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Tangled Up - (2020/08/23 (日) 22:20:39) の1つ前との変更点

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――ボスが姿を現した。 その噂はギャング組織、パッショーネ内を電撃のように駆け巡り、多く……いや、ほぼ全ての者に驚愕をもたらした。 さらにその正体が若干15歳の少年とくれば、すさまじい混乱の渦が巻き起こったであろうことは想像に難くない。 そんな混乱を意にも介さず……むしろそれに乗じたというべきか。 若きボス――ジョルノ・ジョバァーナは大胆に、且つ迅速に組織を統率していったのだが…… その手腕を見てなお、全員が納得したわけではなかった。 わかりやすい例を挙げれば、組織の創立は何年前で当時彼は幾つだったと思っているのか、といったもの。 そんな声が密かに、しかしあちこちで上がるのもある意味当然なほどジョルノは『若すぎた』。 そのような声が『不信』に変わり、真実か否か探ろうとする者が現れるまで時間はかからなかった。 無論、組織においてボスの正体を探ることが何を意味するかは周知の事実。 だがこの一件はそれを踏まえてなお、調べる価値があると判断されたのである。 万が一ジョルノが『偽物』だった場合、個人の立場どころか組織全体がひっくり返りかねないのだから。 飛び交う噂やその出所から真実を突き止めようとした者。 部下や情報屋に金や権力を使って探らせた者。 自らボスへと近づいて探りを入れた者。 手段は様々だが、ボス側に悟られぬよう密かに……それだけは共通して、決して少なくない人数が動き出した。 しかし、彼らの『調査』は早々に行き詰る。 ――ジョルノ・ジョバァーナ、これはイタリアで名乗っている名前であり本名は汐華初流乃。    現在ネアポリス地区の高校に在学、同学校の寮に住む15歳の学生。    一見普通の少年だが裏では『いろいろ』やっており、他ならぬパッショーネに目をつけられたこともある。    母親は日本人、父親はイタリア人だがこちらは義父。    どちらも碌に面倒を見なかったため親でさえ彼の細かい行動についてはよく知らない―― そんな公言されている当たり障りのない事実だけで満足できるはずもないが、そこから先が出てこない。 手掛かりといえそうなのは「理由は不明だが、彼は幼い頃からギャングと関わっていた」という程度。 結局、深入りを避けた者は関係あるんだかないんだか……そんな宙ぶらりんな情報しか入手できなかった。 ならば、と幾人かは別方面からの調査を試みた。 彼のルーツ……本来の父親から何か足取りを掴めないかとはるばる海外まで足を運んだのである。 だが、この父親も父親でまた謎の存在であった。 単にネアポリスでの聞き込みだけで、顔も名前も住んでいた地域もあっさり判明する。 にもかかわらず、現地の人間からも記録からも何故かその父親の情報がまったく出てこない。 そして、手間取っているうちに彼らはその地で妙な集団に囲まれ、こう質問されるのだ。               「――何故、『彼』のことを調べているのですか?」 その相手が最近組織と提携した、とある財団の人間だとわかればそこまで……泡を食って逃げ帰るほかない。 即座に身を隠す、あるいは依頼主へ調査結果と「これ以上は無理だ、オレもあんたもヤバイ」という言葉だけ残して去っていった。 ……とまあ、だいたいの者は何の成果も得られずに終わったのだが、これらはあくまで一般的な調査の範疇。 組織の一部において重要視されていた『スタンド能力』を扱う者たちを忘れてはならない。 無論ほとんどの者はそもそも動かないか、または能力的、立場的に独力で動かざるを得なかったのだが…… カンノーロ・ムーロロも動いた人間、そのうちの一人。 自分の命すら惜しくない彼は大胆にもそのスタンド能力でジョルノ本人をマークするという手段に出た。 物陰や地面、壁の隙間から……気づかれないようにではあったが、逐一彼の行動を監視させたのである。 結論から言えば、ムーロロもまた決定的な証拠は得られなかった。 それどころか逆に暗殺チームに情報を流していた事実をつかまれ、後に彼はボスから呼び出される。 そこで「ぼくにもプライベートはある」と告げられたことで彼の監視は終わりを迎えるのだが…… その対峙が行われたのはこの殺し合いが起こらなかった、まったく別の世界での話。 ――――結局、少なくない人数が動いたにもかかわらず『真相』にたどり着いた者はひとりとしていなかった。 だが逆にその事実でこれまで通りの『謎のボス』に箔がつき、次第に本物だ偽物だという声も消えていった。 カンノーロ・ムーロロは、これからそんな謎のボスと『初めて』顔を合わせることになる――― # C-3、DIOの館……その門前。 D-2から近くの橋を渡り、そのまま北東へ進んできたのはジョルノ・ジョバァーナとジョセフ・ジョースター…… 彼らは先ほど探知した『敵の敵』と接触するべく、回復も兼ねてやや時間を掛けつつもここに来ていた。 完全に同時というわけではなかったが、C-3とD-3の境目にある橋を南下したジョニィ達とすれ違って。 「――――よう、待ってたぜ」 「「……!」」 だがいざ館内へ入ろうとした矢先に彼らは出鼻を挫かれる。 中から無造作に門を開け、姿を見せたのは彼らの来訪を既に察知していたカンノーロ・ムーロロ。 目的の人物があまりにも堂々と登場したことに二人は一瞬気を取られ、相手に口を開く隙を与えてしまう。 「あー、言いたいことは山ほどあるだろうが、堂々と密会ってのもアレだ、こいつの中で話そう」 「……それは」 差し出されたのはムーロロ自身がここまで持ってきた『亀』。 説明しようともせず、さっさとその中へ吸い込まれるように入っていく。 返事すら待たない一方的、されど断れない提案により即座に会話のペースはムーロロに握られた。 ……しかし。 「いかにも罠ですってカンジだが……脳ミソ足りてねーな。ケケケ、それじゃあさっそく亀ごと――」 「待ってくださいジョセフ、ぼくはこの亀を知っている……入るだけなら何も問題ないでしょう。  彼についてはまだわかりませんが――周囲には誰もいませんよね?」 「ん? おう、そりゃあ問題ねーぜ」 「……では、ここはあえて相手の懐に飛び込んでみましょう。  おそらくですが、相手がこうして姿を見せたこと自体追い詰められている証拠でしょうから」 残された二人だったが、これしきのことではうろたえない。 頭脳派な彼ららしくまずは意見交換と周囲の警戒、同時にそれでいて迅速に行動を決めようとする。 ……それすら、ジョルノは亀を知っているという事実を逆手に取ったムーロロの策とも知らず。 さらに、続くジョセフの言葉が思考をより複雑にしていく。 「いや、そうとは限らねえぜ……おれ、あいつと前に一度会ってる」 「……前に、ですか?」 ジョセフにとってはあまり思い出したくない出来事ではあったが…… 無念な結果に終わってしまったものの、負傷した祖母エリナを救うため助言をもらったのは事実。 「夜が明けた頃だ……名乗りもしねえで勝手なこと言ってたが、おれを助けてくれた……ことには一応なる。  おかげで仗助たちとも会えたし、ちっとばかし借りが出来ちまってんだよな……  それとあいつはおめー……いや、おめーだけじゃなく仗助やDIOのことまでよく知ってるようだったぜ」 「成程……ぼくらを『待っていた』ようですし、あなたの借りも含めて一筋縄ではいきそうにないですね……  ですが、そうなるとなおさらここで退くわけにはいきません。さあ、ぼくについてきてください」 「出たとこ勝負ってわけか、チト不安は残るが……よーし、乗ったぜ」 自分たちの素性も、ここへ来ることも知られていた――情報戦に関しては既に完敗。 さらにこのまま交渉に入ってもジョセフの借りがある以上最初から不利であることは否めない。 しかし、だからこそ敵か味方かもわからぬ彼を放置しておくわけにはいかないと二人は決断した。 まずジョルノが亀の中へと入り、真似してジョセフが続く。 中に広がる空間にジョルノは多少の警戒、ジョセフはそれに物珍しさも合わさって視線を動かしていたが…… すぐに彼らの視線は正面のソファーにどっかりと腰掛ける伊達男――ムーロロへと移る。 「ようこそ……ここには上座も下座もねえから席はご自由に。  飲み物は……あー、さすがに飲んでる場合じゃあ――」 「おれはコーラで」 「………………おう」 互いに臆すような気配など微塵も見せず、ジョルノとジョセフは揃ってソファーに腰を下ろす。 まずはどちらも沈黙……ムーロロの出方を待っていた。 「もう知ってるかもしれんが、フェアということで一応名乗らせてもらうぜ。  オレはカンノーロ・ムーロロ。組織の情報分析チームを任されてる……あー、この辺の説明はいらねえかな」 「「……」」 返事すらせず、黙って睨む……というより胡散臭い目で見ているといった感じだろうか。 亀の外での話し合いで、ジョルノもジョセフもこの相手に自己紹介など必要ないと理解していた。 それを裏付けるかのように、ムーロロ側に警戒は最小限しか見られない。 何もしないうちにいきなり自分が殺されはしないという確固たる自信があるかのようだった。 「さっそくだが本題に入らせてもらうぜ……カーズを倒すのに手を貸してほしい」 「理由は」 「残る参加者の中で、積極的に殺しまわってるのはもうあいつひとりだけ……  つまりあいつさえなんとかしちまえば、あとは全員で協力して……わかるな?」 「戦略は」 「まず、やつは第四放送時に会場の中央に現れる――こいつは確かな情報だ。  そして戦力の提供はできるんだが、策はない……むしろそっちにあるんじゃあないか、なあジョセフ?」 「……え、おれ?」 ジョルノの無駄を削ぎ落した質問と、予測しているかのようにすらすら返すムーロロ。 そんな二人が織りなす超スピードの会話の最中、突如話を振られてジョセフは面食らう。 柱の男についてほとんど知らないジョルノも一旦口を閉じ、そちらに注意を向けた。 「その前によ……殺しまわってるのがカーズだけとか言ってたが、厄介な奴は他にもいるぜ?」 「あー、ワムウのことか? そっちはちょっと前に別のやつと相討ちになった、何も問題ねえ」 「……マジかよ」 相手の把握する状況について指摘したつもりがさらりと返されてしまい思わず絶句…… だがそれでも、カーズの話題となれば自分以外に語るものはいないということで頭に手を当てつつ喋り始める。 