外伝 「コンピ研部長は動けない 」
「ま、知っていようが知っていまいがどうでもいい事だが……僕はコンピ研の部長だ。
名前は諸々の理由で言えないがね。今回は僕が体験した摩訶不思議な出来事について話してやるよ。
そうだな……あれは文化祭のちょうど一週間位前の事だったかな………」
その朝、僕が目を覚まし、一番始めに目に付いた物は凄く奇妙な物だったよ。だってそうだろ?朝起きたら自分の背中に変な人型の何かがくっついているんだぜ?
誰だってビビるし僕だってビビる。そしたらそいつがいきなり話し掛けてきたんだよ。
「よぉ!今度は君が僕の本体かい?でも兄さんも不幸だネッ!まぁ、親切で言ってあげると僕を誰かに見せない方が身の為だよ?」
「………どういう意味だ?」
「僕の名前はチープ・トリック。僕はこうやって誰かの背中に取り憑いて話すだけのちんけなスタンドさ!」
スタンド?取り憑く?訳が分からない。多分妖怪か何かの類だろうか?そういえばこの前読んだ漫画雑誌に岸辺露伴がそんな話を書いていた。
自分が体験した事だと言い張っていたが……案外本当なのかもしれない。
「………で、なんで見せない方がいいのさ?」
「見せたら死ぬからさ」
「………なんで?」
「なんでと言われてもね……それが僕の能力だからさ。他人に背中を見られない方がいいよ。
ま、僕も今回は電話で出前とかは呼ばないし、迷惑はかけないから家から出ない方がいいと思うよ。君が一人暮らしで良かったじゃないか」
いきなりすぎてまだよく理解出来ないがこいつは多分嘘はついていない。
と、なるとこいつがいなくなるまで家からは出れないが……問題は無さそうだ。部活なら一二年が何とかしてくれるだろう。
ま、のんびりこの妖怪がいなくなるのを待つか。
と、まぁ随分呑気な気分だろ?ま、これもあの涼宮とかいう非常識女に色々されてこういう状況に慣れたって事なのかな?
そんな事を考えながら暫くの間家に閉じ籠っていたがある日の日曜、遂に問題が発生した。
「食べ物がねぇ………」
もちろん何も食べなくてもすぐには人間は死なない。
だが、この妖怪がいついなくなるかはサッパリ分からず、とにかく食料は多い方がいい。買いに行かなくてはな………。
「外に出るのかい?よした方がいいんじゃないの?」
「………うるさい」
………甘かった………人に背中を見られないように歩くのがこんなに辛いとは……
ずっと背中を壁にこすりつけてるせいで背中は痛いし、人の視線も痛いし……。
と、そんな事を考えているうちに最大の難関、交差点にたどり着いた。
「ありゃりゃ……困ったネッ!ネ!どうするのさ?これ」
「お前……今まで色んな人に取り憑いたんだろ?だったら今まで交差点を渡れた奴いるのか?」
「どうだったかなぁ。渡れた人もいた気がするし、いなかった気もするしなぁ………」
教えるつもりは無いらしい。
「悪いが僕もそれ程馬鹿じゃない。こうすればいいのさ!」
そう叫ぶと近くにいたドレッドの男と背中合わせになる。
「お前は僕の邪魔はしないんだろ?だったらこうしてれば誰にも背中は見られないだろ?」
「おっ!よく気が付いたネッ!昔取り憑いた奴もそうしてたぜ!」
と、その時、
『い、今の声ッ!スタンドかッ!?』
どういう事だ?この妖怪が見える奴がいるのか?
「だから言ってるじゃないか。僕はスタンドだよッ!妖怪じゃあないんだ。多分そいつはスタンド使いだね、だからスタンドが見えるのさッ!」
男が振り向いた瞬間、咄嗟に近くの壁に背中を張り付ける。
『てめーッ!新手のスタンド使いかッ!』
『ち、違うんだ!僕は普通の学生だ!こいつはいきなり現れたんだよ!君を攻撃する気は無い!』
『うるせえええぇぇぇぇ!だったらその背中をこっちに見せろ!』
『できる訳が無いッ!』
見せたら死ぬからな。
『じゃあやっぱり敵じゃねーかよッ!くらいなッ!ザ・キッス!』
そういう男の側に大量の角がついた、人型の何かが現れた。
『ま、待ってくれ!僕は攻撃をくらっているんだ!』
『……………え?』
『チープ・トリックとかいうスタンドらしい……知ってるか?』
『チープ・トリック……じゃあ背中を隠しているのも………』
どうやらこのスタンドの事を知っているようだ。
『い、いや……わ、悪ぃ……ここんとこ色々あってピリピリしてたんだ……しかし、チープ・トリックとはお前もツイてないな………そうだ!』
………何を思い付いたんだ?
『お前さ、今自分が不幸だと思うか?』
ま、そうだろうね。
『じゃあさ……その……女の人からパンツもらえたら嬉しいか?』
出合って数分なのに下ネタ話をしてくるとは……凄い男だ。
『ま、嬉しいかな?』
『そ、そうか………』
………嫌な予感がしてきた。
『じゃあ、あたしのパンティーあげちゃうわッ!』
………何だってェェェェェーーーーーッ!
『男のパンツなんてもらっても嬉しくないぞッ!』
その次の瞬間、俺の目の前は真っ黒になった。
目が覚めると公園にいた。幸い背中は誰にも見られなかったようだ。
「キョンくーん!あの人なんで頭にパンツ被ってるのー?」
「世の中にはああいう趣味の奴がいるんだよ。お前はまだ小学生なんだからな、相手にしない方がいいぞ」
………パンツ?頭を触ってみると確かにある。………まさか、あいつ………。
「30人ぐらいには見られてたよッ!ネッ!ネッ!社会的に再起不能だネッ!」
これが僕に起こった出来事だ。興味があるのならここの地方紙をとって欲しい。
“壁に背中を擦りつける変態パンツ男”そんな記事が見つかるはずだ。
コンピ研部長は動けない 完
最終更新:2008年02月16日 22:48