第六話 「スターティング・オーヴァー」

   いつも通りの一日が過ぎようとしていた。SOS団部室は平和だ。
   キョンと古泉は将棋。みくるさんはお茶くみ。長門は読書。ハルヒは眠りこけている。
   ぼくはひたすら考えていた。あの一件は現実だったのだろうか、と。
   あの反省会の日、ぼくを襲った少女、朝倉涼子は夢だったんだろうか。
   あの日、ハルヒの説教を受けながら考えた末の結論は「夢だった」だ。
   あんな事があるか?少女が怪物のように変形して襲いかかるなんて、今時子供も信じない。
   腑に落ちない点はあるが、夢だったのだ。そう結論づけたところで説教も終わった。
   ハルヒが帰ると言い、それから出掛けに一言言った。
   「ところで、その首どうしたのよ?跡ができてるけど」
   そう、首を絞められた跡がついていたのだ。まるで安いホラー映画だ。
   それで強引に納得する事が出来なくなってしまった。そして今。まだ結論は出ていない。
   現実だという証拠は確かにある。しかし・・・いや、仮に現実だとしよう。
   だとしたら、彼女の言っていた事はなんだ?「これから辛くなる」、そう言っていた。
   何が辛くなると言うんだ?彼女のように襲撃してくる奴がいるっていうのか?
   それに、もっと気になる事、それは。
   「ふわーっ、よく寝た・・・。みくるちゃん、お茶ー」
   −−−ハルヒ。
   ぼくを襲った理由を尋ねた時、彼女の名前が出た。
   ハルヒ・・・君は何者なんだ?あの日、ぼくが立ったのも、やはり君が原因なのか?
   ぼくは満足そうにお茶を飲む少女を見ていた。
   穏やかに時が流れていた。不似合いなくらいに平穏だった。

172 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 22:49:35 ID:???
   「いやー、昨日全然寝てないのよ」
   ハルヒは一息にお茶を飲みほすとお代わりを要求した。
   屈託のない姿を見ていると、悩むのも馬鹿らしくなってくる。
   「え。うそ、もうこんな時間?まだ明るいのに」
   一人で騒がしくそう言うと窓の外を見る。ぼくは苦笑した。
   怪物に狙われる?考えすぎだ。やはりあれは夢だったんだろう。
   疲れているんだ・・・ぼくもお茶を飲もうと湯飲みを手にとる。
   ぱりん。
   湯飲みが割れる音。落としたハルヒにみんなが注目した。
   「ハルヒ、お前何やってんだよ?」
   キョンが言う。ハルヒはそれを無視して窓の外を指差した。
   「見て」
   それだけ言った。何事かとみんなが集まる。
   指の先を見るとそこには人影があった。身長は二メートルほど。何の変哲もない人影だ。
   ただ一つ。全身が青い光に包まれていることを除いては。

173 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 22:50:15 ID:???
   「な、何だあれは!?どういうことだ!」
   意外にも大声をあげたのはキョンだった。ハルヒが興奮した口調で言う。
   「テレビで見た事ある!宇宙人だわ!みんな、行くわよ!」
   「すみません」
   口を挟んだのは古泉だった。
   「少しトイレに行きます」
   ハルヒがきょとんとする。古泉は会釈して続ける。
   「後はよろしくお願いします。では」
   そう言い残すと小走りに出て行った。ハルヒは白けた様子で言った。
   「何よ、こんな時に・・・。ま、いーわ。行くわよ」
   団長命令なら、と動こうとしたが、どういうわけか他のみんなは腰が重い。
   「何やってるの。早く行かないと宇宙人が逃げるわよ」
   ハルヒがいらつき始めた。みくるさんがおろおろと長門を見る。
   「あの、その・・・あ、涼宮さん、今学校に大学の映画サークルが来てるんですよ。
   きっとその撮影だと思います」
   みくるさんの言葉を聞くとハルヒは空気が抜けたみたいに椅子にへたりこんだ。
   「なーんだ。フン、何よキョンったら大声あげちゃって。つまんないの。
   あ、そうだ!みくるちゃん、もうナースも飽きたわよねっ!
   ほら、猫耳を買ってきたの!」
   「えええええ〜!」
   喧騒の中、ぼくは今の出来事を思い出していた。
   外の人影を見た時の古泉の顔にはいつもの笑顔が消え失せていた。
   驚愕のため?それもある。あとは・・・恐怖、か?
   それに彼の言葉。「後はお願いします」とはどういう意味だ?
   まるで・・・そう、何か「厄介事」を頼むような・・・。
   「おい、ジョニィ!?どこに行くんだ?」
   キョンが再び叫んだ。
   「トイレ」
   ぼくは車椅子を全力で走らせた。

