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Beyond the Bounds - (2012/07/19 (木) 22:35:58) の1つ前との変更点

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仄暗い水の底に沈みきって、どれだけの時間が流れただろう。 光も、音も、何もかもが遠い。 時折ちらりと視界を過ぎる小さな魚影だけが、僅かに慰めと言えなくもない。それでも、物言わぬ死体となり果てた『元相棒』を横目に『孤独』であることに変わりはない。 (ああ――――孤独、孤独だよォー……) 何を叫ぼうと届きはしない。印すらない水の底に、動くはおろか物言うことすら出来ない刀剣に、救いの手が現れるはずもない。 ナイルの奔流から掬い上げられた歓びも泡沫の夢、このまま錆付き朽ち果てるまま、緩慢に流れる時に任せた消滅を迎えるばかりだとアヌビス神は思った。いや、思っていた。 (あぁ――――うン? なんだ、ありゃあ……?) ゆらりと泳ぎ過ぎた魚影は、それまでにちらちらと見えていたものよりも妙に大きい。そして、見たこともないような形をしていた。 奇妙なことに、通り過ぎるばかりだった小魚と違い、その魚影はアヌビスの周囲をグルグルとうろついているようだった。チラリチラリと視界の端にその影が映っている。 (魚、魚か? それにしちゃあ妙な動きをしてやがる。ああ、でも、なんでもいい――) この水牢の孤独から救ってくれるなら。 アヌビスは懸命に願った。神様DIO様、この際悪魔でもなんでもいい、どうか俺をお救い下さいッ! 知ってか知らずか、魚影がアヌビスを咥え上げたのはその直後。 哀れな妖刀の第2の奇妙な物語が始まろうとしていた。 ◆ 『ゲーム』の開始早々から、スクアーロは結構な戦いを強いられた。 黒を基調としたタイトな服装は、至るところじっとりと黒ずんだ染みにまみれ、シャープさを感じさせる風貌に似合わない陰惨な雰囲気を醸し出している。 大女、ヤク中女、時代がかった軍人、死んでいるはずのチンピラ、大猿のような化け物。女たちとピントのずれた軍人はまだスクアーロの持てる知識の中で解釈がつけられるものの、死んでいるはずのチンピラと猿の化け物に関しては、全くもって己の理解の埒外だった。 「まァ――報告がマチガイ、実は死んでなかった、ってのも妥当な考えだけどよ……」 乾いた血痕の残る顔に拭いきれない倦怠感を滲ませて、疲れた足を引きずるようにふらふらと歩きながら、スクアーロはチンピラに関する一考察をぽろりと吐きだした。 数瞬たって、いつもの相槌が無いことに気づく。ああ、またやってしまった―― ――ティッツァ。 声に出さずに愛称を呼んだ相棒は――いない。半身のように行動を共にしてきた相棒は、スクアーロの隣にはいないのだ。 静かに流れる川と、川を越えて遠く薄闇に浮かぶ景観は、確かに慣れ親しんだローマのものであるはずなのに、右手に広がった砂の気配混じる異国の町並みがそれを否定する。 ――ここは――何だ? ひとつだけ判っているのは、この『ゲーム』において、死は限りなく近しい隣人であるということ。ひとつ選択を間違えば、纏わりつく死神が嬉々として大鎌を振るうだろう。 ――死ぬわけにはいかねぇ。 何かを成し遂げて戴く死と、何も遂げられぬまま与えられる死――どちらが良いと問われれば、どちらもごめんだとスクアーロは吠えるだろう。己が望むのは相棒と掴む栄光。そのために、クズみたいなゴロツキから、がむしゃらに親衛隊という地位まで上ってきた。 知恵も気も回るが非力な相棒が、こんな凄惨なゲームに巻き込まれているなど考えたくはない。だが、巻き込まれている可能性は否定できない。与えられるもので確認するというのも癪な話だが、せめて名簿とやらで安否を確認しなければ納まらない。 相棒が不在ならば、あの老人の甘言に乗ってやるのも構わない。あの老人が『ボス』だろうがそれとも代理の一幹部だろうが、試されているのなら力でねじ伏せて示すだけ。 万が一どこかにいるのならば、一刻も早い合流を。頭の切れる彼ならば易々と死にはしないと信じているが、理不尽な暴力の横行するこのゲームで彼の非力さは格好の的だろう。 ――情報が、必要だ。 しかし、殺戮の現場となったそこらを歩き回ってみても人の姿は見かけなかった。あるいは、スクアーロ自身に運がなかったのかもしれない。 いつ何時、誰から襲われるかもわからないこの状況で、身を守ることを優先するのは必須事項だった。ゆえに、スクアーロは『川』を選択した。 あの通りにあった水たまりは局地的な雨がもたらしたもののようで、散策するにつれて地面は乾いたものになっていた。 しかし、川であれば話は違う。