白い壁、白い天井、清潔そうな白いベッド。 ぴしりと整えられたその部屋には、しかし誰もいない。 その部屋だけがそうであるなら『そういうこともある』と大した違和感もなかっただろうが、見てきた部屋、部屋、部屋……大部屋、個室、医局、ウロウロと歩きまわっても人どころかネズミ一匹見当たらない。 病院というものにあまり縁のない人生を送っていた[[ティッツァーノ]]だが、これは違和感どころの話ではなかった。 『異常』だ。 人間が、生きているものが見当たらないなんて。 ――ああ、異常というなら何もかも、か。 常ならばきっと人で溢れているであろう待合ホールで、ティッツァーノは安っぽいソファに身を預けてひとりごちた。 「バトル・ロワイアル――殺し合い、か」 首に付けられた金属製の首輪に触れる。 あれは見せしめだ。わかりやすく、とびっきり悪趣味な。 ボスからの指令を受けて、あの首を吹っ飛ばされた金髪の少年――[[ジョルノ・ジョバァーナ]]と裏切り者の護衛チームを追っていた。 多少の誤算はあれどジョルノ・ジョバァーナを追い詰め、あと一息で始末できるといったところで、[[ナランチャ・ギルガ]]のスタンドに蜂の巣にされて……そこまでは記憶している。 「――なぜ、わたしは生きている?」 自分は、[[スクアーロ]]の楯になったはずだ。 撃ち込まれた機銃の熱さ、喉奥にこみ上げた嫌な吐き気も思い出せる。 あの状態で『死ななかった』『助けられた』とでも? 否、死んでいただろう。辛うじて生きてはいたが、どう贔屓目に見たって手遅れにもほどがあった。 それこそ魔法のように――治すというより元に戻すようにでも出来なければ、自分がこうして生きていることなどなかったはず。 それ以外にも、考えるべきことは多岐にわたる。 あの老人が『ボス』なのだろうか? 『ボス』は何故姿を見せた? 自分を治したのは何故? 殺し合いをさせるため? 殺し合いとは? 文字通りの意味なのか? 考えれば考えるほど、わけがわからなくなってくる。少し時間が経って落ち着いたと思っていたが、湧き出てくる疑問は尽きない。 ――情報が少なすぎる。 情報は生命線だ。単純な武力の保有や強弱よりも、情報の有無の重要性は計り知れない。 非力な己であるからこそ、尚更。 この現状がボスないし何者かの『スタンド能力』の行使によるものであると、ティッツァーノは推量している。 そうでなければ説明がつかない。痛みと失血に意識がブレた次の瞬間、ティッツァーノは全くの五体満足であのホールに居た。 あの場所では少なくとも二桁を超える人数がひしめき合っていたように記憶している。 背筋がゾッと総毛立つような異様な気配も、戸惑いを隠せない単なる一般人のような気配も、多種多様に混じりあってさまざまな人間がいたように感じられた。 呆気にとられていたとはいえ、仮にもギャングとして裏社会を生き抜いてきたのだ。その辺りを読み違えているようではお話にもならない。 「――スクアーロ」 相棒の名を呟く。彼はどうしただろう。 最後に見上げた彼は、決意に満ちた目をしていた。 彼は強い。 精神的な脆さが彼の弱点でもあったが、弱さを乗り越えられたなら、彼は。 「彼を、探しに行こうか」 探して、合流して、これからのことはそれから考えようか。 死にかけだった自分が連れてこられたくらいなのだから、彼もどこかにいるかもしれない。 ……否、こんなところにはいないほうがいいのか。 いてくれたらいいと思うのは、ティッツァーノ自身が少なからず困惑しており、すがるものを求めていることから端を発する歪んだ希望に過ぎない。 この悪趣味な『ゲーム』……ボスの思惑がどうあれ、自分には仮にも彼を手に掛ける己の姿など想像もつかない。『ゲーム』の盛況をボスが望むのなら、それは彼と力を合わせて行うべきだ。 いや……そもそものところ、あの老人が『ボス』と決まったわけでもなかったか。 支給品のデイパックから、片手に納まる程度の拳銃を取り出す。銃が紙から転がり出てきたときは驚いたが、それもなんらかのスタンド能力と考えれば納得がいく。 ざっと検分はしてある、新品同様で使用にもまったく問題がなさそうだ。問題と言えば、別の紙から出てきた予備弾薬が一ケース分50発しかないことくらいだろう。 弾が尽きる前に彼と合流するか、何か別の護身用武器を手に入れなければなるまい。 