「トータル・リコール(模造記憶)(下)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

トータル・リコール(模造記憶)(下) - (2013/01/05 (土) 02:03:25) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

  「ディオの部下―――という事か」  ストレイツォは腕を組んだままそう返す。 「確証はねぇが、そうだろうな。  何れにせよ、あのGDS刑務所の奥にDIOのヤローが潜んでいるのは間違いねぇ」  カウボーイハットの伊達男が吐き捨てるようにそう言った。      ストレイツォと吉良が、轟音と上空での光に気づいたのは十数分は前。  直後に教会を出て現場へと向かっていたが、途中で例の『放送』があり、足を止めその内容を聞く。  死者の数。浮かれ騒ぎの様なアナウンスの声。地図を持ってきた鳩。  そして何より、同門であり朋輩である、ダイアーの死を告げる声。  それら全てを、ストレイツォは飲み込んで、足を進めた。     上空の光は、一箇所にとどまっていない。正確な位置を目視で確認するのは至難の業だ。  自覚している以上に、ストレイツォの内心に焦りがある。そのことがさらに迷いを生んでいた。 「…ツォ…ストレイツォ…!」  背後から、吉良の鋭い呼びかけ。  意識を引き戻し、視線を巡らせると、既にGDS刑務所らしき建物のすぐ前に居る。  ストレイツォの目には、一種魔法めいた異国の建物。吉良からすれば、今までいたイタリア風の街並みとは異なる、近代的建築物。  その前にいるのは、時代がかったカウボーイと、その男に抱きかかえられた、怪我人と思しき少女。 「徐倫。なんにせよアイツは、ディオの手下に違いねぇ」  男が少女にそう告げる。 「やつに気づかれているのか、たまたまなのかは分からねぇが、どっちにせよ今は戦える状況じゃねぇからな」  見れば、そのさらに奥には、たった今戦闘したであろう相手が倒れているのが微かに見える。  ふわり、とでも言うかの足取りで、ストレイツォは音もなく歩を詰める。 「その話、詳しく聞かせてもらおう」      そして四人は、再びサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にいる。  厳密にはさらに一人。未だ目を覚ましていない牛柄服の青年(リキエル)もだが、今ここでの会話には関わっていない。  状況は複雑だ。  ストレイツォが理解できたのは、このカウボーイハットの男と、連れの少女は、「ディオから隠れ逃れてきた」こと。  そして逃げる直前、「ディオの部下らしき男に襲われ、危うくもそれを撃退した」こと。  付け加えて、「上空で戦っているであろう轟音と光の反射は、ディオの部下である隼、『ホルス神のペットショップ』によるものだろう」こと。  自分が、「吸血鬼ディオ」と戦うために出向いてきた波紋戦士である、ということを納得してもらうのには少し手間取った。  男は明らかに不信感を持っていたし、同行の少女を守ろうと警戒もした。  ストレイツォの言を背後から吉良が補足してくれたことと、その少女がとりなしたことが功を奏したのかもしれない。  結局男はストレイツォと同行し、そして「まずはここを離れるべき」と主張。ストレイツォの先導で、先程までいた教会に戻ってきている。    少女は激しく疲労していたが、ストレイツォが渡したボトルの水を飲むことで回復しつつあるようだった。  その少女を気遣いながら、カウボーイハットの男、ホル・ホースは言葉を続ける。 「さっきアンタは、『吸血鬼ディオを倒すため、師匠や仲間と、ジョースターたちの手助けに向かっていた』って言ったよなぁ?」  情報、状況を整理しきれずにいるストレイツォに確認を取る。 「―――そうだ。トンペティ師は居ないようだが、さっき響き渡った声や名簿とやらによれば、ウィル・A・ツェッペリとダイアーはこの会場に集められているようだ。そして…奴の言が真実なら、ダイアーは既に死んだ」  冷静に、感情を表さぬよう端的に告げる。 「そりゃご愁傷様。だがアンタ、何て言われてやってきたか知らねぇが、ディオをただの吸血鬼だと思って戦おうってンなら、負けるぜ」 「何?」  僅かに怒気を孕んでしまう。  誇り高き波紋戦士。何より、朋輩ダイアーの死を含めて、「負ける」の一言で済ませられるのは心外だ。 「おっと、波紋がどーの、って事じゃねぇ。ジョースターの爺も波紋使いだってのは知ってる。けど、それだけで勝てる相手じゃねぇから、奴は手助けを必要としてんだろ?」  ジョースターの爺、というのが引っかかったが(ツェペリが新たに弟子にしたジョナサン・ジョースターという人物は20歳そこそこの青年と聞いている)、名簿にはジョースター姓の人間が何人かいた。  どこかで混同しているのかもしれないが、ひとまずはホル・ホースに続きを促す。 「『世界』…。奴は文字通り、『世界を支配するスタンド』をもっている。  スタンド、ってのは、精神のエネルギー。人によって能力は様々だが、ディオのそれは近距離パワー型。単純に、その吸血鬼のパワーを二人分持ってると言って言いだろう。  そして、能力は『不明』…。  超スピードだとかトリックだとか、そんなチャチなもんじゃあねぇ。  少なくとも、その謎を解かない限り、『俺たちに勝ち目は無ェ』」   ストレイツォの知らない、特殊な能力を持っている。しかもそれが何なのかは不明だが、『世界を支配する』とまで言えるものだという。  付け加えれば、二人を襲撃した針の革を着た怪物に、氷の塊を放つ隼。  既に、ディオの部下たちが集結しつつあると考えられる状況……。  しばし、ストレイツォが押し黙る。    話から察するに、このホル・ホースも、ディオと戦ってきた正義の戦士のようだ。  確かに態度には軽薄さが伺えるが、敵の事情にも詳しく、状況判断能力も低くない。それに何より、少女を助けるために自らの命を賭けられる男。ひとまず信頼しても良いだろう。   「…何にせよ、ディオの居場所ははっきりした。  そして、ディオもまた部下を集結させつつあるというなら、我々も仲間を募って立ち向かうしかあるまい。  特に、ツェッペリとジョースター…。それと君の言う、『ジョースター一行』の仲間達か…」  眉根を寄せつつ、ストレイツォがそう宣言する。  不退転。波紋戦士の誇りに賭けて、吸血鬼ディオに対して、「逃げる」「諦める」という選択肢は無い。  その顔に、ホル・ホースがついと顔を寄せ、 「…その件についてなんだが」  小声で話しかけてきた。 「ジョースター一行については全部教える。ほかのディオの部下についても、だ。ただ、もし奴らと出会っても、おれのことはひとまず伏せておいて欲しい」 「何? 何故だ?」 「あいつらとは、ちょっとばかし誤解があってな。  おれは敵だと思われているんだよ。  いいか、こいつは結構複雑な問題だ。よく聞いて、納得してくれ。  おれは一時期、DIOの内情を探るため、奴らの手下に接近していた事がある。  例えば、鏡のスタンドを使うJ・ガイルとかだ。  こいつは殺人鬼のクソ野郎だったが、奴から他のディオの手下やら、奴らの動向やら、いろいろ仕入れられた。  