第三話「マジカル・ミステリーツアー」
人の話を聞かず、唯我独尊、破天荒な団長。
不気味なくらい礼儀正しく、常にジャパニーズスマイルを浮かべた男。
人に興味を示さず、ろくに見ようともしない少女。
地味で、妙に落ち着いた雰囲気の男。
ナース。
以上がSOS団の面々だ。早計だと思いたいが・・・正直、変人ばかりだ。
とにかく、明日の「パトロール」には行こう。死刑にはされたくないからね。
そして土曜。ぼくは二十分ほど早く駅前に着いた。
別に、新入りだから早く来ようとしたわけじゃあない。
車椅子で駅前まで行くのは辛いのでバスに乗って行くのだが、
ちょうどいい時間のバスがなかったから早くなっただけだ。
この時間なら、まだみんなは来ていないだろう。何か飲みながらゆっくり待とう。
そう思いながら改札出口に行くと、すでに全員が集まっていた。
「早いわね。感心感心」
唖然とするぼくにハルヒが平然と言った。
なぜもうみんなが集まっているんだ?改めてみんなを見る。
ハルヒはTシャツにスカートというカジュアルな姿。
(よく言えば)元気で明るいハルヒには似合っている。
楽しそうにしている姿は、第一印象を差し引いても魅力的だといえる。
朝比奈さんはクラシックなワンピース。
おとぎ話のヒロインのような清楚さの中に、どこかコケティッシュな魅力を持っている。
テーマは「少女から大人へ」といったところだろうか。
古泉はジャケットにネクタイというフォーマルな格好。
しかも素材の雰囲気からすると、安物ではないようだ。
相変わらずにこやかに笑っている。このままモデルをやれる。
そしてユキは・・・なぜか制服だ。いつも通りの制服をいつも通りに着ている。
これで全員・・・あ、キョンがいない。
「うげ・・・。ジョニィ、早いな」
考えているうちにキョンが来た。早いと言うがまだ集合時間十分前だ。キョンも早い。
「よし、キョンね。行くわよ」
そう号令を発するとハルヒは歩き始めた。みんなもそれに続く。
「え?どこに行くんだ?」
誰にともなく聞くと、古泉が答えた。
「今日の予定を決めに喫茶店に行くんですよ」
確かにまだ何も決めていない。ただ歩けばいいというものでもないだろう。
それにしても、「SOS団」の目的は何なのだろう。考えるぼくに古泉が耳打ちした。
「それから、集合に最後に来た人は罰金として、
お茶をご馳走することになっているんですよ。今日はキョンくんですね」
・・・事前に教えろよ。
喫茶店に入り、注文すると団長のありがたい指示が下された。
これから三組に分れて市内を探索する。
不思議な現状を発見したら携帯電話で連絡を取りつつ状況を継続する。
後で落ち合い反省点と今後を話し合う。
これだけ。
「じゃあクジ引きね」
ハルヒはアンケート用紙を裂いて作ったクジをテーブルの中央に置いた。
「・・・ぼくは星だ」
「おや、僕とペアのようですね」
古泉が爽やかに言う。心なしか嬉しそうだ。
キョンとペアのハルヒもなぜか上機嫌だ。
「古泉くんなら安心ね。新入りに基本を叩き込んでやんなさい」
「はい、分かりました」
古泉がもっともらしく頷く。基本って何だ。
そういえば。ぼくは口を開いた。
「そのことなんだけど、SOS団は一体何をするクラブなんだ?」
よくぞ聞いた。そう言わんばかりにハルヒは目を輝かせた。
「教えるわ。SOS団の活動内容、それは」
ここでハルヒはセリフを止め、不敵な笑みを浮かべた後に言った。
「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ!」
時が止まった。唖然とするぼくに、ハルヒは何を勘違いしたのか胸をはった。
「どう?感動した?」
「ん~・・・!なかなかオモシロいよ。かなり大爆笑!」
閃光のようなストレートがぼくに叩き込まれた。
「もう!行くわよ!」
ハルヒは伝票をキョンに握らせると足音高く歩いて行き、ドアに手をかけると振り返った。
「それから、もう一回団長にそんな口聞いたら磔刑だから!古泉くんは教育しといて!」
磔刑って。
「大丈夫ですか?」
鼻をさするぼくに微苦笑を浮かべた古泉が言った。
「まあね。それより、これからどうする?」
古泉が時計を見る。
「そうですね・・・。改めてどこかの店にでも入りませんか」
さっきお茶を飲んだばかりだが。訝しがるぼくに古泉は破顔した。
「恥ずかしい話ですが、寝坊して朝食を抜いたんですよ。
少し早いですが、ブランチとしませんか。
それに、あなたとはまだろくにお話ししていませんし」
そういうことなら異論はない。ぼくたちは古泉おすすめの店に入った。
「そういえば、あなたはどこからいらしたんですか?」
絶品だというカツサンドを頼むと古泉は口を開いた。
「ぼく?アメリカ、ケンタッキー州のダンビルだよ。高校入学と同時に来日したんだ。
・・・そうだ。これから当てがないなら市内を案内してもらえないかな。
まだここらへんはよく知らないんだ」
古泉が肩をすくめる。
「申し訳ないんですが、僕もこの前転校してここに来たんです。よく知らないんですよ」
「転校だって?」
ぼくは思わず大きな声をあげた。
「だって、まだ六月だぞ?」
古泉の言うことが本当なら、入学から一ヶ月くらいで前の学校を転校したことになる。
「仕方がなかったんですよ。仕事の都合で来なければならなくなったんです」
確かに親の仕事なら仕方がないが、こんな中途半端な時期に・・・?