174 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 22:52:08 ID:???
   僕は走っていた。まだ状況が完全に把握出来ていないが、とても楽観視は出来ない。
   彼の差し金だろうか、そうも思ったが僕は即座にそれを否定した。
   彼、ジョニィ・ジョースターが部室を訪ねて来た時には焦った。
   彼がまた別の勢力の人間ではないかと思われたからだ。
   仮にそうではないとしても、涼宮さんの「力」 を知る者は少ないほうがいい。
   幸い、涼宮さんのエキセントリックな行動はSOS団を変人の集団と位置付け、
   あえて近寄りたがる者は無くなった。そんな矢先に現れたのが車椅子の留学生、ジョニィ・ジョースターだった。
   残念ながら涼宮さんは乗り気で入団は阻止出来ず、この一週間は戦々恐々としていた。
   そして昨日、ようやく「機関」からの調査結果が届いた。
   「ジョニィ・ジョースターは普通の人間である」、こうあった。
   同封の略歴にも怪しい点は無く、彼に警戒の必要は無いと思われた。
   そう結論付けた途端に今回の件だ。涼宮さんが発見した青い人間の正体に当たりはついていた。
   もちろん、「神人」ではない。ミニチュアの「神人」のような姿だが、それは有り得ない。
   ここは「閉鎖空間」ではないからだ。・・・だとすれば、あれは・・・。人影が視界に入った。
   「・・・ご冗談は止めていただけませんか?」
   人影に声をかける。その表面がゼリーのように波打った。
   「よう、古泉・・・。相変わらずムカつく顔してやがる」
   悪態を無視して僕は言った。
   「・・・何のおつもりですか?あなたは自分が何をしているか、分かっているんですか?」
   僕が睨みつけると、人影は我慢出来ないという様子で吹き出した。辺りに馬鹿笑いが響く。
   「当然だろ」
   人影は体に纏った光を僕に放った。僕はもう一度睨みつけた。
   「これ以上は宣戦布告とみなしますよ」
   「・・・なァ〜、古泉・・・今日はほんの挨拶のつもりだったんだが・・・。
   気が変わった。今日始末する!涼宮ハルヒを奪取してやる!」
   人影が宣言する。馬鹿な。本気で言っているのか?
   人影がこちらへ近付く。戦うことになれば、以前の僕には勝ち目は無かっただろう。
   だが・・・。ちょうどジョニィ・ジョースターが現れたあたりから、妙な感覚を覚えていた。
   試したことは無い。どうなるかは分からないが、手段を選んでいる場合ではない。
   「マッガーレ!」
   体が光弾へと変貌していった。