ただ、そのJ・ガイルって奴は、ジョースター一行にいたポルナレフってやつの妹を殺した真犯人だったんだよ。  そこで、J・ガイルと一緒にいたおれは、『ディオの仲間だ』と思われちまった…。  ああ、ポルナレフのやつが悪いわけじゃあねぇ。確かにちとばかし直情的で困ったもんだが、あいつは正義に燃えて、ディオを追っている。アンタなら信頼してもらえるだろう。  けど、その誤解から、おれはジョースター一行とは共同戦線を組めないんだよ。  完全に、仇の仲間だと『誤解』されちまっているからな…」  ホル・ホースの話は、なるほど確かに複雑な状況のようだ。 「ならば、私が間に立って事情を説明すれば…」 「いやいや、無理だ。状況が落ち着けば可能かもしれないが、そこはまず待ってくれ。  もしアンタがおれの名を出せば、その時点で警戒される。  ただでさえこんな状況なんだ。誤解の種をわざわざ振りまく必要も無いだろう?」  確かに、そうかもしれない。  しかし何も話さずに同行して、後で知られた場合も厄介なことにはなりそうだが…いずれにせよ、込み入った話ではある。 「とりあえず、了承した。実際にどうなるかは保証できないが…」  結局ストレイツォとしてはそう答えるしかない。    簡単な情報交換と休息。  しかしその間にも状況は変化している。  外の様子を伺っていた吉良が戻ってきて、「やはり見失った」と告げる。  これは、最初にストレイツォたちが目標としていた、上空での轟音と光の反射の主、ホル・ホース曰く『ホルス神のペット・ショップ』の事だ。  吉良も、狭い入口から外を探っていただけだった以上、上空すべてを監視できていたわけではない。  もとより、双方移動しながらの事だった上、間に放送などがあった以上、見失ったとしても致し方ない。  いったい誰が、ディオの部下と戦っていたのか。  気になるといえば気になるが、もはやどうもできない。 「それで、ストレイツォ」  ぐ、っと、今度は吉良が顔を寄せ話しかけてくる。 「あいつらとはどういう話になった?」 「とりあえず同行はしない。あの少女の休息時間をもっと取りたいようだし、ホル・ホースは戦士だ。自分たちの身は自分たちで面倒見れる、と。  名簿にメモをしたが、彼の知っているディオの手下と、ジョースターの仲間たちの名は聞き出せた。  できれば、彼らを探し出し、戦力を増やしてディオに挑みたいのだが…」  視線が絡み合う。  吉良はしばし思案した様子で、しかし続けてこう言った。 「徐倫…」  不意に出たその単語に、ストレイツォは少し戸惑う。 「ストレイツォ。放送を聞いたとき、それをメモしたのは私だ。そして自慢じゃあないが、私は結構記憶力は良い方だ。  最初、あの男は、同行している少女を、『徐倫』と呼んだ。  名簿にある名前でそれと似た名前は、『空条徐倫』ただ一つだ。  少し似た響きでアイリンという名もあるが、まあそっちでは無いだろう」  ゆっくりと、確認するように、言葉をつなぐ。 「そして、『空条徐倫』…あと、『アイリン・ラポーナ』は、ともに死亡したと告げられていた…」 「!?」  ストレイツォの顔がこわばる。 「彼らは…放送を確認していない、と言っていた……。  ディオから逃げるのに必死で、その時間が取れなかった………とも」  そのため、吉良がメモしていた名簿と地図の印を、ホル・ホースに渡して写させている最中だ。  76人という膨大な人数の死者数だけに、写しを取るだけでも一苦労である。      ストレイツォが呼吸を整え、両足から床に微弱な波紋を流す。  波紋は、生命のエネルギー。屍生人や吸血鬼にとっては破壊をもたらすもの。  しかし、床を伝って届いた微かな波紋が、壁際に座り込んでいる少女に、ダメージを与えた気配はない。  もとより、彼女は刑務所の前からここまで、朝日を全身に浴びてやってきているのだ。屍生人であるハズは…無いのだ。 「名前を騙っているのか…、そもそも名簿や放送が誤り、嘘なのか…、或いは………」  吉良の言葉がストレイツォの中に浸透していく。 「死から蘇る…又は、死んでいないのにかかわらず、主催者側に死んだと思わせる何らかの手段があるのか………」 「何者だ…」  ストレイツォは吉良以上に混乱する。 「彼女の中は『生命のエネルギー』に満ちている…。  しかし、その肉体は『死んでいる』………」  波紋の伝わり方、その流れからストレイツォが感じ取った結論は、彼女が屍生人であるというものよりも、奇っ怪で悩ましい、理解を超えたものであった。      ☆ ☆ ☆  ポルナレフ、アレッシー、エンヤ婆……。  ジョースター一行も、ディオの手下も、この膨大な76人もの死者の中に名が上がっている。  アレッシーはたしか再起不能になったはず、とか、エンヤ婆はあの後ジョースター達に捕らえられたため、別の刺客に粛清されたと聞いているが…等など、気がかりになる事はいくつもある。  いくつもあるが、問題はそれじゃあない。  空条承太郎が最初に殺され、そしてポルナレフまで死んだとなれば、花京院、アヴドゥル、そして老いぼれのジョセフ…と、残りのジョースター一行は、DIOに対抗できるとはとても思えない面子だ。  もとより、ホル・ホースは、ストレイツォと『仲間』になって、『ともにDIOに立ち向かおう』などとは、さらさら考えていない。  むしろ、DIOの対処を奴らに押し付けて、できるだけ離れていようと、そう考えている。 (もちろん、彼らが『運良く』DIOを倒してくれれば、『儲けもの』ではある、が)  そのためにも、情報が必要だ。  DIOの手下がどれだけいて、DIOに立ち向かおうという人間がどれだけいるのか。  それを把握するためにも、聞き逃した放送の情報をストレイツォから引き出したのだが…。   「放送で読み上げられた死者」としてチェックの入っている名。 『空条徐倫』。  どういう事だ…?  ホル・ホースは、傍らで座り、壁にもたれ掛かって、何事かを思案しているのか、或いはただ休んでいるのか分からぬ少女を見る。  先ほどの感情の爆発から一転、それまで以上に空虚な表情である。  空条徐倫。曰く、空条承太郎の娘。曰く、GDS刑務所の収監者。 『糸』のスタンドを使い、先ほど殺された野球帽の少年の友人。  どろどろに意識と肉体を『溶かす』スタンドによって死に瀕している父、承太郎を助けること。  エルメェス・コステロ。ナルシソ・アナスイ。ウェザー・リポート。F・F…。  F・F…?  再び、名簿を開いて名前を探す。  ある。『F・F』の名は、名簿にある。  エルメェス、アナスイ、ウェザー、エンポリオ等もある。  話半分、ハナから与太話と思っていたのは確か。  彼女は空条承太郎の縁者か何かかもしれないが、娘などということは有り得ない。  彼女の語っていた承太郎は、明らかに自分より年上だ。  人となり風貌などは似ているが、実在したとしても別人だといえる。  別人?  再び名簿に目を向ける。  参加者の中に、やはり『空条承太郎』の名がある。  しかし、そこには「放送で読み上げられた死者」として、チェックが入れられていない。  ストレイツォが記入し漏らしたのか? いや、最初の段階の死者はそもそも放送では読み上げていなかったのか?  しかし、読み上げなかったのであれば、なぜ名簿に名前があるのか?  ホル・ホースの頭がフル回転で状況を整理する。    ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎は、最初の会場で殺されている。  しかし名簿によれば、空条承太郎はまだ生きてこの奇妙な街のどこかにいる。  それがもし正しいとすれば―――この会場にいる空条承太郎こそ、ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎とは別人で同姓同名の、空条徐倫の父親なのではないか―――?    待て。待った。違う、そこじゃない。そこが問題なんじゃあ無い。    再びホル・ホースがかぶりを振る。    問題は、放送で『空条徐倫』が『死んだ』とされたのは本当なのか。  本当だとしたらなぜ、今生きているはずの徐倫が死者として名を告げられたのか。  そして―――。 『F・F・F(フリーダム・フー・ファイターズ)…』  あの針の化物が襲いかかってきた時に徐倫が呟いた、この言葉―――。   (徐倫―――…、一体お前は…?)    視界の中、『糸』が、ホル・ホースに向かって放たれた。   「うおぉああぁあっ!!??」    背後を見やる。  そこには、『糸』でがんじがらめにされた青年の姿。  そう、この会場で最初にホル・ホースが出会い、完膚無きまでに叩きのめされた「牛柄の服を着た青年」が居たのだ!   「とりあえず…ハナっから『撃つ』のも何だし、『糸』で縛り上げたけどさ……」  徐倫の気のないセリフに、ストレイツォ達の声がかぶさる。 「しまった、目覚めていたかッ!?」 「待て、攻撃するなっ…! そいつにはまだ…」  瞬時に駆け寄る二人に、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』を出して牽制。 「おい、仲間か!? 見知らぬ仲ッて訳じゃなさそうだがよぉ~!?」  二人が足を止める。 「いや、我々はその男に襲われたが、撃退して縛り上げていたんだ」  なるほど、確かによく見ると、糸の前に両腕と胴体がロープで縛られているのがわかる。  ただ、縛りが甘かったのかどうなのか、ところどころ緩んで、這うように移動することはできる状態のようだ。 「や…やめてくれ、息が……息ができない……ッ! まぶたが下がるッ……!」 「ニャにィ~~!? てめー、おれを忘れたとは言わせねぇぞ!?  さっきはよくもやってくれたなぁ!!!???」 「ヒィイィィィ~~~!! 覚えて無いッ!!! アンタ誰だッ!!?? おれは何で縛られてんだッ!!??  やめろっ……息がッ……!!」  あまりの狼狽ぶりに、逆にホル・ホースが面食らう。  徐倫は糸を戻し、ストレイツォ達もゆっくりと歩み寄る。 「…何だか、随分と態度が違うな……」 「無理もないだろう、ストレイツォ。あれだけ君に容赦なくしてやられたんだからな」  会話の内容に、青年の腫れた顔から、どうやら自分が手も足も出なかったこの青年を、ストレイツォは余程の目に合わせたと思え、複雑な気分になる。  その悔しさからか、ホル・ホースはいささか乱暴な動作で青年に『皇帝』を突きつけ、 「てめー、一体何者だ? なぜおれ…この二人を襲った?」  相手がしらばっくれていることもあり、自分がストレイツォ達より前に青年に完膚無きまでに負けたことをごまかしつつ、そう問いただす。 「わ、分からねェ……。自分でも分からねェんだよ~~~!!  神父に……神父に言われたんだ……。  そしたら、急に変なところに連れて行かれて……殺し合いしろとか……。  そんで、息が苦しくなって、また、まぶたが落ちてきて、水を……水を飲んだら……」  縛られたまま、這うようにのたうつように体を揺らすが、ぐいと『皇帝』を突きつけられどうにもできない。 「まぶた、だの、水、だの、どーでも良いンだよッ!!  てめーは何者で、なぜ襲ってきた!!??」  ひいっ、と再びの悲鳴。 「リキエルっ! おれの名前はリキエルっ…! DIOの息子だっ!!」 「「「「!!!???」」」」  叫びを聞く4人それぞれに衝撃が走る。 「神父が、おれたちのことを『DIOの息子』だって、そう言って……それで、『空条徐倫』の足止めをしてこいって言われて………! そしたらいつの間にか変なところに………」  ―――神父。DIOの息子。空条徐倫。死んだ肉体に生命をみなぎらせる少女。波紋戦士。殺し屋。殺人鬼。死んだものとして名を告げられた少女。空条承太郎の娘―――。      ☆ ☆ ☆  体中が痛む。  糸で縛られた。  弾丸も受けた。  何より、自分のスタンド能力、〈マニック・デプレッション〉で筋肉を過剰に膨張させたことが、疲労と痛みを齎している。  スタンドの弾丸も、糸の攻撃も、すべて致命傷には至っていない。  最後に受けた側頭部の攻撃は、その衝撃は激しく、脳震盪を起こしてしばし意識を失わせるものだったが、その直前に能力を使って「側頭部の筋肉をさらに過剰に膨張させる」ことで、やはり脳への損傷は防いでいた。  そのあとの数発、追い打ちに関しても同様だ。意識を失いつつも残っていた効果が、多くを防いでくれた。  結論から言えば、今マッシモ・ヴォルペが負っているダメージは、ほぼそのすべてが、自らの能力によってもたらされた一時期な副作用なのだ。  普段以上に筋肉を過剰に膨張させた結果の、疲労であり痛みなのだ。    八つ当たりだった、と言って良い。  自分の寄る辺なき人生を導いてくれた老人、コカキ。  依存であると言われても、それでも自分を必要としてくれていた少女、アンジェリカ。  二人の死は、既に「知っている」事だった。  新たなパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナ。彼の放った刺客、パンナコッタ・フーゴ。  彼らの手により、二人はすでに死んでいる。  その名が、なぜ改めて告げられたのか。  その理由、真実は、今のマッシモには分からない。  わからないが、それでも―――。  あたしは ――― DIOを ――― 許しては ――― ダメなんだっ………!!!  そうだ。  逆恨みだと言われようと、親しき者を殺されたのなら、決してその相手を許してはならない。  八つ当たりだったといっても良い。  悲痛な叫びを放った少女を攻撃したのは、単なる八つ当たりだ。  もちろん、彼女がDIOを許さないというのであれば、「DIOの友」である自分は、彼女の敵である、というのもある。  だが。  やはりそれは、ただの八つ当たりだ。    彼女が憎いわけでもない。傍らにいた男のことなど気にもしていない。  ジョルノ・ジョバァーナ。バンナコッタ・フーゴ。カンノーロ・ムーロロ。シーラ・E……。  自分が殺すべき相手は、彼らだ。  しかし―――。  最初に殺されたジョルノ。  彼は本物だったのか?  死んだはずの仲間が、再び殺されたと告げられる。  死の様を目の当たりにした怨敵が、未だこの会場のどこかで生きていると教えられる。  名簿も、放送も、確証のない戯言かもしれない。  そうだ。マッシモは考える。  彼はその誰のことも、ここで見てはいないのだ。  敵も、友も、誰ひとりとして、ここで会ってなどいない。  そして、放送や名簿が真実ではないと言い切れぬのと同様に、自分の記憶も真実だと言い切れないとすら思えてくる。  