地図に記されているとおりなら、川にさえ沿って動いていればある程度のアドバンテージを持てることに違いは無い。 それゆえの『川』――しかし、その選択が間違いだったのか。スクアーロは疲れたように息を吐く。ひとりきりの放浪とは、こんなにも遣る瀬ない疲労を伴うものだったのか。 (孤独、か……) ひとつきりの足音にすら気が滅入る。化け物に打ちすえられた体が鈍痛を訴える。誰でもいい、何でもいい。この無限にも思える錯覚の孤独から救い出して欲しい。 そんなとき、遠くに何か重い音が聞こえてきた。何かを打ち合うような金属の音。重低音の怒号のような音。 スクアーロは疲労に鈍る足を急がせて、音の震源地に向かった。何がおこっているのかを確認できるだけで上等だった。 そして辿り着いた対岸、周辺に待ち伏せなどの気配がないことを確認してから、スクアーロはおもむろにクラッシュを発現させた。 ◆ その死体を見つけたのは、全くの偶然だった。 夜闇に加えてうすら濁った水底は、ぱっと見て何が沈んでいるのかもよくわからない。石かもしれないし、単なる水草の影かもしれない。 スクアーロはまず『音』の正体を確認しに行った。少々距離はあったが、遠目に確認できるくらいには近寄れた。 クラッシュを水面に浮かばせて打ち合う重低音の元を探して見れば、開けた場所で大柄な影がふたつ、すさまじいスピードで打ち合っているのが見て取れた。何やら怒鳴り合っているのは聞こえたが、内容までは聞き取れない。 相棒でないなら別にどうでもいいと、クラッシュを沈ませて戻そうとした矢先。流れが妙に淀んでいる水流を発見した。濁った水に微かに混じる血の気配に、スクアーロは瞬間的に身構えつつ慎重にクラッシュを進ませた。 ――死体か? 死体それ自体には別段なんの感慨も沸かないが、それが相棒でないかどうかは別問題だった。自然と湧きあがる最悪の妄想を振り払いつつ、スクアーロはじっくりとその死体を検分し始めた。 体の前面から沈んでいるせいで顔までは覗けない。熟れきって弾けた果実のようにぱっくりと割れた中身すら覗く後頭部は、加減をしらない子供がオモチャを叩きつけて壊したような有様にも見える。 ――良かった、ティッツァじゃあねえ。 服装といい、髪色といい、この死体は単なる他人だ。沈んだ死体が相棒ではなかったことに安堵し、他に何も無いか確認のためにクラッシュを一回りさせたときだった。 ――あぁ、なんだありゃあ? 死体の傍というには少々離れたところに、一本の刀が沈んでいる。この死体の所有物だったものか、それとも殺害と共に証拠隠滅とばかりに投げ捨てられたものか。 夜闇に加えてうすら濁った水底においても輝きを失わない見事な抜き身が、妖しくギラついているようだった。 少し迷って、あるものは貰っておくかという結論に達する。スタンド能力一本で、何が待ち受けるかもわからないこの先を渡りきれるはずもない。 そう、スクアーロは武装という意味においては丸腰だった。だいたいにおいて、スクアーロのランダム支給品とやらはハズレの部類だったのだ。 限定的とはいえ、攻撃にも索敵にも幅広く応用の効く能力を保持していたからいいようなものの、自身のデイパックから出てきたのは最低限の備品を除けば『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』と『英単語カードのコーンフレーク』だけ。 川縁でデイパックを改めた際、メモかなにかかと思って開いた紙の中からそれらの料理が出てきたとき、スクアーロは場違いな悪寒に総毛立った。 温かな湯気と丁寧に整えられた見た目から滲む、異常な妄執みたいなものがひたすら気色悪かった。出したその場に放置して、逃げるように去ったものだ。 護身のための武器として、刀は甚だ時代錯誤の感が拭えないが、それでも無いよりマシだろう。 そうして、クラッシュで刀剣を拾い上げた直後だった。 ――た、助かったァァァァァァァァァァァァ!! 大音量で聞こえた声に、スクアーロは焦って周囲を見渡した。だが、辺りの闇には何かがいるような気配はなく、ただただ声だけが響いている。 ――オイ、早く俺を引き上げてくれェーッ! こいつは一体、何を言っているのか。察しのつかないスクアーロが尚も辺りを見回していると、焦れたように口早に声が響き渡った。 ――お前だお前、『鮫』の本体ッ! 水ン中じゃあ錆びちまうよォー! そうして、ようやくその声が己自身にしか聞こえていない――正しく言うなら、音にすらなっていない――ということに、スクアーロは気がついた。クラッシュが咥えていた『刀』を放すと、途端にその声は聞こえなくなったからだ。 「い、一体何だってんだ……?」 待てど暮らせど、あれほど喧しかった声は聞こえない。おそるおそる、もう一度クラッシュにその刀を拾わせる。