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新・戦闘潮流 - (2014/05/14 (水) 11:11:18) の1つ前との変更点

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「見間違いじゃねーんだろうな?」 「いいや、確かだ。俺の視力は両目合わせて4.0よ、仗助ちゃん。絶対に絶対だ」 先頭を行く噴上は二人の会話を背中越しに聞き、顔をしかめた。 この二人、緊張感がなさすぎる……。細かく震える指先で顎をなで、はと思い直し視線を落とす。 いや、俺が必要以上にビビってるだけなのか……? 隣を歩くドイツ軍人は何も言わず、あたりを警戒している。ジョセフと仗助の会話には興味がないようだ。 いつもだったら大声で割って入りそうなものなのに。軍人特有のカンが危険、だと判断してるのだろうか。 戦場で生き残るのは本当に優秀な兵士と臆病者だけだ。 そんな言葉を思い出しながら、噴上はもう一度鼻を鳴らし、前に進んだ。 あたりは静まり返り、四人の歩く音だけが壁と天井にこだまする。 洞窟内は血の匂いが充満している。ただでさえ鼻が利く噴上には辛いことだった。 血の匂いにまぎれ潜んでいるであろう何者かの匂いを探そうと、鼻をひくつかせる。 鉄臭い臭いに吐き気がこみ上げるが、噴上は根性で我慢した。 六人は今二手に別れ、行動している。 クレイジー・ダイヤモンドで治療を施したといえエルメェスとシーラEはまだ本調子ではない。 体調を整える意味を込めてふたりは地上で待機。 一方主力であり、機動性のある四人は洞窟探索に出かけた。 二手に別れることに懸念はあったものの、康一のことを考えれば一刻の猶予もないと判断したのだった。 「視界が悪いな……。噴上、何か匂いは見つかったか」 「猟犬じゃねーんだよ、俺は。  ただでさえ地下で匂いがこもりがちだってのに、こんだけ血が広まってちゃそう簡単には見つかんねーよ」 シュトロハイムが一旦歩くのをやめ、四人は立ち止まる。シュトロハイムの問いかけに、噴上は苛立ちげに返した。 シュトロハイムは頷き、今度は問いかけるようにジョセフを見た。 ジョセフは肩をすくめ、手にしたペットボトルを突き出す。水面に異常なし。 付近に何者かが潜んでいる、ということはなさそうだった。 「ジョジョ、もう一度聞くが貴様が見かけた人影とは確かなんだろうなァ?」 「しつこいぜ、シュトロハイムッ! 見たって言ったら確かに見たんだ! そんなに俺が言う事信じられねぇかァ~~~?」 「普段の行いが知れるな」 四人が地下に潜ったのはジョセフが見かけたという人影を追ってのことだった。 康一を追うというのが当初の目的であったが、あまりに手がかりが少なすぎた。 マウンテン・ティムからの連絡はなく、噴上の鼻もあたりに臭いがありすぎてすぐには見つけられそうにもない。 そんな時にジョセフが怪しげな人影を見つけた、と言ったのであった。 そしてその人影を追って行き着いた先が地下だったのだが…… 「そろそろ放送の時間だし、戻ったほうがいいんじゃないスか」 沈黙を打ち破るように、仗助が言った。三人は苦々しい表情で頷くしかない。 あとは放送で康一とティムの名前が呼ばれないことを祈るしかない。 本格的な行動開始はそのあとだ。今来た道を戻り、四人は古代環状列石に続く階段を目指す。 その時……――― 「……止まれ」 三人を制するように噴上が手を上げる。鼻を鳴らしながらあたりを探っていた噴上の顔に影がおちる。 合図で四人は前方からの攻撃に備える。仗助とジョセフが後ろに下がり、シュトロハイムと噴上は前で構える。 おぼろげながら人影が洞窟先から浮かび上がってきた。足音も聞こえてくる。 歩幅は小さく、足取りは慎重だ。小柄な男性か、あるいは女性ぐらいのサイズ。 しかし四人は緊張を解かない。シュトロハイムが一瞬だけ背後を見渡した。後ろから近づく影、なし。 互いの顔がようやく見えるかそれぐらいのころ、人影がゆっくりと口を開いた。 幼げな男の声が、洞窟内に反響した。 「僕のことを覚えているだろう、東方仗助……」 「てめぇは……―――!」 だがその先は続かなかった。目の前に立つ少年が醸し出す不気味さを上回る、なにかが仗助の背中を刺した。 背後から突然湧き上がった威圧感に、仗助は思わず振り返り、そして息を飲んだ。 噴上もシュトロハイムも気がついていない。突然現れた少年に目を凝らし、『それ』の存在に気がついていない。 さっきまで誰もいなかったはずの背後に突然現れたのは……筋骨隆々、圧倒的存在感を醸し出す、一人の戦士ッ! 「ワムウッ!」 ジョセフが叫び、飛び出そうとしたが全ては時すでに遅し。 仗助が二人を突き飛ばし、ジョセフが距離を詰めようと駆ける。だがすでにワムウの行動は終わっていた。 蹴り一閃。トンネルの天井を突き破るような一撃があたりを揺るがし、石屑が雨のように降り注ぐ。 砂埃が立ち、瓦礫が押しつぶさんと襲いかかり、そして……――― 四人は完全に分担されてしまった。それを見たワムウは、怪しげな笑みを浮かべていた。 ▼ 背後には岩、前方には柱の男。 戦闘態勢に入ったワムウを見て、仗助は背中を汗が伝っていくのを感じた。 圧倒的担力。圧倒的存在感。本能的にわかってしまう。 もし俺がこの男と戦ったならば……タダでは済まないだろうということに。 しかし仗助は焦らなかった。 恐怖心を感じる一方で、絶対的な『自信』も存在していた。 心を落ち着かせるように、櫛を取り出しリーゼントを整える。 逃げ場が無い中、一向に構えを取らない仗助に対しワムウがドスを効かせ、言葉を吐いた。 「さぁ、構えろ。そして来るがいい。  お前のスタンドとこのワムウの『風の流法』……どちらが優れているか、測ってみようではないか!」 「えーーっと、つまりアンタ、俺と戦いたいってことスかね」 「そうだ」 「正々堂々、真っ向勝負?」 「うむ」 「フェアースポーツ精神にのとった、爽やかで、裏みあいっこなしの本番勝負一本、みたいな?」 「くどいぞ、東方仗助ッ! もはや貴様に選択権は無しッ!  構えろッ! そしてかかってこいッ! もしも来ないというのであれば……」 「なるほど、洞窟内に無理やり閉じ込めて、理想的な対戦環境を整える、と。  こりゃ大したもんですよ。グレートな作戦ッスねェ~~~……」 その瞬間、仗助の背後の岩が宙に浮かんだ。 ビデオを逆回しにしていくように、崩れた天井へと吸い込まれていく瓦礫。 そして、瓦礫の隙間にすべり込ませるように体をねじ込んでいた……ジョセフ・ジョースターがそこにいたッ! 「ただ一点、俺が素直に一対一を望むようなお利口さんじゃない、ってところを除けばな!」 驚き、目を見張るワムウを尻目にジョセフが立ち上がる。 イタズラがうまくいった悪ガキのような表情を浮かべながら、ジョセフは隣に立った少年を横目で眺めた。 そっくりだ、と思った。素直じゃないところ、意地汚いところ、皮肉屋なところ、相手の裏をかく頭の回転の良さ。 これが血筋というものなのだろうか。実感はないが、なんとなく、心でそれを理解した。 背中をくすぐられたような居心地の悪さもあったが、だがそれ以上に安心感を感じた。 あの柱の男ワムウを前にしても、ジョセフはなぜだか負ける気がしなかった。 