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この間、久しぶりに街で“ヤキドゲザ”やってるとこを見かけてね。 二十歳かそこらのカップルかな。男の方が土下座してて――すごいんだよ。強制装置は使ったものの一発でやり通したんだよその人。で、その後割と平然としてんの。 もう開いた口が塞がらなくて。ゴタゴタが終わってからフツーに女の子と帰ろうとしたから思わず声掛けちゃったのさ。 「なんで貴方は火傷を負いながらそんな平然としてられるんですか」って。 そしたら彼はなんて言ったと思う? 「たとえ火の中水の中、ってやつですよ。確固たる覚悟があればどんな物事でも受け入れられます」って言ったんだよ。 いや、スゴい……っていうか素晴らしい事だと思うよ。 でも今時いないっしょ、そんな人。絶滅危惧種って言うのかね?とにかく、その人の覚悟は半端なかったってこと。 じゃあ、今度はこの話に絡めて『覚悟』を持った参加者の話をしようか。 場所はE-7にあるレストラン、ジョニーズ。 登場人物は最強のスタンド使いと何も知らない家庭の主婦。 まずは、主婦の目に映る“青い大男”についての説明からだ―― ●●● ――空条さん、遅いわね……こっちは聞きたいこと、山ほどあるのに。   お母さんを亡くしたって言うのも分かるけど、私だって夫を…… 俺のお袋の話は、もういい……待たせてしまってすまない。スプーンを二本持ってきた。これを使ってまず“大男”の説明をさせてもらおう。 これから“スプーン曲げ”をやってみせる。それがどう見えたか、俺に聞かせてほしい。 まず一本目から……どうだ?どう見えた? ――えっ……と。貴方の手が二重にぶれて、さっきの大男?の指が見えたわ。それで、その指がスプーンを思いきり押して。 ふむ。では次だ。これも曲げるぞ、『スタープラチナ・ザ・ワールド』……今度はどう見えた? ――うーん、正直に言わせてもらうと良く分からないわ。   ありのまま今私が見たことを話すと、あなたがプラチナとかワールドとか言ったと思ったら、いつの間にかスプーンがポッキリ折れていた。 なるほど――では、改めて説明しよう。 今、俺が見せたのはいわゆる超能力とか手品とかいった類だが、それを実際にやっていたのはコイツだ。 守護霊と言えば分かりやすいだろう。これを、ユウレイのハモンと書いて『幽波紋(スタンド)』という。 先にやった方はスタンドを持っているもの、スタンド使いなら大概は出来る。スタンドの指でもって曲げてるだけだからな。 問題は二番目の方だ。こっちは俺じゃあなければできない。つまり、一人に一つ、他人とは違う力……特殊能力があると言う事だ。 その『俺にしかない能力』の名をスタープラチナ・ザ・ワールドという。 ――うーん、じゃあなんで私にもその……スターさん?が見えたの?私もスタンド使いっていうものなの?知らないわよ、私そんなの。 そこんところだが、正直言って俺にも分からん。 普通スタンドはスタンド使いにしか見えず、またスタンドはスタンドでしか触れない。そういうルールだ。例えばスタンドに向けて銃を撃っても当たらない。 だが、貴方の目にスタンドが見えているとなれば、あの主催のジジイが俺たちに何らかの細工をして、通常の人間にもスタンドを見えるようにしたんだと考えられる。 このクソッタレゲームを円滑に進めさせるためにな。 ――そうね……そして、まぁまぁ分かったわ。というより見せられたら信じるほかないし。   それで、それが私の夫とどう関係しているの? わかった。長くなるが全てを話そう。動揺の言葉や感想は最後にまとめて聞かせてもらうから、とりあえず最後までこちらから話させてくれ。 ……最初に『結論』から話そうか。単刀直入に言う。貴方の夫、川尻浩作は×月○日に死亡している。 彼を殺した犯人の名は『吉良吉影』。こいつもスタンド使いだがその能力は後にしよう。 そいつは殺人を犯さずにはいられない、根っからの殺人鬼だ。杜王町の人間で俺の……知り合いがそいつに殺されたので、それを追っていた。 結果、そいつを一度は追い詰めるものの、奴は他人の指紋と顔を手に入れる事で俺たちから逃げ伸びた。その『他人』こそ貴方の夫だった、という事だ。 