら、自分は天国には行けないだろうという実感はあった。 この悪趣味なゲームは、その結果なのだろうか。 なにより気にかかるのは、先ほどのホールで見た―――― こんな暴力的な物語で、彼女が幸福な結末を迎えられるはずがない。 私が、何とかしなければ…… 雨が降り始めた。 そういえば、ここはどこだ? 石を基調とした建物のつくりは西洋独特の物―――― いつだったか、見たことあるような景色だ。 「あの日も、こんな風に雨が降っていたわね。あなたは覚えているかしら?」 背後から声をかけられた。 女性の声だった。 「結果的に雨でぬかるんだ段ボールのお陰で助かったけど…… 寒かったのよ。 この一年間で、一体何回雨が降ったかなんて、あなたにわかる?」 振り返るのが怖かった。 存在するはずのない人間の声だった。 「最期に見る夢にしては随分なものだと思ったけれど、『殺し』合いの舞台であなたと再会できるなんて、神様も粋なことをしたものね……」 生涯、私に悪夢を見させ続けた女の声だった。 ★ ★ ★ 琢馬が現場に辿り着いた時、事態は既に終結を迎えていた。 何故かここら一帯のみに発生している雨に打たれ、暗い路地で取っ組み合う二人の男女。 男の年齢は40代の半ば、部屋着に使っているようなトレーナーを着こんだ中年の日本人。 あごひげを蓄えた顔は歳の割には若く見えたが、その表情は苦痛に歪んでいる。 女の年齢は20代の後半。手入れのされていないボサボサの長い黒髪。 泥だらけになったボロボロの衣服に、やせ細った手足。 偏った栄養のみを摂取してきたであろう弱々しい両手に握られた包丁は、男の腹部へと突き立てられていた。 「母さん――― なのか?」 そんなわけは無いと思いつつも、琢馬はそう声をかける。 2人の男女は琢馬の存在に気が付き、同時に彼の方へ振り向いた。 男の顔はよく知っている。 つい数十分前まで、彼の作った暖かいビーフシチューを食べながら話をしていた。 彼が生涯をかけて復讐すると誓った男―――――― 琢馬の父親、大神照彦だった。 そして女の方の顔は―――― 直接会ったことは無い。 彼女の両親から、写真を見せてもらったことがあるだけだ。 彼女の実家には、何度も訪れたことがある。二人は、突然失踪した彼女の行方を、生涯探し続けていた。 琢馬が家を訪れると、一人娘を失った老夫婦はまるで『実の孫』が遊びに来てくれたかのように、たいへん喜び歓迎してくれたものだった。 彼女の顔は頬が扱けてやせ細っており、その目からは生気が感じられない。 しかしそれでも、写真の中の若々しく美しい女性の面影は隠しきれなかった。 大神照彦という悪魔のような男によって半年以上も地獄のような生活を強いられ死亡した琢馬の母、飛来明里だった。 「誰……? 嘘――でしょう――? まさか――― わたしの赤ちゃん――――なのッ?」 飛来明里の血塗れの両手から力が抜け、カランという音を立てて包丁が地面に落ちた。 明里の方は、琢馬のことを知る由もない。 なにしろ明里にとっての息子は、つい数日前に生まれたばかりの赤ん坊である。彼女が人生を懸けて守り抜いた、大切な宝物だ。 目の前にいる少年は、17~18歳ほどの高校生だ。この少年が、自分の大切な赤ちゃんであるはずがないのだ。 「私の……赤ちゃん―――――? そう……なのね――――――ッ!?」 にもかかわらず、明里には何故か、少年が自分の子であることが一目でわかった。 少年の黒い学生服姿が、何度も夢で見た成長した我が子の姿と瓜二つだったのだ。 そしてそれ以上に、母親と息子にしかわからない絆のようなものを感じ取ったのかもしれない。 明里は信じられないといった風に口元を押さえ、腰を抜かしてしまった。 刺された照彦は腹から血を流しながら、冷たい目で自分を見据える琢馬を見た。 琢馬は自分から興味を亡くしたかのように目を逸らし、明里のそばに歩み寄ろうとする。 そんな琢馬を妨げるように最期の力を振り絞って、照彦は琢馬に向かって叫んだ。 「娘が―――――― 千帆がいたんだ――――――ッ! さっきのホールにッ!!」 その言葉に、琢馬の表情が曇る。 死にゆく父に再び目線を戻した。 千帆―――――― 彼女も……、いるのか? この「殺し合い」の場に――――ッ!? 千帆には『能力』は遺伝していなかった。 俺やこの大神照彦とは違い、彼女は何の力も持たない、ただの一般人だ。 武力を持ち合わせない、そんな無力な彼女までが、ここにいるというのか―――― 「蓮見くん―――! いや、『琢馬』ッ!! 