考えるぼくに古泉は当然の疑問を投げ掛けた。
「あなたは?」
「え?」
「あなたはどうして日本に?やはり、ご両親の都合ですか?」
ぼくは口ごもった。・・・正直に言えることではない。
「ああ・・・。いや、親は故郷にいる。前から日本には興味があってね。
日本在住の叔父を頼って来たんだ」
「・・・そうなんですか。そろそろ出ましょう。知らない者同士、市内を探索しましょうか」
不穏な雰囲気を感じたのか、古泉もそれ以上は聞こうとしなかった。
「ああ、そういえば」
忘れていたというように古泉が言った。
「所属はどちらなんです?」
所属?何のことだ?意味が分からず古泉を見つめる。古泉が吹き出す。
「はは、すみません。おかしな言い方をして。・・・クラスですよ」
「ああ。二組だよ」
「なるほど」
それから適当に歩いているうちに午前中はすぎた。
そして十二時。約束の集合時間だ。集合場所の駅前に行くと、すでにハルヒが立っていた。
「収穫は?」
「特にない」
ぼくの答えにハルヒは不満そうな顔をした。
「しょうがないわねえ。古泉くん、ちゃんと教育してくれた?」
だから何を教育するんだ。
「はい。それはもう」
・・・・・・。ともかく、午前はこれで終了。昼食の後、午後の部だそうだ。・・・まだやるのか。
薄気味悪いピエロでお馴染みのハンバーガー店で昼食を摂っている最中、
ハルヒがまたクジをばらまいた。そして再度のグループ分けを宣言した。
「・・・また星だ」
「俺はマルだ」
「あ、あたしはバツです」
キョンとみくるさんが言う。ぼくとペアは誰だ?考えていると目の前に星の紙が突き出された。
「・・・・・・・」
ユキという子だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
駅前で二人、ぼくたちは立ちつくしていた。
「四時にまたここで。気合いいれて探しなさいよ!」そう言ってハルヒは解散を宣言した。
・・・ん。四時?今一時だから・・・三時間もこの子と二人きり!?
・・・気まずい。さっきからこの子は無言を通している。耐えかねてぼくは口を開いた。
「・・・行こうか」
「・・・・・・」
頷いた・・・のか?進むとついてくる。とにかくどこかへ行こう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・君・・・えと、ユキだっけ」
「・・・長門」
「えっ」
「長門有希」
「・・・そうか。・・・疲れてない?」
「大丈夫」
「・・・ぼくは疲れた。そこのベンチで休もう」
「そう」
「・・・あ、改めて自己紹介するよ。ぼくはジョニィ・ジョ」
「知っている」
「・・・・・・」
以上が一時間で交わした会話の全てだ。誰か助けてくれ。
沈黙が依然として続いていた。相変わらず長門は単語でしか話さない。
「えと、どうしてSOS団に入ったんだ?」
「・・・文芸部」
そういえば、SOS団は文芸部の部室を借りているんだった。
つまり、文芸部にいたらSOS団に吸収されたってことか?
それもこの子ならあり得るだろう。沈黙に付け込んだってところか。
ぼんやりと長門のSOS団入りの経緯を想像していると、長門が袖を引っ張った。
顔を見るとかすかに口が動いていた。
「・・・所属は?」
申し訳程度に語尾が上げられていた。尋ねているようだ。
「クラスのことか?二組だよ」
「・・・そう」
君は?言いかけて口をつぐんだ。待て。この質問は・・・。
「さっき、古泉にもそっくり同じ質問をされたよ」
「・・・そう」
「妙じゃあないか?どうして『所属』なんて言い方をするんだ?」
「・・・何となく」
それきり彼女は黙りこくった。前と大してかわりはないが。時計を見ると三時半だった。
「少し早いが、行こうか」
長門も異論を挟まなかった。
それから、全員が集まって報告会が開かれた。
結果?宇宙人がそんな簡単に見つかるなら、NASAは今頃失業してるだろう。
困ったのはハルヒだ。(彼女に言わせれば)ふがいない結果にすっかり機嫌を悪くしている。
「明後日。放課後に必ず部室に来なさい。反省会するから」
そう言い残し、ついと帰って行った。ぼくたちもそれに続く。
とにかく今日は疲れた。もう帰りたい。考えながらバス停に並んでいると、
「ジョニィくん」
みくるさんだった。手を振って駆け寄って来る。
「どうでしたか?初めての活動は」
「悪くなかったよ。でも、長門には参ったよ。全然話せなかった」みくるさんが苦笑する。
「そうですか。でも、きっとすぐに慣れますよ」
にっこりと笑う。無邪気な笑顔にぼくもつられて笑った。
「ふふ・・・あ、そうそう」
思い出したようにみくるさんが言う。
「ジョニィくん、質問いいですか?」
「ああ、もちろん」
軽い気持ちで答える。
「その・・・所属はどこですか?」
「所属」・・・!?三人が同じ、「妙な言い方」の質問をした。こんな偶然があるのか?
「どうしたんですか?急に真面目な顔して・・・」
「いや、なんでもない・・・なんでもないよ・・・」
「何か」隠している・・・?頭に疑念が沸き上がる。だがその正体が何なのか?ぼくにはまだ分からなかった。
To Be Continued・・・
最終更新:2008年04月01日 01:42