何故彼が選ばれてしまったかという理由は……『背格好が同じくらいだったから』といったもんだろう。奴にとってはその程度でしかなかったんだ。 ここで奴の能力について話しておく。顔を変えたのは吉良のスタンドじゃあない。 エステのシンデレラという店があっただろう。奴はあそこのオーナー、辻彩のスタンドを、彼女もスタンド使いだったんだが……利用して顔を変えた。 奴自身のスタンドの名はキラークイーンと言い、能力は『爆弾』だ。触れたものを爆弾に変え跡形もなく消し去る能力で自分の趣味である殺人を続けていたという訳だ。 それ以降……×月×日まで奴は『川尻浩作』として生活していた。 だが、そこで俺たちが再び奴を追い詰め、結果として……吉良吉影は『事故死』した。何十人と殺しておきながら誰にも裁かれなかったって訳だ。 そして、あなたにこれを言うのは少々気が引けるが、その場には川尻早人もおり、事件に関わっていた。というよりも早人君が犯人を一番最初に発見したと言っても良いだろう。 つまり、さっき見た『川尻浩作』だが、いや……吉良吉影にしてもだ。死んでいるはずなんだ。俺が目の前で見たんだからな。 となると、今この場にいる川尻浩作、もしくは吉良吉影は何者かが彼等の姿を借りているという事だ。変身するのがそいつのスタンド能力だという予想は容易にできる。 だからさっき俺は貴方を『偽物の夫』から引き離した、という訳だ。 これが俺の知っている、杜王町での『川尻浩作』に関する情報だ。もっと知りたいとなれば、まあ主に吉良の方の話になるが、話そう。 ●●● いえ……いいわ。要するに私は、少しの間とはいえ元の夫が死んでいたことにも気付かず、殺人鬼と一緒に生活してたって事よね。 ――ああ……奴は自分の尻尾を他人に掴ませるような事はしないが、何か急に変った事はあったか? え、ええ。さっき話した喫煙癖の話もそうだけど。そう、×月○日って言ったわね……その日かどうかは定かじゃあないけど、ある日の夜、急に晩ご飯を作ったのよ、彼が。 そう、そう言われてみれば急に彼、変わったわ。髭をそるのも剃刀に変えたし、椎茸も食べてたし…… ――そうだ。完全に他人になる事は出来ない。あなたの息子さんがそういうところに気がついたから、吉良吉影を追い詰められたんだ。 で、でも……こう、変に思わないで聞いてください。 私は、その殺人鬼である男に、惚れてしまったんです。その、急に変わって見えてから。 特にそう思うようになったきっかけは、家賃の事で文句言ってきた大家を騙したある朝のことでした。 普通はそう言う騙すとか泥棒とか、軽蔑されるような事だけれど。それをやってのけたのよ、何食わぬ顔で。 それで、今まで黙って何もしないだけの夫がそう言う大胆な事をする、それに対して『なんてロマンチックなの』と思ってしまったんです。 それ以降、どんどん彼に惹かれていったんです。それが本当の夫の姿だと思い込んで…… ――そうだったのか。だが吉良は犯行も単独で仲間や友人など作らず、家庭を持つなど想像できないような人間だった。   もっとも、貴方はそのような事を知らなかったんだ。一般的にみれば夫に惚れ直した、ってところだな……。 はい……あっでも、彼、と言っていいんでしょうか。その吉良、さん……が私のことを心配してくれたことがあったんです。 ある日、私が庭で急に失神してしまったことがあるんです。何かの『植物』を見たとたん…… それで、その時にあの人は会社を遅刻してまで私を介抱してくれて。サボテンのとげが目に刺さらなくて良かっただなんて言ってくれたんです。 ――意外だな。それを機に改心するなんて人間でないのは知っているが…… ええ。だから、私は……彼に会ってみたいと思います。もちろん、夫にも早人にも会いたいけど。その吉良さんにも会ってみたい。 そして聞きたい。『私はあなたが殺人鬼だと聞いたけど、何故あの時に私のことを心配してくれたの』と。 ――言わなかったか?吉良にせよ貴方の夫にせよ、俺の知る限り、いや誰に聞いたって死んでいるんだ。 で……でも、貴方は生きているじゃない! 最初に……浩作さんを見て動揺してたけど、それでも見たわよ、貴方最初にあのお爺さんのせいで……死んじゃったじゃないッ! 死んだ人を生き返らせる……そう言うスタンドがいてもちっとも不思議じゃないわ!