「仗助ちゃーん、ナイスよ、ナイスぅ~~! この調子でさっさと全部、戻しちゃいな。  俺がいれば全部大丈夫~~って言いたいところだけど、味方が多いに越したことはないからねェー!」 「そうしたいところだけどよ、目の前のこいつが許してくれそうにもないんスよね~~」 「なぁに、それなら仕方ない」 なぜだかたまらないほど頬が緩む。 ニヤついた表情で仗助を小突くと、仗助も釣られてニヤリと笑った。 笑いの伝染は広がり、ワムウすらも可笑しそうにニヤついている。 誰もが理解している。そして心の底、どこかでそれを望んでいる。 ジョセフの全身から薄い光が立ち上る。腹のそこから吹き出すような呼吸音。 体を半身に構え、両手をねじるような構えを取る。 仗助がスタンドを呼び出すと、ジョセフに並び立つように隣に立った。 ポケットから櫛を取り出し、いつもどおり髪型を整える。戦いの前の儀式のようなものだ。 「ジョジョ! 貴様とは一度決着をつけた身……勝負は決し、お前とは二度と拳を交えることはないと思っていた!」 ワムウのからだから闘気が立ち上り、あたりの瓦礫をビリビリと揺らした。 風が威嚇するように、仗助とジョセフの間を通り抜ける。 気を抜けば吹き飛ばされそうなほど、強烈な風だった。だが二人は微動だにしない。 ワムウの動きを見逃すまいと、神経を研ぎ澄まし、待っている。 「だが貴様がその気であるというのならッ 世代を超え、時を超え……再び俺と戦おうというのならッ!」 それ以上は不要だった。 ワムウは跳躍すると、二人に向かって弾丸のように迫っていった。 ジョセフが前に構え、仗助が後ろに回る。波紋を身にまといながらワムウを跳ね除けるようにいなす。 追撃とばかりに攻撃を重ねる。クレイジー・ダイヤモンドが軌道の逸れたワムウめがけ、思い切り拳を振るった。 「仗助、攻撃は俺に任せな! 柱の男に触れるとやばいぜ!」 「問題ないぜ、じじい……! 触れるからこそ『イイ』んだ。触れるからこそ……」 パワーAのスタンドに殴り飛ばされ、ワムウは壁へと叩きつけられた。 洞窟が揺れるほどの衝撃、一度の交戦で瓦礫が降ってくるほどの寸劇。 ジョセフの忠告に仗助は落ち着いた様子で返す。手についた肉片をなんの感慨もなく見つめ…… 「『なおす』ことができる」 吹き飛んだワムウのもとに、肉片が戻っていく。状況はワムウにとって圧倒的不利だった。 仗助とジョセフ。ともに実力は折り紙つきの二人。簡単な傷ならば治癒可能。時間をかけて戦ったならば、増援が駆けつける。 だがワムウはこれ以上ないほど愉快だった。今まで生きてきた中でこれほどまでに生きている、と実感したことはなかった。 死者を愚弄し、勝者を嘲笑ったスティーブン・スティールのことはもはやどうでもいい。 あえて言うならば……感謝するほどかもしれない。 これほどまでに愉快なことがあるか。これほどまでに素晴らしいことがあるか。 二人のツェペリ、波紋と鉄球。 二人のジョジョ、波紋とスタンド。 楽しい……・楽しいッ! 心の底から、腹のそこから笑えてくるほどに! ワムウは戦いを楽しんでいるッ! 「フフフフ……ハハハハハハ、ハァアアアハハハハハハッ!!」 がれきの山から体を起こし、高笑いとともにワムウが仗助とジョセフに突っ込んでいく。 仗助もジョセフも、隣に立つ男を頼りになると感じながら、拳を振るう。 戦いは始まる。血肉湧き踊る、最高で至高の戦いだ……! ▼ 「我ぁぁぁああああがゲルマン魂が作り出したこの体がぁああああああああ  一分間に600発の徹甲弾を発射しィィィイイ瓦礫の山を吹き飛ばしてくれるワァアア――――ッ!!」 「おい、待て。落ち着け……シュトロハイム」 がなるドイツ人をなだめながら噴上は暗闇に目を凝らした。 あたりの空気が変わったことに気づき、シュトロハイムもおとなしくする。 緊張感があたりを漂い、ぴりっと神経が張り詰めていく。噴上の目が暗闇に慣れ始めた。 いた。見間違いでなく、そこにはエニグマの少年が佇んでいた。 だが先までの怯えた面影は消えていた。影が落ち、力がみなぎり、戦う前の男の面構えをしている。 並々ならぬ凄みを感じながら噴上は鼻をヒクつかせる。少年の方に向かって、ゆっくりと進んだ。 宮本までの距離はおよそ十メートル強。ハイウェイ・スターで一撃を叩き込むには、まだ遠い。 「おっと、それ以上僕に近づくなよ」 噴上の足が止まる。シュトロハイムも動きを止めた。 銃を構えたわけでもない。ナイフを振りかざしたわけでもない。 宮本少年がポケットから取り出したのは一枚の紙。しかしそれだけで、足を止める理由は十分だった。 「僕は決して戦いたいわけじゃあない。生き残るために、戦うんだ」 「そこをどく気はねェようだな、紙使いの少年よォ……」 「噴上裕也、警告するようだが君の癖はまだ覚えているからな。  『顎を指でイジる』……それが君の癖だ。君を紙にすることは紙を破くよりもたやすい。  それを忘れないんだな」 「グダグダ言ってんじゃあねェぜッ!! 俺のハイウェイ・スターを舐めるなよッ!!  この距離ならてめェに一発ぶち込むのに五秒もかかんねぇ!  悪いこと言わねぇから、とっと尻尾巻いて逃げ出しな!  どうせあのワムウとかいう野郎にも脅されてるだけなんだろうがよ、このウスラチビがッ!」 噴上の言葉は事実だった。 宮本に課された仕事は二つ。ワムウの元まで仗助一行を連れ出すこと。ワムウの戦闘を邪魔しないよう、それ以外を足止めすること。 だが実際のところ、戦闘が始まってしまえば宮本には関係のないことだった。 噴上の言うとおり逃げ出してもいいだろう。それどころか、仗助たち側に寝返るのも一つの手であろう。 だが…… (こいつらはわかっていない……! あのワムウとかいう男の恐ろしを、強さを……!  仗助がいくら強くたって敵わない。今の僕にできることは、あのワムウに殺されないようにすることだけなんだ……ッ!) 恐怖に打ち勝つほど宮本は強くなかった。そして臆病で寝返るほどに弱くもなかった。 なまじワムウに感情があり、もしかしたら恐怖のサインを見抜けるのではと期待してしまったことも状況をこじらせた。 宮本はどっちつかずで、判断を下せない。現状維持の一手と八つ当たり気分で、宮本は噴上と対峙する。 「広瀬康一の癖を知ってるかい、噴上裕也」 「……なに?」 「康一の恐怖のサインは『まばたきを二度』だ。いろんな人がいるけど康一はその中でも随分と紙にしやすいやつさ。  そう、『こんなふう』にすぐに紙にできるほどね……」 バレたところで宮本に不利になる点はない。 少しのあいだおとなしくしていれば、ワムウの勝負が終わるまでの間、時間が稼げさえすれば。 噴上の顎先が震えた。彼にはその可能性を消しきれない。 ありえない話ではないのだ。急に姿を消した康一が『紙になっていない』と断言することは、できない。 遠くどこかで戦いの音が聞こえた。 噴上は黙っている。宮本は笑みを浮かべる。シュトロハイムは現状を理解できず、二人の顔を見比べる。 無音で、静かな戦いが始まる。ブラフ、勇気、決断。戦いが長引けば長引くほど、勝負は進んでいく。 はたして少年たちの決断は? ▼ 「くそったれ、完全に埋まってやがるッ! クソがッ!」 ガァァァァアンン、と鉄が震える音が響き、続けざまにもう一度聞こえた。 地下へと続く階段は完全に埋まってしまっていた。中の様子は伺えない。 