パンナコッタ・フーゴの消失
   第五話

〜視点・キョン〜

長門の発言に、今度はハルヒが凍りついた。
「……嘘……よね?」
「パンナコッタ・フーゴがナイフで刺されなかったのは不良が躊躇して中途半端な位置で止めたため。彼の自発的な行動によるものではない。昨日わたしもその場に居合わせた」
淡々と話す長門だが、その視線は足元のフーゴに固定されている。
それが意味する事ぐらいは俺でも分かる。長門は嘘をついている。ハルヒに真実を隠すために。
だがそんなはっきり言っちまったら……
「嘘!嘘よそんなの!そんな……だって、わたしは……超能力者を見つけて……」
案の定、ハルヒは整った顔を今にも泣きそうな感じで歪ませて、がっくりと膝をついてしまった。
当然だろう。一人舞い上がっているところで冷然な現実をつきつけられちまったんだから。

人間、幸せを感じるのは絶望が希望に変わった時と、まわりが絶望していると知った時。そしてその逆もしかり。今のハルヒがそれだ。
長年の野望を達成したと思っていたのが勘違いだった、なんて悲しすぎるオチだ。俺も同情を禁じえない。ほんの少しだが。
……さて、ハルヒが普通の人間ならそこで終わりなのだが、生憎とそれとは対極に位置するあいつが機嫌が悪い、というのは世界の危機にダイレクトで直結している。
このまま放っておけば筆舌に尽くしがたい事態になること必至なのだが、長門、お前はどうするつもりなんだ?
「……」
……いや、あの、そこで見つめられても困るんですけど。
……ちょっと待て、どうして古泉も朝比奈さんも「俺」を見る?なんで俺?
……分かったよ。分かりたくもなかったが。
重い雰囲気の中、少しは空気が読めると自負している俺はこの不可解な視線から「俺が」事態を解決しなければならないと解釈する。

さて、唐突だが、ここでシンキングタイムだ。
3択—ひとつだけ選びなさい

答え①苦労性の俺は突如ハルヒをなだめるセリフがひらめく
答え②仲間が助けてくれる
答え③世界が終わる。現実は非情である。

俺としては②に丸をつけたいところだが、この場でそれを期待するほど俺は人生をなめてかかってはいない。答え③……答え③答え③答えさ……
「……なあハルヒ。今回は確かにその……なんだ、勘違いだったけどよ。俺達『結果』だけをもとめちゃ駄目だと思うんだ。『結果』だけを求めていると、人は近道をしたがるもんさ。でも近道した時、真実を見失うかもしれない。やる気もしだいに失せていくだろう。俺は大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている。向かおうとする意志さえあれば、たとえ今回は勘違いだったとしてもいつかはたどり着くだろ? 向かっているわけだからな。違うか? それに俺は正直、もう少しこのSOS団を楽しみたいと思ってる」
……答えは①だったな。とっさの一言にしては上出来だろう。やれることはやった。後はこいつの反応しだい。
永遠な様で、実際は一瞬な静寂の後……
「そうよ! こんな簡単にことが運ぶはずないんだわ! これは『試練』よ! 逆境に打ち勝てという『試練』と受け取ったわ!」
若干、俺の言いたかったこととずれている、ってか俺のセリフなんの意味もなかっただろちゃんと聞けよ、という反応が返ってきたが、取りあえず……収まった。
「と、言うわけで、悪かったわね。変なこと言っちゃって。もう帰っていいわよ」
今まで蚊帳の外だったフーゴに向けて、ハルヒは言った。
それに対し、フーゴがどんな反応を示すか……まあ、予想はついていたのだが。
「もしかして……あなた方は超常現象を研究されているんですか?実はそういうの僕も興味あって……もしよければ、仲間に入れていただけませんか?」
ほれやっぱり。