千帆の父親として……そして君の父親として、最期の頼みだ―――― 千帆を、守ってやってくれ―――――― あの子は、喧嘩なんかしたことがない子なんだ…… 人と争うなんて、できない子なんだ…… あの子が、『殺し合い』なんかで生き残れるわけがない――――!! 君が……守って、やってくれないか………」 琢馬は何も答えない。真夜中の暗闇と強い雨のお陰でどんな表情をしているかもわからない。 照彦はそれでも続ける。もはや自分を刺した飛来明里のことなど頭にない。 最愛の娘を救う方法は、もはやこの『息子』に全てを懸けるしかなかった。 「頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!」 応えない琢馬に対して、地面に崩れ落ちた照彦は何度も何度もそう声をかける。 そのまま照彦の意識は薄れていき、やがて永遠の眠りへと堕ちて行った。 最愛の娘に一度殺された男は、悔いる暇もなく過去の罪に再び喰い殺された。 それでも娘の身を案じながら、彼を最も憎んでいた息子に看取られ―――― 大神照彦は、死んだ。 「初めまして………母さん。あなたの息子の蓮見―――― いや、『飛来琢馬』です」 父親の屍から目をそむけ、琢馬は自分を見上げる母親に声をかける。 琢馬の人生は、決して会う事が出来ないこの母親のために存在していた。 とっさに自分の名前を、母親の姓で名乗る。 自分と彼女が本当の親子であることを、自分たちに言い聞かせるために。 「琢馬…… 琢馬というのね………… あなたが、わたしの赤ちゃんなのね…………」 雨が降っているせいでよくは分からないが、彼女の顔は涙で濡れている。 本当に、神様は粋な事をしたものだ。 金を引き渡し、赤ちゃんの命を助けてもらった後も、彼女は助けられることは無かった。 完全に衰弱しきり、もう死を迎えるだけだと思っていた。彼女自身、それを受け入れていた。 それが目を覚ましたら殺し合いの舞台に立たされ、大神照彦への復讐の機会を与えられた。 そしてそれだけではなく、自分の成長した息子と再会させてもらう事ができるだなんて…… これは夢なのかもしれない。でも、彼女にとって夢か現実かなんてことは大した意味もないことだ。 「琢馬…… 大きく、立派に成長したのね…… よかった…… 本当によかったわ……」 泣き崩れる明里に、琢馬は歩み寄る。そして、子供のように母の胸の中に抱きかかえられた。 心臓の音が聞こえる。何度も何度も読み返した、【生まれたばかりの記憶】と同じ―――――― この音を聞いていると安心した。 思えば自分の能力は、人生でたったの3日間だけしか感じたことのない、この【感情】を――― 決して忘れないための、能力だったのではないか。 琢馬も涙を流していた。 父への復讐を誓ってから、泣いたことなど一度もなかったにも関わらず…… 「琢馬―――! 私のせいで、辛い毎日だったでしょう? 母親らしいことも…… 何もしてあげられなくて、ごめんね………」 「……そんなことはありません。俺は、産まれてくることができて、幸せでした――― 母さん…… 俺を産んでくれて…… ありがとう――――――!!」 心からの言葉だった。 あふれる涙と嗚咽を堪え、決して伝えることができないと思っていた母への感謝の言葉を告げた。 父は絶望して死んでいった。自分と母との、『2人がかり』で、復讐を遂げたのだ。 もう、誰かを憎み続ける日々は、終わったのだ。 「ありがとう――――― 琢馬。優しい子に育ってくれて、お母さんは嬉しいわ―――――――― ―――――――――これで、安心して逝けるわ」 ふと、琢馬は自らの手に握らされている感触に気が付いた。 いつのまにか、自分の両手には、先ほど父の命を奪った包丁が握らされている。 そしてその包丁の刃先は、そのまま最愛の母の身体に深く突き立てられていた。 「母さん―――――ッ!!! なんてことをッ!! 何をしているんだァ!!!」 再び包丁が地面に転がり、くずおれる明里を琢馬は抱きとめた。 腹からの出血が止まらない。母は初めから、自ら刃を突き立て死ぬつもりだったのだ。 「……琢馬ッ!! 最期にあなたに会えて、嬉しかった――――――」 「母さんッ! なんでだ―――― なんでだよォ――――!!」 母の体温が低下していく。 激しい雨にさらされ、出血の止まらない母の身体は急速に力を失わせていく。 「あなたが『あの男』への復讐のためだけに生きてきたことくらい、黙っていても分かるわ―――― 母親だものね―――― 本当にごめんなさい。