「……あいつは、ひとをだますのが得意なスンゲー悪趣味なやつだぜ……  だから事前の戦法は決めねえ方がいい……決まった動きしかできねえんじゃあ速攻やられちまう……」 「もう少し具体的に……弱点とかねえのか?」 「そりゃ簡単、あいつはズバリ太陽の光に弱いぜ…もっとも、この時間じゃあ無いものねだりだけどよ……  おれの波紋はそれと同等のエネルギーだから、そいつを叩きこめりゃ有効だ……叩きこめりゃ、な」 「……オメー、質問の意味わかってるか? 結局オレたちにはどう戦えってんだ?」 あれも駄目、これも駄目……素か挑発かは不明だが建設的な意見が出てこない。 うんざりした声で問われたジョセフはしばし逡巡する。 一度は勝利した彼といえど、カーズ相手に楽勝!となるような方法などまったく思い浮かばなかった。 「そこなんだよなあ……なあ、こっそりあいつの首輪爆破できたりしねえ?」 「……それができるなら、わざわざオメーらにこんな話持ちかける必要なんざねーだろ」 「ケッ、偉そうにしといて結局人任せかよ……  はっきり言っとくけどあいつに波紋無しで挑むのは無謀だぜ、触っただけでアウトだからな……  そっちが提供する戦力に波紋を使えるやつは?」 ジョセフの質問に、ここで初めて考え込むようなしぐさを見せるムーロロ。 今現在ジョセフを除けば残る波紋使いは二人、彼らの居場所もだいたいわかっている。 だがジョナサンはムーロロ側が提供するわけではないし、シーザーはそもそもフーゴの味方で協力は難しい。 それらを正直に言うこともできない以上、ムーロロの回答は―― 「…………いねえな、今のところひとりもいねえ……残念ながらな」 「では、正面からの接近戦は避ける方向で――」 「オイオイジョルノくん、だれかお忘れでないかね? 具体的にはきみの目の前にいるナイスガイとかねぇ……」 ……一瞬の沈黙。 「……何?」 「……ジョセフ、それは――」 「心配ご無用! 知ってんだろ? こう見えてもボクちゃん、あいつに一度勝ってるもんねぇ~」 ジョセフの提案を理解したうえで、なお納得しかねるムーロロとジョルノ。 彼は単なる(で片づけるにはいささか疑問だが)吸血鬼であるDIO相手にすら苦戦している。 今度の相手はより上位の存在である柱の男、しかも今はジョナサンを欠いてひとりきり。 過去の実績は聞いているものの……やはり、実際見るのと聞くだけなのでは受け止め方が違うのだ。 「なんだねその目は、ひょっとして疑ってる? 自慢じゃあねーが、元々柱の男は四人とも俺が倒したんだぜ!  それに今なら奥の手もあるし、ダイジョーブよぉ~ん」 「…………奥の手ってのは?」 「チッチッチッ、わかっちゃいないねえ……秘密だからこその奥の手だぜ?」 「……やれやれ、まあだいたい予想はつくけどな……今はそれに賭けるしかねえか」 見ている方が不安になるほど軽い態度に疑惑のまなざしが突き刺さるが、ジョセフは意に介さない。 何か言いたそうなジョルノに対しムーロロは先手を取り、言った。 「それじゃあ後の細かいことはこっちで話し合っとくから……  ジョセフ、オメーは外に出てこの亀を持って会場の中央に向かってもらおうか」 「……オイ待て、なんでおれが――」 「カーズの時間指定は第四放送時、あと一時間ちょっとしかねえ。  ところがこの亀は自力じゃあ文字通り亀の歩みなのさ……  オレはジョルノと策とか連携とか話し合わなくちゃならねえし、亀をもって走れるのはオメーだけってわけだ。  ほら、急がねーと間に合わねえぜ? さっきの情報提供と合わせて貸しのひとつは無しにしてやるからよ」 さっさと行け、とばかりに手で追いやるような仕草を見せるムーロロ。 当然そんな扱いにジョセフが黙っているわけもなく―― 「てめー、このおれを顎で使おうって――」 「ジョセフ、言う通りにしてください」 ――横から口をはさんだのはジョルノ。 相手の思惑はともかく、下手すると時間どころか全てが『無駄』になるのは彼としても避けたかった。 「カーズが現れるのは第四放送時の会場中央、つまり空条邸の近く……この意味が分かりますね?」 「……チッキショ~! 揃って澄ました顔で労働強制しやがってっ!  これから敵と戦いますって人に無駄な体力使わせんじゃねーッ!」 「おう、落としたりすんじゃあねーぞぉ?」 ジョルノの最低限のフォロー――自分たちが間に合わなければ待ち合わせをした仲間たちが危険に晒される。 それを理解したジョセフは文句を言いながらも亀の外へと出ていった。 ……残ったのは、二人のギャング。 「――――あー、話はまとまった。今現場に向かってる……オメーも第四放送までに来い」 「…………盛り上がってるところすみませんが」 ムーロロは帽子からトランプのカードを取り出すと、それに向かって喋る……勿論一人芝居ではない。 もはや能力を隠そうともせず、おそらくは先ほど言った『戦力』の誰かに連絡しているのだろう。 ジョルノはそんな彼を黙って眺めていたが、連絡が終わったのかカードを離したムーロロに向かい――        「――――ぼくらはまだ、あなたに協力するなんて言った覚えはありませんよ?」 ――平然とそう言い放った。 「…………おいおいおい」 さすがにムーロロも驚くが、確かにジョルノもジョセフも協力を承諾などしていない。 だがなし崩し的とはいえ、どう見ても協力する流れだったのも事実。 このタイミングでの拒絶は完全に予想外……でもなかった。 (やりかえされた……ってわけか) 今はちょうど仲間に「交渉がうまくいった」と連絡した直後。 このまま何もせず交渉がご破算になれば……少なくとも仲間内でのムーロロの面目は丸つぶれになる。 退くに退けない状況を作り出し、相手を強制的に同じテーブルにつかせる……まさに先程彼が使った手だった。 (有効ではあるが、嫌らしいやり方だ……計算高いうえに最初から人を信じていねえな……  正直、こんな状況でもなきゃ相手にしたくねえタイプだが……) 必然、ムーロロもまた同じように会話の主導権が相手に奪われたと感じつつも反論せざるを得ない。 ……だが、同時に彼にはこの先の展開もある程度予測がついていた。 ジョルノが「あるもの」を要求するであろうことが。 「……ここまできて、そりゃ無いんじゃあねえか? あんたは柱の男を知らないからそんな事が――」 「いえ、協力してカーズを倒す……その考え自体は悪くありません。問題は――――」 一呼吸置くと同時にジョルノの目つきが変化する。 今までも鋭く睨みつけるようではあったが、さらに険しく――『敵』を見る目へと。 「あなたを信用していいのかどうか、です。自分のケツに火が点いているのはわかっていますよね?」 「あー、やっぱりそう来るよな……当然、理解してるさ」 持っている情報の異常なまでの多さと新鮮さ――情報収集能力に長けているということ。 これまで一切戦闘などしたことのないかのような小奇麗な身なり――後方支援に徹してきただろう証。 そしてたった今見せた、離れた相手への情報伝達が可能なスタンド能力。 全ての情報が以前ジョナサンから聞いた『DIOの部下』へとつながっていく。 会場のほとんどの参加者の位置を知ることができる者とはこの男だと、ジョルノは確信していた……! 「それは、認めるということでいいですね」 「……ああ、オレは嘘もつくし隠し事もするが、いくらなんでもあんたや承太郎を騙しきる自信はねえ」 『裏切り者』……DIOが死亡した以上その表現は過剰かもしれないが、鞍替えしたのは事実。 いざというときに裏切られ、スマンありゃ嘘だったでは済まされない―― ジョルノの言葉にムーロロは大きく息を吐くと、やはりすらすらと話し始めた。 「確かにオレはDIOの野郎に脅される形で手を貸して、あんたらの情報を喋っちまったさ。  オレのスタンドはお世辞にも戦闘向きとは言えねえ。  コウモリ野郎と思うかもしれないが、そうしなきゃオレが殺されてたからな……  許してくれなんてありきたりな言葉じゃあ納得できねえだろうが――――」 「……おい」 ――走りつつも聞き耳を立てていたのか、ムーロロが言い終える前にジョセフの声が降ってくる。 先程までの調子の良いそれとはまるで異なる、底冷えするような声。 外にいなければおそらく相手の胸倉をつかむくらいはしていただろう気迫だった。 「てめえ……それじゃあ……てめえのせいで仗助たちは……!」 「ジョセフ、制裁は後回しです……口だけなら何とでも言えますよね」 「…………」 バッサリと切り捨てるジョルノに悪態すらもつかずに外の声は止む。 だがジョセフの怒りをそのまま示すかのように彼の移動スピードは上がっていた。 そのやり取りを見届けると、ムーロロは再び口を開き言葉を続ける。 「DIOが死んだ今、オレがあんたらと敵対する理由はねえ。  持ってる情報は包み隠さずやるし、気が済まないってんなら何発かブン殴ってもらってもかまわねえ……  罪滅ぼしなんて大層なもんじゃあねえが、オレはあんたらと『協力』したい……  オレは、生きてここから出たいんだよ……」 「……フゥーッ」 ……無念そうではなく、また自嘲するようでもない喋り方。 先のジョセフとは対照的に、声から感情が全くと言っていいほど読み取れない。 ムーロロの声は、よほど心理に長けた者でなければ真実か否か判別できそうもないほど無機質だった。 聞き終えたジョルノは静かに息を吐き……                     「今の話は、本当ですか?」 ――――そう質問した。 それは一見何の変哲もない質問であった。 だが言ってしまえば、この質問こそがある意味この話し合いの全てを決定づけたといってよい。 まずはジョルノ、彼にとってこの質問は彼らしからぬことに、無駄を多分に含んでいた。 答えが返ってくればいいな、とその程度の気持ちでした質問。 気の緩みとかではない、傍から見れば本当に些細で、同時に重大な質問をしてしまったのだ。 一方のムーロロは、まさにこの質問でジョルノを『見限った』。 彼としては、今すぐ潔白の証明として何かけじめをつけさせられるとでも考えていたところにこれである。 (こりゃダメだな、甘さに付け込んで利用してやるつもりではあったが……いくらなんでも度を越してる) この質問、答えなど最初から決まりきっている。 例えるなら相手に「前のボスを殺して組織を乗っ取ったんじゃあないのか」と聞いたとして。 真実がどうであれ、「ええそうです」なんて答えるやつがどこにいるというのか。 (質問自体が『罠』の可能性は……ねえな) 一時的に彼の上司だった男、ブローノ・ブチャラティは相手の汗を見て嘘を見抜けたそうだが…… もしジョルノがそれに類する何かを持っているのなら、自分の本心などとうに見抜かれているはず。 ならばこの質問に裏はない……つまりは、この状況でそんな程度の駆け引きしかできない男だということ。 ジョルノが組織のボスかどうかなどもはや興味すらなかった。 確かに感じるものはなくはない、だがそのカリスマはDIOに遠く及ばない…… この殺し合いにおいて自分を導きたるボスの器ではなかったと、顔には全く出さずとも失望していた……! とはいえ質問に質問で返したり、あるいは答えないわけにはいかないと思考を戻す。 返された答えは、どこまでもシンプルな一言だけだった。                          「嘘だ」 ――次の瞬間、ムーロロは吹っ飛んでいた。 体ごと部屋の壁に叩きつけられ、そのままずるずると床に崩れ落ちる……! (――――!!? ッ……ぁ……な……く……やら………れ…………) 自分が攻撃を受けたことに今更ながら気が付く。 殴られたのは腹……! 防御するどころかそんな思考をする暇さえなかった。 まるで内臓ごとブチ抜かれたような……あるいは本当にブチ抜かれたのかもしれないすさまじい痛みに動けない。 だがそれすら気にならないほど、頭の中はある疑問でいっぱいだった。 その疑問とは…………                 (――――今……『答えた』のは誰だ……!!?) 自分ではない。 ジョセフでもない。 ましてやジョルノであるはずもない。 それなのにどこからか声が聞こえてきたという、不可解極まりない現象。 誰がどうやって、そして何故あんなことを言ったというのか……? 状況を知るべくどうにか顔を上げたムーロロの目に、疑問の答えはすぐ飛び込んできた。 (なん……だと?) それでも信じがたい……直接現場を見たわけではないが、彼は既に死んでいるはず。 その死体でさえ、今ここにあるわけがない。 だが事実、その人物はそこにいた――――                 (――――こいつの名は……そうだ……)               (――――ジャン・ピエール・ポルナレフ……ッ!!)                ――――片目に眼帯を付けた、銀髪の男が……! ――ボスが姿を現してからしばらく後、その正体云々とは別の噂が流れたことがある。 組織には『秘密のナンバー2』がいるのではないかという噂が。 いわく、ボスは若すぎる、交渉などの際表に出る代理人あるいは相談役となりうる年長者がいるはずだとか。 実質的な副長であるはずの拳銃使いがふと「ナンバー2はオレじゃない」と言ったとか言わなかったとか。 そんな小さなことから出てきた、出所さえもはっきりしない噂。 結局噂のナンバー2が姿を見せることは一切なかったため、すぐに立ち消えていった……その程度の話。 ボスを調査する際、ムーロロもその件について調べてはみた。 だがジョルノの外出時、いくら尾行させてもそれらしき人物とコンタクトをとっている様子はない。 直接会わずに指示しているとも考えたが、使用した電話にもメールにも記録がまったくない。 最終的には周囲と同じく、そんなナンバー2は存在しないという結論に達していたのだが…… (ありえねえ……こいつは第一放送前に死亡して、しかも承太郎に埋葬されたはず……  死んだ後に発動する能力……? だとしても、いったいいつ……この亀の中に……?) 亀の入口は一か所のみ、しかも入るときはトランプのサイズだろうと必ず内外両方から丸見えになる。 つまりさすがのウォッチタワーといえど亀の中までジョルノの追跡は無謀と判断。 ジョルノが留守の際に侵入を試みたことはあったが、中には誰もいない……そうとしか確認できなかった。 招かれざる客には決して姿を見せない者がいるなどとは夢にも思わずに。 結果、実在した噂のナンバー2――ポルナレフの存在にはたどり着けなかったのだ……! (……ち…き……しょう……) 手足に力が全く入らず、反撃どころか逃げることすら叶いそうもない。 それを理解したうえでとどめをさすつもりもないのか、既にジョルノたちはムーロロに見向きもしなかった。 ……映画のワンシーンか何かだったか。 壁際にてライトで照らされ、追い詰められたスパイが撃たれて斃れる場面が自分の状態に重ねられる。 ただひとつ、異なるのは――            ――――自分には、何のスポットも当てられていないことだった。 # 「よかったです……あなたがここにいてくれて」 多少ながら緊張が解けた顔でジョルノが言う。 わかってみれば単純……彼が先ほどした質問はムーロロではなくポルナレフに向けたものだったのだ。 時間のずれなどでポルナレフが亀の中にいなかった場合、無駄どころか信頼を失いかねない危険な『賭け』…… だが、ジョルノは見事それに勝利した……! 「確証まではなかったのか? だとすると少々、危うい質問だったな……  もしわたしの答えがなかったら、どうするつもりだった?」 「その時は見限られていたでしょうから、実力でねじ伏せる……やることは同じです。  同盟を組みたかったのは事実ですが、彼を本気で信用するつもりなんてありませんでしたから」 いつも通りしれっとした顔で物騒なことを言うジョルノだが、ポルナレフが嫌悪感を示すことはない…… 長い付き合いとまではいかないがジョルノのことはよく知っていたし、彼はずっと『見ていた』のだから。 「それが正解だ……ヤツは裏で密かに厄介な連中と組んでいるしな。  まずはDIOによく似た、恐竜を操るディエゴ・ブランドー……  それに蓮見琢馬……こいつはミスタともう一人、ミキタカという者の殺害に関わっている」 「……!!」 早速出てきた新たなる情報……ジョルノ自身はどちらも関わったのはチラッと程度。 だが同時に因縁深い敵の存在に彼の眉がピクリと動く。 とはいえ口振りから察するに今すぐその二人と何かあるわけではないと判断し、話の続きに耳を傾ける。 「幸い、この部屋をよく使っていたおかげでヤツの持っていた情報はすべてここにある。  カードを会場中に散らばらせることによる情報収集能力は大したものだが……  ただ一点、すぐ傍にいたわたしの存在に気づけなかったのが致命的となったな……」 「灯台もと暗し、というやつですか――――んっ?」 唐突に亀が微妙に揺れる。 二人が見上げると、いい加減様子がおかしいことに気づいたジョセフがのぞき込んでいた。 「ジョセフ、どうかしましたか?」 「いや、ちょっと寒気が……じゃなくてそっちだよ、なんか知らねーおっさん増えてるし、何が起こってんだ?」 「おっさん、か……フッ、心配ない。わたしは味方だよ……『ジョースターさん』」 「???」 怪訝な表情のジョセフを見ながら、微かに笑ってポルナレフはジョルノへと向き直る。 「しかし、本当に待ちわびたぞ……  この亀は開始からずっとヤツが持っていたし、信用できそうな者はひとりとして中に来なかったからな……  DIOと出会ってしまったときには正直、既に肉体がないというのに背筋が凍るような感覚すら覚えたよ……  まあ、そのあたりの話は後にして――――ム!?」 言葉途中で表情が変わったポルナレフにつられ、ジョルノも彼の視線の先へと振り向く。 そこにいたムーロロが――――            「ジョルノ! ヤツが……いないッ!! どこに行ったッ!?」                      「……なっ!?」                   ――――忽然と姿を消していた。 「……ジョセフ! 鍵を外してください!」 「え……鍵? こ、これかッ!?」 中から飛ばされた指示にほぼ反射的に亀の背中についている鍵を外すジョセフ。 すると目の前に、ジョルノが引きずり出されてきた……ジョルノひとりだけが。 周囲を素早く見渡し、次いでジョセフに目を向けるジョルノ。 その目は、先読みに長けた彼でなくてもすぐわかるほど質問の内容を雄弁に語っていた。 「……い、いや、さっきから他には誰も出てきてねーぞ……?」 「……!!」 近くにムーロロの姿はない――つまり亀の中に隠れていたわけではないし、外のジョセフも見ていない。 何をどうやったのか、手段はわからないが彼らは完全にムーロロを見失った……! ここに来て初めてジョルノの額に汗が浮かぶ。 「まずいぞ……! 今ヤツに逃げられたのなら、ヤツの仲間も全員敵にまわるのは時間の問題……  そうなったら、一時的な同盟どころの話じゃあないッ!」 なぜならそれは、この一件におけるジョルノの唯一の誤算だったのだから……! 【C-3とC-4の境目 橋上 / 1日目 真夜中】 【ジョセフ・ジョースター】 [能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』 [時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前 [状態]:全身ダメージ(小)、疲労(中) [装備]:ブリキのヨーヨー [道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し、ココ・ジャンボ [思考・状況] 基本行動方針:チームで行動 1.どこかに消えたムーロロを探す? 2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する? 3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる 4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す 5.リサリサの風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対 ※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。 【ジョルノ・ジョバァーナ】 [スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』 [時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後 [状態]:体力消耗(小)、精神疲労(中)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し [思考・状況] 基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 1.