掘り起こそうにも周りの建物が折り重なるように倒れていて、それも容易ではない。 エルメェスは八つ当たり気味に瓦礫の山の頂上に転がっていた鉄扉を蹴飛ばした。 くそったれ、ともう一度毒づく。仲間が無事かどうか、それすらもわからない。 後ろから足音が聞こえ、エルメェスは振り返った。 苦い顔したシーラEが近づいてくる。状況はどうやら思った以上切迫しているようだ。 「こっちもダメ。細い隙間が見えるけど、下手したら全部崩れるわ」 「とりあえず手分けして崩壊の少ないところを探そう。四人全員が身動きがとれない、ってことは考えにくい。  中と連携して瓦礫を取り除くのがベストだと思う」 「わかったわ」 二手に別れ、あたりの様子を探っていく。時折瓦礫を除いては崩壊具合を確かめ、また探る。 しばらく辺りには岩を放り投げる音と、悪態の声しか聞こえなかった。 エルメェスも次第に焦り始める。どこをどうさがしても、瓦礫の山と細い隙間しか見つからないように思えた。 「!」 エルメェスが立ち止まり、そして駆け出す。 瓦礫以外のものを初めて見つけた。灰色のコンクリートに映える、真っ赤な何かが目を引いた。 見間違えであってほしいのか、そうでないのか。それは明らかに人間の一部に思えた。 エルメェスの見間違いでないのなら……それは埋まった誰かの腕だけがそこにあるように思えた。 「待ってろ、今助けてやる!」 近づき、腕周りの瓦礫をキッスで除いていく。物音を聞きつけシーラEがこちらに向かっていくのが目に映った。 声をかける暇すら惜しい。キッスが地面を掘り進んでいく。 エルメェスは、今埋まっている人物が自分の知っている仲間でないことに気がついた。 だがそれが何だというのだ。誰だろうと助けない理由にはならない。掘り進めるスピードを上げる。完全に体が出るまであと少しだ。 「ダメよ、エルメェス!」 シーラEの声が聞こえた。エルメェスは掘り進める。 どうやら埋まっている人物は少年のようだ。小さな背中と腰の部分が見えてきた。 身動きが完全に取れないわけではないらしい。腕周りを彫り進めると、ガリガリ、と音が聞こえた。 「そいつは敵よ! そいつは……、ヴィットリオ・カダルディは! 危険な―――」 そして次の瞬間……キッスが少年を掘り起こした瞬間! 振り向きざまに一閃。エルメェスの胸を切り裂くようにナイフが横切った。 間一髪で身をかわし、しかし避けきれない刃が脇腹をえぐった。 鮮血が舞い、大きく後退する。コンクリートの上にポタリ、ポタリと血が落ちる。 シーラEの隣まで下がると、エルメェスはこれまで以上に、盛大に悪態を付いた。 「ようやく見つけた唯一の生存者がまさか敵だとはよォ……どんだけツイてねェんだ、アタシは」 「敵、というか狂犬ね。薬ヅケの精神異常者よ。手加減は無用、わかってるわね、エルメェス……」 二人はなんの打ち合わせもなく二手に分かれた。 シーラEが右、エルメェスが左だ。足場は瓦礫の山で、崩れやすい。 飛びかかるタイミングを揃えなければ各個撃破される。ビットリオを挟むように二人はジリジリ進む。 ビットリオは動かない。暗い、ぼんやりとした目で二人を見比べている。 現状を把握しきれえないものの、意識ははっきりとしているようだ。闘志も十分みなぎっている。 ヴィットリオはシーラEを知らない。ヴィットリオはエルメェスも、知らない。 だが……何か気に入らないから殺してやる。相手はどうやらやる気のようだ。なら、こっちもその気になってやろぉじゃあねぇか。 彼にとって、戦うにはそれだけで十分な理由なようだ。 ジリジリと焦れる時間が流れる。 飢えた狼が獲物を狙うよう、二人はヴィットリオの周りを円を描き、歩き続ける。 ヴィットリオも神経を研ぎ澄まし、集中する。下手な動きを見つければ容赦なく襲いかかるつもりだ。 手にしたドリー・タガーが輝いた。光の反射が目に飛び込み、一瞬だけ、シーラEの動きが止まった。 「!」 そして、その瞬間ッ! 二つの影が猛然と動き出す! ヴィットリオが豹のように飛びかかる。それを追うように、エルメェスも飛び出した。 自分の失態に遅まきながら気づき、シーラEはヴードゥー・チャイルドを構える。 きらめくナイフ、躍動するスタンド。命が飛び交うその瞬間……勝負の火蓋が、切って落とされた。 【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】 【ジョセフ・ジョースター】 [能力]:波紋 [時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4~8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ) [思考・状況] 基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。 0.ワムウに対処。 1.康一を追うことに同行 2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる [備考] エリナの遺体は救急車内に安置されています。いずれどこかに埋葬しようと思っています。 【東方仗助】 [スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』 [時間軸]:JC47巻、第4部終了後 [状態]:左前腕貫通傷(応急処置済) [装備]:ナイフ一本 [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す! 0.ワムウに対処 1.ジョセフ・ジョースター……親父とはまだ認めたくない(が、認めざるを得ない複雑な心境) 2.各施設を回り、協力者を集めたい 3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか? [備考] クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。 接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。 足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。 骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。 また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。 【ワムウ】 [能力]:『風の流法』 [時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前 [状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷 [装備]:なし [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。 0.二人のJOJOと戦う。 1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。 2.カーズ様には会いたくない。 3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。 