病院を探索している際に失敬した簡易医療品を詰めたデイパックを肩に引っかけ、安ソファから立ち上がる。 ガラスの割れる耳障りな甲高い音が響いたのはそのときだった。 「ひっヒィイィ~~~ィ~~~ッ! たっ……助けてくれェ――ッ!」 落ち着いて、銃を構えて振り向く。 自分は義憤に燃える正義の味方でもなければ、慈善味溢れる聖人でもなんでもない。情報をくれる相手が飛び込んできてくれたのだから、それ相応の持て成しを図るだけだ。 そこには、何があったのかボロボロになったスーツを着た小太りの中年親父が、ティッツァーノに向かって助けを求めてこけつまろびつヨタヨタと走り寄ってきていた。 「止まれ、それ以上近づくな」 「ヒッ」 ビクリと男がたたらを踏む。 しかし、尚もチラチラと己の背後を気にしているようなそぶりを見せている。 そしてティッツァーノが問いかけるよりも早く、男はギャアギャアと喚きだした。 「わ、わしを誰だと思っとるんだ!? ウィルソン・フィリップス上院議員だぞォ――ッ!! 善良な市民にはわしを助ける義務があるッ!!」 「生憎、善良でも市民でもないもので」 無駄弾は正直撃ちたくないが、この興奮状態の親父相手にどれだけの会話ができるか怪しかったので、牽制をかけるために一発撃ち込んでやる。 乾いた音を立てた足元に、上院議員だなんだと喚き立てていた男が今度こそ硬直した。 「質問します。あなたに拒否権はありません」 「ぐ……う、うう……」 「何に追われているのですか?」 「ば、化け物だッ、女の顔に男の顔のある化け物ッ! こんなわけのわからん催し物に巻き込まれてさぞ難儀しているだろうと助けてやったのにッ! ワシに齧りつきよったッ!」 「そいつは武器を持っていますか?」 「い、いや……物凄い怪力で噛みちぎられて、治療と助けを求めてここまで走ってきたッ」 「ふん……そうですか」 ごく短い会話でしかないが、得られた情報は幾つもあった。 この中年親父を襲ったのは、おそらくスタンド能力者だろう。少々能力が分かりにくいが、怪力を発揮するとかいう能力なら近寄らずに叩けばいいだけだ。 そして、やはりこれは『ボス』がなんらかの意図の上で始めたことに違いない。 [[ウィルソン・フィリップス]]などという名前に聞き覚えはないが、破られ血に汚れたスーツは古臭い仕立てながら上質なものに見える。上院議員だという身分も、この興奮状態で軽々に吐けるウソではない。 権力者、スタンド能力者、そして『殺戮ゲーム』。 見世物か何かのつもりなのだろう。表舞台での邪魔者を、ひっそりと攫い血に塗れた遊戯で狩る。趣味の悪い権力者が好きそうなことだ。 報酬の話もそれなら頷ける。この舞台の規模から考えても、相当な額が動くだろう。 ティッツァーノが少しばかり思考に沈んでいると、いよいよ追い詰められてきたのか目を血走らせて自称上院議員がじりじりとにじり寄ってくる。 「お、おい若造ッ、結局どうなんだッ? あの化け物を殺せるのかッ? 殺せるんだろうッ! ああそうなんだろう!? 金なら腐るほどあるッいくらでも払ってやる! それとも地位か? 名誉か? 何が望みだッ?」 パンッと乾いた音がして数瞬後、上院議員は屠殺される豚のような悲鳴を上げて崩れ落ちた。 「おしゃべりなひとですね、あなた」 「……うぐ、ヒィ~、ひィ~、ひ、ヒヒヒヒ……けひっ、クヒヒヒヒッ!」 上院議員のごく一般的な一般人の精神は、度重なるストレスに耐えかねているようだ。 片足を撃ち抜かれ、床の上に崩れ落ちた姿は哀れな豚以外の何物でもない。 だが、ティッツァーノは別段その姿に憐れみなど感じない。豚が、豚らしくなっただけ。 痙攣したような笑い声はあまり長く聞いていたいものでもないが。 「さて……どう出る?」 己がこのゲームにおける『獲物』の側であるとは考えたくないが、ティッツァーノには客観的に見て『命令を遂行できなかった』『しくじった』前歴がある。 ゆえに、ボスが制裁を加えることを考えているのかもしれない。命を救ってまで殺そうというのはどうにも整合性がないが、これが見世物であれば話は変わってくる。 獲物は、生きが良いに越したことはないと決まっているものだ。 しかしティッツァーノは、ただ狩られるだけの哀れな獲物になり下がるつもりなど微塵も無い。 「逃げるか、待つか……」 ◆ [[ヌケサク]]は酷く上機嫌だった。 