辛い毎日だったでしょう―――――― でも、これで―――― 私とあの男の【因縁】は消えてなくなるわ―――――― もう、あなたは関係ない、自由の身よ―――――― これからは、自分のためだけに―――― 幸せに―――――――― あなた自身の未来へ――――――」 「母さん――――――――ッ」 「イキナサイ――――――――――」 生まれおちたばかりの記憶を読み返した。 母の胸に頭をくっつけていると、心臓の音が聞こえてきておちついた。 願いを本能で察したのだろう。自分は【忘れない能力】を手に入れた。 ★ ★ ★ 母の亡骸を抱え、建物に入った。 1年もの間、屋根もないビルの隙間に閉じ込められていた母を、これ以上野晒しにしておきたくはなかったからだ。 17年以上の時を越え再会した親子は、たった数分の会合の後に、再び永遠に別れることとなる。 【記憶する能力】を持つ琢馬だが、今日この時感じた母の愛とぬくもりは、能力を用いること無くとも決して忘れることはないだろう。 「父に、復讐を――――― それだけを考えて、生きてきた」 父、大神照彦は死んだ。 『頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!』 父の、最期の言葉だ。 妹が…… 千帆が、ここにいる。俺は―――――― 母、飛来明里は死んだ。 『これからは、自分のためだけに―――― 幸せに―――――――― あなた自身の未来へ―――――― イキナサイ――――――――――』 母は―――――― 俺は―――――― 妹は―――――― 俺は―――――― これから、どうすればいい。 母が何故、自ら命を絶ったのか。 最期の言葉にどんな思いを込めて、母はこの世を去って行ったのか。 今となっては誰にもわからない。 琢馬は【本】を取り出した。 【本】には、ついさっきまでの嘘のような物語も、一遍も欠けることなく記されている。 琢馬はページを走らせる。 無限に続く未来へのページ。 今まで過去を振り返ることしかしてこなかった琢馬にとって、未来に思いを馳せたことはほとんどない。 明確な目標を失った琢馬の未来に、どんなページが記録されていくのか。 それは、他ならぬ琢馬が決めてゆくこととなる。 建物を出ると、雨は上がっていた。 琢馬の新しい、そして真の人生が始まった。 &color(red){【双葉照彦 死亡】} &color(red){【飛来明里 死亡】} &color(red){【残り 126人】} 【A-1 南東/1日目 深夜】 【蓮見琢馬】 [スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力(名前はまだない)』 [時間軸]:The Book 2000年3月17日 千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。 [状態]:健康、??? [装備]:双葉家の包丁(飛来明里の支給品) [道具]: 基本支給品、不明支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本行動方針:??? ?.父の遺志の通り、千帆を守る。 ?.母の遺志の通り、自分自身のために生きる。 ?.それとも……? 琢馬自身の意志に従う。 行動方針に順位は無く、定まっていません。 これからどう行動するかは、これからの琢馬の意思次第です。 [参考] 参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。 琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど) 双葉照彦の参戦時期は千帆に刺された後です。参戦時期の関係上、大神ではなく『双葉照彦』です。 飛来明里の参戦時期は1982年 琢馬が救いだされた後の衰弱死する前です。 明里のランダム支給品は双葉家の包丁でした。つまり照彦は同じ包丁で二度刺されたという事になります。 明里の基本支給品、照彦の基本支給品、照彦のランダム支給品(1~2)はA-1南東の路地、照彦の遺体のそばに放置されています。 *投下順で読む [[前へ>恥知らずのウォッチタワー]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>魔少年現る!]] *時系列順で読む [[前へ>恥知らずのウォッチタワー]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>魔少年現る!]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[蓮見琢馬]]|067:[[The Day of Night]]| |&color(blue){GAME START}|[[双葉照彦]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[飛来明里]]|&color(red){GAME OVER}|