すると、今度は泣き声のような哀れがかった声が響き渡った。 ――た、頼むよォーッ 拾い上げてくれェーッ! もう水の中はコリゴリなんだあッ! どうやら、この奇妙な声はこの刀から発せられているらしい。ますますスクアーロの知識と理解から遠のいているが、実際起こっているからには現実を受け入れる他ない。 それに、武器らしい武器は手に入れたい。若干悩んだスクアーロだが、結論は変わらなかった。 そして鮫と刀の奇妙な物語が始まる。 &color(skyblue){【アヌビス神 復帰】} 【C-4 ティベレ川河岸・1日目 黎明】 【スクアーロ】 [スタンド]:『クラッシュ』 [時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前 [状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、かすり傷、混乱(小) [装備]:アヌビス神 [道具]:基本支給品一式 [思考・状況] 基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい 1:まずはティッツァーノと合流。 2:この喋る刀は一体なんなんだ? [備考] ※スクアーロの移動経路はA-2~A-3へ進んだのち、川に沿って動いています ※川沿いのどこかに、支給品である料理が放置されています 支給品情報 『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。見た目はアレだが味は美味しい……かもしれない。 『英単語カードのコーンフレーク』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。そもそも単語カードは『コーン』ではないという突っ込みは野暮だろうか。 *投下順で読む [[前へ>手――(ザ・ハンド)]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>Isn't She Lovely]] *時系列順で読む [[前へ>手――(ザ・ハンド)]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>幕張]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |043:[[デッドマン・ウォーキング]]|[[スクアーロ]]|074:[[どうぶつ奇想天外ッ!]]|
仄暗い水の底に沈みきって、どれだけの時間が流れただろう。 光も、音も、何もかもが遠い。 時折ちらりと視界を過ぎる小さな魚影だけが、僅かに慰めと言えなくもない。それでも、物言わぬ死体となり果てた『元相棒』を横目に『孤独』であることに変わりはない。 (ああ――――孤独、孤独だよォー……) 何を叫ぼうと届きはしない。印すらない水の底に、動くはおろか物言うことすら出来ない刀剣に、救いの手が現れるはずもない。 ナイルの奔流から掬い上げられた歓びも泡沫の夢、このまま錆付き朽ち果てるまま、緩慢に流れる時に任せた消滅を迎えるばかりだとアヌビス神は思った。いや、思っていた。 (あぁ――――うン? なんだ、ありゃあ……?) ゆらりと泳ぎ過ぎた魚影は、それまでにちらちらと見えていたものよりも妙に大きい。そして、見たこともないような形をしていた。 奇妙なことに、通り過ぎるばかりだった小魚と違い、その魚影はアヌビスの周囲をグルグルとうろついているようだった。チラリチラリと視界の端にその影が映っている。 (魚、魚か? それにしちゃあ妙な動きをしてやがる。ああ、でも、なんでもいい――) この水牢の孤独から救ってくれるなら。 アヌビスは懸命に願った。神様DIO様、この際悪魔でもなんでもいい、どうか俺をお救い下さいッ! 知ってか知らずか、魚影がアヌビスを咥え上げたのはその直後。 哀れな妖刀の第2の奇妙な物語が始まろうとしていた。 ◆ 『ゲーム』の開始早々から、[[スクアーロ]]は結構な戦いを強いられた。 黒を基調としたタイトな服装は、至るところじっとりと黒ずんだ染みにまみれ、シャープさを感じさせる風貌に似合わない陰惨な雰囲気を醸し出している。 大女、ヤク中女、時代がかった軍人、死んでいるはずのチンピラ、大猿のような化け物。女たちとピントのずれた軍人はまだスクアーロの持てる知識の中で解釈がつけられるものの、死んでいるはずのチンピラと猿の化け物に関しては、全くもって己の理解の埒外だった。 「まァ――報告がマチガイ、実は死んでなかった、ってのも妥当な考えだけどよ……」 乾いた血痕の残る顔に拭いきれない倦怠感を滲ませて、疲れた足を引きずるようにふらふらと歩きながら、スクアーロはチンピラに関する一考察をぽろりと吐きだした。 