175 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 22:55:32 ID:???
   「閉鎖空間」の中で使うのとはまた違う感覚。体の半分ほどまでしか光弾にはならないようだった。
   「マッガーレ!」
   光弾を人影に射出する。が、人影は微動だにしない。
   動揺する僕に余裕に満ちた奴の声が響いた。
   「ほう、古泉・・・お前も現実空間で使えるようになったか。
   ・・・クク、しかし、貧弱よのォ〜。オレの無敵の『スタンド』、『黄の節制』に勝ち目は無い!」
   やはり、「黄の節制」・・・!聞くところによると、肉の壁による絶対防壁を誇るらしい。
   僕の「マッガーレ」が効かない・・・。「黄の節制」の表面が大きく波打つ。僕は身構えた。
   「ヘッ、ビビんなよ古泉。攻撃ならもう終わってるぜ」
   何・・・?ふと腕に違和感を覚えた。視線を向け仰天した。青白く光る肉片が服の上から肘に取り付いていたのだ。
   その姿は蛭のようで、実際に肘の感覚が無くなりつつあった。
   そうか・・・!さっき飛ばした光は肉だったのか・・・!
   「無駄だ。一度取り付いた肉が取れることは無いッ!
   どこまでもついて行きお前を喰うッ!言ったはずだぜ、
   俺の『スタンド』は無敵だとなッ!ドゥーユーアンダスタァァァンドゥゥゥゥ!」
   僕は歯噛みした。肉は取れる気配がない。その間にも奴は距離をつめている。
   自分の攻撃は通じず、敵の攻撃を食らい、しかも回復は不可能。出口なしの状況だ。
   こうなったら、アレを使うしかない。
   「・・・ご存知ですか?日本にはこういう状況の時のためのことわざがありまして」
   「・・・?」
   「三十六計、逃げるに如かず」
   僕は踵を返して走り出した。肉の装甲のせいか、「黄の節制」の動きは緩慢だった。
   ここは一度、射程距離外へ逃げよう。

176 :ジョニィ・・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 23:02:07 ID:???
   「おい・・・。ジョニィ・・・待て・・・。待って・・・」
   古泉の様子を不審に思ったぼくは部室を飛び出した。
   慌ててキョンが止めに走って来たが、車椅子でもそう簡単に追い付かせはしない。
   キョンが車椅子を掴んだ時には出口近くまで来ていた。
   「はあ・・・はあ。ジョニィ、どこに行くんだ。トイレはもう過ぎたぜ」
   ぼくはキョンをまっすぐに見た。
   「・・・キョン。君は・・・いや、君たちは何かぼくに隠しているんじゃあないのか?」
   「・・・何をだよ」
   確信があった。パトロールの日の奇妙な質問。青い人影を見た古泉の言動。
   何かがおかしい。何かが動いている。キョンは目を反らした。
   「何か隠す理由がねーだろ。」
   「・・・かもしれないな。でも・・・じゃあ、なぜそこまで必死に追い掛けて来たんだ?」
   「・・・・・・」
   キョンが口をつむぐ。やっぱり何かがある。さらに追及しようとした時、キョンが目を見開いた。
   「古泉!?もういいのか?」
   後ろに息を切らした古泉が立っていた。ぼくを見て驚いている。
   「ジョニィくん!?・・・なぜあなたがここに?部室に戻って下さいッ!すぐに!」
   そう言って乱暴に車椅子を押し戻そうとする。その手を振り払おうとすると、妙なものが目に止まった。
   古泉の肘に何かがついている。染み?いや、質感がある。これは・・・肉?その時。
   ぴちゃり・・・ぴちゃり・・・。
   出口から物音がした。軟体動物が這いずるような音だ。
   「何だ?何だこの音は?」
   質問に答えず、古泉は焦った表情をした。
   「もう、ここまで・・・。・・・仕方ない」
   ぼくたちを見て呟くと、ブレザーの中から何かを取り出した。
   その「何か」の正体に気付いてぼくたちは息を飲んだ。拳銃だった。

177 :ジョニィ・ジョースター:2008/04/17(木) 23:02:43 ID:???
   「な・・・何でそんな物を!本物なのかッ!?」
   「実際に使う時が来るとは思いませんでした」
   取り出すと、グリップをキョンに向ける。キョンは驚愕の表情でそれを見た。
   「馬鹿野郎・・・!使えるかよ、そんなもん・・・!」
   古泉は残念そうな表情もせず、次はぼくにそれを向けた。
   「あなたはどうです?使い方は分かりますか?」
   とっさに言葉が出ない。
   「・・・わ、分かる・・・でも、撃ったことはない!ぼくにそれを使えって言うのかッ!?」
   「僕だって殆ど撃ったことはありません。・・・しかし、誰かがやるしかないんです」
   古泉が真剣な顔で言う。平穏な日常は急速に崩れつつあった。