現在時刻…… 西暦2000年3月17日、20時35分17秒(日本時間)。 4分38秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分37秒前―――― 小説のページをめくる。 4分36秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分35秒前―――― 千帆の書いた小説を読んでいる。 4分34秒前―――― ――――――――見知らぬホールのど真ん中。 ここだ。このタイミング―――― 何度読み返しても、異常だ。 あの瞬間、周囲の状況は一変した。瞬きをする暇もないその一瞬で、視覚情報が激変したのだ。 いや、視覚だけではない。 図書館特有の古い印刷の臭いも、突如消えてしまった。 手に持っていたA4サイズの紙の束が指先に触れる感覚も、手放した記憶は無いのにいつの間にか無くなっていた。 かわりに、デイパックを背負わされていた。 そして、図書館内の椅子に腰かけていたはずが、ホールでは立たされていた。 身体の重心を移動させた記憶も無い。膝の関節を伸ばした記憶もない。 胸ポケットに差した万年筆も、内ポケットに仕込んだスローイングナイフも、左手首に付けてあった腕時計も、何処かへ行ってしまった。 琢馬の長い人生を綴ったこの【本】にも、今回のような異常な事態は一度も記録されたことは無い。 読み返すだけで、気分が悪くなりそうな【記憶】だった。 【禁止区域】に指定した方がいいかもしれない。誰かに読ませれば、立ち眩みを起こさせることくらいできるかもしれないと、琢馬は考えた。 辺りの景色を見渡す。 日本とは異なる造りをした町並み。足元の自動車用道路の車線は、右側を進行するように描かれている。 星空を見上げると、日本からは見たことがない角度に星座が見える。 そして、道路を挟んだ向かい側に広がる薄黄色の高い壁と、入口であろう門の上に書かれた『MVSEI VATICANI』の文字。 この光景を【記憶】の中から【検索】する。 ……間違いない、『ヴァチカン市国』だ。 ヴァチカンに限らず海外など一度も行ったことは無かったが、世界の主要都市の地図は何となく脳内で全てデータ化していた。 そのデータに従うのであれば、ここはイタリア・ローマ市内の『ヴァチカーノ通り』―― 世界最小の国ヴァチカン。その北側の国境のようだ。 通常、観光客はここからヴァチカン内を見学し、「ヴァチカン美術館」、「システィーナ礼拝堂」を経て、「サンピエトロ広場」に抜けるコースを辿るらしい。 ホールから、「ここ」へ飛ばされた時も、最初と全く同じ現象が起こった。 杜王町の図書館で読書をしていた俺は、ものの数分のうちに、9700km近く離れたローマの地に立たされていた。 全てが一瞬の出来事であった。 謎のホールでの、【記憶】。 殺し合いを行え、だと? 何が起こっている。こんなイカれたゲームになぜ俺が? 人の読書を中断することくらい重い罪は無いのだぞ? その場では自体を飲みこめず、すぐに周りの状況を確認することはできなかった。 だが、大して関係ない。 ホールで見た【映像】を再生し、周囲にいた人間の顔を片っ端から【検索】。 ほとんどが東洋人ではなく知らぬ顔ばかりであったが、中には検索に引っ掛かった顔もあった。 遠目で確認できたのは、『[[岸辺露伴]]』。 町で何度もすれ違ったことがある、コソコソした所があるイケ好かない漫画家だ。 本屋で小学生と本を取り合っているのを見た時は、本気で頭のおかしい奴だと思った。 クラスメイトと話を合わせるために奴の漫画を読んだこともあるが、何が面白いのか全く分からなかったな。 ほかには、レストラン・トラサルディーの店主『トニオ氏』。 街中で見かけたことは無いが、杜王町霊園近くにあるレストランの料理人で、千帆と食べに行ったことがある。 