……え?いや、そりゃあ俺にだって知らないことはあるよ。 君らが俺に教えてくれたこともあるし、仮に知らないことがあれば知ろうと努力くらいはするさ。 ほら、最近だと『カリカリ梅が大好きな狂気のギャンブラー』とか。 彼に関しても俺は持ちうる手段を用いて調べ尽くした、はず。あまり突っ込み過ぎると消されそうだからね…… で、調べてるうちに感じたことは、彼はただ頭がいいだけじゃあない。 彼が得意なのは『賭け』ではなくて『駆け引き』だと思うのさ、俺の解釈だけど。 同じ『カケ』という読みでも随分違うんじゃあないか?この二つは。 ハッタリをかまし、道化を演じ、相手を観察し、押すときはトコトン押す。 ――そういう参加者は、この場にもいるだろう? 彼が放送を聞いても特に思うことはなかった。 せいぜいが、自分の危機は去らないという事実を改めて痛感した、という程度だろう。 できるだけ多くの参加者と接触しなければ自分は実験台として人柱になる可能性が。 そして逆に参加者と接触すればするほど、乗っていた人間に殺される可能性がある。 でも、それすらどうでも良くなってきていた。 一口に『自由』といっても、それを明確にどんなものか説明できる人間はいないし、百人に聞いたら百人それぞれの答えが返ってくるような質問は質問と言わない。 先に接触した二人組に取り入ろうとせず、半ばヤケクソで与えられた命令をこなし退散したことも、その辺りが彼の胸の奥にモヤモヤと巣食っていたのが原因だろう。 ゆえに、次に出会った参加者にも特に思うところはなかった。 「今度はミュージシャン志望かよ……大したセンスだぜ、くそったれ。なんだってホント」 そりゃあ悪態の一つも付きたくなるだろう。 目の前に突っ立っている男は、そんな彼のことを、警戒するでもなく、憐れむでもなく、疑うでもなく、訝しむでもなく。 あるいはそれらを全て混ぜ合わせたような目を向けていた。 「ハァ……参加者たちに『[[カーズ]]』ってやつからの伝言。 『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』だとさ。まあ、来ても来なくても自由だけど」 ため息混じりに言うべきことだけを言い、踵を返す。 直後にいきなり走り出さなかったのは、疲労なのか、思うところがあったのか。彼自身にもわからない。 そんな背中に声がかけられた。 「君は――」 静かに、しかしよく通る、それでいて気にしなければ聞かないで済むような、その声は。 「『宮本輝之助』だね?」 静止を求めるものではなかった。 ●●● 『どうして自分の名前を知ってるんだ?』って顔をしてるな――少し私の話をしよう。 私の名は『[[吉良吉影]]』。年齢33歳。自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり……結婚はしていない…… 仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で、私服のセンスをミュージシャンだと評されたのは初めてだが、音楽はたしなむ程度。 毎日遅くとも夜8時までには帰宅する、普通のサラリーマンさ。 そしてある日、これは全くの偶然だったんだが……“写真のおやじ”を知っているか?彼が私のことを『弓矢』で射った。 いわく「この矢に選ばれたものは特別な能力を得る」とのことだった。例えば私が聞いたところだと…… 『目や耳の内部が破裂した7人の変死事件のニュース』の真犯人は脱獄した死刑囚アンジェロじゃあないかとか、 ×月×日の『杜王町停電事故』は実は人為的なものだったとか、 ×月○日の『窃盗5億円事件』の犯人は超能力者だったという噂とか。 ……普通の人に聞いたらほとんどが「都市伝説だろう、そんなの」という内容だ。 だが私は普通ではない能力を目の当たりにしたので、その話を疑わず――調べていくうちに君にたどり着いたってわけだ。 ……フム。君の言い分もわかる。ならば君の不安を取り除くために言うが、私が君について知っているのは名前と容姿だけだ。 それから私の能力、そう君がスタンドといった、その能力だが。正直に言って『わからない』。 矢に刺されて死ぬほど痛い思いをしておきながら――自分で言うのもなんだが、これで私はエスパーだ、ヤッタバンザーイ、って気にはならなかった。 ゆえに能力を行使したことがないし、やり方もわからない。 写真のおやじはそんな私のことをかなり怪しんだ。矢から見ればアタリでも、人間的にはハズレだと。 だが、頭を切り替えたおやじは、私にこういった。 「得た能力を持って『あるスタンド使いたち』を始末して欲しい。だが、お前は能力を使えない。だったら『その無力さ』を利用して“他者に取り入る”のだ」 ――とね。それなら私にも理解できた。強いものに、弱い者に。賛成派、反対派。多数派、少数派。数というのは目に見えて効果を発揮するからな。 無力な人間なら尚更だ。足を引っ張るのも、思いの外に役立つことも自由自在という訳さ。 私はケンカは苦手だが、そういう戦い方ならできるかもしれない。