なにせあの憎たらしい『[[空条承太郎]]』が、首をブッ飛ばされて! 死んでしまったのだ。 舞台上で騒いでいたジジイに見覚えはなかったが、DIO様の手下連中の中には己と顔を会わせたことがないやつらもいくらだっているだろう。 雰囲気や着ている服が違ったような気もするが、そんなことはこのザマミロ&スカッとサワヤカな気分の前には些細なこと。 ヌケサクは、ひとつ鼻歌でも歌いだしそうなイイ気分だった。 「DIOさまァ~あなた様の大事な部下であるオレを助けてくださったのですねェ~ッ!」 更には堂々たる『殺戮ゲーム』の開催宣言! 「お役に立ってみせますともォ~~~ッ!」 ヌケサクは笑いが止まらない。 つい先ほども、見るからにマヌケそうな中年親父が『引っかかった』。 最初の獲物だからとじっくりいたぶってから殺してやろうと思っていたのに、意外にも素早く抵抗され取り逃がしてしまったのは片手落ちだった。だが、逃げた先にあるのは病院くらいだ。 か弱いただの人間どもがいくら群れたところで、オレ様の前にはクズ……ゴミ……カス……ッ! ヌケサクは己の絶対の優位を疑うことなく、さながら『帝王』のようにふんぞり返って歩いていた。 目指す病院の影が近づいている。 ◆ 「ひひっ……わしはァ……ウィルソン・フィリップス……じょういんぎいんだぞォ……じょおいんぎいん……きひひッ……」 「なんだあ? 誰もいねえのか?」 ヌケサクが踏み込んだ病院の中は、蹲ってなにやらブツブツと呟いているさっきの中年親父がいるだけだった。 やたらに血の臭いがするとヌケサクが鼻をひくつかせて親父をみると、どうやら足を撃たれているようだ。DIO様の意図のわからない一般人が、わけもわからず怯えてやったに違いない。 この親父を取り逃がしてから、ものの10分と経っていない。その間、銃声は二発聞こえた。 ヌケサクの獲物はもう一匹いる。 「オレ様は不死身だァ~~そんな豆鉄砲で撃たれたってヘッチャラだぜェ~~?」 わざわざ大声で言ったのは、おそらく隠れて怯えているだろう獲物に対してだ。 ヌケサクだって撃たれれば痛い。痛いが、それだけだ。 頭を潰されたり体をバラバラにされたり、その他身動きのとれない状態にでもされない限り、ヌケサクの優位は揺るがない。 しかし、獲物はすっかり怯えて縮こまっているのか、物音ひとつ聞こえてこない。 「かくれんぼかァ~~? どこまで逃げられるかなァ~~~~?」 ヌケサクの誤算は、病院という人の集まりやすい場所にも関わらず、この建物内には人の気配がほとんどしない。無力な人間を思うさま狩れると思っていたヌケサクは、ホンのちょっぴり落胆していた。 そして勝算もひとつ。他に気配がしないのだから、『それ』は獲物に他ならない。 「オレ様にはわかるゥ~~そこの物陰ッ!」 出入り口からの対角線上、奥へ向かう通路の壁の端から、白い布がちょっこりとみえている。 隠れて様子を窺っていたのだとしても、えらくお粗末極まりない。 案の定、その白い布は慌てたように引っ込んだ。ぱたぱたと走り出す足音が響く。 速度は……遅い。女か子供だろうか。若い女ならしめたものだ。景気づけの食事にするもよし、腕のひとつもへし折っておとなしくさせて、DIO様への手土産にしてもいいだろう。 ヌケサクはもう中年親父には見向きもしなかった。こんな脂ぎった親父より、新しい獲物のほうが何倍も『美味そう』だ。 人を超越した己の能力があれば、追いつくのは赤子の手をひねるよりも容易い。ヌケサクは逃げた人影を追って通路を走る。広い病院の中、あまり目を離して小部屋にでも隠れられると面倒だ。 人影は、まさかこんなにも早く追いつかれるとは思ってもいなかったのだろう。慌てたように振り返った際、長い髪が乱れていた。 (ラッキィ――――ッ! オレ様はツイてるッ!) 背格好もそれらしく、妙齢の若い女に違いないとヌケサクはほくそ笑む。これは天が己に味方しているとしか考えられない。 (ちょっとくらい『味見』してもイイんじゃあないかァ~~ッ?) 白い影の逃げ込んだ先は、突き当りの部屋のようだ。部屋の中で怯えて震える様が目に浮かぶ。 さっきの親父のように逃がしては堪らないと、ヌケサクは勇んで扉を押しあけた。 ……ヌケサクが知覚できたのは、そこまでだった。 ◆ ティッツァーノは、目の前の動かなくなった白い塊を見て嘆息した。 こんなにも簡単に捕まえられるとは思ってもみなかった。