178 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 23:06:40 ID:???
   「時間がありません。手短に話します」
   問いただす間もなく古泉が続けた。
   「この音の主は・・・敵、です。この肘は奴の攻撃を食らった結果です。
   どうやら本当に一度食らえば離れる事はないようです。
   最悪、やり過ごしても腕を切り落とさなくてはならないかもしれません」
   「攻撃」だって?その肉をつけるのが?ぼくの視線を無視して古泉は続けた。
   「・・・奴は堅い装甲を持っています。僕が先に攻撃して装甲を削ぎます。
   あなたはその間に装甲が剥がれた部分を撃って下さい」
   古泉が真剣な顔で言う。そこにはいつもの柔和な笑みの面影はなかった。
   「・・・馬鹿な・・・」
   ぼくは混乱していた。普通だと思っていた友達に、人を銃で撃つよう頼まれるなんてことがあるか?
   「出来るわけがないッ!ぼくは素人だぞ!そんなふうに狙い撃つなんて!」
   絶叫するぼくに古泉は諭すように言った。
   「・・・先ほども言いましたが、誰かがやるしかないんです。やらなければやられる」
   ぼくの顔を見て、銃を握らせる。
   頭が混乱していた。古泉は何者だ?「敵」とは?ぼくに人を撃てって言うのか?
   なにもかも現実離れしている。夢なのか?朝倉涼子のように。
   「・・・来ます。指示通りお願いします」
   古泉の声が響く。悪い夢。そんな形容が一番合うような現実だった。

179 :ジョニィ・ジョースターの憂鬱:2008/04/17(木) 23:07:42 ID:???
   滴る音が近付いてくる。ぼくは角から出て来たものに驚愕した。
   それは青白く光る泥人形のような巨人だった。部室から見たものよりも一回り大きく、
   その肉片を辺りに撒き散らしている。巨人の表面が波打った。
   「不様じゃあねーかよ古泉?お友達がいねーと戦えねーのか、このタマナシフニャチンが」
   古泉が冷静に巨人を睨む。挑発には乗らない。巨人が語調を強める。
   「余裕こきやがって・・・泣いて土下座しよーがてめーらは殺す!
   てめーらごとき便器のカスが何人集まろうが、オレの『黄の節制』は負けない!」
   恫喝するとこちらへにじり寄って来る。と、古泉の肉が取り付いていない腕が光に包まれる。
   光は球状に変化し、幾つもの光が古泉を衛星のように囲んだ。
   「マッガーレ!」
   古泉が叫ぶと、その光が射出された。光は巨人に命中し、胸の肉を削いだ。
   どうなっている?あの光は何だ?古泉は何者なんだ?巨人は?状況に頭が追い付かない。
   「今です!撃って!」
   古泉の怒号に近い声に我に返る。ぼくは銃を構えると引き金を引いた。
   幸運にも、弾丸は過たず巨人の胸へと向かった。銃弾を受けて巨人が膝を折る。
   「やったか?」
   キョンの声が上ずっている。ぼくは口がきけない。
   「・・・いや」
   答えたのは古泉だった。
   「どうやら、しくじったようです」
   そう言う古泉の首には、肉片が食らいついていた。