何が真実、誰が本物で、何がそうでないのか。  結局―――『何も分からない』ではないか。  ゆっくりと、彼は上体を起こす。  感覚が、気配を告げている。  逃走の気配。  戦っている気配。  歩み寄り探っている気配。  いくつかの気配が、このGDS刑務所の周りで蠢いている。    友のことを思う。  それは、新たな友であろうか。それとも、名簿に書かれている旧き友のことであろうか。  この気配について、或いは逃げ去った二人について、新しき友に告げるべきだろうか。  名簿に書かれた怨敵を探し、まだ生きているとされている旧き友を訪ねるべきだろうか。  マッシモ・ヴォルペは友のことを思い、それから何故か不意に、兄のことを思い出した。  痛みは、風の中に去ってゆく。  訪れるものは何か。赴くべきは何処か。  マッシモ・ヴォルペには―――『何も分からない』。   ---- 【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内部 / 1日目 朝】 【H&F】 【ホル・ホース】 [スタンド]:『皇帝-エンペラー-』 [時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後 [状態]:困惑 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る 1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。 2.徐倫に興味。ただ、話の真偽は不可解すぎるぜ。 3.DIOの息子? 空条承太郎は二人? なぜ徐倫の名が死者として呼ばれた? [備考] ※第一回放送をきちんと聞いていません。  内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。 【F・F】 [スタンド]:『フー・ファイターズ』 [時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前 [状態]:軽い疲労、髪の毛を下ろしている [装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪 [道具]:基本支給品×2(水ボトル2本消費)、ランダム支給品1~4 [思考・状況] 基本行動方針:存在していたい(?) 1.『あたし』は、DIOを許してはならない…? 2.ホル・ホースに興味。人間に興味。 3.もっと『空条徐倫』を知りたい。 4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。 [備考] ※第一回放送をきちんと聞いてません。   【ストレイツォ】 [能力]:『波紋法』 [時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品×3(水ボトル1本消費)、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪 [思考・状況] 基本行動方針:仲間を集い、吸血鬼ディオを打破する 1.ホル・ホースは信頼できると思うが、この徐倫という娘は一体何者なのか? 2.青年(リキエル)から話を聞き出すべきか? 3.吉良などの無力な一般人を守りつつ、ツェペリ、ジョナサン・ジョースターの仲間等と合流した後、DIOと対決するためGDS刑務所へ向かう。 [備考] ※ホル・ホースから、第三部に登場する『DIOの手下』、『ジョースター一行』について、ある程度情報を得ました。 【吉良吉影】 [スタンド]:『キラークイーン』 [時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後 [状態]:健康 [装備]:波紋入りの薔薇 [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:静かに暮らしたい 1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。 2.死んだと放送された『空条徐倫』に、「スタンド使い」のホル・ホース…ディオ? ディオの息子…ねぇ…。 3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。 4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。 [備考] 【リキエル】 [スタンド]:『スカイ・ハイ』 [時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前 [状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、縄で縛られてる [装備]:マウンテン・ティムの投げ縄(縛られている) [道具]:基本支給品×2、 [思考・状況] 基本行動方針: ??? 1.ヒィイィィィィ~~~!! 何が何だか分からねェ~~~!! 息が、息が出来ねぇっ…!! ※第一回放送をきちんと聞いてません。  【E-2 GDS刑務所・正門の内側 / 一日目 朝】 【マッシモ・ヴォルペ】 [時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。 [スタンド]:『マニック・デプレッション』 [状態]:痛みと疲労、数箇所の弾痕(表面のみ、致命傷にいたらず。能力を使えばすぐにでも治せる程度)、『何も分からない』 [装備]:携帯電話 [道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ [思考・状況] 基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。 1.友を思い、怨敵を思う。 2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。 *投下順で読む [[前へ>トータル・リコール(模造記憶)(上)]] [[戻る>本編 第2回放送まで]] [[次へ>男たちの挽歌]] *時系列順で読む [[前へ>トータル・リコール(模造記憶)(上)]] [[戻る>本編 第2回放送まで(時系列順)]] [[次へ>男たちの挽歌]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[ストレイツォ]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |094:[[羊たちの沈黙 (下)]]|[[ホル・ホース]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[吉良吉影]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |094:[[羊たちの沈黙 (下)]]|[[F・F]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[リキエル]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[マッシモ・ヴォルペ]]|122:[[神を愛する男たち]]|