あれは美味い料理だった。今でも記憶を頼りに『食べなおす』事も多い。 彼の料理を食べた時、何故か風邪がよくなった。彼の能力だったのだろうか。 ここからは自信がないが、『[[虹村形兆]]』。 ぶどうが丘高校1年、[[虹村億泰]]の兄。だが彼は去年の4月に死んだはずだ。 そして、アメリカ合衆国の『フィリップス上院議員』。 10年前にエジプトで事故死したと本で見たが、彼とよく似た人物がいた。 既に亡くなっているはずの2人を含め、俺が見た人物たちが本人である確証は無い―――― だが、得体の知れない何かが起こっていることだけは確かなようだ。 そして――――見せしめとなった2人目の、帽子をかぶった白コートの男。 彼も杜王町ですれ違った覚えがあった。 半年以上前、去年の6月末―――― 駅前の広場付近を歩いていた男だ。 当時、気にもしていなかった会話の内容を【再生】する。 『あ、こんにちは 承太郎さん……』 なるほど、名前はジョータローか。 『見た所クツ屋のようだが… 杜王町近くの洋服屋は全て聞いたが、こーいったところには聞き込みを見落としていたぜ』 なにか調べ物をしていたようだな。 『そのボタンの聞き込みですか?「重ちー」のハーヴェストが拾ってきたヤツの証拠品!』 その後は店内に入ってしまったな。 『重ちー』…… 『矢安宮重清』…… 噂を聞いたことがある。行方不明になった中学生だな。 彼らはその行方不明の少年の足取りを追っていたのだろうか? 翌日の新聞の【記憶】も探ってみると、あの日ムカデ屋ではガス爆発が起こり、店主が死亡している。 何か事件に関係していたのかもしれないが、今となっては分からないな。 街中で彼を見かけたのはその一度だけだ。 いや、まてよ? 「ジョータロー」か。 昨年、杜王町のヒトデに関する論文で博士号を取った海洋学者がいた。 名前は「Jotaro Kujo」…… 彼のことか? 海洋学者が何故、杜王町の行方不明者を探していたのだ? そして、彼と一緒に歩いていた少年。あれは広瀬康一だ。 ぶどうが丘高校1年、あの[[東方仗助]]たちの友人で、今年1月から[[織笠花恵]]の事件を追っていた人間の一人。 やれやれだ。「コイツ」のせいか? 手のひらの上の『本』を一瞥する。 万年筆を治した『東方仗助』、どういうわけか犯人の手首に傷があることをかぎつけた奴ら一派。 この殺し合いとやらに参加させられている人間は、全員なにか特殊な『能力』を持っているのだろうか。 この俺と同じように――――ならば―――――― 「――――――あの男も、ここにいるのか?」 『××××××××! ××××××××××!!』 『×××××××××××××! ×××××××××!』 !? 今の声は―――? どこかで男女の言い争う声――――ッ!? 現状の確認も記憶の整理も放りだし、脊髄反射のように、琢馬は走り出していた。 普段の冷静な彼ならば、こんな無鉄砲な行動を取ることなどなかっただろう。 【感覚】を【記憶】と結び付けてしまう彼には、分かってしまったのだ。 男の声が、彼にとってこの世で最も醜悪な存在である男の物であることを…… そして女性の声が、この世にもう存在するはずのない、大切なヒトの物であることを…… ★ ★ ★ ここは死後の世界というやつだろうか? だとしたら、閻魔様も趣味が悪い…… いや、これは私に与えられた、当然の罰なのかもしれないな。 この17年間、ずっと悪夢を見ていた。 自分の過去に隠された罪の重圧の影響だ。 私は一人の女性の人生を終わらせた。 もし私が死んだら、自分は天国には行けないだろうという実感はあった。 この悪趣味なゲームは、その結果なのだろうか。 なにより気にかかるのは、先ほどのホールで見た―――― こんな暴力的な物語で、彼女が幸福な結末を迎えられるはずがない。 私が、何とかしなければ…… 雨が降り始めた。 そういえば、ここはどこだ? 石を基調とした建物のつくりは西洋独特の物―――― いつだったか、見たことあるような景色だ。 「あの日も、こんな風に雨が降っていたわね。あなたは覚えているかしら?」 背後から声をかけられた。 女性の声だった。 「結果的に雨でぬかるんだ段ボールのお陰で助かったけど…… 寒かったのよ。 この一年間で、一体何回雨が降ったかなんて、あなたにわかる?」 振り返るのが怖かった。 存在するはずのない人間の声だった。 「最期に見る夢にしては随分なものだと思ったけれど、『殺し』合いの舞台であなたと再会できるなんて、神様も粋なことをしたものね……」 生涯、私に悪夢を見させ続けた女の声だった。 ★ ★ ★ 琢馬が現場に辿り着いた時、事態は既に終結を迎えていた。 何故かここら一帯のみに発生している雨に打たれ、暗い路地で取っ組み合う二人の男女。 男の年齢は40代の半ば、部屋着に使っているようなトレーナーを着こんだ中年の日本人。 あごひげを蓄えた顔は歳の割には若く見えたが、その表情は苦痛に歪んでいる。 女の年齢は20代の後半。手入れのされていないボサボサの長い黒髪。 泥だらけになったボロボロの衣服に、やせ細った手足。 偏った栄養のみを摂取してきたであろう弱々しい両手に握られた包丁は、男の腹部へと突き立てられていた。 「母さん――― なのか?」 そんなわけは無いと思いつつも、琢馬はそう声をかける。 2人の男女は琢馬の存在に気が付き、同時に彼の方へ振り向いた。 男の顔はよく知っている。 つい数十分前まで、彼の作った暖かいビーフシチューを食べながら話をしていた。 彼が生涯をかけて復讐すると誓った男―――――― 琢馬の父親、大神照彦だった。 そして女の方の顔は―――― 直接会ったことは無い。 彼女の両親から、写真を見せてもらったことがあるだけだ。 彼女の実家には、何度も訪れたことがある。二人は、突然失踪した彼女の行方を、生涯探し続けていた。 琢馬が家を訪れると、一人娘を失った老夫婦はまるで『実の孫』が遊びに来てくれたかのように、たいへん喜び歓迎してくれたものだった。 彼女の顔は頬が扱けてやせ細っており、その目からは生気が感じられない。 しかしそれでも、写真の中の若々しく美しい女性の面影は隠しきれなかった。 大神照彦という悪魔のような男によって半年以上も地獄のような生活を強いられ死亡した琢馬の母、[[飛来明里]]だった。 「誰……? 嘘――でしょう――? まさか――― わたしの赤ちゃん――――なのッ?」 飛来明里の血塗れの両手から力が抜け、カランという音を立てて包丁が地面に落ちた。 明里の方は、琢馬のことを知る由もない。 なにしろ明里にとっての息子は、つい数日前に生まれたばかりの赤ん坊である。彼女が人生を懸けて守り抜いた、大切な宝物だ。 目の前にいる少年は、17~18歳ほどの高校生だ。この少年が、自分の大切な赤ちゃんであるはずがないのだ。 「私の……赤ちゃん―――――? そう……なのね――――――ッ!?」 にもかかわらず、明里には何故か、少年が自分の子であることが一目でわかった。 少年の黒い学生服姿が、何度も夢で見た成長した我が子の姿と瓜二つだったのだ。 そしてそれ以上に、母親と息子にしかわからない絆のようなものを感じ取ったのかもしれない。 明里は信じられないといった風に口元を押さえ、腰を抜かしてしまった。 刺された照彦は腹から血を流しながら、冷たい目で自分を見据える琢馬を見た。 琢馬は自分から興味を亡くしたかのように目を逸らし、明里のそばに歩み寄ろうとする。 そんな琢馬を妨げるように最期の力を振り絞って、照彦は琢馬に向かって叫んだ。 「娘が―――――― 千帆がいたんだ――――――ッ! さっきのホールにッ!!」 その言葉に、琢馬の表情が曇る。 死にゆく父に再び目線を戻した。 千帆―――――― 彼女も……、いるのか? この「殺し合い」の場に――――ッ!? 千帆には『能力』は遺伝していなかった。 俺やこの大神照彦とは違い、彼女は何の力も持たない、ただの一般人だ。 武力を持ち合わせない、そんな無力な彼女までが、ここにいるというのか―――― 「蓮見くん―――! いや、『琢馬』ッ!! 千帆の父親として……そして君の父親として、最期の頼みだ―――― 千帆を、守ってやってくれ―――――― あの子は、喧嘩なんかしたことがない子なんだ…… 人と争うなんて、できない子なんだ…… あの子が、『殺し合い』なんかで生き残れるわけがない――――!! 君が……守って、やってくれないか………」 琢馬は何も答えない。真夜中の暗闇と強い雨のお陰でどんな表情をしているかもわからない。 照彦はそれでも続ける。もはや自分を刺した飛来明里のことなど頭にない。 最愛の娘を救う方法は、もはやこの『息子』に全てを懸けるしかなかった。 「頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!」 応えない琢馬に対して、地面に崩れ落ちた照彦は何度も何度もそう声をかける。 そのまま照彦の意識は薄れていき、やがて永遠の眠りへと堕ちて行った。 