第七話 「スターティング・オーヴァー その②」

古泉の顔からみるみる血の気が失せていく。なぜだ?銃は命中したのに。
勝ち誇ったように「黄の節制」が笑う。
「古泉ィ〜、勝てるとでも思ったかァ〜!?そこのガキが撃ってきた時はちと焦ったが、
そんなチンケな作戦でオレの『黄の節制』が倒せるか!」
マズい、古泉が危険だ。ぼくは再び引き金に指をかけた。
「このビチグソがッ!身の程知らずのガキがしゃしゃり出て来るんじゃあねえ!」
首に激痛が走る。痛みに思わず銃を取り落とす。肉に取り付かれた!?だが、いつの間に!?
「食らいつかせたのはお前がオレを撃った時だ。オレの『黄の節制』は衝撃を吸収し飛び散る。
攻撃する防御壁だ!弱点はないッ!」
気がつけば、肉は下半身にまで取り付いていた。キョンも食らいつかれている。
バランスを崩し、ぼくは車椅子ごと倒れた。「黄の節制」の高笑いが響く。
「古泉ィ!てめーのレーザーで肉を削げたのは罠だ。墓穴を掘らせるためのな!
二重に肉を纏っていたんだ!クク・・・そしてこれがオレの本体のハンサム顔だァー!」
そう言うと、「黄の節制」は肉を脱ぎ捨てた。チャンスだ・・・!
落とした銃は近い。拾って不意をつければ・・・!くそ、体が重い。
感覚を失いつつある体を引きずり、少しずつ銃に近付く。
あと少し・・・あと少し・・・手が届く!渾身の力をこめ手を伸ばした時。
かちゃり。
乾いた音をたてて銃が廊下を滑っていく。「黄の節制」が蹴り飛ばしたのだ。
「ひゃはは、今の顔!写真に撮りたいくらいだぜ!イイ気分だッ!」
笑い声が勝利宣言のように響く。ぼくは絶望的な気分でそれを聞いていた。

終わりだ・・・。古泉のレーザーも通用しない。銃は手の届かないところへ行ってしまった。
古泉が精一杯の憎しみを込めて「黄の節制」を睨む。奴はそれに気付き嘲った。
「古泉!お前の姿でも身に纏って、女子高生でも引っ掛けるとするかなあ!ひゃはは!」
古泉が怒りを爆発させる。と、その表情が突然変わった。
「ジョ・・・ジョニィくん・・・!それは・・・?」
異変に気付き、「黄の節制」の視線が下がる。同時にぼくも視線を下げる。
・・・奇妙な感覚だった。痛みは全くない・・・それなのに、爪が高速で回転していた。
これは何だ?ぼくに何が起こった?混乱した思考は唐突に中断された。
「ひ、ひィィィィ!オレの足が!」
「黄の節制」の無防備な足首が切断されていた。

「肉が剥がれたぞ!」
キョンの声が聞こえた。見ると、纏わり付いていた肉片が死んだように粘着を止めている。
「古泉!ぼくの爪が!何なんだこれは!?」
珍しく古泉は興奮している様子だった。信じられないという様子でぼくを見る。
「いわゆる『超能力』・・・人間の持つ、眠れる才能です。
僕たちは『スタンド(立ち向かうもの)』と呼んでいますが・・・」
古泉が「黄の節制」に視線を移す。
「ひとまずは、彼の処遇ですね」
「ひっ」と「黄の節制」が声をあげる。ぎこちない笑顔をすると媚びるような声を出した。
「こ、古泉くぅ〜ん。見てくれよ、オレの足が取れちまった。重傷だよォ〜。
まさかこんなに惨めなオレに攻撃しないよなァ〜。泣いて土下座するから許しちくりぇ〜」
まるでさっきまでとは別人だ。古泉が肩をすくめる。キョンが首を振る。
「やれやれ・・・古泉、どうするんだ?」
「そうですね・・・『機関』に預けようと思います」
そう話していると、「黄の節制」が大仰な声をあげた。
「馬鹿がァ!喰らいつけ、『黄の節制』!」
言うと、残った肉片を古泉に投げ付けた。一直線に頭部へと向かっていく。