  「ディオの部下―――という事か」  [[ストレイツォ]]は腕を組んだままそう返す。 「確証はねぇが、そうだろうな。  何れにせよ、あのGDS刑務所の奥にDIOのヤローが潜んでいるのは間違いねぇ」  カウボーイハットの伊達男が吐き捨てるようにそう言った。      ストレイツォと吉良が、轟音と上空での光に気づいたのは十数分は前。  直後に教会を出て現場へと向かっていたが、途中で例の『放送』があり、足を止めその内容を聞く。  死者の数。浮かれ騒ぎの様なアナウンスの声。地図を持ってきた鳩。  そして何より、同門であり朋輩である、[[ダイアー]]の死を告げる声。  それら全てを、ストレイツォは飲み込んで、足を進めた。     上空の光は、一箇所にとどまっていない。正確な位置を目視で確認するのは至難の業だ。  自覚している以上に、ストレイツォの内心に焦りがある。そのことがさらに迷いを生んでいた。 「…ツォ…ストレイツォ…!」  背後から、吉良の鋭い呼びかけ。  意識を引き戻し、視線を巡らせると、既にGDS刑務所らしき建物のすぐ前に居る。  ストレイツォの目には、一種魔法めいた異国の建物。吉良からすれば、今までいたイタリア風の街並みとは異なる、近代的建築物。  その前にいるのは、時代がかったカウボーイと、その男に抱きかかえられた、怪我人と思しき少女。 「徐倫。なんにせよアイツは、ディオの手下に違いねぇ」  男が少女にそう告げる。 「やつに気づかれているのか、たまたまなのかは分からねぇが、どっちにせよ今は戦える状況じゃねぇからな」  見れば、そのさらに奥には、たった今戦闘したであろう相手が倒れているのが微かに見える。  ふわり、とでも言うかの足取りで、ストレイツォは音もなく歩を詰める。 「その話、詳しく聞かせてもらおう」      そして四人は、再びサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にいる。  厳密にはさらに一人。未だ目を覚ましていない牛柄服の青年([[リキエル]])もだが、今ここでの会話には関わっていない。  状況は複雑だ。  ストレイツォが理解できたのは、このカウボーイハットの男と、連れの少女は、「ディオから隠れ逃れてきた」こと。  そして逃げる直前、「ディオの部下らしき男に襲われ、危うくもそれを撃退した」こと。  付け加えて、「上空で戦っているであろう轟音と光の反射は、ディオの部下である隼、『ホルス神のペットショップ』によるものだろう」こと。  自分が、「吸血鬼ディオ」と戦うために出向いてきた波紋戦士である、ということを納得してもらうのには少し手間取った。  男は明らかに不信感を持っていたし、同行の少女を守ろうと警戒もした。  ストレイツォの言を背後から吉良が補足してくれたことと、その少女がとりなしたことが功を奏したのかもしれない。  結局男はストレイツォと同行し、そして「まずはここを離れるべき」と主張。ストレイツォの先導で、先程までいた教会に戻ってきている。    少女は激しく疲労していたが、ストレイツォが渡したボトルの水を飲むことで回復しつつあるようだった。  その少女を気遣いながら、カウボーイハットの男、[[ホル・ホース]]は言葉を続ける。 「さっきアンタは、『吸血鬼ディオを倒すため、師匠や仲間と、ジョースターたちの手助けに向かっていた』って言ったよなぁ?」  情報、状況を整理しきれずにいるストレイツォに確認を取る。 「―――そうだ。トンペティ師は居ないようだが、さっき響き渡った声や名簿とやらによれば、ウィル・A・ツェッペリとダイアーはこの会場に集められているようだ。そして…奴の言が真実なら、ダイアーは既に死んだ」  冷静に、感情を表さぬよう端的に告げる。 「そりゃご愁傷様。だがアンタ、何て言われてやってきたか知らねぇが、ディオをただの吸血鬼だと思って戦おうってンなら、負けるぜ」 「何?」  僅かに怒気を孕んでしまう。  誇り高き波紋戦士。何より、朋輩ダイアーの死を含めて、「負ける」の一言で済ませられるのは心外だ。 「おっと、波紋がどーの、って事じゃねぇ。ジョースターの爺も波紋使いだってのは知ってる。けど、それだけで勝てる相手じゃねぇから、奴は手助けを必要としてんだろ?」  ジョースターの爺、というのが引っかかったが(ツェペリが新たに弟子にした[[ジョナサン・ジョースター]]という人物は20歳そこそこの青年と聞いている)、名簿にはジョースター姓の人間が何人かいた。  どこかで混同しているのかもしれないが、ひとまずはホル・ホースに続きを促す。 「『世界』…。奴は文字通り、『世界を支配するスタンド』をもっている。  スタンド、ってのは、精神のエネルギー。人によって能力は様々だが、ディオのそれは近距離パワー型。単純に、その吸血鬼のパワーを二人分持ってると言って言いだろう。  そして、能力は『不明』…。  超スピードだとかトリックだとか、そんなチャチなもんじゃあねぇ。  少なくとも、その謎を解かない限り、『俺たちに勝ち目は無ェ』」   ストレイツォの知らない、特殊な能力を持っている。しかもそれが何なのかは不明だが、『世界を支配する』とまで言えるものだという。  付け加えれば、二人を襲撃した針の革を着た怪物に、氷の塊を放つ隼。  既に、ディオの部下たちが集結しつつあると考えられる状況……。  しばし、ストレイツォが押し黙る。    話から察するに、このホル・ホースも、ディオと戦ってきた正義の戦士のようだ。  確かに態度には軽薄さが伺えるが、敵の事情にも詳しく、状況判断能力も低くない。それに何より、少女を助けるために自らの命を賭けられる男。ひとまず信頼しても良いだろう。   「…何にせよ、ディオの居場所ははっきりした。  そして、ディオもまた部下を集結させつつあるというなら、我々も仲間を募って立ち向かうしかあるまい。  特に、ツェッペリとジョースター…。それと君の言う、『ジョースター一行』の仲間達か…」  眉根を寄せつつ、ストレイツォがそう宣言する。  不退転。波紋戦士の誇りに賭けて、吸血鬼ディオに対して、「逃げる」「諦める」という選択肢は無い。  その顔に、ホル・ホースがついと顔を寄せ、 「…その件についてなんだが」  小声で話しかけてきた。 「ジョースター一行については全部教える。ほかのディオの部下についても、だ。ただ、もし奴らと出会っても、おれのことはひとまず伏せておいて欲しい」 「何? 何故だ?」 「あいつらとは、ちょっとばかし誤解があってな。  おれは敵だと思われているんだよ。  いいか、こいつは結構複雑な問題だ。よく聞いて、納得してくれ。  おれは一時期、DIOの内情を探るため、奴らの手下に接近していた事がある。  例えば、鏡のスタンドを使う[[J・ガイル]]とかだ。  こいつは殺人鬼のクソ野郎だったが、奴から他のディオの手下やら、奴らの動向やら、いろいろ仕入れられた。  ただ、そのJ・ガイルって奴は、ジョースター一行にいたポルナレフってやつの妹を殺した真犯人だったんだよ。  そこで、J・ガイルと一緒にいたおれは、『ディオの仲間だ』と思われちまった…。  ああ、ポルナレフのやつが悪いわけじゃあねぇ。