だって私から見たらそう言うモノ全部が不思議なんだからッ! 聞いた瞬間に殺されちゃうかも知れないけどッ!そこんとこハッキリさせとかなきゃ私だってどんな顔して夫に会えばいいか分からないじゃないッ! もしもこの場所に早人がいて、危険な目に遭ってるかも知れないってなったら、誰が守るのよ!母親である私が覚悟決めて守らなきゃいけないじゃないッ! ●●● 承太郎が返答を渋る。しのぶはそれを見て今にも彼の襟首に掴みかかりそうだ。 しかし、その緊張感は会話とは全く別の要因で解かれることとなる。 ズゥン…… 一瞬地震かと間違えるほどの大きな音。それがそう遠くではない場所から聞こえてきた。あるいは距離があってもなお聞こえるほどの大きな何かだが…… しのぶはヒッと息をもらし周囲を見回す。まるで落ち着きのない小動物のようだ。 「店の外に出て様子を見てくる。近くじゃあなければこの場でやり過ごそう。机の下にでも潜っていてくれ」 承太郎はそう言い残し、警戒しながら店を出た。 「アレは……」 スタンドの脚力でもって大きく跳躍し店の看板の上に立った承太郎。音の発生源はスタンドを使わなくても発見できた。 路上に巨大なコンテナが出現したのだ。それは決して『生えてきた』訳ではない。上から『降ってきた』のだ。アスファルトのヒビと歪みがそれを証明している。 かつてロードローラーを落っことされた事はあったが、それの応用をこの地で何者かがやったという事なのか。 承太郎の疑問が解決される前に、その場に新たな情報が生まれる。 「アレは……?」 コンテナがブルブルと振動し始め、そこから一人の男が抜け出してきたのだ。 タイミング良くコンテナの底に穴でもあけたのか、防御力に優れたスタンドなのか、はたまた不死の能力を持つDIOのような体質の持ち主なのか…… スタープラチナの目を凝らして見てみると、当の本人も自分の置かれた状況が理解できていないようである。己の身体をキョロキョロと見まわし、スタンドを発現させている。 そのスタンドが黙っているのを眺める本体。奇妙な構図ではあるが、承太郎にはそれをのんびり眺めている暇はなくなっていた。 「アレは……!」 丁度そのスタンド使いからコンテナを挟んで向かい側、距離は相当あるものの、その顔には見覚えがある。 川尻早人。 殺人鬼・吉良吉影を追い詰めた張本人であり、現在自分が保護している川尻しのぶの実の息子、その早人ではないか。 女子高生と思しき少女と二言三言会話をして背を向けたところを後ろから抱きかかえられている。 承太郎の視線が固まる。最初の会場で娘を見たときのように、あるいは浩作を見たと言うしのぶのように。 これを素直に全てしのぶに話すべきなのか。『母』を危険な場所に連れて行って良いものなのか。 看板から飛び降りた承太郎が押す店のドアはやけに重く感じられた。 ●●● ふう……いったんここらで話を区切ろうか。 家族に、そして吉良吉影に会いたいというしのぶの覚悟。 これからどうしのぶに話すべきかを考える承太郎の覚悟。 決してどっちが『正しい』とか『間違い』とかいう話じゃあない。 ただ、こういう時に状況がどちらに傾くかって言うのを決めるのは、持ってる覚悟の大きささ。それが大きい方に傾くのさ。 これは正義とか意思がぶつかりあった時にも同じこと、言えるんじゃあないかな。ま、それはその時に話そう。 あ~でも、意思が『黄金』で殺意が『漆黒』だと覚悟は何色になるのかなあ? 金色だと意思と被るし、純白だと語呂が悪いし……え?なに『真っ赤な覚悟』?それは『誓い』の間違いじゃあないか?うーん…… 【E-7 北部 レストラン・ジョニーズ一日目 黎明】 【空条承太郎】 [時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。 [スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』 [状態]:健康、精神疲労(小) [装備]:煙草&ライター@現地調達 [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護 1.今見たものをしのぶにどう伝えるべきか…… 2.あの場所(コンテナ周辺)に行くべきか行かざるべきかの検討 3.