第五話 「朝倉涼子が来る」
わけの分からない状況だった。
目の前の少女、「朝倉涼子」は危険だ。ぼくの感情がそう言っている。
しかし、車椅子は固定されたかのように動かない。しかも朝倉涼子はその原因を知っているらしい。
なにか仕掛けられたのか?だが、彼女は部屋に入ってから指一本車椅子に触れていない。
それで全く動かせないほどの仕掛けが出来るのか?
混乱した頭を懸命に回転させるぼくに彼女が微笑む。
「無駄よ。ここはもうあたしの情報制御下にあるの。あなたじゃ動かせないわ」
そして、笑顔のまま何かを投げた。身をよじり上半身だけで辛うじてかわす。
声が出なかった。顔の横の、壁に突き刺さったものがあまりにも現実離れしていて。
それはナイフだった。それも果物ナイフなどではない。
軍用の、人の命を奪うためのナイフだった。
彼女はそれをダーツでもするみたいに投げたのだ。
「あっちゃー、避けられちゃった。さすが元ジョッキーね。運動神経がいいわ」
彼女はまるで余興のゲームに失敗したような口調で言った。
「どうしてだ?なぜこんな事を?」
ぼくがやっとそれだけ言うと、彼女は少考の後それに答えた。
「涼宮ハルヒはあなたを気に入ってるわ」
ぼくはますます混乱した。なぜここでハルヒが出て来る?
「よっぽど自分から入って来たのが嬉しかったのね。
少なくとも、もうあなたを他人とは思ってないわ。」
ここで彼女は笑顔を消して真剣な顔をした。
「あなたを殺せば彼ほどでないにしろ、効果が見込める」
「さっきから何を言ってる?わけがわからないぞ!?」
彼女は失笑を漏らすと、哀れだというふうに首を振った。
「可哀相に・・・何も知らないのね。だけど、あなたには知る必要がないわ」
そう言い切ると彼女の腕が光に包まれた。光はたちまち増幅し、触手のように伸びた。
逃げなければ。そう思ったが、今やぼくは指一本も動かせなくなっていた。
恐怖や混乱からではなく、ただ動かせない。瞬きすらできず首へと伸びる触手を見ていた。
触手は首に到達すると、信じられない力でぼくを持ち上げた。体重がぼくの首を絞めていく。
激しい苦痛の中、声すら出せずに意識が遠のいていった。
死ぬ・・・。こんなところでぼくは死ぬのか・・・。
意識が消えかけていた。視界がぼやけ、白く包まれていく。
意識が完全に途切れようとした瞬間、ぼくは乱暴に地面にたたきつけられた。
激しく空気を貪る。急速に視界が鮮明になっていく。目の前に何かが転がっていた。
それは、腕だった。正確には腕の一部だ。そしてその持ち主はすぐに明らかになった。
眼前の少女、朝倉涼子は呆然と失われた腕を見ていた。見ると、腹部にも真一文字に血がにじんでいる。
「どうして・・・?」
朝倉涼子が呟く。ぼくを見てやがて目を見張ると、諦めたように笑った。
「そうか・・・。ふふ、また失敗しちゃった」
敵意はすでにないように思えた。そして彼女は最期の微笑みを浮かべた。
「あなたの勝ち。・・・でも気をつけて。これからきっと辛くなるわ。」
彼女は切断面から砂のように溶けていった。
「あなたは特にね。それじゃ、バイバイ」
ぼくは溶けゆく彼女の、子供のような笑顔を見ながら気を失った。
153 :ジョニィジョースターの憂鬱:2008/04/10(木) 23:13:20 ID:???
・・・携帯電話が鳴っている。気がつけば普通の部屋にいた。朝倉涼子は影も形もない。
携帯電話を開く。「涼宮ハルヒ」とある。・・・絶望的な気分だ。通話ボタンを押す。
「・・・ジョニィ?・・・今何時か分かる・・・・・・?」
あ、嵐の前の静けさとはこのことか・・・!油汗が噴き出る。
「えと・・・五時半・・・?」
謝ろうとした瞬間、大きく息を吸い込む音が聞こえた。
「こぉのスカタンッ!!もう反省会終わったわよっ!今からさっさと出頭しなさい!」
携帯電話なのに叩きつけるような音がしたのは気のせいだと思いたい。
ぼくは這いつくばってどうにか車椅子に乗ると部屋を出た。
あれは白昼夢だったんだろうか。それにしてもかなりリアルだったが・・・。
色々と考えたいことはあるが、今考えるべきなのは別のことだ。
「光の触手を出す女の子に襲われて遅れた」・・・こんな言い訳をしたら殺される。
ジョニィが知ることはないが、この日の反省会、一人が急用を理由に早退していた。
ジョニィが完全に部屋から離れると、小柄な少女が物陰から姿を現した。
「気付いた時にはすでに手遅れ。危ないところだった。
・・・朝倉涼子の残存・・・もう、それは問題ではない。だが彼は・・・。早急に調査を」
そう呟くと、長門有希はその場を離れた。
To Be Continued・・・
最終更新:2008年05月15日 11:32