どこかに消えたムーロロを探す? 2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する? 3.ポルナレフと情報交換したいが……時間がない 4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す ※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も 【備考】 ・亀の中にムーロロの所持品(基本支給品、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、角砂糖、  不明支給品(1~8、遺体はありません))が放置されています。 【ポルナレフについて】  参加者とは別のポルナレフ。  ココ・ジャンボが五部終了後の時点で支給品にされたため、最初からずっと亀の中に幽霊として潜んでいました。  ムーロロの行動を始め、亀の中の出来事及び亀から見えたものは全て彼も見ています。  ひょっとしたら主催者に連れてこられて支給品にされるまでの出来事も見ているかもしれません。 # (ここは……オレは……いったい) 同時刻、ムーロロはどこかの街中にいた。 先程壁に叩きつけられた時と同じ体勢のまま、無数に並ぶ電柱のひとつ……しかもそのてっぺんに腰掛けて。 何故?という疑問が真っ先に出てくることだろう。 今のムーロロは動くことすら困難な状態。 そんな彼がどうしてこんなところにいる――もとい、移動できたというのか……しかも一瞬で。 本人すらも理解していないその理由は、彼の背中にあった。 遺体の脊椎部分、それが奇跡を起こして彼を瞬間移動させた……純然たる事実だけ言えばそうなる。 とはいえ、それでもなお疑問は尽きない。 確かに敵から逃れられたという意味ではムーロロにとって有益と言えるだろう。 だがジョルノは攻撃を行ったものの、敵と認識していたにもかかわらずムーロロにとどめを刺さなかった。 つまりあのまま殺されはしない――どころか、彼を『利用』するために治療していた可能性まである。 こんな人気すらない場所にわざわざ移動させられ、果たして助かったといえるのだろうかという話だが…… (どうする……まずオレの腹はどうなってる……?  助けを呼ぶか……そうだとして、誰に……治せそうな奴は…………  くそっ、駄目だ……声が……出せねえ……) 当のムーロロにとっては現状把握とその打破で精一杯……理由まで考えている余裕はなかった。 あるいは、どうにか逃げられた……その程度くらいは頭のどこかにはあったかもしれないが。 だが、彼は大きな勘違いをしていた。    『君の無敵さは実のところ、無駄だ。どんなに強くとも、君は禁止エリアに入っているんだから。無駄無駄……』 苦難は終わらない……それどころか、さらなる試練がすぐさま襲い掛かることを……! (……ッ! ウソだろ!? おい!) 誰もいないとすっかり油断しきっていた所に浴びせられる静かで、それでいて威厳を感じさせる声。 だが今の彼にとっては単に耳障りで、しかも聞きたくない事実を告げる声にしか感じなかった。 今のムーロロはまともに歩けないほどの重体。 しかも自分が会場のどこにいるのか、どちらにどれだけ移動すれば禁止エリアから逃れられるかもわからない。 おまけに大半の道具はデイパックと共に亀の中に置き去りという三重苦。 何かの拍子にもう一度場所が移らないものか、などとは考えもしなかった。 遺体が起こす奇跡のことをムーロロは知らないし、知っていたとしても不確かなものをあてにはできない。 ムーロロが助かるには運と……彼自身の生への執着力に賭けるほかなかった。 (……冗談じゃあ……ねえ!) 失って困るものは命すら含めて持っていないはずの彼だったが、この時ばかりは『目的』があった。 それが、この土壇場における行動につながったのかもしれない。 (どうにか……しねえと……) 電線――通電の有無に関わらず、移動経路とするには無謀が過ぎる。 そうなると電柱からなんとしても降りなければならず、事実ムーロロはそうしようとしたのだが―― (う……グッ……!) 腹に受けたダメージのせいでうまく手足にも力が入らず、彼の場合はスタンドで踏ん張ることもできない。 結果、碌に動かぬうちにバランスを崩し、あわや爆死を待たずして転落死かと思われたが…… (いや……これでいい……これしかねえ……) ムーロロはあえて上半身から、スカイダイビングのごとく大の字の体勢で空中に身を投げ出した。 見ようによってはまるで自殺するかのように、胸から地面に飛び込む形で。 そして……激突の瞬間。                    ボ  ヨ  ヨ  オ ~ ン 間の抜けたようにも聞こえる音と共に、ムーロロの体が弾き飛ばされる。 垂直ではなく、低めの角度で……なるべく遠くへ離れるように。 当然、着地地点にはまたしても地面への激突が待っていたが……一切逆らおうとせず、思いっきり転がったッ! 少しでも距離を稼ぐための、いわば悪あがき。 幸い建物などにぶつかることはなく、勢いも体力もなくなり本当に動けなくなったところで地面に寝転がる。 (…………どうだ……?) これで駄目ならもはや打つ手なし、覚悟を決めて耳を澄ます。 はたして首輪は――                   ――何の音も発していなかった。 (……………………) そのまま寝転ぶ彼の懐から転がり落ちたのは、ボヨヨオンの文字が書かれた岩のかけら。 ジョルノたちと戦闘になった場合を考え、保険として心臓を守るため胸に忍ばせておいた支給品。 惜しむらくは相手が狙ったのが仕込んだ胸でなく腹だったことだが。 役目を果たした文字はそのまま消え去ってしまったが、ムーロロは見てもいなかった。 (……………………) ひとまず禁止エリアからは脱出した……とはいえ、助かったとはまだまだ言い難い。 それでも一息だけはつける状況だったが……そうはしなかった。 彼の精神は、そんなことすら忘れるほどに乱れていたのだから。 (…………クソッ!!) ジョルノは何故自分を殺さなかったのか……答えは簡単、利用価値があったからだ。 おそらく交渉の早い段階から自分を動けず喋れずの状態にして『戦力』だけ乗っ取るつもりだったのだろう。 そう考えればあのタイミングでの協力否定も納得がいく。 (どいつも……こいつも……) そして自分を現在の状況に追い込んだ、もう一人の『犯人』。 こんなところに自分を連れてきたのは何故なのか。 何か用があった――だとしても何故、姿を見せない? 禁止エリアで始末するため――ただでさえ瀕死で、今まさに無防備な自分を放置して? いくら考えようとも答えの出ない不可解な現象に苛立ちばかりが募る。 (……ナメやがって……ッ!) 無性に腹が立っていた。 自分をまるで相手にしなかったジョルノたちにも。 無責任にワープさせ、自ら手を下さずしかも死すら見届けようとしない『誰か』にも。 誰からも相手にされない……今までの人生において当たり前だったはずのそれに、彼は酷く腹を立てていた。 数秒後、ムーロロはふっ、と息をつく――――    (ああ、わかったよ……そんなにオレの相手をしたくないなら……                   相手にしないまま殺されても、文句はねえよなあ…………?)                                 ――それは、ひとりの暗殺者が誕生した瞬間だった。 もし、ムーロロがDIOに味方したりしていなければ。 もし、ムーロロがジョルノに『敵』とみなされていなければ。 そうすればジョルノとの対面により、彼は真に『恥』を知っていたかもしれないのに。 たったひとつ、出会う順番が違っただけでムーロロの運命は変わってしまった。 彼の人生は、目先の怒りや苛立ちを晴らすことだけがすべて……『恥知らず』のままなのだから―――― 【B-1とB-2の境目付近 / 1日目 真夜中】 【カンノーロ・ムーロロ】 [スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ) [時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降 [状態]:腹部ダメージ(大) [装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット [道具]:遺体の脊椎 [思考・状況] 基本行動方針:目先の怒りや苛立ちを晴らす 1.他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する ※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。  長く放置しすぎると死ぬかも。 ※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。  会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。 【備考】 ・23時に設定された禁止エリアはB-1でした。 ・ムーロロが誰かに「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡しました。  具体的な相手や人数は不明です。 【支給品】 ボヨヨン岬の岩のかけら(第四部) 元はペット・ショップの支給品。 広瀬康一のスタンド「エコーズ」のしっぽ文字ボヨヨオンが張り付けられた岩のかけら。 原作では尖った大岩に張り付けられていたが、ロワ仕様で手のひらサイズ程度の大きさ。 何かが激突するとすごい勢いで弾き飛ばすが、弾かれたもの自体は無傷。 ロワでは弾くのは一回きりで、使ったらただの岩に戻る。 *投下順で読む [[前へ>すれ違い]] [[戻る>本編 第4回放送まで]] [[次へ>化身]] *時系列順で読む [[前へ>すれ違い]] [[戻る>本編 第4回放送まで(時系列順)]] [[次へ>化身]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |199:[[地図]]|[[ジョセフ・ジョースター]]|:[[]]| |199:[[地図]]|[[ジョルノ・ジョバァーナ]]|:[[]]| |200:[[Rule Out]]|[[カンノーロ・ムーロロ]]|206:[[始動]]|