川尻浩作の偽物を警戒。 3.お袋――すまねえ…… 4.空条承太郎は砕けない――今はまだ 【川尻しのぶ】 [時間軸]:四部ラストから半年程度。The Book開始前 [スタンド]:なし [状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、若干興奮気味 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本行動方針:家族に会いたい。吉良吉影に会って、話をしたい 1.何なの今の音!?承太郎さん早く戻ってきて! 2.この川尻しのぶには『覚悟』があるッ! 3.か、勘違いしないでよ、ときめいてなんていないんだからねッ! 【備考】 スタンドという概念を知りました。 吉良吉影の事件について、自分の周りの事に関して知りました(例えば他の『吉良吉廣』のことや『じゃんけん小僧』等の事件はまだ知りません) 承太郎以外のスタンドについては聞いていません。 ※レストラン・ジョニーズが本来の場所に建っているかどうかは不明です(原作中では玉美のレシートしか出てきていないはずです) *投下順で読む [[前へ>褐色の不気味男事件の巻]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>人生を賭けるに値するのは]] *時系列順で読む [[前へ>褐色の不気味男事件の巻]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>人生を賭けるに値するのは]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |058:[[Via Dolorosa]]|[[川尻しのぶ]]|086:[[愛してる ――(I still......) 前編]]| |030:[[Via Dolorosa]]|[[空条承太郎]]|086:[[愛してる ――(I still......) 前編]]|
この間、久しぶりに街で“ヤキドゲザ”やってるとこを見かけてね。 二十歳かそこらのカップルかな。男の方が土下座してて――すごいんだよ。強制装置は使ったものの一発でやり通したんだよその人。で、その後割と平然としてんの。 もう開いた口が塞がらなくて。ゴタゴタが終わってからフツーに女の子と帰ろうとしたから思わず声掛けちゃったのさ。 「なんで貴方は火傷を負いながらそんな平然としてられるんですか」って。 そしたら彼はなんて言ったと思う? 「たとえ火の中水の中、ってやつですよ。確固たる覚悟があればどんな物事でも受け入れられます」って言ったんだよ。 いや、スゴい……っていうか素晴らしい事だと思うよ。 でも今時いないっしょ、そんな人。絶滅危惧種って言うのかね?とにかく、その人の覚悟は半端なかったってこと。 じゃあ、今度はこの話に絡めて『覚悟』を持った参加者の話をしようか。 場所はE-7にあるレストラン、ジョニーズ。 登場人物は最強のスタンド使いと何も知らない家庭の主婦。 まずは、主婦の目に映る“青い大男”についての説明からだ―― ●●● ――空条さん、遅いわね……こっちは聞きたいこと、山ほどあるのに。   お母さんを亡くしたって言うのも分かるけど、私だって夫を…… 俺のお袋の話は、もういい……待たせてしまってすまない。スプーンを二本持ってきた。これを使ってまず“大男”の説明をさせてもらおう。 これから“スプーン曲げ”をやってみせる。それがどう見えたか、俺に聞かせてほしい。 まず一本目から……どうだ?どう見えた? ――えっ……と。貴方の手が二重にぶれて、さっきの大男?の指が見えたわ。それで、その指がスプーンを思いきり押して。 ふむ。では次だ。これも曲げるぞ、『スタープラチナ・ザ・ワールド』……今度はどう見えた? ――うーん、正直に言わせてもらうと良く分からないわ。   ありのまま今私が見たことを話すと、あなたがプラチナとかワールドとか言ったと思ったら、いつの間にかスプーンがポッキリ折れていた。 なるほど――では、改めて説明しよう。 今、俺が見せたのはいわゆる超能力とか手品とかいった類だが、それを実際にやっていたのはコイツだ。 守護霊と言えば分かりやすいだろう。これを、ユウレイのハモンと書いて『幽波紋(スタンド)』という。 先にやった方はスタンドを持っているもの、スタンド使いなら大概は出来る。スタンドの指でもって曲げてるだけだからな。 問題は二番目の方だ。こっちは俺じゃあなければできない。つまり、一人に一つ、他人とは違う力……特殊能力があると言う事だ。 その『俺にしかない能力』の名をスタープラチナ・ザ・ワールドという。 ――うーん、じゃあなんで私にもその……スターさん?が見えたの?私もスタンド使いっていうものなの?知らないわよ、私そんなの。 そこんところだが、正直言って俺にも分からん。 普通スタンドはスタンド使いにしか見えず、またスタンドはスタンドでしか触れない。そういうルールだ。例えばスタンドに向けて銃を撃っても当たらない。 だが、貴方の目にスタンドが見えているとなれば、あの主催のジジイが俺たちに何らかの細工をして、通常の人間にもスタンドを見えるようにしたんだと考えられる。 このクソッタレゲームを円滑に進めさせるためにな。 ――そうね……そして、まぁまぁ分かったわ。というより見せられたら信じるほかないし。   それで、それが私の夫とどう関係しているの? わかった。長くなるが全てを話そう。動揺の言葉や感想は最後にまとめて聞かせてもらうから、とりあえず最後までこちらから話させてくれ。 ……最初に『結論』から話そうか。単刀直入に言う。貴方の夫、[[川尻浩作]]は×月○日に死亡している。 彼を殺した犯人の名は『[[吉良吉影]]』。こいつもスタンド使いだがその能力は後にしよう。 そいつは殺人を犯さずにはいられない、根っからの殺人鬼だ。杜王町の人間で俺の……知り合いがそいつに殺されたので、それを追っていた。 結果、そいつを一度は追い詰めるものの、奴は他人の指紋と顔を手に入れる事で俺たちから逃げ伸びた。その『他人』こそ貴方の夫だった、という事だ。 何故彼が選ばれてしまったかという理由は……『背格好が同じくらいだったから』といったもんだろう。奴にとってはその程度でしかなかったんだ。 ここで奴の能力について話しておく。顔を変えたのは吉良のスタンドじゃあない。 エステのシンデレラという店があっただろう。奴はあそこのオーナー、辻彩のスタンドを、彼女もスタンド使いだったんだが……利用して顔を変えた。 奴自身のスタンドの名はキラークイーンと言い、能力は『爆弾』だ。触れたものを爆弾に変え跡形もなく消し去る能力で自分の趣味である殺人を続けていたという訳だ。 それ以降……×月×日まで奴は『川尻浩作』として生活していた。 だが、そこで俺たちが再び奴を追い詰め、結果として……吉良吉影は『事故死』した。何十人と殺しておきながら誰にも裁かれなかったって訳だ。 そして、あなたにこれを言うのは少々気が引けるが、その場には[[川尻早人]]もおり、事件に関わっていた。というよりも早人君が犯人を一番最初に発見したと言っても良いだろう。 つまり、さっき見た『川尻浩作』だが、いや……吉良吉影にしてもだ。死んでいるはずなんだ。俺が目の前で見たんだからな。 となると、今この場にいる川尻浩作、もしくは吉良吉影は何者かが彼等の姿を借りているという事だ。変身するのがそいつのスタンド能力だという予想は容易にできる。 だからさっき俺は貴方を『偽物の夫』から引き離した、という訳だ。 これが俺の知っている、杜王町での『川尻浩作』に関する情報だ。もっと知りたいとなれば、まあ主に吉良の方の話になるが、話そう。 ●●● いえ……いいわ。要するに私は、少しの間とはいえ元の夫が死んでいたことにも気付かず、殺人鬼と一緒に生活してたって事よね。 ――ああ……奴は自分の尻尾を他人に掴ませるような事はしないが、何か急に変った事はあったか? え、ええ。さっき話した喫煙癖の話もそうだけど。そう、×月○日って言ったわね……その日かどうかは定かじゃあないけど、ある日の夜、急に晩ご飯を作ったのよ、彼が。 そう、そう言われてみれば急に彼、変わったわ。髭をそるのも剃刀に変えたし、椎茸も食べてたし…… ――そうだ。完全に他人になる事は出来ない。あなたの息子さんがそういうところに気がついたから、吉良吉影を追い詰められたんだ。 で、でも……こう、変に思わないで聞いてください。 