もちろん、多少の予備知識と仕込みはしていたが、それにしたって。 「こいつ、まぬけというほかありませんね……」 白い人影――シーツを纏っていたティッツァーノは、すでに身軽な元の格好に戻っている。デイパックはしっかりと担ぎ、片手には護身用の銃をしっかりと携帯し、万が一の逃走路の扉も開け放して準備は万端だ。 作戦はこうだった。 扉を開けて入り込んできた隙を狙って、シーツで誤魔化しながら抱えていた消火器でまず一撃。 よろけたところに被っていたシーツを目くらましと動き封じにかぶせ、頭部を狙って二撃、三撃。不死身だなんだと豪語していたわりに、あっけなく沈黙したものだ。 「まあ多少の油断はしてもらいましたが――」 ふと、塊がかすかに身動ぎする。念のため被せたシーツの端々を結んではいるが、そんな些細な拘束でいつまでも持つわけもない。 「ぅお……あぁ? 見えねえ! 見えねえよぉ!」 じたばたともがく姿は妙にコミカルだ。しかしティッツァーノは冷静に告げた。 「質問します、拒否権はありません。余計なことは言わないほうが身のためですよ」 「あ!? なんだァァテメェェェ男かよッ! ブッ殺してやるッ!」 パン、と軽い音が響く。 「あギャッ……い、いデェ~~ッ」 「いきがるのも程々にしないと命をなくしますよ」 撃ち終わって、ティッツァーノは気づく。こいつからは血が流れない。 撃った位置にもよるだろうが、ティッツァーノは生かしも殺しもしない四肢を狙って撃った。そしてそれはこの小男の体にキッチリあたっている。しかし、血は出ない。でていたとしても、シーツにも滲まないほどのごく少量だということ。 まさか、あの世迷言が真実だとでもいうのだろうか? 「あなたの知っていることを洗いざらい喋ってください。ウソをついていると感じたら一発ずつブチこみますからそのつもりで」 「ぐ、ぐぐ……」 尋問は難航した。 というのも、この小男の話していることはティッツァーノにとってすべからく『夢か妄想か』としか思えないようなことばかりだったからだ。 100年の眠りから覚めた不死の王、吸血鬼たる主『DIO』。 小男がいかにしてかの吸血鬼の僕となったか。 主の偉大さ、強さ、恐ろしさ。 そしてこのゲームが主の『娯楽』の一環であるとの主張。 この場において有用そうな情報といえば、小男に主と呼ばれる『DIO』の話だろう。 限りなく譲歩して、この話がすべて真実だと仮定して……もしそんな化け物がいるのなら、一刻も早く対策を練らねばなるまい。 人を食うものと人間と、相容れることなど万が一にもありえまい。 このバトル・ロワイアル、ひと癖もふた癖もある連中ばかりが揃っているようだ。 ティッツァーノはもたらされた情報を整理するべく思考を巡らせる。 (この『ゲーム』、腑に落ちないことが多すぎる) (このヌケサクにしろ、DIOとやらにしろ、『化け物』だという……はっきり言って信じられない) (だが、これが事実だとしたら? ……想像の埒外にも程がある、いったい何が起きている?) (全ての鍵を握るのは主催者……あの老人なのか) そして、沈黙。 この沈黙は、後に思い返せばあまりにも悪手だった。 「……なぁ、オメー『マヌケ』かぁ?」 迂闊だった。あっさりとベラベラ喋っていることこそ、疑わねばならなかった。 小男は、話す声に紛れさせてこっそりとシーツを引きちぎり、ティッツァーノの油断を窺っていたのだ。 「ポンコロポンコロ撃ちやがってッ! 死ななくったってイテェんだよォ~~ッ!」 目を爛々とさせて躍りかかってくる小男に、ティッツァーノは咄嗟に防御態勢を取る。 が、小男は構わず『噛みついて』きた。 「――ッ!」 そのまま勢いよくブヂリ、と嫌な音を立てて腕の肉が『噛みちぎられた』。 「……チェッ、やっぱり男は美味くねェなァ~~」 くちゃくちゃと噛まれているのは、己の皮膚と、血と、肉。 ――全身がぶわりと総毛立った。 ティッツァーノはしゃにむに小男を振り払って後退る。 これを殺さなければ。 「あイデデ……なんだぁ、さっきまでのヨユーブッこいた態度はどうしたァ? ようやくこのオレ様の恐ろしさを思い知ったか? ヒヒッ!」 醜悪に笑う目の前の化け物に、ティッツァーノは叶う限りの速度で銃弾を撃ち込む。 足。 「あだッ」 腹部。 「イデッ」 心臓。 「だっ……このッ」 顔面。 