[[パンナコッタ・フーゴの消失]]
   [[第二話]]

僕は飛行機の窓からゆっくりと流れる雲を眺めつつ、何度目になるか分からないため息をついた。
これからの仕事を考えると、本当にドス黒い気分になってくる。
果たして本当に、自分のターゲットは殺さなければならないような危険人物なのだろうか。
普通の女子高生にしか見えない。
情報チームは馬鹿の集まりなのか、データの中で一番重要な「能力」についてほとんど書かれていなかった。
ただ、「世界を支配し得る能力だ」と。
これで人違いだったらどうするつもりなのだろう。
……いや、どうもしない、か。
そう、関係ないのだ。
誰が死のうがそれが組織のマイナスにさえならなければボスは全然気にしないのだ。
逆に言えば、組織の不利益になる事には過剰に反応する。
害がある「かも」しれないというだけで殺害には充分な理由となる。
そして自分は、そんな組織に逆らうことは出来ない。そこしか自分の居場所はないからだ。
楽しそうに、耳障りな声でおしゃべりするカップルが斜め前方に見え、思わずウイルスで血ドバの膿グチュにしてやりたくなった。
そいつらを想像の中でぶっ殺してやった後、することもないのでブチャラティから渡された「教科書」をぱらぱら読みながら、数時間前のことを思い出す。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「もちろん、ブチャラティ……あんたの為ならなんでもするが、しかしいくらなんでもこれは……」
空港。今日も様々な人種や職種が忙しそうに歩いている。
そんな中、僕はブチャラティから渡された荷物を見て呆然とつぶやいた。
「すまんフーゴ。ついさっき『パンナコッタ・フーゴを行かせるのであればターゲットの能力を詳しく調べた上で始末せよ』って連絡がきてな……まあ、そういうわけでお前にはしばらくの間日本への転校生として、涼宮ハルヒのいる高校へ通ってほしいんだ。
もちろん手続きは全部終わっているからお前はそこに行くだけでいい」

パンナコッタ・フーゴを行かせるのであれば、か……
これは組織に能力を買われているってことで喜んだほうがいいのかな……
荷物……教科書やら体操着やらが詰まった鞄と、どうやら閉じなかったらしく不自然なところに追加されているジッパーに視線を落として、改めて組織のすごさを実感しながら数年間ご無沙汰していた学校生活を思い描いてみた。
……今度は先生をぶん殴ったりしないようにしよう。スタンドを身につけてる分、うっかりカプセルが割れたりしたら洒落にならない。
「それじゃ、しばらくお別れになるが気をつけてな」
「ええ、皆にもよろしく言っておいてください」
僕はこれから始まる窮屈であろう高校生活と、殺さなければならない相手が自分と同年代
だということに
やや憂鬱な気分になりながら、ブチャラティに背を向け、日本行きの便に乗り込んだ。

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もしかしたら、と思って読んでみたがやはりこれから使う事になる教科書はほとんど全部知ってる内容だったので、今度はターゲットのデータを読み返してみた。
特に、顔写真をじっくりと見る。
……これから、この女を殺しに行かなければならないのか……
100人中95人が振り返るであろう美人である。
性格の欄にはあまり良いことが書いていないが、これならきっとモテモテだろう。
高校生くらいの年代だと恋人なんて外見だけで選ぶものだ。
……これがウイルスでぐちゃぐちゃになって見る影もなくなるのか……
そのまま窓から「飛びてェーッ」みたいな気分になってきたので紙の束をバックに押し込む。
丁度いいタイミングで飛行機があと数分で目的地に着くというアナウンスが響いた。

飛行機から降りてターゲットの通う高校へと行く途中、僕は通行人の目が気になった。
ちらちらこちらを見ているのだ。
「……あの、何か……?」
思い切ってたずねてみるが、怯えた表情や完全スルー以外の反応は返ってこなかった。
何だ、一体何がおかしい?
不可解な視線は裏社会に身をおいている自分にとってかなりの不安要素となる。
もちろんそんなこと周りの人間が分かるはずもないのだが、なんとなく、そんな気分になるのだ。
と、そんな中、サラリーマン風の男が僕の前を通り過ぎた。
この男も他の例と違わず、僕を変な見る。
そして歩きながらネクタイの緩みを正す。
……ネクタイ?
「あ」
僕は自分の服装に目を落とした。
イタリアにいたときと同じ、穴ぼこだらけのスーツに素で首に締めている苺ネクタイ。
なるほど、確かに日本では派手すぎる格好だったな。
暗殺者は目立たないように。こんな基本に気がつかないとは……
因みに、僕が組織の暗殺グループは伊達好みであることを知るのはずっと先のことである。
まず服を買わなくちゃな。これは経費で落ちるのかな……?
そんな事を考えていた矢先……
「おいっ。あいつ頭おかしーんじゃねーの」
「きひひ。あれで自分はかっこいいと思ってんのかね〜」
前方5メートルほど。若い男2人がひそひそ話……のつもりなのだろうがこっちにばっちし聞こえる会話……をしていた。
僕は無言のまま気づかないふりをしてその2人とすれ違う。
「ってうわっ!」
2人が丁度引っかかるようにパープルヘイズに足を出させて。
案の定、どさっという音と共に男達が倒れたのが感じられた。
スッとした気分でそのまま歩み去ろうとすると……
「おい。ちょっと待てよてめー。なにしやがんだ、コラッ!」
僕は思わず振り返った。
「何か……?」

「でめーが何かしたんだろッ!こんな何もないとこで転ぶわけねえんだからな」
その返答にほっと胸をなでおろす。
こいつらは別にスタンドが見えていたわけではなく、ただ単に近いからというだけで難癖つけてきたらしい。
まあ、その勘は当たっているのだが。
「俺さあ、怪我しちまったからよお、慰謝料払ってくんねえかな慰謝料」
男は口調を変えて、不気味な猫なで声で近寄ってくると、あろうことか僕の胸倉を掴んできた。
何だ、日本人は礼儀正しいんじゃなかったのか?
だんだんと軋んできた堪忍袋の緒を押さえつけながら、冷静な口調で言う。
「離してくれませんか。急いでるもので」
「急いでるぅ?そんなこたあ俺には関係ねーんだよ!この外人風情がッ!」
最後の理性が「どっかで聞いた口調だなあ」とか考えつつ、僕は拳を男の頬に叩き込んだ。
変な雄たけびを上げつつあっけなく地面に転がる男。
幸運なことに人通りは皆無。
さてもう一人、と思う僕の目の前で……
「てめえはもう……てめえはもうおしめえだ!」
なんと、もう一人のほうはナイフを僕に突き出してきたのだ。
信じられない、日本はもっと治安がいいんじゃなかったのか?
仕方なく僕はパープルヘイズで防御すると、男の鳩尾に膝を繰り出した。
これにて終了。
気絶した男達を一瞥するとそのまま何事も無かったように歩き出……
「ちょっとあんた!」
……すことはできなかった。
さっき見回したときは気づかなかったが、いつの間にか少女が僕の前で仁王立ちしていたのだ。
黄色いカチューシャをつけ、容姿は100人中95人が振り返……ってあれ?
「あのもしかして……涼宮ハルヒさんですか?」
名前を聞く暗殺者なんて本当に馬鹿なことだが、僕はその時そこまで頭が回らないほどにこの偶然に驚いていた。
少女は不思議そうに片方の眉を上げて言った。
「そうだけど……あんた誰?」
これが涼宮ハルヒと僕との出会いであった。

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年03月20日 12:46