マズい、当たる。思った瞬間に古泉の頭が光に拡散した。肉片が素通りした後、
光が収束し元通りの頭部を形作った。古泉が冷静な声を取り戻す。
「なるほど・・・。僕の『スタンド』も攻防一体のようですね。
つまり、攻撃が当たる部分を光弾にすれば攻撃を回避出来る。Do You Understand?」
口をあんぐりと開けていた「黄の節制」がひきつった笑いを浮かべる。
「や、やだなぁ〜、古泉さん。じょ、冗談ですよお〜。
まさかマジに受け取ったりしませんよねえ〜?」
古泉が今までで一番輝いている笑顔を浮かべた。
「おっしゃりたいことは、それで十分ですか?」
光弾が「黄の節制」を取り囲む。断末魔の悲鳴が辺りに響いた。
「マガマガマガマガマガマガマガマガマガマガマガマッガァァァレ!!」
光弾が切り刻み、見るも無惨な状況になった。
「し・・・死んだのか?」
キョンが焦った声を出す。古泉がすっきりした声で言う。
「いえ、死なない程度にしておきました」
・・・やっぱり、腹が立っていたのか。

「『機関』と連絡がつきました。彼を回収しに来てくれるそうです」
ズタボロになった「黄の節制」を見て古泉が言った。そしてぼくを見る。
ぼくは頷くと、口を開いた。
「・・・古泉。ぼくの爪・・・『スタンド』って何だ?君は何者だ?・・・ハルヒは?」
古泉は肩をすくめるとため息をついて言った。
「・・・あなたも、呼ばれた人間だとは・・・。順番に話をさせて下さい。
・・・ジョニィくん、この世界の正体は何だと思います?」
禅問答のような質問にたじろぐぼくに、古泉は苦笑した。
「いや、失礼。そうですね・・・。『胡蝶の夢』はご存知ですか?」
蝶になる夢を見たけど、自分が蝶になる夢を見たのか、蝶が自分になっている夢を見ているのか、
どちらが現実なのかは分からない。という話だったか。だが、なぜそれが出て来る?
「あの故事も言うように、現実、世界は非常にあやふやなものなのです」
「・・・何を言ってるのか・・・ぼくにはさっぱりだよ」
一向に話が見えない。何のつもりなんだ?
「僕が所属している『機関』はこの世界を何者かが見ている夢のようなものと考えています。
夢ですから、その者にとって我々の現実を改変することは造作もないことです。
つまり、世界を自分の意思のままに出来る存在−−−人間は、それを、神、そう定義しています」
・・・!?まさか・・・!
「そう、我々は涼宮さんこそが世界を操る力を持つ『神』であると考えています」
「馬鹿なッ!?」
反論しながら、ぼくは空しさを感じていた。今日のことが現実なら、何が現実でないと言えるだろう?
「もちろん、彼女はその能力に気付いていません。いわば未完成の神ですよ。
あなたも、心当たりがあるのでは?」
超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。ハルヒが言った言葉だ。
そして、超能力者が現れ、動かぬぼくの脚が動いた。
「超能力・・・『スタンド』は涼宮さんが望んだものです。
僕たち、『機関』は世界を維持するために神、涼宮さんに平和に過ごしてもらうのが目的です」
「・・・『スタンド』」
「我々は、『スタンド』を人間が引き出す精神的なエネルギーと考えています」
・・・荒唐無稽な話だ。だが、ぼくの経験はそれが現実だと裏付けていた。