ゆえに写真のおやじの話に乗り…… ……人の話を遮るのは感心しないが、まあ、理解が早くて助かるよ。 『私は君と同行し、カーズの話に乗った人間を演じることで効率よく参加者と接触する』 しかし――そう、カーズと言ったな?そいつにそんな芸当ができるのか? もしその話が本当なら私自身もぜひ首輪を外してもらいたいもんだが…… 大体、未だに宮本君、きみが首輪を装着している以上は『まだ外せない』んじゃあないのか? どれ、見せてみろ。実はカーズにナニカサレタとかないか? というか、その耳も。止血してやろうじゃあないか。ほら、後ろ向いて。 ……ふむ。君からは見えない首輪の後ろ側にも特に変わったところはないな。 指でなぞってみた感じ、溝や段差の感触もない。私が自分で触ってるこの首輪と変わりないようだ。 つまり、君がカーズと接触したその際には、カーズによって首輪に何かしらの細工を施されたという心配はなくなったわけだ。 だが、現状でこの話を信じれる奴はどのくらいいるのかな、疑問に思わないか? 先の放送を聞いたろう?最初の舞台に立ってたカリメロ頭の男が死んで、大統領だと? 禁止エリアがわからない?次回には代役?まったくもって理解が追いつかない。 そして――もしかしたら。 主催者が死んで首輪が機能停止したとか、あるいは存在する意味を失ったとか――監視役がいなくなったという意味で―― そういう可能性を浮かべる奴もいるんじゃあないか? ……おい、落ち着きたまえ、私は可能性の話をしただけだ。なんでそこで君がビビって目を閉じる必要があるんだ。 まてまて、急に走り出すと心臓に良くないぞ。……ん?毒薬?それなら尚の事だ。深呼吸して、そう。 ……うむ。早速君の役に立てて何よりだ。 なら、役立ちついでにもう一つ私から提案させてくれ。 『今私が言った可能性について、今からカーズに意見を伺いに行くのはどうだ?』 ビビるな。大丈夫だ。私も同行する。“さっそく一人くいついた”とでも言えば良いだろう。 天才カーズ、とやらのことだ。どこかで私の姿を目撃しているかもしれないが、些細なことだ。相手の素性は問わないと言ったんだろう? 途中で他の参加者に接触したってそれも問題にはならない。私がなんとかする。 なんせ『無力な人間』を地で言ってる私なんだからな……自分で言うのもなんだが、フフ。 決まりだな……ん、アテがない? じゃあとりあえず、さっきまでいた場所に戻ってみるか。 ●●● さてさて。こうして吉良と宮本が合流してカーズのもとに向かおうとしてるわけだが。 一応……一応ね、君らにこの交渉における吉良の真意を解説して終わりにしよう。 吉良の思考はもはや――って表現は少し違うか。ずっとそうだった、『自分に危害を加えうる存在の排除』に尽きる。 趣味の『手首』ももちろん重要な点ではあるが、自分が生き延びないことには手首もヘッタクレもない。 さて、そうなれば削除する対象だが。現在での最優先は[[空条承太郎]]およびファニー・ヴァレンタインで、その下に僅差で存在するのが、もちろんカーズ。 そこに都合よく現れたエニグマの少年。聞いた話じゃ『爆発する首輪を解除しよう』としてるそうじゃあないか。 ところで。『嘘を付くときには真実に織り交ぜると良い』とはよく言ったものだ。 年齢や勤務地も、写真の親父の持つ弓矢で射られたことも、その力で敵対する存在を排除しようとしていることも。 カーズに会うという目的も本当にやりたいことだし、見た感じ首輪に異常がないことも本当だ。 むしろ、嘘は『能力がわからない』と言った、そのひとつだけだろう。 ほとんど真実の話にほんの一滴の嘘を垂らすだけで……と。まったくよくできている。 ――ああ、それから本名を名乗ったことと、宮本の名を知っていたこともだな。 思い出してくれ。吉良は空条邸で『[[蓮見琢馬]]』の偽名を使ってすべてを消し去った。 つまり今後蓮見琢馬の名前を使うとなにかと不便で、しかも今後の放送――本当に行われれば、だけど――で『自分の名前』が呼ばれる可能性とリスク。 そして数刻前に呼び出された主催者サイド、そのモニターにチラリと映った姿の中に『写っていない外見』だった宮本。 最終的な判断は無作為な直感ではあったものの、結果としてそれが正解。杜王町の住民的に言うなら“鰯の頭も信心ね”ってやつだな。 さて、話が前後したけど――偽った吉良の能力だ。もちろん首輪を“ただ指でなぞって感触を確かめた”なんて事はない。 『現在宮本輝之助の首輪は爆弾になっている』――この事も、まあ本当だな。むろん、キラークイーンの能力ゆえの爆弾、という意味だけど。 首輪に触れたカーズが消し飛べば万々歳。 仮にその方法での暗殺が失敗したとしても、『アレほど外すと言ったカーズがやっぱり失敗して宮本が爆死した』という事実があればそれもそれで良し。 前者の方法でイクなら今すぐにでもカーズと接触すべきだし、後者をメインにしたいなら指令通りに多くの参加者を引き連れて、カーズに大恥をかかせてやるという訳だ。 