最愛の娘に一度殺された男は、悔いる暇もなく過去の罪に再び喰い殺された。 それでも娘の身を案じながら、彼を最も憎んでいた息子に看取られ―――― 大神照彦は、死んだ。 「初めまして………母さん。あなたの息子の蓮見―――― いや、『飛来琢馬』です」 父親の屍から目をそむけ、琢馬は自分を見上げる母親に声をかける。 琢馬の人生は、決して会う事が出来ないこの母親のために存在していた。 とっさに自分の名前を、母親の姓で名乗る。 自分と彼女が本当の親子であることを、自分たちに言い聞かせるために。 「琢馬…… 琢馬というのね………… あなたが、わたしの赤ちゃんなのね…………」 雨が降っているせいでよくは分からないが、彼女の顔は涙で濡れている。 本当に、神様は粋な事をしたものだ。 金を引き渡し、赤ちゃんの命を助けてもらった後も、彼女は助けられることは無かった。 完全に衰弱しきり、もう死を迎えるだけだと思っていた。彼女自身、それを受け入れていた。 それが目を覚ましたら殺し合いの舞台に立たされ、大神照彦への復讐の機会を与えられた。 そしてそれだけではなく、自分の成長した息子と再会させてもらう事ができるだなんて…… これは夢なのかもしれない。でも、彼女にとって夢か現実かなんてことは大した意味もないことだ。 「琢馬…… 大きく、立派に成長したのね…… よかった…… 本当によかったわ……」 泣き崩れる明里に、琢馬は歩み寄る。そして、子供のように母の胸の中に抱きかかえられた。 心臓の音が聞こえる。何度も何度も読み返した、【生まれたばかりの記憶】と同じ―――――― この音を聞いていると安心した。 思えば自分の能力は、人生でたったの3日間だけしか感じたことのない、この【感情】を――― 決して忘れないための、能力だったのではないか。 琢馬も涙を流していた。 父への復讐を誓ってから、泣いたことなど一度もなかったにも関わらず…… 「琢馬―――! 私のせいで、辛い毎日だったでしょう? 母親らしいことも…… 何もしてあげられなくて、ごめんね………」 「……そんなことはありません。俺は、産まれてくることができて、幸せでした――― 母さん…… 俺を産んでくれて…… ありがとう――――――!!」 心からの言葉だった。 あふれる涙と嗚咽を堪え、決して伝えることができないと思っていた母への感謝の言葉を告げた。 父は絶望して死んでいった。自分と母との、『2人がかり』で、復讐を遂げたのだ。 もう、誰かを憎み続ける日々は、終わったのだ。 「ありがとう――――― 琢馬。優しい子に育ってくれて、お母さんは嬉しいわ―――――――― ―――――――――これで、安心して逝けるわ」 ふと、琢馬は自らの手に握らされている感触に気が付いた。 いつのまにか、自分の両手には、先ほど父の命を奪った包丁が握らされている。 そしてその包丁の刃先は、そのまま最愛の母の身体に深く突き立てられていた。 「母さん―――――ッ!!! なんてことをッ!! 何をしているんだァ!!!」 再び包丁が地面に転がり、くずおれる明里を琢馬は抱きとめた。 腹からの出血が止まらない。母は初めから、自ら刃を突き立て死ぬつもりだったのだ。 「……琢馬ッ!! 最期にあなたに会えて、嬉しかった――――――」 「母さんッ! なんでだ―――― なんでだよォ――――!!」 母の体温が低下していく。 激しい雨にさらされ、出血の止まらない母の身体は急速に力を失わせていく。 「あなたが『あの男』への復讐のためだけに生きてきたことくらい、黙っていても分かるわ―――― 母親だものね―――― 本当にごめんなさい。辛い毎日だったでしょう―――――― でも、これで―――― 私とあの男の【因縁】は消えてなくなるわ―――――― もう、あなたは関係ない、自由の身よ―――――― これからは、自分のためだけに―――― 幸せに―――――――― あなた自身の未来へ――――――」 「母さん――――――――ッ」 「イキナサイ――――――――――」 生まれおちたばかりの記憶を読み返した。 母の胸に頭をくっつけていると、心臓の音が聞こえてきておちついた。 願いを本能で察したのだろう。自分は【忘れない能力】を手に入れた。 ★ ★ ★ 母の亡骸を抱え、建物に入った。 1年もの間、屋根もないビルの隙間に閉じ込められていた母を、これ以上野晒しにしておきたくはなかったからだ。 17年以上の時を越え再会した親子は、たった数分の会合の後に、再び永遠に別れることとなる。 