「・・・もう、いいでしょう。ジョニィくん、あなたはなぜSOS団に?」
ハルヒとの出会いが思い起こされる。自分の脚で立ったという感覚。
「・・・この脚を見てくれ。感覚すらない。でも、立ったんだ。
歩けなくなってから、ぼくは死んだようだった。そこにほんの小さな光が灯ったんだ。
一度でも立てた事で命を失ってもいいと思った。
こんな、とるにたらないこのぼくに、生きる目的が出来た」
二人が口をつむぐ。ぼくは二人に背を向けた。涙が溢れそうだった。
「あの日、ハルヒにぶつかって倒れた時、彼女は『立て』と言った。関係あるのか?」
古泉は手を口にあてて考えた。
「有り得ることです。彼女が当然に『あなたが立つ』と思ったのなら。
しかし・・・。あなたは僕たちとは『スタンド』の発現過程が違います。
どういうことなのか・・・」
首を捻る古泉にぼくは問いかけた。
「それと、『黄の節制』は何者なんだ?」
古泉はしばらくの間考え、意を決したように口を開いた。
「僕たちの『機関』の目的は『現状維持』です。当然、他にも『機関』はあります。
目的が『涼宮ハルヒの捕獲、コントロールによる世界の安定』である『強硬派』も」
「何だって!?」
声をあげたのはキョンだった。慌てた様子で続ける。
「これからもあんな奴らが来るってことか!?長門はともかく、朝比奈さんはどうなる?」
「長門はともかく」?どういうことだ?まさか。
「キョン、長門も『スタンド』を持ってるのか?」
キョンがしまったという顔をする。古泉が肩をすくめた。
「・・・それは、彼女に聞いて下さい」
自嘲気味に笑う。
「僕にはよく分かりません」
ぼくは歯噛みした。
「まだ何か、隠そうっていうのか?」
古泉はあはは、と声をたてて笑った。
「いえいえ、彼女とはあまり話していないのですよ。本当に知らないんです」
怪しいものだとぼくは思った。ふと、古泉が遠くを見て真剣な顔をした。
「・・・行きましょう。『機関』の者が来ます」

歩き出して、また笑う。
「それにしても、僥倖でした。ジョニィくんの『スタンド』発現がなければ、
やられていたのは僕たちだったでしょう」
喰らいつかれた部分はまだ痺れが残っている。古泉が声の調子を変える。
「・・・ジョニィくん。あなたの気持ちは分かりました。
ですが、奴ら・・・いえ、SOS団にいることは危険です。
さっき、あなたも言いましたが・・・命を失うかもしれません。
彼ら以外にも多くの危険がある。それでも『歩きたい』と、今でも思っていますか?」
じっとぼくの顔を見る。ぼくは目をそらさずに言った。
「・・・ああ・・・もちろんだ。『ハルヒ』に出会って死にかけていたぼくの心は生き始めた・・・。
『ハルヒ』を諦めたら、きっとぼくの心は再び死ぬ」
視線が交錯する。しばらくして、古泉が諦めたように首を振った。
「分かりました。今後ともよろしくお願いします。・・・いずれ、『機関』を紹介しますよ」
キョンが「やれやれ」と言う。ぼくたちは部室へと歩く。ハルヒが待っている。
ここから、ここがぼくの出発地点だ。

To Be Continued・・・

古泉の報告書

スタンド名 「回転する爪(仮)」
本体名「ジョニィ・ジョースター」

パワーA スピードC 精密性C 持続力D 成長性A
射程距離2〜3m
能力
  • 爪を高速回転させ、物を切り裂くことが出来る。
  • また、地面や壁等に力を伝導させることで延長線上にある物を切り裂くことも可能。
  • 破壊力はかなり高く、ほとんど何でも切断出来るようである。
  • 一方、射程距離は短く、「伝導」を使っても数メートルである。
備考
本体は我々と同じく涼宮ハルヒに引き付けられたスタンド使いである。
しかし、彼女についての事情を知らず、出会いも偶然である。
この差異が何を意味するのか、現在は不明であり、調査を要する。

スタンド名「マッガーレ」
本体名「古泉一樹」

パワーC スピードA 精密性B 持続力C 成長性C
射程距離20m(距離が開くにつれ威力は弱まる)
能力
  • 体の一部を光弾化し、レーザーとして照射する。
  • 一度に光弾化出来るのは肉体の半分程度。
  • 集中させることで強化出来るが、基本的には一撃の破壊力は低い。
  • ただし、スピードはかなり早く、射程距離も長い。

備考
本体(筆者)は当機関に所属するスタンド使いだが、
閉鎖空間でのそれとは少し違う能力が発現している。
また、突然現実空間で使用出来るようになったのはなぜなのか?
涼宮ハルヒとの接触が関係しているのか?
現在、調査中である。

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最終更新:2008年06月12日 11:58