――ボスが姿を現した。 その噂はギャング組織、パッショーネ内を電撃のように駆け巡り、多く……いや、ほぼ全ての者に驚愕をもたらした。 さらにその正体が若干15歳の少年とくれば、すさまじい混乱の渦が巻き起こったであろうことは想像に難くない。 そんな混乱を意にも介さず……むしろそれに乗じたというべきか。 若きボス――[[ジョルノ・ジョバァーナ]]は大胆に、且つ迅速に組織を統率していったのだが…… その手腕を見てなお、全員が納得したわけではなかった。 わかりやすい例を挙げれば、組織の創立は何年前で当時彼は幾つだったと思っているのか、といったもの。 そんな声が密かに、しかしあちこちで上がるのもある意味当然なほどジョルノは『若すぎた』。 そのような声が『不信』に変わり、真実か否か探ろうとする者が現れるまで時間はかからなかった。 無論、組織においてボスの正体を探ることが何を意味するかは周知の事実。 だがこの一件はそれを踏まえてなお、調べる価値があると判断されたのである。 万が一ジョルノが『偽物』だった場合、個人の立場どころか組織全体がひっくり返りかねないのだから。 飛び交う噂やその出所から真実を突き止めようとした者。 部下や情報屋に金や権力を使って探らせた者。 自らボスへと近づいて探りを入れた者。 手段は様々だが、ボス側に悟られぬよう密かに……それだけは共通して、決して少なくない人数が動き出した。 しかし、彼らの『調査』は早々に行き詰る。 ――ジョルノ・ジョバァーナ、これはイタリアで名乗っている名前であり本名は汐華初流乃。    現在ネアポリス地区の高校に在学、同学校の寮に住む15歳の学生。    一見普通の少年だが裏では『いろいろ』やっており、他ならぬパッショーネに目をつけられたこともある。    母親は日本人、父親はイタリア人だがこちらは義父。    どちらも碌に面倒を見なかったため親でさえ彼の細かい行動についてはよく知らない―― そんな公言されている当たり障りのない事実だけで満足できるはずもないが、そこから先が出てこない。 手掛かりといえそうなのは「理由は不明だが、彼は幼い頃からギャングと関わっていた」という程度。 結局、深入りを避けた者は関係あるんだかないんだか……そんな宙ぶらりんな情報しか入手できなかった。 ならば、と幾人かは別方面からの調査を試みた。 彼のルーツ……本来の父親から何か足取りを掴めないかとはるばる海外まで足を運んだのである。 だが、この父親も父親でまた謎の存在であった。 単にネアポリスでの聞き込みだけで、顔も名前も住んでいた地域もあっさり判明する。 にもかかわらず、現地の人間からも記録からも何故かその父親の情報がまったく出てこない。 そして、手間取っているうちに彼らはその地で妙な集団に囲まれ、こう質問されるのだ。               「――何故、『彼』のことを調べているのですか?」 その相手が最近組織と提携した、とある財団の人間だとわかればそこまで……泡を食って逃げ帰るほかない。 即座に身を隠す、あるいは依頼主へ調査結果と「これ以上は無理だ、オレもあんたもヤバイ」という言葉だけ残して去っていった。 ……とまあ、だいたいの者は何の成果も得られずに終わったのだが、これらはあくまで一般的な調査の範疇。 組織の一部において重要視されていた『スタンド能力』を扱う者たちを忘れてはならない。 無論ほとんどの者はそもそも動かないか、または能力的、立場的に独力で動かざるを得なかったのだが…… [[カンノーロ・ムーロロ]]も動いた人間、そのうちの一人。 自分の命すら惜しくない彼は大胆にもそのスタンド能力でジョルノ本人をマークするという手段に出た。 物陰や地面、壁の隙間から……気づかれないようにではあったが、逐一彼の行動を監視させたのである。 結論から言えば、ムーロロもまた決定的な証拠は得られなかった。 それどころか逆に暗殺チームに情報を流していた事実をつかまれ、後に彼はボスから呼び出される。 そこで「ぼくにもプライベートはある」と告げられたことで彼の監視は終わりを迎えるのだが…… その対峙が行われたのはこの殺し合いが起こらなかった、まったく別の世界での話。 ――――結局、少なくない人数が動いたにもかかわらず『真相』にたどり着いた者はひとりとしていなかった。 だが逆にその事実でこれまで通りの『謎のボス』に箔がつき、次第に本物だ偽物だという声も消えていった。 カンノーロ・ムーロロは、これからそんな謎のボスと『初めて』顔を合わせることになる――― # C-3、DIOの館……その門前。 D-2から近くの橋を渡り、そのまま北東へ進んできたのはジョルノ・ジョバァーナと[[ジョセフ・ジョースター]]…… 彼らは先ほど探知した『敵の敵』と接触するべく、回復も兼ねてやや時間を掛けつつもここに来ていた。 完全に同時というわけではなかったが、C-3とD-3の境目にある橋を南下したジョニィ達とすれ違って。 「――――よう、待ってたぜ」 「「……!」」 だがいざ館内へ入ろうとした矢先に彼らは出鼻を挫かれる。 中から無造作に門を開け、姿を見せたのは彼らの来訪を既に察知していたカンノーロ・ムーロロ。 目的の人物があまりにも堂々と登場したことに二人は一瞬気を取られ、相手に口を開く隙を与えてしまう。 「あー、言いたいことは山ほどあるだろうが、堂々と密会ってのもアレだ、こいつの中で話そう」 「……それは」 差し出されたのはムーロロ自身がここまで持ってきた『亀』。 説明しようともせず、さっさとその中へ吸い込まれるように入っていく。 返事すら待たない一方的、されど断れない提案により即座に会話のペースはムーロロに握られた。 ……しかし。 「いかにも罠ですってカンジだが……脳ミソ足りてねーな。ケケケ、それじゃあさっそく亀ごと――」 「待ってくださいジョセフ、ぼくはこの亀を知っている……入るだけなら何も問題ないでしょう。  彼についてはまだわかりませんが――周囲には誰もいませんよね?」 「ん? おう、そりゃあ問題ねーぜ」 「……では、ここはあえて相手の懐に飛び込んでみましょう。  おそらくですが、相手がこうして姿を見せたこと自体追い詰められている証拠でしょうから」 残された二人だったが、これしきのことではうろたえない。 頭脳派な彼ららしくまずは意見交換と周囲の警戒、同時にそれでいて迅速に行動を決めようとする。 ……それすら、ジョルノは亀を知っているという事実を逆手に取ったムーロロの策とも知らず。 さらに、続くジョセフの言葉が思考をより複雑にしていく。 「いや、そうとは限らねえぜ……おれ、あいつと前に一度会ってる」 「……前に、ですか?」 ジョセフにとってはあまり思い出したくない出来事ではあったが…… 無念な結果に終わってしまったものの、負傷した祖母エリナを救うため助言をもらったのは事実。 「夜が明けた頃だ……名乗りもしねえで勝手なこと言ってたが、おれを助けてくれた……ことには一応なる。  おかげで仗助たちとも会えたし、ちっとばかし借りが出来ちまってんだよな……  それとあいつはおめー……いや、おめーだけじゃなく仗助やDIOのことまでよく知ってるようだったぜ」 「成程……ぼくらを『待っていた』ようですし、あなたの借りも含めて一筋縄ではいきそうにないですね……  ですが、そうなるとなおさらここで退くわけにはいきません。さあ、ぼくについてきてください」 「出たとこ勝負ってわけか、チト不安は残るが……よーし、乗ったぜ」 自分たちの素性も、ここへ来ることも知られていた――情報戦に関しては既に完敗。 さらにこのまま交渉に入ってもジョセフの借りがある以上最初から不利であることは否めない。 しかし、だからこそ敵か味方かもわからぬ彼を放置しておくわけにはいかないと二人は決断した。 まずジョルノが亀の中へと入り、真似してジョセフが続く。 中に広がる空間にジョルノは多少の警戒、ジョセフはそれに物珍しさも合わさって視線を動かしていたが…… すぐに彼らの視線は正面のソファーにどっかりと腰掛ける伊達男――ムーロロへと移る。 「ようこそ……ここには上座も下座もねえから席はご自由に。  飲み物は……あー、さすがに飲んでる場合じゃあ――」 「おれはコーラで」 「………………おう」 互いに臆すような気配など微塵も見せず、ジョルノとジョセフは揃ってソファーに腰を下ろす。 まずはどちらも沈黙……ムーロロの出方を待っていた。 「もう知ってるかもしれんが、フェアということで一応名乗らせてもらうぜ。  オレはカンノーロ・ムーロロ。組織の情報分析チームを任されてる……あー、この辺の説明はいらねえかな」 「「……」」 返事すらせず、黙って睨む……というより胡散臭い目で見ているといった感じだろうか。 亀の外での話し合いで、ジョルノもジョセフもこの相手に自己紹介など必要ないと理解していた。 それを裏付けるかのように、ムーロロ側に警戒は最小限しか見られない。 何もしないうちにいきなり自分が殺されはしないという確固たる自信があるかのようだった。 「さっそくだが本題に入らせてもらうぜ……[[カーズ]]を倒すのに手を貸してほしい」 「理由は」 「残る参加者の中で、積極的に殺しまわってるのはもうあいつひとりだけ……  つまりあいつさえなんとかしちまえば、あとは全員で協力して……わかるな?」 「戦略は」 「まず、やつは第四放送時に会場の中央に現れる――こいつは確かな情報だ。  そして戦力の提供はできるんだが、策はない……むしろそっちにあるんじゃあないか、なあジョセフ?」 「……え、おれ?」 ジョルノの無駄を削ぎ落した質問と、予測しているかのようにすらすら返すムーロロ。 そんな二人が織りなす超スピードの会話の最中、突如話を振られてジョセフは面食らう。 柱の男についてほとんど知らないジョルノも一旦口を閉じ、そちらに注意を向けた。 「その前によ……殺しまわってるのがカーズだけとか言ってたが、厄介な奴は他にもいるぜ?」 「あー、[[ワムウ]]のことか? そっちはちょっと前に別のやつと相討ちになった、何も問題ねえ」 「……マジかよ」 相手の把握する状況について指摘したつもりがさらりと返されてしまい思わず絶句…… だがそれでも、カーズの話題となれば自分以外に語るものはいないということで頭に手を当てつつ喋り始める。 「……あいつは、ひとをだますのが得意なスンゲー悪趣味なやつだぜ……  だから事前の戦法は決めねえ方がいい……決まった動きしかできねえんじゃあ速攻やられちまう……」 「もう少し具体的に……弱点とかねえのか?」 