確かにちとばかし直情的で困ったもんだが、あいつは正義に燃えて、ディオを追っている。アンタなら信頼してもらえるだろう。  けど、その誤解から、おれはジョースター一行とは共同戦線を組めないんだよ。  完全に、仇の仲間だと『誤解』されちまっているからな…」  ホル・ホースの話は、なるほど確かに複雑な状況のようだ。 「ならば、私が間に立って事情を説明すれば…」 「いやいや、無理だ。状況が落ち着けば可能かもしれないが、そこはまず待ってくれ。  もしアンタがおれの名を出せば、その時点で警戒される。  ただでさえこんな状況なんだ。誤解の種をわざわざ振りまく必要も無いだろう?」  確かに、そうかもしれない。  しかし何も話さずに同行して、後で知られた場合も厄介なことにはなりそうだが…いずれにせよ、込み入った話ではある。 「とりあえず、了承した。実際にどうなるかは保証できないが…」  結局ストレイツォとしてはそう答えるしかない。    簡単な情報交換と休息。  しかしその間にも状況は変化している。  外の様子を伺っていた吉良が戻ってきて、「やはり見失った」と告げる。  これは、最初にストレイツォたちが目標としていた、上空での轟音と光の反射の主、ホル・ホース曰く『ホルス神の[[ペット・ショップ]]』の事だ。  吉良も、狭い入口から外を探っていただけだった以上、上空すべてを監視できていたわけではない。  もとより、双方移動しながらの事だった上、間に放送などがあった以上、見失ったとしても致し方ない。  いったい誰が、ディオの部下と戦っていたのか。  気になるといえば気になるが、もはやどうもできない。 「それで、ストレイツォ」  ぐ、っと、今度は吉良が顔を寄せ話しかけてくる。 「あいつらとはどういう話になった?」 「とりあえず同行はしない。あの少女の休息時間をもっと取りたいようだし、ホル・ホースは戦士だ。自分たちの身は自分たちで面倒見れる、と。  名簿にメモをしたが、彼の知っているディオの手下と、ジョースターの仲間たちの名は聞き出せた。  できれば、彼らを探し出し、戦力を増やしてディオに挑みたいのだが…」  視線が絡み合う。  吉良はしばし思案した様子で、しかし続けてこう言った。 「徐倫…」  不意に出たその単語に、ストレイツォは少し戸惑う。 「ストレイツォ。放送を聞いたとき、それをメモしたのは私だ。そして自慢じゃあないが、私は結構記憶力は良い方だ。  最初、あの男は、同行している少女を、『徐倫』と呼んだ。  名簿にある名前でそれと似た名前は、『[[空条徐倫]]』ただ一つだ。  少し似た響きでアイリンという名もあるが、まあそっちでは無いだろう」  ゆっくりと、確認するように、言葉をつなぐ。 「そして、『空条徐倫』…あと、『[[アイリン・ラポーナ]]』は、ともに死亡したと告げられていた…」 「!?」  ストレイツォの顔がこわばる。 「彼らは…放送を確認していない、と言っていた……。  ディオから逃げるのに必死で、その時間が取れなかった………とも」  そのため、吉良がメモしていた名簿と地図の印を、ホル・ホースに渡して写させている最中だ。  76人という膨大な人数の死者数だけに、写しを取るだけでも一苦労である。      ストレイツォが呼吸を整え、両足から床に微弱な波紋を流す。  波紋は、生命のエネルギー。屍生人や吸血鬼にとっては破壊をもたらすもの。  しかし、床を伝って届いた微かな波紋が、壁際に座り込んでいる少女に、ダメージを与えた気配はない。  もとより、彼女は刑務所の前からここまで、朝日を全身に浴びてやってきているのだ。屍生人であるハズは…無いのだ。 「名前を騙っているのか…、そもそも名簿や放送が誤り、嘘なのか…、或いは………」  吉良の言葉がストレイツォの中に浸透していく。 「死から蘇る…又は、死んでいないのにかかわらず、主催者側に死んだと思わせる何らかの手段があるのか………」 「何者だ…」  ストレイツォは吉良以上に混乱する。 「彼女の中は『生命のエネルギー』に満ちている…。  しかし、その肉体は『死んでいる』………」  波紋の伝わり方、その流れからストレイツォが感じ取った結論は、彼女が屍生人であるというものよりも、奇っ怪で悩ましい、理解を超えたものであった。      ☆ ☆ ☆  ポルナレフ、[[アレッシー]]、エンヤ婆……。  ジョースター一行も、ディオの手下も、この膨大な76人もの死者の中に名が上がっている。  アレッシーはたしか再起不能になったはず、とか、エンヤ婆はあの後ジョースター達に捕らえられたため、別の刺客に粛清されたと聞いているが…等など、気がかりになる事はいくつもある。  いくつもあるが、問題はそれじゃあない。  [[空条承太郎]]が最初に殺され、そしてポルナレフまで死んだとなれば、花京院、アヴドゥル、そして老いぼれのジョセフ…と、残りのジョースター一行は、DIOに対抗できるとはとても思えない面子だ。  もとより、ホル・ホースは、ストレイツォと『仲間』になって、『ともにDIOに立ち向かおう』などとは、さらさら考えていない。  むしろ、DIOの対処を奴らに押し付けて、できるだけ離れていようと、そう考えている。 (もちろん、彼らが『運良く』DIOを倒してくれれば、『儲けもの』ではある、が)  そのためにも、情報が必要だ。  DIOの手下がどれだけいて、DIOに立ち向かおうという人間がどれだけいるのか。  それを把握するためにも、聞き逃した放送の情報をストレイツォから引き出したのだが…。   「放送で読み上げられた死者」としてチェックの入っている名。 『空条徐倫』。  どういう事だ…?  ホル・ホースは、傍らで座り、壁にもたれ掛かって、何事かを思案しているのか、或いはただ休んでいるのか分からぬ少女を見る。  先ほどの感情の爆発から一転、それまで以上に空虚な表情である。  空条徐倫。曰く、空条承太郎の娘。曰く、GDS刑務所の収監者。 『糸』のスタンドを使い、先ほど殺された野球帽の少年の友人。  どろどろに意識と肉体を『溶かす』スタンドによって死に瀕している父、承太郎を助けること。  [[エルメェス・コステロ]]。ナルシソ・アナスイ。[[ウェザー・リポート]]。[[F・F]]…。  F・F…?  再び、名簿を開いて名前を探す。  ある。『F・F』の名は、名簿にある。  エルメェス、アナスイ、ウェザー、エンポリオ等もある。  話半分、ハナから与太話と思っていたのは確か。  彼女は空条承太郎の縁者か何かかもしれないが、娘などということは有り得ない。  彼女の語っていた承太郎は、明らかに自分より年上だ。  人となり風貌などは似ているが、実在したとしても別人だといえる。  別人?  再び名簿に目を向ける。  参加者の中に、やはり『空条承太郎』の名がある。  しかし、そこには「放送で読み上げられた死者」として、チェックが入れられていない。  ストレイツォが記入し漏らしたのか? いや、最初の段階の死者はそもそも放送では読み上げていなかったのか?  しかし、読み上げなかったのであれば、なぜ名簿に名前があるのか?  ホル・ホースの頭がフル回転で状況を整理する。    ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎は、最初の会場で殺されている。  