私は、その殺人鬼である男に、惚れてしまったんです。その、急に変わって見えてから。 特にそう思うようになったきっかけは、家賃の事で文句言ってきた大家を騙したある朝のことでした。 普通はそう言う騙すとか泥棒とか、軽蔑されるような事だけれど。それをやってのけたのよ、何食わぬ顔で。 それで、今まで黙って何もしないだけの夫がそう言う大胆な事をする、それに対して『なんてロマンチックなの』と思ってしまったんです。 それ以降、どんどん彼に惹かれていったんです。それが本当の夫の姿だと思い込んで…… ――そうだったのか。だが吉良は犯行も単独で仲間や友人など作らず、家庭を持つなど想像できないような人間だった。   もっとも、貴方はそのような事を知らなかったんだ。一般的にみれば夫に惚れ直した、ってところだな……。 はい……あっでも、彼、と言っていいんでしょうか。その吉良、さん……が私のことを心配してくれたことがあったんです。 ある日、私が庭で急に失神してしまったことがあるんです。何かの『植物』を見たとたん…… それで、その時にあの人は会社を遅刻してまで私を介抱してくれて。サボテンのとげが目に刺さらなくて良かっただなんて言ってくれたんです。 ――意外だな。それを機に改心するなんて人間でないのは知っているが…… ええ。だから、私は……彼に会ってみたいと思います。もちろん、夫にも早人にも会いたいけど。その吉良さんにも会ってみたい。 そして聞きたい。『私はあなたが殺人鬼だと聞いたけど、何故あの時に私のことを心配してくれたの』と。 ――言わなかったか?吉良にせよ貴方の夫にせよ、俺の知る限り、いや誰に聞いたって死んでいるんだ。 で……でも、貴方は生きているじゃない! 最初に……浩作さんを見て動揺してたけど、それでも見たわよ、貴方最初にあのお爺さんのせいで……死んじゃったじゃないッ! 死んだ人を生き返らせる……そう言うスタンドがいてもちっとも不思議じゃないわ!だって私から見たらそう言うモノ全部が不思議なんだからッ! 聞いた瞬間に殺されちゃうかも知れないけどッ!そこんとこハッキリさせとかなきゃ私だってどんな顔して夫に会えばいいか分からないじゃないッ! もしもこの場所に早人がいて、危険な目に遭ってるかも知れないってなったら、誰が守るのよ!母親である私が覚悟決めて守らなきゃいけないじゃないッ! ●●● 承太郎が返答を渋る。しのぶはそれを見て今にも彼の襟首に掴みかかりそうだ。 しかし、その緊張感は会話とは全く別の要因で解かれることとなる。 ズゥン…… 一瞬地震かと間違えるほどの大きな音。それがそう遠くではない場所から聞こえてきた。あるいは距離があってもなお聞こえるほどの大きな何かだが…… しのぶはヒッと息をもらし周囲を見回す。まるで落ち着きのない小動物のようだ。 「店の外に出て様子を見てくる。近くじゃあなければこの場でやり過ごそう。机の下にでも潜っていてくれ」 承太郎はそう言い残し、警戒しながら店を出た。 「アレは……」 スタンドの脚力でもって大きく跳躍し店の看板の上に立った承太郎。音の発生源はスタンドを使わなくても発見できた。 路上に巨大なコンテナが出現したのだ。それは決して『生えてきた』訳ではない。上から『降ってきた』のだ。アスファルトのヒビと歪みがそれを証明している。 かつてロードローラーを落っことされた事はあったが、それの応用をこの地で何者かがやったという事なのか。 承太郎の疑問が解決される前に、その場に新たな情報が生まれる。 「アレは……?」 コンテナがブルブルと振動し始め、そこから一人の男が抜け出してきたのだ。 タイミング良くコンテナの底に穴でもあけたのか、防御力に優れたスタンドなのか、はたまた不死の能力を持つDIOのような体質の持ち主なのか…… スタープラチナの目を凝らして見てみると、当の本人も自分の置かれた状況が理解できていないようである。己の身体をキョロキョロと見まわし、スタンドを発現させている。 そのスタンドが黙っているのを眺める本体。奇妙な構図ではあるが、承太郎にはそれをのんびり眺めている暇はなくなっていた。 「アレは……!」 丁度そのスタンド使いからコンテナを挟んで向かい側、距離は相当あるものの、その顔には見覚えがある。 川尻早人。 