「そりゃ簡単、あいつはズバリ太陽の光に弱いぜ…もっとも、この時間じゃあ無いものねだりだけどよ……  おれの波紋はそれと同等のエネルギーだから、そいつを叩きこめりゃ有効だ……叩きこめりゃ、な」 「……オメー、質問の意味わかってるか? 結局オレたちにはどう戦えってんだ?」 あれも駄目、これも駄目……素か挑発かは不明だが建設的な意見が出てこない。 うんざりした声で問われたジョセフはしばし逡巡する。 一度は勝利した彼といえど、カーズ相手に楽勝!となるような方法などまったく思い浮かばなかった。 「そこなんだよなあ……なあ、こっそりあいつの首輪爆破できたりしねえ?」 「……それができるなら、わざわざオメーらにこんな話持ちかける必要なんざねーだろ」 「ケッ、偉そうにしといて結局人任せかよ……  はっきり言っとくけどあいつに波紋無しで挑むのは無謀だぜ、触っただけでアウトだからな……  そっちが提供する戦力に波紋を使えるやつは?」 ジョセフの質問に、ここで初めて考え込むようなしぐさを見せるムーロロ。 今現在ジョセフを除けば残る波紋使いは二人、彼らの居場所もだいたいわかっている。 だがジョナサンはムーロロ側が提供するわけではないし、シーザーはそもそもフーゴの味方で協力は難しい。 それらを正直に言うこともできない以上、ムーロロの回答は―― 「…………いねえな、今のところひとりもいねえ……残念ながらな」 「では、正面からの接近戦は避ける方向で――」 「オイオイジョルノくん、だれかお忘れでないかね? 具体的にはきみの目の前にいるナイスガイとかねぇ……」 ……一瞬の沈黙。 「……何?」 「……ジョセフ、それは――」 「心配ご無用! 知ってんだろ? こう見えてもボクちゃん、あいつに一度勝ってるもんねぇ~」 ジョセフの提案を理解したうえで、なお納得しかねるムーロロとジョルノ。 彼は単なる(で片づけるにはいささか疑問だが)吸血鬼であるDIO相手にすら苦戦している。 今度の相手はより上位の存在である柱の男、しかも今はジョナサンを欠いてひとりきり。 過去の実績は聞いているものの……やはり、実際見るのと聞くだけなのでは受け止め方が違うのだ。 「なんだねその目は、ひょっとして疑ってる? 自慢じゃあねーが、元々柱の男は四人とも俺が倒したんだぜ!  それに今なら奥の手もあるし、ダイジョーブよぉ~ん」 「…………奥の手ってのは?」 「チッチッチッ、わかっちゃいないねえ……秘密だからこその奥の手だぜ?」 「……やれやれ、まあだいたい予想はつくけどな……今はそれに賭けるしかねえか」 見ている方が不安になるほど軽い態度に疑惑のまなざしが突き刺さるが、ジョセフは意に介さない。 何か言いたそうなジョルノに対しムーロロは先手を取り、言った。 「それじゃあ後の細かいことはこっちで話し合っとくから……  ジョセフ、オメーは外に出てこの亀を持って会場の中央に向かってもらおうか」 「……オイ待て、なんでおれが――」 「カーズの時間指定は第四放送時、あと一時間ちょっとしかねえ。  ところがこの亀は自力じゃあ文字通り亀の歩みなのさ……  オレはジョルノと策とか連携とか話し合わなくちゃならねえし、亀をもって走れるのはオメーだけってわけだ。  ほら、急がねーと間に合わねえぜ? さっきの情報提供と合わせて貸しのひとつは無しにしてやるからよ」 さっさと行け、とばかりに手で追いやるような仕草を見せるムーロロ。 当然そんな扱いにジョセフが黙っているわけもなく―― 「てめー、このおれを顎で使おうって――」 「ジョセフ、言う通りにしてください」 ――横から口をはさんだのはジョルノ。 相手の思惑はともかく、下手すると時間どころか全てが『無駄』になるのは彼としても避けたかった。 「カーズが現れるのは第四放送時の会場中央、つまり空条邸の近く……この意味が分かりますね?」 「……チッキショ~! 揃って澄ました顔で労働強制しやがってっ!  これから敵と戦いますって人に無駄な体力使わせんじゃねーッ!」 「おう、落としたりすんじゃあねーぞぉ?」 ジョルノの最低限のフォロー――自分たちが間に合わなければ待ち合わせをした仲間たちが危険に晒される。 それを理解したジョセフは文句を言いながらも亀の外へと出ていった。 ……残ったのは、二人のギャング。 「――――あー、話はまとまった。今現場に向かってる……オメーも第四放送までに来い」 「…………盛り上がってるところすみませんが」 ムーロロは帽子からトランプのカードを取り出すと、それに向かって喋る……勿論一人芝居ではない。 もはや能力を隠そうともせず、おそらくは先ほど言った『戦力』の誰かに連絡しているのだろう。 ジョルノはそんな彼を黙って眺めていたが、連絡が終わったのかカードを離したムーロロに向かい――        「――――ぼくらはまだ、あなたに協力するなんて言った覚えはありませんよ?」 ――平然とそう言い放った。 「…………おいおいおい」 さすがにムーロロも驚くが、確かにジョルノもジョセフも協力を承諾などしていない。 だがなし崩し的とはいえ、どう見ても協力する流れだったのも事実。 このタイミングでの拒絶は完全に予想外……でもなかった。 (やりかえされた……ってわけか) 今はちょうど仲間に「交渉がうまくいった」と連絡した直後。 このまま何もせず交渉がご破算になれば……少なくとも仲間内でのムーロロの面目は丸つぶれになる。 退くに退けない状況を作り出し、相手を強制的に同じテーブルにつかせる……まさに先程彼が使った手だった。 (有効ではあるが、嫌らしいやり方だ……計算高いうえに最初から人を信じていねえな……  正直、こんな状況でもなきゃ相手にしたくねえタイプだが……) 必然、ムーロロもまた同じように会話の主導権が相手に奪われたと感じつつも反論せざるを得ない。 ……だが、同時に彼にはこの先の展開もある程度予測がついていた。 ジョルノが「あるもの」を要求するであろうことが。 「……ここまできて、そりゃ無いんじゃあねえか? あんたは柱の男を知らないからそんな事が――」 「いえ、協力してカーズを倒す……その考え自体は悪くありません。問題は――――」 一呼吸置くと同時にジョルノの目つきが変化する。 今までも鋭く睨みつけるようではあったが、さらに険しく――『敵』を見る目へと。 「あなたを信用していいのかどうか、です。自分のケツに火が点いているのはわかっていますよね?」 「あー、やっぱりそう来るよな……当然、理解してるさ」 持っている情報の異常なまでの多さと新鮮さ――情報収集能力に長けているということ。 これまで一切戦闘などしたことのないかのような小奇麗な身なり――後方支援に徹してきただろう証。 そしてたった今見せた、離れた相手への情報伝達が可能なスタンド能力。 全ての情報が以前ジョナサンから聞いた『DIOの部下』へとつながっていく。 会場のほとんどの参加者の位置を知ることができる者とはこの男だと、ジョルノは確信していた……! 「それは、認めるということでいいですね」 「……ああ、オレは嘘もつくし隠し事もするが、いくらなんでもあんたや承太郎を騙しきる自信はねえ」 『裏切り者』……DIOが死亡した以上その表現は過剰かもしれないが、鞍替えしたのは事実。 いざというときに裏切られ、スマンありゃ嘘だったでは済まされない―― ジョルノの言葉にムーロロは大きく息を吐くと、やはりすらすらと話し始めた。 「確かにオレはDIOの野郎に脅される形で手を貸して、あんたらの情報を喋っちまったさ。  オレのスタンドはお世辞にも戦闘向きとは言えねえ。  コウモリ野郎と思うかもしれないが、そうしなきゃオレが殺されてたからな……  許してくれなんてありきたりな言葉じゃあ納得できねえだろうが――――」 「……おい」 ――走りつつも聞き耳を立てていたのか、ムーロロが言い終える前にジョセフの声が降ってくる。 先程までの調子の良いそれとはまるで異なる、底冷えするような声。 外にいなければおそらく相手の胸倉をつかむくらいはしていただろう気迫だった。 「てめえ……それじゃあ……てめえのせいで仗助たちは……!」 「ジョセフ、制裁は後回しです……口だけなら何とでも言えますよね」 「…………」 バッサリと切り捨てるジョルノに悪態すらもつかずに外の声は止む。 だがジョセフの怒りをそのまま示すかのように彼の移動スピードは上がっていた。 そのやり取りを見届けると、ムーロロは再び口を開き言葉を続ける。 「DIOが死んだ今、オレがあんたらと敵対する理由はねえ。  持ってる情報は包み隠さずやるし、気が済まないってんなら何発かブン殴ってもらってもかまわねえ……  罪滅ぼしなんて大層なもんじゃあねえが、オレはあんたらと『協力』したい……  オレは、生きてここから出たいんだよ……」 「……フゥーッ」 ……無念そうではなく、また自嘲するようでもない喋り方。 先のジョセフとは対照的に、声から感情が全くと言っていいほど読み取れない。 ムーロロの声は、よほど心理に長けた者でなければ真実か否か判別できそうもないほど無機質だった。 聞き終えたジョルノは静かに息を吐き……                     「今の話は、本当ですか?」 ――――そう質問した。 それは一見何の変哲もない質問であった。 だが言ってしまえば、この質問こそがある意味この話し合いの全てを決定づけたといってよい。 まずはジョルノ、彼にとってこの質問は彼らしからぬことに、無駄を多分に含んでいた。 答えが返ってくればいいな、とその程度の気持ちでした質問。 気の緩みとかではない、傍から見れば本当に些細で、同時に重大な質問をしてしまったのだ。 一方のムーロロは、まさにこの質問でジョルノを『見限った』。 彼としては、今すぐ潔白の証明として何かけじめをつけさせられるとでも考えていたところにこれである。 (こりゃダメだな、甘さに付け込んで利用してやるつもりではあったが……いくらなんでも度を越してる) この質問、答えなど最初から決まりきっている。 例えるなら相手に「前のボスを殺して組織を乗っ取ったんじゃあないのか」と聞いたとして。 真実がどうであれ、「ええそうです」なんて答えるやつがどこにいるというのか。 (質問自体が『罠』の可能性は……ねえな) 一時的に彼の上司だった男、[[ブローノ・ブチャラティ]]は相手の汗を見て嘘を見抜けたそうだが…… もしジョルノがそれに類する何かを持っているのなら、自分の本心などとうに見抜かれているはず。 