数瞬たって、いつもの相槌が無いことに気づく。ああ、またやってしまった―― ――ティッツァ。 声に出さずに愛称を呼んだ相棒は――いない。半身のように行動を共にしてきた相棒は、スクアーロの隣にはいないのだ。 静かに流れる川と、川を越えて遠く薄闇に浮かぶ景観は、確かに慣れ親しんだローマのものであるはずなのに、右手に広がった砂の気配混じる異国の町並みがそれを否定する。 ――ここは――何だ? ひとつだけ判っているのは、この『ゲーム』において、死は限りなく近しい隣人であるということ。ひとつ選択を間違えば、纏わりつく死神が嬉々として大鎌を振るうだろう。 ――死ぬわけにはいかねぇ。 何かを成し遂げて戴く死と、何も遂げられぬまま与えられる死――どちらが良いと問われれば、どちらもごめんだとスクアーロは吠えるだろう。己が望むのは相棒と掴む栄光。そのために、クズみたいなゴロツキから、がむしゃらに親衛隊という地位まで上ってきた。 知恵も気も回るが非力な相棒が、こんな凄惨なゲームに巻き込まれているなど考えたくはない。だが、巻き込まれている可能性は否定できない。与えられるもので確認するというのも癪な話だが、せめて名簿とやらで安否を確認しなければ納まらない。 相棒が不在ならば、あの老人の甘言に乗ってやるのも構わない。あの老人が『ボス』だろうがそれとも代理の一幹部だろうが、試されているのなら力でねじ伏せて示すだけ。 万が一どこかにいるのならば、一刻も早い合流を。頭の切れる彼ならば易々と死にはしないと信じているが、理不尽な暴力の横行するこのゲームで彼の非力さは格好の的だろう。 ――情報が、必要だ。 しかし、殺戮の現場となったそこらを歩き回ってみても人の姿は見かけなかった。あるいは、スクアーロ自身に運がなかったのかもしれない。 いつ何時、誰から襲われるかもわからないこの状況で、身を守ることを優先するのは必須事項だった。ゆえに、スクアーロは『川』を選択した。 あの通りにあった水たまりは局地的な雨がもたらしたもののようで、散策するにつれて地面は乾いたものになっていた。 しかし、川であれば話は違う。地図に記されているとおりなら、川にさえ沿って動いていればある程度のアドバンテージを持てることに違いは無い。 それゆえの『川』――しかし、その選択が間違いだったのか。スクアーロは疲れたように息を吐く。ひとりきりの放浪とは、こんなにも遣る瀬ない疲労を伴うものだったのか。 (孤独、か……) ひとつきりの足音にすら気が滅入る。化け物に打ちすえられた体が鈍痛を訴える。誰でもいい、何でもいい。この無限にも思える錯覚の孤独から救い出して欲しい。 そんなとき、遠くに何か重い音が聞こえてきた。何かを打ち合うような金属の音。重低音の怒号のような音。 スクアーロは疲労に鈍る足を急がせて、音の震源地に向かった。何がおこっているのかを確認できるだけで上等だった。 そして辿り着いた対岸、周辺に待ち伏せなどの気配がないことを確認してから、スクアーロはおもむろにクラッシュを発現させた。 ◆ その死体を見つけたのは、全くの偶然だった。 夜闇に加えてうすら濁った水底は、ぱっと見て何が沈んでいるのかもよくわからない。石かもしれないし、単なる水草の影かもしれない。 スクアーロはまず『音』の正体を確認しに行った。少々距離はあったが、遠目に確認できるくらいには近寄れた。 クラッシュを水面に浮かばせて打ち合う重低音の元を探して見れば、開けた場所で大柄な影がふたつ、すさまじいスピードで打ち合っているのが見て取れた。何やら怒鳴り合っているのは聞こえたが、内容までは聞き取れない。 相棒でないなら別にどうでもいいと、クラッシュを沈ませて戻そうとした矢先。流れが妙に淀んでいる水流を発見した。濁った水に微かに混じる血の気配に、スクアーロは瞬間的に身構えつつ慎重にクラッシュを進ませた。 ――死体か? 死体それ自体には別段なんの感慨も沸かないが、それが相棒でないかどうかは別問題だった。自然と湧きあがる最悪の妄想を振り払いつつ、スクアーロはじっくりとその死体を検分し始めた。 体の前面から沈んでいるせいで顔までは覗けない。熟れきって弾けた果実のようにぱっくりと割れた中身すら覗く後頭部は、加減をしらない子供がオモチャを叩きつけて壊したような有様にも見える。 ――良かった、ティッツァじゃあねえ。 服装といい、髪色といい、この死体は単なる他人だ。沈んだ死体が相棒ではなかったことに安堵し、他に何も無いか確認のためにクラッシュを一回りさせたときだった。 ――あぁ、なんだありゃあ? 死体の傍というには少々離れたところに、一本の刀が沈んでいる。この死体の所有物だったものか、それとも殺害と共に証拠隠滅とばかりに投げ捨てられたものか。 