殺人鬼・吉良吉影を追い詰めた張本人であり、現在自分が保護している[[川尻しのぶ]]の実の息子、その早人ではないか。 女子高生と思しき少女と二言三言会話をして背を向けたところを後ろから抱きかかえられている。 承太郎の視線が固まる。最初の会場で娘を見たときのように、あるいは浩作を見たと言うしのぶのように。 これを素直に全てしのぶに話すべきなのか。『母』を危険な場所に連れて行って良いものなのか。 看板から飛び降りた承太郎が押す店のドアはやけに重く感じられた。 ●●● ふう……いったんここらで話を区切ろうか。 家族に、そして吉良吉影に会いたいというしのぶの覚悟。 これからどうしのぶに話すべきかを考える承太郎の覚悟。 決してどっちが『正しい』とか『間違い』とかいう話じゃあない。 ただ、こういう時に状況がどちらに傾くかって言うのを決めるのは、持ってる覚悟の大きささ。それが大きい方に傾くのさ。 これは正義とか意思がぶつかりあった時にも同じこと、言えるんじゃあないかな。ま、それはその時に話そう。 あ~でも、意思が『黄金』で殺意が『漆黒』だと覚悟は何色になるのかなあ? 金色だと意思と被るし、純白だと語呂が悪いし……え?なに『真っ赤な覚悟』?それは『誓い』の間違いじゃあないか?うーん…… 【E-7 北部 レストラン・ジョニーズ一日目 黎明】 【[[空条承太郎]]】 [時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。 [スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』 [状態]:健康、精神疲労(小) [装備]:煙草&ライター@現地調達 [道具]:[[基本支給品]]、ランダム支給品1~2(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護 1.今見たものをしのぶにどう伝えるべきか…… 2.あの場所(コンテナ周辺)に行くべきか行かざるべきかの検討 3.川尻浩作の偽物を警戒。 3.お袋――すまねえ…… 4.空条承太郎は砕けない――今はまだ 【川尻しのぶ】 [時間軸]:四部ラストから半年程度。The Book開始前 [スタンド]:なし [状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、若干興奮気味 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(未確認) [思考・状況] 基本行動方針:家族に会いたい。吉良吉影に会って、話をしたい 1.何なの今の音!?承太郎さん早く戻ってきて! 2.この川尻しのぶには『覚悟』があるッ! 3.か、勘違いしないでよ、ときめいてなんていないんだからねッ! 【備考】 スタンドという概念を知りました。 吉良吉影の事件について、自分の周りの事に関して知りました(例えば他の『吉良吉廣』のことや『じゃんけん小僧』等の事件はまだ知りません) 承太郎以外のスタンドについては聞いていません。 ※レストラン・ジョニーズが本来の場所に建っているかどうかは不明です(原作中では玉美のレシートしか出てきていないはずです) *投下順で読む [[前へ>褐色の不気味男事件の巻]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>人生を賭けるに値するのは]] *時系列順で読む [[前へ>褐色の不気味男事件の巻]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>人生を賭けるに値するのは]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |058:[[Via Dolorosa]]|[[川尻しのぶ]]|086:[[愛してる ――(I still......) 前編]]| |030:[[Via Dolorosa]]|[[空条承太郎]]|086:[[愛してる ――(I still......) 前編]]|

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