ならばこの質問に裏はない……つまりは、この状況でそんな程度の駆け引きしかできない男だということ。 ジョルノが組織のボスかどうかなどもはや興味すらなかった。 確かに感じるものはなくはない、だがそのカリスマはDIOに遠く及ばない…… この殺し合いにおいて自分を導きたるボスの器ではなかったと、顔には全く出さずとも失望していた……! とはいえ質問に質問で返したり、あるいは答えないわけにはいかないと思考を戻す。 返された答えは、どこまでもシンプルな一言だけだった。                          「嘘だ」 ――次の瞬間、ムーロロは吹っ飛んでいた。 体ごと部屋の壁に叩きつけられ、そのままずるずると床に崩れ落ちる……! (――――!!? ッ……ぁ……な……く……やら………れ…………) 自分が攻撃を受けたことに今更ながら気が付く。 殴られたのは腹……! 防御するどころかそんな思考をする暇さえなかった。 まるで内臓ごとブチ抜かれたような……あるいは本当にブチ抜かれたのかもしれないすさまじい痛みに動けない。 だがそれすら気にならないほど、頭の中はある疑問でいっぱいだった。 その疑問とは…………                 (――――今……『答えた』のは誰だ……!!?) 自分ではない。 ジョセフでもない。 ましてやジョルノであるはずもない。 それなのにどこからか声が聞こえてきたという、不可解極まりない現象。 誰がどうやって、そして何故あんなことを言ったというのか……? 状況を知るべくどうにか顔を上げたムーロロの目に、疑問の答えはすぐ飛び込んできた。 (なん……だと?) それでも信じがたい……直接現場を見たわけではないが、彼は既に死んでいるはず。 その死体でさえ、今ここにあるわけがない。 だが事実、その人物はそこにいた――――                 (――――こいつの名は……そうだ……)               (――――ジャン・ピエール・ポルナレフ……ッ!!)                ――――片目に眼帯を付けた、銀髪の男が……! ――ボスが姿を現してからしばらく後、その正体云々とは別の噂が流れたことがある。 組織には『秘密のナンバー2』がいるのではないかという噂が。 いわく、ボスは若すぎる、交渉などの際表に出る代理人あるいは相談役となりうる年長者がいるはずだとか。 実質的な副長であるはずの拳銃使いがふと「ナンバー2はオレじゃない」と言ったとか言わなかったとか。 そんな小さなことから出てきた、出所さえもはっきりしない噂。 結局噂のナンバー2が姿を見せることは一切なかったため、すぐに立ち消えていった……その程度の話。 ボスを調査する際、ムーロロもその件について調べてはみた。 だがジョルノの外出時、いくら尾行させてもそれらしき人物とコンタクトをとっている様子はない。 直接会わずに指示しているとも考えたが、使用した電話にもメールにも記録がまったくない。 最終的には周囲と同じく、そんなナンバー2は存在しないという結論に達していたのだが…… (ありえねえ……こいつは第一放送前に死亡して、しかも承太郎に埋葬されたはず……  死んだ後に発動する能力……? だとしても、いったいいつ……この亀の中に……?) 亀の入口は一か所のみ、しかも入るときはトランプのサイズだろうと必ず内外両方から丸見えになる。 つまりさすがのウォッチタワーといえど亀の中までジョルノの追跡は無謀と判断。 ジョルノが留守の際に侵入を試みたことはあったが、中には誰もいない……そうとしか確認できなかった。 招かれざる客には決して姿を見せない者がいるなどとは夢にも思わずに。 結果、実在した噂のナンバー2――ポルナレフの存在にはたどり着けなかったのだ……! (……ち…き……しょう……) 手足に力が全く入らず、反撃どころか逃げることすら叶いそうもない。 それを理解したうえでとどめをさすつもりもないのか、既にジョルノたちはムーロロに見向きもしなかった。 ……映画のワンシーンか何かだったか。 壁際にてライトで照らされ、追い詰められたスパイが撃たれて斃れる場面が自分の状態に重ねられる。 ただひとつ、異なるのは――            ――――自分には、何のスポットも当てられていないことだった。 # 「よかったです……あなたがここにいてくれて」 多少ながら緊張が解けた顔でジョルノが言う。 わかってみれば単純……彼が先ほどした質問はムーロロではなくポルナレフに向けたものだったのだ。 時間のずれなどでポルナレフが亀の中にいなかった場合、無駄どころか信頼を失いかねない危険な『賭け』…… だが、ジョルノは見事それに勝利した……! 「確証まではなかったのか? だとすると少々、危うい質問だったな……  もしわたしの答えがなかったら、どうするつもりだった?」 「その時は見限られていたでしょうから、実力でねじ伏せる……やることは同じです。  同盟を組みたかったのは事実ですが、彼を本気で信用するつもりなんてありませんでしたから」 いつも通りしれっとした顔で物騒なことを言うジョルノだが、ポルナレフが嫌悪感を示すことはない…… 長い付き合いとまではいかないがジョルノのことはよく知っていたし、彼はずっと『見ていた』のだから。 「それが正解だ……ヤツは裏で密かに厄介な連中と組んでいるしな。  まずはDIOによく似た、恐竜を操る[[ディエゴ・ブランドー]]……  それに[[蓮見琢馬]]……こいつはミスタともう一人、ミキタカという者の殺害に関わっている」 「……!!」 早速出てきた新たなる情報……ジョルノ自身はどちらも関わったのはチラッと程度。 だが同時に因縁深い敵の存在に彼の眉がピクリと動く。 とはいえ口振りから察するに今すぐその二人と何かあるわけではないと判断し、話の続きに耳を傾ける。 「幸い、この部屋をよく使っていたおかげでヤツの持っていた情報はすべてここにある。  カードを会場中に散らばらせることによる情報収集能力は大したものだが……  ただ一点、すぐ傍にいたわたしの存在に気づけなかったのが致命的となったな……」 「灯台もと暗し、というやつですか――――んっ?」 唐突に亀が微妙に揺れる。 二人が見上げると、いい加減様子がおかしいことに気づいたジョセフがのぞき込んでいた。 「ジョセフ、どうかしましたか?」 「いや、ちょっと寒気が……じゃなくてそっちだよ、なんか知らねーおっさん増えてるし、何が起こってんだ?」 「おっさん、か……フッ、心配ない。わたしは味方だよ……『ジョースターさん』」 「???」 怪訝な表情のジョセフを見ながら、微かに笑ってポルナレフはジョルノへと向き直る。 「しかし、本当に待ちわびたぞ……  この亀は開始からずっとヤツが持っていたし、信用できそうな者はひとりとして中に来なかったからな……  DIOと出会ってしまったときには正直、既に肉体がないというのに背筋が凍るような感覚すら覚えたよ……  まあ、そのあたりの話は後にして――――ム!?」 言葉途中で表情が変わったポルナレフにつられ、ジョルノも彼の視線の先へと振り向く。 そこにいたムーロロが――――            「ジョルノ! ヤツが……いないッ!! どこに行ったッ!?」                      「……なっ!?」                   ――――忽然と姿を消していた。 「……ジョセフ! 鍵を外してください!」 「え……鍵? こ、これかッ!?」 中から飛ばされた指示にほぼ反射的に亀の背中についている鍵を外すジョセフ。 すると目の前に、ジョルノが引きずり出されてきた……ジョルノひとりだけが。 周囲を素早く見渡し、次いでジョセフに目を向けるジョルノ。 その目は、先読みに長けた彼でなくてもすぐわかるほど質問の内容を雄弁に語っていた。 「……い、いや、さっきから他には誰も出てきてねーぞ……?」 「……!!」 近くにムーロロの姿はない――つまり亀の中に隠れていたわけではないし、外のジョセフも見ていない。 何をどうやったのか、手段はわからないが彼らは完全にムーロロを見失った……! ここに来て初めてジョルノの額に汗が浮かぶ。 「まずいぞ……! 今ヤツに逃げられたのなら、ヤツの仲間も全員敵にまわるのは時間の問題……  そうなったら、一時的な同盟どころの話じゃあないッ!」 なぜならそれは、この一件におけるジョルノの唯一の誤算だったのだから……! 【C-3とC-4の境目 橋上 / 1日目 真夜中】 【ジョセフ・ジョースター】 [能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』 [時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前 [状態]:全身ダメージ(小)、疲労(中) [装備]:ブリキのヨーヨー [道具]:首輪、[[基本支給品]]×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し、ココ・ジャンボ [思考・状況] 基本行動方針:チームで行動 1.どこかに消えたムーロロを探す? 2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する? 3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる 4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す 5.[[リサリサ]]の風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対 ※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。 【ジョルノ・ジョバァーナ】 [スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』 [時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後 [状態]:体力消耗(小)、精神疲労(中)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し [思考・状況] 基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 1.どこかに消えたムーロロを探す? 