夜闇に加えてうすら濁った水底においても輝きを失わない見事な抜き身が、妖しくギラついているようだった。 少し迷って、あるものは貰っておくかという結論に達する。スタンド能力一本で、何が待ち受けるかもわからないこの先を渡りきれるはずもない。 そう、スクアーロは武装という意味においては丸腰だった。だいたいにおいて、スクアーロのランダム支給品とやらはハズレの部類だったのだ。 限定的とはいえ、攻撃にも索敵にも幅広く応用の効く能力を保持していたからいいようなものの、自身のデイパックから出てきたのは最低限の備品を除けば『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』と『英単語カードのコーンフレーク』だけ。 川縁でデイパックを改めた際、メモかなにかかと思って開いた紙の中からそれらの料理が出てきたとき、スクアーロは場違いな悪寒に総毛立った。 温かな湯気と丁寧に整えられた見た目から滲む、異常な妄執みたいなものがひたすら気色悪かった。出したその場に放置して、逃げるように去ったものだ。 護身のための武器として、刀は甚だ時代錯誤の感が拭えないが、それでも無いよりマシだろう。 そうして、クラッシュで刀剣を拾い上げた直後だった。 ――た、助かったァァァァァァァァァァァァ!! 大音量で聞こえた声に、スクアーロは焦って周囲を見渡した。だが、辺りの闇には何かがいるような気配はなく、ただただ声だけが響いている。 ――オイ、早く俺を引き上げてくれェーッ! こいつは一体、何を言っているのか。察しのつかないスクアーロが尚も辺りを見回していると、焦れたように口早に声が響き渡った。 ――お前だお前、『鮫』の本体ッ! 水ン中じゃあ錆びちまうよォー! そうして、ようやくその声が己自身にしか聞こえていない――正しく言うなら、音にすらなっていない――ということに、スクアーロは気がついた。クラッシュが咥えていた『刀』を放すと、途端にその声は聞こえなくなったからだ。 「い、一体何だってんだ……?」 待てど暮らせど、あれほど喧しかった声は聞こえない。おそるおそる、もう一度クラッシュにその刀を拾わせる。すると、今度は泣き声のような哀れがかった声が響き渡った。 ――た、頼むよォーッ 拾い上げてくれェーッ! もう水の中はコリゴリなんだあッ! どうやら、この奇妙な声はこの刀から発せられているらしい。ますますスクアーロの知識と理解から遠のいているが、実際起こっているからには現実を受け入れる他ない。 それに、武器らしい武器は手に入れたい。若干悩んだスクアーロだが、結論は変わらなかった。 そして鮫と刀の奇妙な物語が始まる。 &color(skyblue){【アヌビス神 復帰】} 【C-4 ティベレ川河岸・1日目 黎明】 【スクアーロ】 [スタンド]:『クラッシュ』 [時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前 [状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、かすり傷、混乱(小) [装備]:アヌビス神 [道具]:[[基本支給品]]一式 [思考・状況] 基本行動方針:[[ティッツァーノ]]と合流、いなければゲームに乗ってもいい 1:まずはティッツァーノと合流。 2:この喋る刀は一体なんなんだ? [備考] ※スクアーロの移動経路はA-2~A-3へ進んだのち、川に沿って動いています ※川沿いのどこかに、支給品である料理が放置されています [[支給品情報]] 『アスパラガスに英語辞書を巻いたもの』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。見た目はアレだが味は美味しい……かもしれない。 『英単語カードのコーンフレーク』……4部で康一に出された由花子の愛情料理。そもそも単語カードは『コーン』ではないという突っ込みは野暮だろうか。 *投下順で読む [[前へ>手――(ザ・ハンド)]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>Isn't She Lovely]] *時系列順で読む [[前へ>手――(ザ・ハンド)]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>幕張]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |043:[[デッドマン・ウォーキング]]|[[スクアーロ]]|074:[[どうぶつ奇想天外ッ!]]|

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