『汐華初流乃の憂鬱』

第14話 「傍にいる者」 語り部 汐華初流乃



スコップの先端が放物線を描いて後方の闇の中に消えていった。
「な…?」

僕もルカも、何が起きたかよく分からず、あっけに取られていた。

「何しやがった…?」
先端がどっかに吹っ飛んで、初期装備「ひのきの棒」になった、元スコップを握り締めているルカ。
その手元が小刻みに震えている。
何がどうなったかなんて僕にも分からない。

唯一つの点を除いて


僕がスコップを…どうしようと思ったか自分でも分からないが、反射的に伸ばした右手

その先に人影が見える。
いや・・『人』といって良いものか・・・?

うっすらと金色の光を放ち、半透明透けて見える謎の人影
まるで幽霊か何かのようだ。
人の形はしているが明らかに人間・・というより生き物というか・・・この世の存在って奴ではないような気がする。

「何をしやがった!?」
ルカが喚く。

アイツには見えていないのか…?
「おい、何をしやがったーッ!!」

どうやら、どこから出てきたのか分からないが・・・この半透明の人影が
ルカのスコップを防ぐ・・・というより根元からへし折ったようだ。

一体何なんだコイツは。
プロテクターやヘルメットのような物を着込む様は人物というには現実感というものが感じられがない。
まるで、コミックや特撮のヒーローを思わせる。

なぜだか分からないが、今、僕には奇妙な実感がある。
この半透明のヒーローが、この僕にとても近い存在
それは体の先に手や足があるように・・・その先にコイツ、金色に光る幽霊がいる。
上手く言葉に出来ないんだが・・そう あえて言うならコイツは僕だ。
もう一人の僕、もう一人の汐華初流乃、だ。

「クソぉー舐めるんじゃねぇーッ!!」
僕が黙っているのを見て、無視されたと思ったのだろうか
ルカが怒りの叫び声をあげた・・・というよりは動揺を隠そうとつよがっているといった方が正しいか

おっと、そうだった。
悠長にこの幽霊ばかりを気にしてられるような状況じゃあ、ない。
まずは奴を何とかしなくては。

気が付くとルカは手に黒い塊を持って構えている。
手に握られたそれは拳銃だった。

うわ、なんて奴だ。
前々からスコップを持ち歩くなんてイカれた奴だとは思っていたが、こんな危険物まで持っていたのか。
というか、別にスコップにポリシーがあるんじゃなくて持ち歩ける凶器だったら何でも良かったんだね。

パンッ、と銃声が一発鳴り響く
そこから放たれた弾丸は、車のライトを割ってガラスを撒き散らした。
どうやら狙いが外れたらしい。

さらにもう一発

それは僕の足を掠めて闇の奥に消えていった。

「てめぇっ、避けるんじゃねぇーっ!!」
ルカが叫び声をあげながら、再び銃を構える。
へたくそが、自分で外したんだろうに…。

とはいえ…下手な鉄砲でもなんとやら
こうパンパン打たれては、そのうち誰かが銃弾に倒れる事になる。
キョンは倒れたまま動かないし、ハルヒはそのそばから離れようとしない。
このまま、奴に好き放題させるのは絶対にまずい。

コイツ…この金色の幽霊で何とかできるだろうか?
さっきアイツのスコップをへし折ったように、拳銃を叩き落したり顔面に一発食らわせてやったりできるだろうか?

「何でだ・・なんで当たりやがらねぇえええええーっ!」
おぼつかない手つきでルカは拳銃を振り回す。
もう一発銃声が鳴り、今度はキョンの頭のすぐ横の地面がはじけた。

コイツ…下手なりに狙いが正確になってきている。

このままでは、僕、キョンやハルヒも危ない
僕は意を決してルカの前に立ちふさがった。

同時にルカの手にした拳銃から4発目の銃声が鳴り響く。

金色の幽霊は、右手を振り下ろして銃弾を弾いた。
弾かれた鉛の塊は、そのまま進路を変えて地面をえぐって周囲に泥と小石を撒き散らす。

ルカにしてみれば、確かに僕は胸を撃たれたように見えるだろう
しかし、平然としてるその姿をみてその顔色が見る見る変わっていく。

問題ない・・感覚で理解した。
手を、足を、指を動かすことに一々迷わないように、こいつの動かし方を、使い方を僕はすでに分かっている。
集中すれば、拳銃の弾を弾くくらいは何とかなりそうだ