2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する? 3.ポルナレフと情報交換したいが……時間がない 4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す ※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も 【備考】 ・亀の中にムーロロの所持品(基本支給品、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、角砂糖、  不明支給品(1~8、遺体はありません))が放置されています。 【ポルナレフについて】  参加者とは別のポルナレフ。  ココ・ジャンボが五部終了後の時点で支給品にされたため、最初からずっと亀の中に幽霊として潜んでいました。  ムーロロの行動を始め、亀の中の出来事及び亀から見えたものは全て彼も見ています。  ひょっとしたら主催者に連れてこられて支給品にされるまでの出来事も見ているかもしれません。 # (ここは……オレは……いったい) 同時刻、ムーロロはどこかの街中にいた。 先程壁に叩きつけられた時と同じ体勢のまま、無数に並ぶ電柱のひとつ……しかもそのてっぺんに腰掛けて。 何故?という疑問が真っ先に出てくることだろう。 今のムーロロは動くことすら困難な状態。 そんな彼がどうしてこんなところにいる――もとい、移動できたというのか……しかも一瞬で。 本人すらも理解していないその理由は、彼の背中にあった。 遺体の脊椎部分、それが奇跡を起こして彼を瞬間移動させた……純然たる事実だけ言えばそうなる。 とはいえ、それでもなお疑問は尽きない。 確かに敵から逃れられたという意味ではムーロロにとって有益と言えるだろう。 だがジョルノは攻撃を行ったものの、敵と認識していたにもかかわらずムーロロにとどめを刺さなかった。 つまりあのまま殺されはしない――どころか、彼を『利用』するために治療していた可能性まである。 こんな人気すらない場所にわざわざ移動させられ、果たして助かったといえるのだろうかという話だが…… (どうする……まずオレの腹はどうなってる……?  助けを呼ぶか……そうだとして、誰に……治せそうな奴は…………  くそっ、駄目だ……声が……出せねえ……) 当のムーロロにとっては現状把握とその打破で精一杯……理由まで考えている余裕はなかった。 あるいは、どうにか逃げられた……その程度くらいは頭のどこかにはあったかもしれないが。 だが、彼は大きな勘違いをしていた。    『君の無敵さは実のところ、無駄だ。どんなに強くとも、君は禁止エリアに入っているんだから。無駄無駄……』 苦難は終わらない……それどころか、さらなる試練がすぐさま襲い掛かることを……! (……ッ! ウソだろ!? おい!) 誰もいないとすっかり油断しきっていた所に浴びせられる静かで、それでいて威厳を感じさせる声。 だが今の彼にとっては単に耳障りで、しかも聞きたくない事実を告げる声にしか感じなかった。 今のムーロロはまともに歩けないほどの重体。 しかも自分が会場のどこにいるのか、どちらにどれだけ移動すれば禁止エリアから逃れられるかもわからない。 おまけに大半の道具はデイパックと共に亀の中に置き去りという三重苦。 何かの拍子にもう一度場所が移らないものか、などとは考えもしなかった。 遺体が起こす奇跡のことをムーロロは知らないし、知っていたとしても不確かなものをあてにはできない。 ムーロロが助かるには運と……彼自身の生への執着力に賭けるほかなかった。 (……冗談じゃあ……ねえ!) 失って困るものは命すら含めて持っていないはずの彼だったが、この時ばかりは『目的』があった。 それが、この土壇場における行動につながったのかもしれない。 (どうにか……しねえと……) 電線――通電の有無に関わらず、移動経路とするには無謀が過ぎる。 そうなると電柱からなんとしても降りなければならず、事実ムーロロはそうしようとしたのだが―― (う……グッ……!) 腹に受けたダメージのせいでうまく手足にも力が入らず、彼の場合はスタンドで踏ん張ることもできない。 結果、碌に動かぬうちにバランスを崩し、あわや爆死を待たずして転落死かと思われたが…… (いや……これでいい……これしかねえ……) ムーロロはあえて上半身から、スカイダイビングのごとく大の字の体勢で空中に身を投げ出した。 見ようによってはまるで自殺するかのように、胸から地面に飛び込む形で。 そして……激突の瞬間。                    ボ  ヨ  ヨ  オ ~ ン 間の抜けたようにも聞こえる音と共に、ムーロロの体が弾き飛ばされる。 垂直ではなく、低めの角度で……なるべく遠くへ離れるように。 当然、着地地点にはまたしても地面への激突が待っていたが……一切逆らおうとせず、思いっきり転がったッ! 少しでも距離を稼ぐための、いわば悪あがき。 幸い建物などにぶつかることはなく、勢いも体力もなくなり本当に動けなくなったところで地面に寝転がる。 (…………どうだ……?) これで駄目ならもはや打つ手なし、覚悟を決めて耳を澄ます。 はたして首輪は――                   ――何の音も発していなかった。 (……………………) そのまま寝転ぶ彼の懐から転がり落ちたのは、ボヨヨオンの文字が書かれた岩のかけら。 ジョルノたちと戦闘になった場合を考え、保険として心臓を守るため胸に忍ばせておいた支給品。 惜しむらくは相手が狙ったのが仕込んだ胸でなく腹だったことだが。 役目を果たした文字はそのまま消え去ってしまったが、ムーロロは見てもいなかった。 (……………………) ひとまず禁止エリアからは脱出した……とはいえ、助かったとはまだまだ言い難い。 それでも一息だけはつける状況だったが……そうはしなかった。 彼の精神は、そんなことすら忘れるほどに乱れていたのだから。 (…………クソッ!!) ジョルノは何故自分を殺さなかったのか……答えは簡単、利用価値があったからだ。 おそらく交渉の早い段階から自分を動けず喋れずの状態にして『戦力』だけ乗っ取るつもりだったのだろう。 そう考えればあのタイミングでの協力否定も納得がいく。 (どいつも……こいつも……) そして自分を現在の状況に追い込んだ、もう一人の『犯人』。 こんなところに自分を連れてきたのは何故なのか。 何か用があった――だとしても何故、姿を見せない? 禁止エリアで始末するため――ただでさえ瀕死で、今まさに無防備な自分を放置して? いくら考えようとも答えの出ない不可解な現象に苛立ちばかりが募る。 (……ナメやがって……ッ!) 無性に腹が立っていた。 自分をまるで相手にしなかったジョルノたちにも。 無責任にワープさせ、自ら手を下さずしかも死すら見届けようとしない『誰か』にも。 誰からも相手にされない……今までの人生において当たり前だったはずのそれに、彼は酷く腹を立てていた。 数秒後、ムーロロはふっ、と息をつく――――    (ああ、わかったよ……そんなにオレの相手をしたくないなら……                   相手にしないまま殺されても、文句はねえよなあ…………?)                                 ――それは、ひとりの暗殺者が誕生した瞬間だった。 もし、ムーロロがDIOに味方したりしていなければ。 もし、ムーロロがジョルノに『敵』とみなされていなければ。 そうすればジョルノとの対面により、彼は真に『恥』を知っていたかもしれないのに。 たったひとつ、出会う順番が違っただけでムーロロの運命は変わってしまった。 彼の人生は、目先の怒りや苛立ちを晴らすことだけがすべて……『恥知らず』のままなのだから―――― 【B-1とB-2の境目付近 / 1日目 真夜中】 【カンノーロ・ムーロロ】 [スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ) [時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降 [状態]:腹部ダメージ(大) [装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット [道具]:遺体の脊椎 [思考・状況] 基本行動方針:目先の怒りや苛立ちを晴らす 1.他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する ※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。  長く放置しすぎると死ぬかも。 ※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。  会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。 【備考】 ・23時に設定された禁止エリアはB-1でした。 ・ムーロロが誰かに「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡しました。  具体的な相手や人数は不明です。 【支給品】 ボヨヨン岬の岩のかけら(第四部) 元は[[ペット・ショップ]]の支給品。 広瀬康一のスタンド「エコーズ」のしっぽ文字ボヨヨオンが張り付けられた岩のかけら。 原作では尖った大岩に張り付けられていたが、ロワ仕様で手のひらサイズ程度の大きさ。 何かが激突するとすごい勢いで弾き飛ばすが、弾かれたもの自体は無傷。 ロワでは弾くのは一回きりで、使ったらただの岩に戻る。 *投下順で読む [[前へ>すれ違い]] [[戻る>本編 第4回放送まで]] [[次へ>化身]] *時系列順で読む [[前へ>すれ違い]] [[戻る>本編 第4回放送まで(時系列順)]] [[次へ>化身]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |199:[[地図]]|[[ジョセフ・ジョースター]]|:[[]]| |199:[[地図]]|[[ジョルノ・ジョバァーナ]]|:[[]]| |200:[[Rule Out]]|[[カンノーロ・ムーロロ]]|206:[[始動]]|

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