ハルヒは少し困ったような表情になった。超能力者じゃないのならとっとと消え去れとは、流石のこいつでも言えないのだろう。
「そう……ね。うん。気持ちは嬉しいわ。でもこの『SOS団』は他の部活みたいにただで入れるものじゃないのよ。入団試験があるわ。それでも入りたいと思う?」
こいつにしてはいい感じに遠まわしな断り方だ。まあ、それでもハルヒを調べているだろうフーゴは入ろうとするんだろうが。
ハルヒ、お前らしく無理難題をふっかけろ。
「『入団試験』ですか……なつかしい」
「?」
「いや、なんでもありません。その試験ですが、合格すれば入れてもらえるんですよね? なら僕が受けない道理はありません」
「そ、そう。えーと試験はね……そう、私を驚かせてみせなさい。それが入団試験!」
グッド!
もし、フーゴがハルヒを消すために転校してきたヒットマンだったら、自分の超能力は隠しておきたいところ。超常現象抜きとなればこいつを驚かせることの難易度ははね上がる。
そして、SOS団に入れないとなればハルヒとの接点は薄くなるわけで、ハルヒをどうこうすることも難しくなるだろう。
追い詰められたな、パンナコッタ・フーゴ。

〜フーゴ視点〜
僕はショートカットの女子生徒からのそれだけで殺せそうな冷たい視線に耐えながら、ある一つの結論にたどり着いていた。
涼宮ハルヒは自分の能力を自覚していない。そしてスタンドが見えていない。
もし自覚があるのなら、ここまで超常現象に固執する事もないだろう。自分が超常現象が存在する事の証明となるわけだから。
そして後者だが、これはショートヘアの女子生徒の発言にショックを受けていた事から分かる。
もしパープルヘイズが見えていれば涼宮ハルヒは自分の考えを変えてはいなかっただろう。
てっきり僕はスタンドが「見えていた」から超能力者呼ばわりされているんだと思っていたが、どうやら違ったらしい。純粋にナイフの軌道で判断したのだ。
涼宮ハルヒはスタンド使いではなかった。
肩の荷が降りた感じだ。
ここは取り敢えずターゲットと接点を持って、適当に調べて証拠かき集めたら「涼宮ハルヒはスタンド使いじゃなかった」と報告して帰ってくればいい。
情報チームは怒るだろうがボスも直接調査した僕の言葉を信用するだろう。何より、無益な殺生はしたくない。
しかし入団試験の内容を聞いて少し困ってしまった。
スタンドは見えないのだからスタンドを使えばいい、と思うかもしれないが、残念ながら僕の殺戮一辺倒のパープルヘイズではブチャラティみたいな手品っぽいことができない。
あんまり不可思議な、例えばスタンドでものを持ち上げるとか、そういうことをやるわけにもいかない。さてどうしたものか……
数秒で考えをまとめると、僕はその場で逆立ちし、さらに左腕を地面から離して腕立てをした。

パープルヘイズを右手だけ発現し、そのパワーでやっているのだが、傍目から見れば僕がとんでもない怪力であるように見えるだろう。
はたして、涼宮ハルヒは大きめの瞳をさらに見開いていた。
「文句なしね。合格」
その言葉に、他の面々はやや苦い顔になったのはきっと気のせいではないだろう。まあ、歓迎されてなくったって別に問題はない。長くは留まんないだろうし。
……その「他の面々」がただの部外者でない事を、物語の中核をなす重要な意味を持っている事を、僕は午後七時、駅前の公園で身をもって知る事となる。

僕がそれに気づいたのは帰り道、日本にいる間滞在するビジネスホテルへの地図を確認しようとポケットをまさぐっていた時だった。
指先にしおりのような、身に覚えのない紙片が触れた。
取り出してみる。
「『午後七時、駅前の公園』……?なんだこれ?」
印刷された文字だと思っていたが、この文面と質感から言ってどうやら手書きらしい。
で、なんでそんなものを僕が持っているのか。
今日体育の授業は無かった。よって誰かがスリと逆の手順でポケットに紙片を入れたのだという事になる。が、それに果たして僕が気づかないものだろうか?いくらミスが多くても。
ここまで来て、僕はあの書き換えられた、入学関係の書類の事を思い出した。
涼宮ハルヒはスタンド使いではない、という結論を得てから、やはりあれは読み間違えだったと自分を納得させたのだが……
「確かめなくては……確信を得なくては……」
僕は駅前の公園がどこの事を指しているのか調べるべく、ルートを変更した。

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年03月20日 12:54