【記憶する能力】を持つ琢馬だが、今日この時感じた母の愛とぬくもりは、能力を用いること無くとも決して忘れることはないだろう。 「父に、復讐を――――― それだけを考えて、生きてきた」 父、大神照彦は死んだ。 『頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!』 父の、最期の言葉だ。 妹が…… 千帆が、ここにいる。俺は―――――― 母、飛来明里は死んだ。 『これからは、自分のためだけに―――― 幸せに―――――――― あなた自身の未来へ―――――― イキナサイ――――――――――』 母は―――――― 俺は―――――― 妹は―――――― 俺は―――――― これから、どうすればいい。 母が何故、自ら命を絶ったのか。 最期の言葉にどんな思いを込めて、母はこの世を去って行ったのか。 今となっては誰にもわからない。 琢馬は【本】を取り出した。 【本】には、ついさっきまでの嘘のような物語も、一遍も欠けることなく記されている。 琢馬はページを走らせる。 無限に続く未来へのページ。 今まで過去を振り返ることしかしてこなかった琢馬にとって、未来に思いを馳せたことはほとんどない。 明確な目標を失った琢馬の未来に、どんなページが記録されていくのか。 それは、他ならぬ琢馬が決めてゆくこととなる。 建物を出ると、雨は上がっていた。 琢馬の新しい、そして真の人生が始まった。 &color(red){【双葉照彦 死亡】} &color(red){【飛来明里 死亡】} &color(red){【残り 126人】} 【A-1 南東/1日目 深夜】 【[[蓮見琢馬]]】 [スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力(名前はまだない)』 [時間軸]:The Book 2000年3月17日 千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。 [状態]:健康、??? [装備]:双葉家の包丁(飛来明里の支給品) [道具]: [[基本支給品]]、不明支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本行動方針:??? ?.父の遺志の通り、千帆を守る。 ?.母の遺志の通り、自分自身のために生きる。 ?.それとも……? 琢馬自身の意志に従う。 行動方針に順位は無く、定まっていません。 これからどう行動するかは、これからの琢馬の意思次第です。 [参考] 参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。 琢馬はホール内で岸辺露伴、[[トニオ・トラサルディー]]、虹村形兆、[[ウィルソン・フィリップス]]の顔を確認しました。 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど) [[双葉照彦]]の参戦時期は千帆に刺された後です。参戦時期の関係上、大神ではなく『双葉照彦』です。 飛来明里の参戦時期は1982年 琢馬が救いだされた後の衰弱死する前です。 明里のランダム支給品は双葉家の包丁でした。つまり照彦は同じ包丁で二度刺されたという事になります。 明里の基本支給品、照彦の基本支給品、照彦のランダム支給品(1~2)はA-1南東の路地、照彦の遺体のそばに放置されています。 *投下順で読む [[前へ>恥知らずのウォッチタワー]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>魔少年現る!]] *時系列順で読む [[前へ>恥知らずのウォッチタワー]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>魔少年現る!]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[蓮見琢馬]]|067:[[The Day of Night]]| |&color(blue){GAME START}|[[双葉照彦]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[飛来明里]]|&color(red){GAME OVER}|

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