「ブがッ」 ――よろけてはいるが、ただそれだけだ。 「だからよォ~~イテェっつってんだろッ! ……弾切れってとこか? 残念でしたァ!」 顔に、体に、穴をあけたまま化け物が笑う。 食いちぎられた腕から、ボタボタと血が滴り落ちる。 化け物は余裕ぶった態度のまま、ゆっくりとティッツァーノに向かって進み来る。 (……逃げるか? ――いいや、ありえない) 化け物だろうとなんだろうと、ギャングを舐めた報いを受けさせる。 一瞬でも恐怖させられ、傷つけられた己のプライドにかけて。 「――調子に、乗るなッ!」 こんなところで使うとは思わなかった、緊急用にポケットに忍ばせておいた消毒用アルコールの瓶。 目くらましや逃走用にと失敬してきていたものだが、この用途は『最悪に近い緊急時』の想定だった。 思い切り投げつければ、ガラスの小瓶は呆気なく割れる。 「あぁ? なんだこりゃ……」 パン、と幾度目かの銃声が響く。 そしてそれに呼応するように、小男の体がゴワリと燃え上がった。 「うげェェェェェェェェェェッ!?」 慌てふためきゴロゴロと転げまわる小男に、ティッツァーノが無表情に息を吐く。 「……化け物でも熱いですか? それは良かった」 更に目を眇め、その首にある輪に銃口を定め―― 「首を吹っ飛ばせば、もう動くこともありませんよね――?」 ――引き金が引かれた。 &COLOR(red){【ヌケサク 死亡】} &color(red){【残り 111人】} 【G-8 フロリダ州立病院内・1日目 深夜~黎明】 【ティッツァーノ】 [スタンド]:『トーキングヘッド』 [時間軸]:スクアーロを庇ってエアロスミスに撃たれた直後 [状態]:左腕に噛み傷(小)応急手当済み、行動に支障はありません [装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬27/50)@現実 [道具]:[[基本支給品]]一式、病院内の救急用医療品少々(包帯、ガーゼ、消毒用アルコール残り1瓶) [思考・状況] 基本行動方針:スクアーロと合流したい 1.『化け物』を『ブッ殺したッ!』 2.この『ゲーム』、一体なんなんだ? 3.『DIO』は化け物、できれば出会いたくない 4.主催者はボス……? 違うかもしれない [備考] バトルロワイアルが単純な殺戮ゲームではないと思い始めました 信頼がおけるのはスクアーロくらいしかいないと薄々感じています ヌケサク、上院議員から得た情報は本文中のもののみです 【ウィルソン・フィリップス上院議員】 [スタンド]:なし [時間軸]:DIOに車内に乗り込まれる前 [状態]:手・肩等に無数の噛み傷、片足に銃創、精神不安定 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、未確認ランダム支給品1~2 [思考・状況] 1.ああ~痛いッ痛いィィ~ケヒヒッ 2.ワシはウィルソン・フィリップス上院議員だぞォーッ! 3.こんなバカげた催し物の主催者はどこだッ!? [備考] 上院議員の怪我は、銃創を放置していたら半日くらいで失血死すると思います 噛み傷は深かったり浅かったりしますが、やたら痛いだけで致命傷には至っていません 今後会話が成立するかどうかは次の書き手様にお任せします ※ヌケサクの支給品は一緒に燃えました ※アルコールは少量だったので、病院への延焼はしていません ※消火器(病院備品)は首無し焼死体のある部屋に放置されています *投下順で読む [[前へ>killing me softly]] [[戻る>本編 第1回放送まで]] [[次へ>揺れた煙は地に落ちる]] *時系列順で読む [[前へ>killing me softly]] [[戻る>本編 第1回放送まで(時系列順)]] [[次へ>揺れた煙は地に落ちる]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |&color(blue){GAME START}|[[ヌケサク]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[ウィルソン・フィリップス]]|084:[[『日陰者交響曲』]]| |&color(blue){GAME START}|[[ティッツァーノ]]|051:[[寂しい半球、歪な全球]]|