コイツの拳を今度はスコップじゃなくてルカの顔面に叩き込んでやるべく
僕は一歩一歩、ゆっくりと歩き出す。

一方ルカはパニくってさらに銃を乱射した。
飛んでくる弾は一発一発丁寧に、地面に弾き落とす。

弾が命中しながらも平然と歩いてくる僕を、こいつはどう見ていたんだろう。
その顔が見る見る恐怖でゆがんでいく。
「な・・・なんで・・・なんで・・・なんで死なねぇえんんだーーーっ!」

その指は、まだ銃弾が僕を撃ち殺すことを信じて引金を引こうとしている。
だが、僕も金色の幽霊もこれ以上拳銃の使用を許可するつもりはなかった。

ルカとの距離は一メートルを切った。

「無駄ァ!!」
僕の掛け声とともに、幽霊の放った右の拳が拳銃ごとルカの両手を粉砕する。

思えば涙目のルカ・・・アンタは僕の弱さだった。
義父や、街の悪がき、チンピラども
彼らに、そして誰にも逆らえない僕の自身に負け続けてきた人生の象徴だったよ。

君に従い続けてきた日々もこれで終わりにしよう
どうやら、今日で僕は生まれ変われるようだから。

僕は金色の幽霊で、
「無駄無駄ァ!!」

ためらうことなくその顔面に
「無駄無駄無駄無駄」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!!」
出来る限りの拳を叩き込ませた。

殴られたルカは・・・2メートルくらいは吹っ飛んだだろうか
そのまま地面に叩きつけられて倒れると、そのまま動かなくなった。

「二人とも大丈夫かい?」
そういいながら僕は振り返る。
二人ともルカにやられて怪我をしていたはずだ、病院にいかないと・・。

が、振り返った先にはキョンとハルヒのほかに、全く見知らぬ人物がもう一人
いつの間にか立っていた。

「大丈夫だ、こいつらなら俺が手当てしておいたぜ」
エルビスプレスリーみたいなリーゼントに学生服、まるで日本のコミックの「ツッパリ」のような格好の少年
そんな人物が、あの戦いのさなか、いつの間にかキョンとハルヒの横に立っていた。
だ・・・誰だ、コイツ いつの間に二人の隣にいたんだ?

「すまないな二人とも 遅くなった」
さらに、背中、ついさっき吹っ飛ばしたルカが倒れている辺りの方からそう声がして
渋い声とともに、僕の横には白いコートの長身の男が、闇の中から現れた。
「さっきまで暴れていた男ならそこで寝ている 死んではいないが、立ち上がって向かってくる事もないだろう」

歳は30歳くらいだろうか
つばの長い帽子を被りっている
防止には手の平をモチーフにしたエンブレムがついていた
真っ白いコートが闇の中で浮かび上がっているようだった。

なんだろう、奇妙な話だが、どことなく彼を知っているような・・そんな感じがする。
「承太郎さん・・・?」
意識を取り戻したキョンが、彼に向かってそういった
ジョウタロー・・・そうか、彼がキョンの言っていた知り合いの日本人か。

「周りが暗いと、地図見てもさっぱりなもんでよぉー
じじいも、もうちょっと分かりやすい念・・・ゲフン 説明して欲しかったぜ」
リーゼント少年・・・キョンが言うには「仗助」というんだそうだが。
ハルヒが言うにはどうやら、僕がルカに向かって走っていったときに丁度駆けつけてきたらしい。

彼の言いかけた「念?」・・が微妙に引っかかる。
そもそもどうやって彼らはキョンとハルヒを見つけてここまでやって来たんだろう?

そういえば二人ともほとんど怪我はなかった。
おかしいな、あの時は血も出ていたと思ったんだけど。

ともかく、こうして僕達は無事、ナポリ市内のホテル一室で一息つける事になったんだ。
僕も、キョンたちの部屋にお邪魔させてもらえる事になった。

手下も含めてルカたちご一行は壊滅状態

やれやれこれでようやく・・・って、キョンの口癖が映ってしまったようだ。
ともかく、この騒動はこれで決着が付いた。

承太郎さんたちに関しては幾つか機になる事もあるが
悪い人たちではなさそうだ。
今夜は、彼らの元でお世話になるとしよう・・・。

気になるといえば・・・もう一つだけ。

承太郎さんが闇の奥から出てくる前にポツリとこう言っていたのを僕は聞き逃さなかった。
「やれやれこいつ・・スタンド使いだったとはな・・・いや、今『なった』と考えるべきか」

スタンド使い?
一体彼らは何者なんだろうか・・。

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どうでも良いけど、何でこんなにカエルがたくさんいるんだ。
気絶してるルカの周りを何匹もぴょンぴょんと飛び跳ねている。
近くに池なんてなかったはずなんだが・・・

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最終更新:2008年02月27日 23:24