4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。 [備考] ※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。   脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。 ※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。 【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】 【宮本輝之輔】 [能力]:『エニグマ』 [時間軸]:仗助に本にされる直前 [状態]:恐怖、左耳たぶ欠損 [装備]:コルト・パイソン [道具]:重ちーのウイスキー [思考・状況] 基本行動方針:死にたくない 0.時間を稼ぐ 1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。 2.ワムウの表情が心に引っかかっている [備考] ※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。 ※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。 【ルドル・フォン・シュトロハイム】 [能力]:サイボーグとしての武器の数々 [時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中 [状態]:健康 [装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体 [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発) [思考・状況] 基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊 1.現状への対処 【噴上裕也】 [スタンド]:『ハイウェイ・スター』 [時間軸]:四部終了後 [状態]:全身ダメージ(小) [装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%) [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。 0.現状への対処 1.康一を追うことに同行 2.各施設を回り、協力者を集める? 【B-4 古代環状列石(地上)/1日目 昼】 【ビットリオ・カタルディ】 [スタンド]:『ドリー・ダガー』 [時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから) [状態]:全身ダメージ(小)、肉体疲労(中~大)、精神疲労(中)、麻薬切れ [装備]:ドリー・ダガー [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済)、マッシモ・ヴォルペの麻薬 [思考・状況] 基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ 0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭 1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい 2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ! 【エルメェス・コステロ】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:スポーツ・マックス戦直前 [状態]:全身疲労(小)全身ダメージ(中) [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。 0.ビットリオに対処 1.康一を追うことに同行 2.まずは現状を把握したい 3.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。 [備考] ※他のメンバーと情報交換をしました。 【シーラE】 [スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』 [時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後 [状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(小) [装備]:ナランチャの飛び出しナイフ [道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの) [思考・状況] 基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ 0.ビットリオに対処 1.康一を追うことに同行 [備考] ※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。 ※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。 ※他のメンバーとの情報交換を行いました。 *投下順で読む [[前へ>レベルE]] [[戻る>本編 第2回放送まで]] [[次へ>嫌な相手との同行時における処世]] *時系列順で読む [[前へ>レベルE]] [[戻る>本編 第2回放送まで(時系列順)]] [[次へ>嫌な相手との同行時における処世]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |136:[[理由]]|[[ジョセフ・ジョースター]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[ルドル・フォン・シュトロハイム]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |134:[[ただならぬ関係]]|[[ワムウ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[東方仗助]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[噴上裕也]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |134:[[ただならぬ関係]]|[[宮本輝之輔]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[エルメェス・コステロ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[シーラE]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[Wake up people!]]|[[ビットリオ・カタルディ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]|