しかも“カーズを探すあてがない”現状だったらどちらに転ぶも自然な展開にできる。 『自分の正体を知るうちのひとり』であるカーズが死ねばとりあえず一安心と。 承太郎やヴァレンタイン、あるいは[[ジョニィ・ジョースター]]との接触はその後でも構わない。 ――まあ、同時に全てがうまく進行すればそれが理想だが。そうならないと感じたなら一つずつ問題を解くしかないからな。 最初に言ったな、ハッタリをかまし、道化を演じ、相手を観察し、押すときはトコトン押す。 まさに吉良吉影そのものだ。 主催者に接触した事実を隠し、それでいてほとんど自分の正体を晒し。 弱者を演じ、宮本の反応をよく観察し。押すとなれば右手のスイッチをためらわず押すだろう。 しかし最後に一言付け加えるなら…… 『吉良吉影。コイツ、嘘つきだね』 【C-2 路上 / 一日目 夜】 【[[宮本輝之輔]]】 [能力]:『エニグマ』 [時間軸]:仗助に本にされる直前 [状態]:左耳たぶ欠損(止血済)、心臓動脈に死の結婚指輪、動揺 [装備]:コルト・パイソン、『爆弾化』した首輪(本人は気付いていない) [道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW) [思考・状況] 基本行動方針:??? 1.吉良とともに行動する。カーズのもとへ戻る予定 2.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい ※思考1でカーズのもとに戻るとしましたが、カーズとの接触方法は第四放送時の会場中央以外に存在しません。 自分の歩いてきた道を引き返す予定ですが、具体的にどうするかは次の書き手さんにお任せします。 ※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『[[新・戦闘潮流]]』で見た知り合い([[ワムウ]]、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。 カーズのもとに向かう道中に吉良に聞くなど手段はありますが、本人の思考がそこに至っていない状態です。 第三放送は聞いていました。 ※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。 ※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。 【吉良吉影】 [スタンド]:『キラー・クイーン』 [時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後 [状態]:左手首負傷(大・応急手当済)、全身ダメージ(回復)疲労(回復) [装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着) [道具]:[[基本支給品]] バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、[[川尻しのぶ]]の右手首、 地下地図、紫外線照射装置、スロー・ダンサー(未開封)、ランダム支給品2~3(しのぶ、吉良・確認済) [思考・状況] 基本行動方針:優勝する 0.自分の存在を知るものを殺し、優勝を目指す 1.宮本輝之助をカーズと接触させ、カーズ暗殺を計画 2.宮本の行動に協力(するフリを)して参加者と接触、方針1の基盤とする。無論そこで自分の正体を晒す気はない 3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい ※宮本輝之助の首輪を爆弾化しました。『爆弾に触れた相手を消し飛ばす』ものです(166話『悪の教典』でしのぶがなっていた状態と同じです) ※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。応急処置だけ済ませました。 ※バイクは一緒に転送されて、サン・ピエトロ大聖堂の広場に置かれています。ポルポのライターも空条邸から吉良と一緒に転送され、回収されました。 ※吉良が確認したのは168話([[Trace]])の承太郎達、169話(トリニティ・ブラッド)のトリッシュ達と、教会地下のDIO・ジョルノの戦闘、 地上での[[イギー]]・ヴァニラ達の戦闘です。具体的に誰を補足しているかは不明です。 ※吉良が今後ジョニィに接触するかどうかは未定です。以降の書き手さんにお任せします。 *投下順で読む [[前へ>ブレイブ・ワン]] [[戻る>本編 第4回放送まで]] [[次へ>火蓋]] *時系列順で読む [[前へ>ブレイブ・ワン]] [[戻る>本編 第4回放送まで(時系列順)]] [[次へ>火蓋]] *キャラを追って読む |前話|登場キャラクター|次話| |182:[[祭の前にさすらいの日々を]]|[[宮本輝之輔]]|193:[[To Heart]]| |178:[[今にも落ちてきそうな空だから手を繋ごう]]|[[吉良吉影]]|193:[[To Heart]]|