しかし名簿によれば、空条承太郎はまだ生きてこの奇妙な街のどこかにいる。  それがもし正しいとすれば―――この会場にいる空条承太郎こそ、ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎とは別人で同姓同名の、空条徐倫の父親なのではないか―――?    待て。待った。違う、そこじゃない。そこが問題なんじゃあ無い。    再びホル・ホースがかぶりを振る。    問題は、放送で『空条徐倫』が『死んだ』とされたのは本当なのか。  本当だとしたらなぜ、今生きているはずの徐倫が死者として名を告げられたのか。  そして―――。 『F・F・F(フリーダム・フー・ファイターズ)…』  あの針の化物が襲いかかってきた時に徐倫が呟いた、この言葉―――。   (徐倫―――…、一体お前は…?)    視界の中、『糸』が、ホル・ホースに向かって放たれた。   「うおぉああぁあっ!!??」    背後を見やる。  そこには、『糸』でがんじがらめにされた青年の姿。  そう、この会場で最初にホル・ホースが出会い、完膚無きまでに叩きのめされた「牛柄の服を着た青年」が居たのだ!   「とりあえず…ハナっから『撃つ』のも何だし、『糸』で縛り上げたけどさ……」  徐倫の気のないセリフに、ストレイツォ達の声がかぶさる。 「しまった、目覚めていたかッ!?」 「待て、攻撃するなっ…! そいつにはまだ…」  瞬時に駆け寄る二人に、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』を出して牽制。 「おい、仲間か!? 見知らぬ仲ッて訳じゃなさそうだがよぉ~!?」  二人が足を止める。 「いや、我々はその男に襲われたが、撃退して縛り上げていたんだ」  なるほど、確かによく見ると、糸の前に両腕と胴体がロープで縛られているのがわかる。  ただ、縛りが甘かったのかどうなのか、ところどころ緩んで、這うように移動することはできる状態のようだ。 「や…やめてくれ、息が……息ができない……ッ! まぶたが下がるッ……!」 「ニャにィ~~!? てめー、おれを忘れたとは言わせねぇぞ!?  さっきはよくもやってくれたなぁ!!!???」 「ヒィイィィィ~~~!! 覚えて無いッ!!! アンタ誰だッ!!?? おれは何で縛られてんだッ!!??  やめろっ……息がッ……!!」  あまりの狼狽ぶりに、逆にホル・ホースが面食らう。  徐倫は糸を戻し、ストレイツォ達もゆっくりと歩み寄る。 「…何だか、随分と態度が違うな……」 「無理もないだろう、ストレイツォ。あれだけ君に容赦なくしてやられたんだからな」  会話の内容に、青年の腫れた顔から、どうやら自分が手も足も出なかったこの青年を、ストレイツォは余程の目に合わせたと思え、複雑な気分になる。  その悔しさからか、ホル・ホースはいささか乱暴な動作で青年に『皇帝』を突きつけ、 「てめー、一体何者だ? なぜおれ…この二人を襲った?」  相手がしらばっくれていることもあり、自分がストレイツォ達より前に青年に完膚無きまでに負けたことをごまかしつつ、そう問いただす。 「わ、分からねェ……。自分でも分からねェんだよ~~~!!  神父に……神父に言われたんだ……。  そしたら、急に変なところに連れて行かれて……殺し合いしろとか……。  そんで、息が苦しくなって、また、まぶたが落ちてきて、水を……水を飲んだら……」  縛られたまま、這うようにのたうつように体を揺らすが、ぐいと『皇帝』を突きつけられどうにもできない。 「まぶた、だの、水、だの、どーでも良いンだよッ!!  てめーは何者で、なぜ襲ってきた!!??」  ひいっ、と再びの悲鳴。 「リキエルっ! おれの名前はリキエルっ…! DIOの息子だっ!!」 「「「「!!!???」」」」  叫びを聞く4人それぞれに衝撃が走る。 「神父が、おれたちのことを『DIOの息子』だって、そう言って……それで、『空条徐倫』の足止めをしてこいって言われて………! そしたらいつの間にか変なところに………」  ―――神父。DIOの息子。空条徐倫。死んだ肉体に生命をみなぎらせる少女。波紋戦士。殺し屋。殺人鬼。死んだものとして名を告げられた少女。空条承太郎の娘―――。      ☆ ☆ ☆  体中が痛む。  糸で縛られた。  弾丸も受けた。  何より、自分のスタンド能力、〈マニック・デプレッション〉で筋肉を過剰に膨張させたことが、疲労と痛みを齎している。  スタンドの弾丸も、糸の攻撃も、すべて致命傷には至っていない。  最後に受けた側頭部の攻撃は、その衝撃は激しく、脳震盪を起こしてしばし意識を失わせるものだったが、その直前に能力を使って「側頭部の筋肉をさらに過剰に膨張させる」ことで、やはり脳への損傷は防いでいた。  そのあとの数発、追い打ちに関しても同様だ。意識を失いつつも残っていた効果が、多くを防いでくれた。  結論から言えば、今[[マッシモ・ヴォルペ]]が負っているダメージは、ほぼそのすべてが、自らの能力によってもたらされた一時期な副作用なのだ。  普段以上に筋肉を過剰に膨張させた結果の、疲労であり痛みなのだ。    八つ当たりだった、と言って良い。  自分の寄る辺なき人生を導いてくれた老人、コカキ。  依存であると言われても、それでも自分を必要としてくれていた少女、アンジェリカ。  二人の死は、既に「知っている」事だった。  新たなパッショーネのボス、[[ジョルノ・ジョバァーナ]]。彼の放った刺客、[[パンナコッタ・フーゴ]]。  彼らの手により、二人はすでに死んでいる。  その名が、なぜ改めて告げられたのか。  その理由、真実は、今のマッシモには分からない。  わからないが、それでも―――。  あたしは ――― DIOを ――― 許しては ――― ダメなんだっ………!!!  そうだ。  逆恨みだと言われようと、親しき者を殺されたのなら、決してその相手を許してはならない。  八つ当たりだったといっても良い。  悲痛な叫びを放った少女を攻撃したのは、単なる八つ当たりだ。  もちろん、彼女がDIOを許さないというのであれば、「DIOの友」である自分は、彼女の敵である、というのもある。  だが。  やはりそれは、ただの八つ当たりだ。    彼女が憎いわけでもない。傍らにいた男のことなど気にもしていない。  ジョルノ・ジョバァーナ。バンナコッタ・フーゴ。[[カンノーロ・ムーロロ]]。シーラ・E……。  自分が殺すべき相手は、彼らだ。  しかし―――。  最初に殺されたジョルノ。  彼は本物だったのか?  死んだはずの仲間が、再び殺されたと告げられる。  死の様を目の当たりにした怨敵が、未だこの会場のどこかで生きていると教えられる。  名簿も、放送も、確証のない戯言かもしれない。  そうだ。マッシモは考える。  彼はその誰のことも、ここで見てはいないのだ。  敵も、友も、誰ひとりとして、ここで会ってなどいない。  そして、放送や名簿が真実ではないと言い切れぬのと同様に、自分の記憶も真実だと言い切れないとすら思えてくる。  何が真実、誰が本物で、何がそうでないのか。  結局―――『何も分からない』ではないか。  ゆっくりと、彼は上体を起こす。  感覚が、気配を告げている。  逃走の気配。  戦っている気配。  歩み寄り探っている気配。  