「見間違いじゃねーんだろうな?」 「いいや、確かだ。俺の視力は両目合わせて4.0よ、仗助ちゃん。絶対に絶対だ」 先頭を行く噴上は二人の会話を背中越しに聞き、顔をしかめた。 この二人、緊張感がなさすぎる……。細かく震える指先で顎をなで、はと思い直し視線を落とす。 いや、俺が必要以上にビビってるだけなのか……? 隣を歩くドイツ軍人は何も言わず、あたりを警戒している。ジョセフと仗助の会話には興味がないようだ。 いつもだったら大声で割って入りそうなものなのに。軍人特有のカンが危険、だと判断してるのだろうか。 戦場で生き残るのは本当に優秀な兵士と臆病者だけだ。 そんな言葉を思い出しながら、噴上はもう一度鼻を鳴らし、前に進んだ。 あたりは静まり返り、四人の歩く音だけが壁と天井にこだまする。 洞窟内は血の匂いが充満している。ただでさえ鼻が利く噴上には辛いことだった。 血の匂いにまぎれ潜んでいるであろう何者かの匂いを探そうと、鼻をひくつかせる。 鉄臭い臭いに吐き気がこみ上げるが、噴上は根性で我慢した。 六人は今二手に別れ、行動している。 クレイジー・ダイヤモンドで治療を施したといえエルメェスとシーラEはまだ本調子ではない。 体調を整える意味を込めてふたりは地上で待機。 一方主力であり、機動性のある四人は洞窟探索に出かけた。 二手に別れることに懸念はあったものの、康一のことを考えれば一刻の猶予もないと判断したのだった。 「視界が悪いな……。噴上、何か匂いは見つかったか」 「猟犬じゃねーんだよ、俺は。  ただでさえ地下で匂いがこもりがちだってのに、こんだけ血が広まってちゃそう簡単には見つかんねーよ」 シュトロハイムが一旦歩くのをやめ、四人は立ち止まる。シュトロハイムの問いかけに、噴上は苛立ちげに返した。 シュトロハイムは頷き、今度は問いかけるようにジョセフを見た。 ジョセフは肩をすくめ、手にしたペットボトルを突き出す。水面に異常なし。 付近に何者かが潜んでいる、ということはなさそうだった。 「ジョジョ、もう一度聞くが貴様が見かけた人影とは確かなんだろうなァ?」 「しつこいぜ、シュトロハイムッ! 見たって言ったら確かに見たんだ! そんなに俺が言う事信じられねぇかァ~~~?」 「普段の行いが知れるな」 四人が地下に潜ったのはジョセフが見かけたという人影を追ってのことだった。 康一を追うというのが当初の目的であったが、あまりに手がかりが少なすぎた。 [[マウンテン・ティム]]からの連絡はなく、噴上の鼻もあたりに臭いがありすぎてすぐには見つけられそうにもない。 そんな時にジョセフが怪しげな人影を見つけた、と言ったのであった。 そしてその人影を追って行き着いた先が地下だったのだが…… 「そろそろ放送の時間だし、戻ったほうがいいんじゃないスか」 沈黙を打ち破るように、仗助が言った。三人は苦々しい表情で頷くしかない。 あとは放送で康一とティムの名前が呼ばれないことを祈るしかない。 本格的な行動開始はそのあとだ。今来た道を戻り、四人は古代環状列石に続く階段を目指す。 その時……――― 「……止まれ」 三人を制するように噴上が手を上げる。鼻を鳴らしながらあたりを探っていた噴上の顔に影がおちる。 合図で四人は前方からの攻撃に備える。仗助とジョセフが後ろに下がり、シュトロハイムと噴上は前で構える。 おぼろげながら人影が洞窟先から浮かび上がってきた。足音も聞こえてくる。 歩幅は小さく、足取りは慎重だ。小柄な男性か、あるいは女性ぐらいのサイズ。 しかし四人は緊張を解かない。シュトロハイムが一瞬だけ背後を見渡した。後ろから近づく影、なし。 互いの顔がようやく見えるかそれぐらいのころ、人影がゆっくりと口を開いた。 幼げな男の声が、洞窟内に反響した。 「僕のことを覚えているだろう、[[東方仗助]]……」 「てめぇは……―――!」 だがその先は続かなかった。目の前に立つ少年が醸し出す不気味さを上回る、なにかが仗助の背中を刺した。 背後から突然湧き上がった威圧感に、仗助は思わず振り返り、そして息を飲んだ。 噴上もシュトロハイムも気がついていない。突然現れた少年に目を凝らし、『それ』の存在に気がついていない。 さっきまで誰もいなかったはずの背後に突然現れたのは……筋骨隆々、圧倒的存在感を醸し出す、一人の戦士ッ! 「ワムウッ!」 ジョセフが叫び、飛び出そうとしたが全ては時すでに遅し。 仗助が二人を突き飛ばし、ジョセフが距離を詰めようと駆ける。だがすでに[[ワムウ]]の行動は終わっていた。 蹴り一閃。トンネルの天井を突き破るような一撃があたりを揺るがし、石屑が雨のように降り注ぐ。 砂埃が立ち、瓦礫が押しつぶさんと襲いかかり、そして……――― 四人は完全に分担されてしまった。それを見たワムウは、怪しげな笑みを浮かべていた。 ▼ 背後には岩、前方には柱の男。 戦闘態勢に入ったワムウを見て、仗助は背中を汗が伝っていくのを感じた。 圧倒的担力。圧倒的存在感。本能的にわかってしまう。 もし俺がこの男と戦ったならば……タダでは済まないだろうということに。 しかし仗助は焦らなかった。 恐怖心を感じる一方で、絶対的な『自信』も存在していた。 心を落ち着かせるように、櫛を取り出しリーゼントを整える。 逃げ場が無い中、一向に構えを取らない仗助に対しワムウがドスを効かせ、言葉を吐いた。 「さぁ、構えろ。そして来るがいい。  お前のスタンドとこのワムウの『風の流法』……どちらが優れているか、測ってみようではないか!」 「えーーっと、つまりアンタ、俺と戦いたいってことスかね」 「そうだ」 「正々堂々、真っ向勝負?」 「うむ」 「フェアースポーツ精神にのとった、爽やかで、裏みあいっこなしの本番勝負一本、みたいな?」 「くどいぞ、東方仗助ッ! もはや貴様に選択権は無しッ!  構えろッ! そしてかかってこいッ! もしも来ないというのであれば……」 「なるほど、洞窟内に無理やり閉じ込めて、理想的な対戦環境を整える、と。  こりゃ大したもんですよ。グレートな作戦ッスねェ~~~……」 その瞬間、仗助の背後の岩が宙に浮かんだ。 ビデオを逆回しにしていくように、崩れた天井へと吸い込まれていく瓦礫。 そして、瓦礫の隙間にすべり込ませるように体をねじ込んでいた……[[ジョセフ・ジョースター]]がそこにいたッ! 「ただ一点、俺が素直に一対一を望むようなお利口さんじゃない、ってところを除けばな!」 驚き、目を見張るワムウを尻目にジョセフが立ち上がる。 イタズラがうまくいった悪ガキのような表情を浮かべながら、ジョセフは隣に立った少年を横目で眺めた。 そっくりだ、と思った。素直じゃないところ、意地汚いところ、皮肉屋なところ、相手の裏をかく頭の回転の良さ。 これが血筋というものなのだろうか。実感はないが、なんとなく、心でそれを理解した。 背中をくすぐられたような居心地の悪さもあったが、だがそれ以上に安心感を感じた。 あの柱の男ワムウを前にしても、ジョセフはなぜだか負ける気がしなかった。 「仗助ちゃーん、ナイスよ、ナイスぅ~~! この調子でさっさと全部、戻しちゃいな。  俺がいれば全部大丈夫~~って言いたいところだけど、味方が多いに越したことはないからねェー!」 「そうしたいところだけどよ、目の前のこいつが許してくれそうにもないんスよね~~」 「なぁに、それなら仕方ない」 なぜだかたまらないほど頬が緩む。 ニヤついた表情で仗助を小突くと、仗助も釣られてニヤリと笑った。 笑いの伝染は広がり、ワムウすらも可笑しそうにニヤついている。 誰もが理解している。そして心の底、どこかでそれを望んでいる。 ジョセフの全身から薄い光が立ち上る。腹のそこから吹き出すような呼吸音。 体を半身に構え、両手をねじるような構えを取る。 仗助がスタンドを呼び出すと、ジョセフに並び立つように隣に立った。 ポケットから櫛を取り出し、いつもどおり髪型を整える。戦いの前の儀式のようなものだ。 「ジョジョ! 貴様とは一度決着をつけた身……勝負は決し、お前とは二度と拳を交えることはないと思っていた!」 ワムウのからだから闘気が立ち上り、あたりの瓦礫をビリビリと揺らした。 風が威嚇するように、仗助とジョセフの間を通り抜ける。 気を抜けば吹き飛ばされそうなほど、強烈な風だった。だが二人は微動だにしない。 ワムウの動きを見逃すまいと、神経を研ぎ澄まし、待っている。 「だが貴様がその気であるというのならッ 世代を超え、時を超え……再び俺と戦おうというのならッ!」 それ以上は不要だった。 ワムウは跳躍すると、二人に向かって弾丸のように迫っていった。 ジョセフが前に構え、仗助が後ろに回る。波紋を身にまといながらワムウを跳ね除けるようにいなす。 追撃とばかりに攻撃を重ねる。クレイジー・ダイヤモンドが軌道の逸れたワムウめがけ、思い切り拳を振るった。 「仗助、攻撃は俺に任せな! 柱の男に触れるとやばいぜ!」 「問題ないぜ、じじい……! 触れるからこそ『イイ』んだ。触れるからこそ……」 パワーAのスタンドに殴り飛ばされ、ワムウは壁へと叩きつけられた。 洞窟が揺れるほどの衝撃、一度の交戦で瓦礫が降ってくるほどの寸劇。 ジョセフの忠告に仗助は落ち着いた様子で返す。手についた肉片をなんの感慨もなく見つめ…… 「『なおす』ことができる」 吹き飛んだワムウのもとに、肉片が戻っていく。状況はワムウにとって圧倒的不利だった。 仗助とジョセフ。ともに実力は折り紙つきの二人。簡単な傷ならば治癒可能。時間をかけて戦ったならば、増援が駆けつける。 だがワムウはこれ以上ないほど愉快だった。今まで生きてきた中でこれほどまでに生きている、と実感したことはなかった。 死者を愚弄し、勝者を嘲笑ったスティーブン・スティールのことはもはやどうでもいい。 あえて言うならば……感謝するほどかもしれない。 これほどまでに愉快なことがあるか。これほどまでに素晴らしいことがあるか。 二人のツェペリ、波紋と鉄球。 二人のジョジョ、波紋とスタンド。 楽しい……・楽しいッ! 心の底から、腹のそこから笑えてくるほどに! ワムウは戦いを楽しんでいるッ! 「フフフフ……ハハハハハハ、ハァアアアハハハハハハッ!!」 がれきの山から体を起こし、高笑いとともにワムウが仗助とジョセフに突っ込んでいく。 仗助もジョセフも、隣に立つ男を頼りになると感じながら、拳を振るう。 戦いは始まる。血肉湧き踊る、最高で至高の戦いだ……! ▼ 「我ぁぁぁああああがゲルマン魂が作り出したこの体がぁああああああああ  一分間に600発の徹甲弾を発射しィィィイイ瓦礫の山を吹き飛ばしてくれるワァアア――――ッ!!」 「おい、待て。落ち着け……シュトロハイム」 がなるドイツ人をなだめながら噴上は暗闇に目を凝らした。 あたりの空気が変わったことに気づき、シュトロハイムもおとなしくする。 緊張感があたりを漂い、ぴりっと神経が張り詰めていく。噴上の目が暗闇に慣れ始めた。 いた。見間違いでなく、そこにはエニグマの少年が佇んでいた。 だが先までの怯えた面影は消えていた。影が落ち、力がみなぎり、戦う前の男の面構えをしている。 並々ならぬ凄みを感じながら噴上は鼻をヒクつかせる。少年の方に向かって、ゆっくりと進んだ。 宮本までの距離はおよそ十メートル強。ハイウェイ・スターで一撃を叩き込むには、まだ遠い。 「おっと、それ以上僕に近づくなよ」 噴上の足が止まる。シュトロハイムも動きを止めた。 銃を構えたわけでもない。ナイフを振りかざしたわけでもない。 宮本少年がポケットから取り出したのは一枚の紙。しかしそれだけで、足を止める理由は十分だった。 「僕は決して戦いたいわけじゃあない。生き残るために、戦うんだ」 「そこをどく気はねェようだな、紙使いの少年よォ……」 「[[噴上裕也]]、警告するようだが君の癖はまだ覚えているからな。  『顎を指でイジる』……それが君の癖だ。君を紙にすることは紙を破くよりもたやすい。  それを忘れないんだな」 「グダグダ言ってんじゃあねェぜッ!! 俺のハイウェイ・スターを舐めるなよッ!!  この距離ならてめェに一発ぶち込むのに五秒もかかんねぇ!  悪いこと言わねぇから、とっと尻尾巻いて逃げ出しな!  どうせあのワムウとかいう野郎にも脅されてるだけなんだろうがよ、このウスラチビがッ!」 噴上の言葉は事実だった。 宮本に課された仕事は二つ。ワムウの元まで仗助一行を連れ出すこと。ワムウの戦闘を邪魔しないよう、それ以外を足止めすること。 だが実際のところ、戦闘が始まってしまえば宮本には関係のないことだった。 噴上の言うとおり逃げ出してもいいだろう。それどころか、仗助たち側に寝返るのも一つの手であろう。 だが…… (こいつらはわかっていない……! あのワムウとかいう男の恐ろしを、強さを……!  仗助がいくら強くたって敵わない。今の僕にできることは、あのワムウに殺されないようにすることだけなんだ……ッ!) 恐怖に打ち勝つほど宮本は強くなかった。そして臆病で寝返るほどに弱くもなかった。 なまじワムウに感情があり、もしかしたら恐怖のサインを見抜けるのではと期待してしまったことも状況をこじらせた。 宮本はどっちつかずで、判断を下せない。現状維持の一手と八つ当たり気分で、宮本は噴上と対峙する。 「広瀬康一の癖を知ってるかい、噴上裕也」 「……なに?」 「康一の恐怖のサインは『まばたきを二度』だ。いろんな人がいるけど康一はその中でも随分と紙にしやすいやつさ。  そう、『こんなふう』にすぐに紙にできるほどね……」 バレたところで宮本に不利になる点はない。 少しのあいだおとなしくしていれば、ワムウの勝負が終わるまでの間、時間が稼げさえすれば。 噴上の顎先が震えた。彼にはその可能性を消しきれない。 ありえない話ではないのだ。急に姿を消した康一が『紙になっていない』と断言することは、できない。 遠くどこかで戦いの音が聞こえた。 噴上は黙っている。宮本は笑みを浮かべる。シュトロハイムは現状を理解できず、二人の顔を見比べる。 無音で、静かな戦いが始まる。ブラフ、勇気、決断。戦いが長引けば長引くほど、勝負は進んでいく。 はたして少年たちの決断は? ▼ 「くそったれ、完全に埋まってやがるッ! クソがッ!」 ガァァァァアンン、と鉄が震える音が響き、続けざまにもう一度聞こえた。 地下へと続く階段は完全に埋まってしまっていた。中の様子は伺えない。 掘り起こそうにも周りの建物が折り重なるように倒れていて、それも容易ではない。 エルメェスは八つ当たり気味に瓦礫の山の頂上に転がっていた鉄扉を蹴飛ばした。 くそったれ、ともう一度毒づく。仲間が無事かどうか、それすらもわからない。 後ろから足音が聞こえ、エルメェスは振り返った。 苦い顔したシーラEが近づいてくる。状況はどうやら思った以上切迫しているようだ。 「こっちもダメ。細い隙間が見えるけど、下手したら全部崩れるわ」 「とりあえず手分けして崩壊の少ないところを探そう。四人全員が身動きがとれない、ってことは考えにくい。  中と連携して瓦礫を取り除くのがベストだと思う」 「わかったわ」 二手に別れ、あたりの様子を探っていく。時折瓦礫を除いては崩壊具合を確かめ、また探る。 しばらく辺りには岩を放り投げる音と、悪態の声しか聞こえなかった。 エルメェスも次第に焦り始める。どこをどうさがしても、瓦礫の山と細い隙間しか見つからないように思えた。 「!」 エルメェスが立ち止まり、そして駆け出す。 瓦礫以外のものを初めて見つけた。灰色のコンクリートに映える、真っ赤な何かが目を引いた。 見間違えであってほしいのか、そうでないのか。それは明らかに人間の一部に思えた。 エルメェスの見間違いでないのなら……それは埋まった誰かの腕だけがそこにあるように思えた。 「待ってろ、今助けてやる!」 近づき、腕周りの瓦礫をキッスで除いていく。物音を聞きつけシーラEがこちらに向かっていくのが目に映った。 声をかける暇すら惜しい。キッスが地面を掘り進んでいく。 エルメェスは、今埋まっている人物が自分の知っている仲間でないことに気がついた。 だがそれが何だというのだ。誰だろうと助けない理由にはならない。掘り進めるスピードを上げる。完全に体が出るまであと少しだ。 「ダメよ、エルメェス!」 シーラEの声が聞こえた。エルメェスは掘り進める。 どうやら埋まっている人物は少年のようだ。小さな背中と腰の部分が見えてきた。 身動きが完全に取れないわけではないらしい。腕周りを彫り進めると、ガリガリ、と音が聞こえた。 「そいつは敵よ! そいつは……、ヴィットリオ・カダルディは! 危険な―――」 そして次の瞬間……キッスが少年を掘り起こした瞬間! 振り向きざまに一閃。エルメェスの胸を切り裂くようにナイフが横切った。 間一髪で身をかわし、しかし避けきれない刃が脇腹をえぐった。 鮮血が舞い、大きく後退する。コンクリートの上にポタリ、ポタリと血が落ちる。 シーラEの隣まで下がると、エルメェスはこれまで以上に、盛大に悪態を付いた。 「ようやく見つけた唯一の生存者がまさか敵だとはよォ……どんだけツイてねェんだ、アタシは」 「敵、というか狂犬ね。薬ヅケの精神異常者よ。手加減は無用、わかってるわね、エルメェス……」 二人はなんの打ち合わせもなく二手に分かれた。 シーラEが右、エルメェスが左だ。足場は瓦礫の山で、崩れやすい。 飛びかかるタイミングを揃えなければ各個撃破される。ビットリオを挟むように二人はジリジリ進む。 ビットリオは動かない。暗い、ぼんやりとした目で二人を見比べている。 現状を把握しきれえないものの、意識ははっきりとしているようだ。闘志も十分みなぎっている。 ヴィットリオはシーラEを知らない。ヴィットリオはエルメェスも、知らない。 だが……何か気に入らないから殺してやる。相手はどうやらやる気のようだ。なら、こっちもその気になってやろぉじゃあねぇか。 彼にとって、戦うにはそれだけで十分な理由なようだ。 ジリジリと焦れる時間が流れる。 飢えた狼が獲物を狙うよう、二人はヴィットリオの周りを円を描き、歩き続ける。 ヴィットリオも神経を研ぎ澄まし、集中する。下手な動きを見つければ容赦なく襲いかかるつもりだ。 手にしたドリー・タガーが輝いた。光の反射が目に飛び込み、一瞬だけ、シーラEの動きが止まった。 「!」 そして、その瞬間ッ! 二つの影が猛然と動き出す! ヴィットリオが豹のように飛びかかる。それを追うように、エルメェスも飛び出した。 自分の失態に遅まきながら気づき、シーラEはヴードゥー・チャイルドを構える。 きらめくナイフ、躍動するスタンド。命が飛び交うその瞬間……勝負の火蓋が、切って落とされた。 【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】 【ジョセフ・ジョースター】 [能力]:波紋 [時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:首輪、[[基本支給品]]×4、不明支給品4~8(全未確認/[[アダムス]]、ジョセフ、[[母ゾンビ]]、エリナ) [思考・状況] 基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。 0.ワムウに対処。 1.康一を追うことに同行 2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる [備考] エリナの遺体は救急車内に安置されています。いずれどこかに埋葬しようと思っています。 【東方仗助】 [スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』 [時間軸]:JC47巻、第4部終了後 [状態]:左前腕貫通傷(応急処置済) [装備]:ナイフ一本 [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す! 0.ワムウに対処 1.ジョセフ・ジョースター……親父とはまだ認めたくない(が、認めざるを得ない複雑な心境) 2.各施設を回り、協力者を集めたい 3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか? [備考] クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。 接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。 足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。 骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。 また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。 【ワムウ】 [能力]:『風の流法』 [時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前 [状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷 [装備]:なし [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。 0.二人のJOJOと戦う。 1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。 2.[[カーズ]]様には会いたくない。 3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。 4.12時間後、『DIOの館』で[[J・ガイル]]と合流。 [備考] ※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。   脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。 ※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。 【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】 【[[宮本輝之輔]]】 [能力]:『エニグマ』 [時間軸]:仗助に本にされる直前 [状態]:恐怖、左耳たぶ欠損 [装備]:コルト・パイソン [道具]:重ちーのウイスキー [思考・状況] 基本行動方針:死にたくない 0.時間を稼ぐ 1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。 2.ワムウの表情が心に引っかかっている [備考] ※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。 ※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。 【[[ルドル・フォン・シュトロハイム]]】 [能力]:サイボーグとしての武器の数々 [時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中 [状態]:健康 [装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体 [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、[[ドルド]]のライフル(5/5、予備弾薬20発) [思考・状況] 基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊 1.現状への対処 【噴上裕也】 [スタンド]:『ハイウェイ・スター』 [時間軸]:四部終了後 [状態]:全身ダメージ(小) [装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%) [道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。 0.現状への対処 1.康一を追うことに同行 2.各施設を回り、協力者を集める? 【B-4 古代環状列石(地上)/1日目 昼】 【[[ビットリオ・カタルディ]]】 [スタンド]:『ドリー・ダガー』 [時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから) [状態]:全身ダメージ(小)、肉体疲労(中~大)、精神疲労(中)、麻薬切れ [装備]:ドリー・ダガー [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済)、[[マッシモ・ヴォルペ]]の麻薬 [思考・状況] 基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ 0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭 1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい 2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ! 【[[エルメェス・コステロ]]】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:[[スポーツ・マックス]]戦直前 [状態]:全身疲労(小)全身ダメージ(中) [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。 0.ビットリオに対処 1.康一を追うことに同行 2.まずは現状を把握したい 3.徐倫、[[F・F]]、姉ちゃん……ごめん。 [備考] ※他のメンバーと情報交換をしました。 【[[シーラE]]】 [スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』 [時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後 [状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(小) [装備]:ナランチャの飛び出しナイフ [道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの) [思考・状況] 基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ 0.ビットリオに対処 1.康一を追うことに同行 [備考] ※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。 ※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。 ※他のメンバーとの情報交換を行いました。 *投下順で読む [[前へ>レベルE]] [[戻る>本編 第2回放送まで]] [[次へ>嫌な相手との同行時における処世]] *時系列順で読む [[前へ>レベルE]] [[戻る>本編 第2回放送まで(時系列順)]] [[次へ>嫌な相手との同行時における処世]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |136:[[理由]]|[[ジョセフ・ジョースター]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[ルドル・フォン・シュトロハイム]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |134:[[ただならぬ関係]]|[[ワムウ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[東方仗助]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[噴上裕也]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |134:[[ただならぬ関係]]|[[宮本輝之輔]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[エルメェス・コステロ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[理由]]|[[シーラE]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]| |136:[[Wake up people!]]|[[ビットリオ・カタルディ]]|163:[[星環は英雄の星座となるか?]]|

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