いくつかの気配が、このGDS刑務所の周りで蠢いている。    友のことを思う。  それは、新たな友であろうか。それとも、名簿に書かれている旧き友のことであろうか。  この気配について、或いは逃げ去った二人について、新しき友に告げるべきだろうか。  名簿に書かれた怨敵を探し、まだ生きているとされている旧き友を訪ねるべきだろうか。  マッシモ・ヴォルペは友のことを思い、それから何故か不意に、兄のことを思い出した。  痛みは、風の中に去ってゆく。  訪れるものは何か。赴くべきは何処か。  マッシモ・ヴォルペには―――『何も分からない』。   ---- 【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内部 / 1日目 朝】 【H&F】 【ホル・ホース】 [スタンド]:『皇帝-エンペラー-』 [時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後 [状態]:困惑 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る 1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。 2.徐倫に興味。ただ、話の真偽は不可解すぎるぜ。 3.DIOの息子? 空条承太郎は二人? なぜ徐倫の名が死者として呼ばれた? [備考] ※第一回放送をきちんと聞いていません。  内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。 【F・F】 [スタンド]:『フー・ファイターズ』 [時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前 [状態]:軽い疲労、髪の毛を下ろしている [装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪 [道具]:[[基本支給品]]×2(水ボトル2本消費)、ランダム支給品1~4 [思考・状況] 基本行動方針:存在していたい(?) 1.『あたし』は、DIOを許してはならない…? 2.ホル・ホースに興味。人間に興味。 3.もっと『空条徐倫』を知りたい。 4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。 [備考] ※第一回放送をきちんと聞いてません。   【ストレイツォ】 [能力]:『波紋法』 [時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品×3(水ボトル1本消費)、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)[[ワンチェン]]の首輪 [思考・状況] 基本行動方針:仲間を集い、吸血鬼ディオを打破する 1.ホル・ホースは信頼できると思うが、この徐倫という娘は一体何者なのか? 2.青年(リキエル)から話を聞き出すべきか? 3.吉良などの無力な一般人を守りつつ、ツェペリ、ジョナサン・ジョースターの仲間等と合流した後、DIOと対決するためGDS刑務所へ向かう。 [備考] ※ホル・ホースから、第三部に登場する『DIOの手下』、『ジョースター一行』について、ある程度情報を得ました。 【[[吉良吉影]]】 [スタンド]:『キラークイーン』 [時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後 [状態]:健康 [装備]:波紋入りの薔薇 [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:静かに暮らしたい 1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。 2.死んだと放送された『空条徐倫』に、「スタンド使い」のホル・ホース…ディオ? ディオの息子…ねぇ…。 3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。 4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。 [備考] 【リキエル】 [スタンド]:『スカイ・ハイ』 [時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前 [状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、縄で縛られてる [装備]:[[マウンテン・ティム]]の投げ縄(縛られている) [道具]:基本支給品×2、 [思考・状況] 基本行動方針: ??? 1.ヒィイィィィィ~~~!! 何が何だか分からねェ~~~!! 息が、息が出来ねぇっ…!! ※第一回放送をきちんと聞いてません。  【E-2 GDS刑務所・正門の内側 / 一日目 朝】 【マッシモ・ヴォルペ】 [時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。 [スタンド]:『マニック・デプレッション』 [状態]:痛みと疲労、数箇所の弾痕(表面のみ、致命傷にいたらず。能力を使えばすぐにでも治せる程度)、『何も分からない』 [装備]:携帯電話 [道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ [思考・状況] 基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。 1.友を思い、怨敵を思う。 2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。 *投下順で読む [[前へ>トータル・リコール(模造記憶)(上)]] [[戻る>本編 第2回放送まで]] [[次へ>男たちの挽歌]] *時系列順で読む [[前へ>トータル・リコール(模造記憶)(上)]] [[戻る>本編 第2回放送まで(時系列順)]] [[次へ>男たちの挽歌]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[ストレイツォ]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |094:[[羊たちの沈黙 (下)]]|[[ホル・ホース]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[吉良吉影]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |094:[[羊たちの沈黙 (下)]]|[[F・F]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[リキエル]]|129:[[AWAKEN ― 乱]]| |097:[[君は引力を信じるか]]|[[マッシモ・ヴォルペ]]|122:[[神を愛する男たち]]|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: