第34話 「愛と別れのキッス」

文化祭が終わった後の振替休日、あたし達は隣の県にある国際空港にいた。
『もうお別れか………』
「寂しくなりそうですね」
「あなたは僕からしても興味深い人でした……また会えたらいいですね」
「……………」
『元気でなエルメェス』
そう、あたし達はアメリカへと帰るエルメェスを見送りにきていた。
『なんだよ。みんなそんなしみったれた顔してよぉ。あたしが死んだわけじゃないんだぜ、また会えるよ』
「……でも……やっぱり……」
『出会いがあれば別れもある。人生なんてそんなもんさ』
「だけど……肝心の涼宮はどうした?おい、キョン、なんか知らねぇのか?」
「俺は何にも知らねぇよ。……しかしアナスイがハルヒの事気にかけてたのは意外だな」
「別にそんなんじゃねぇよ。……言い出しっぺが来ないのが腹がたってるだけだ」
と、そこであたしは一つの可能性を思い付いた。
「ハルヒがさ……その……例のトンデモパワーを使ってなんかしちゃったんじゃ………」
「……………」
「それはない」
有希の冷静な声が響く。
「涼宮ハルヒは現在その能力を使用してはいない」
「じゃあ……なんでいないんだ?」
「……………」

“お客様に申し上げます。アメリカ行き856便はあと30分後に離陸いたします。ご機乗のお客様は5番ゲートまでお急ぎ下さい。繰り返します………”
『そろそろだな』
エルメェスが荷物を持ってゲートに向けて歩き始めた。
「あたし達は上の展望台に行くか」
「そうだな」

上の展望台にたどり着く。ふと外を見るとエルメェスの乗るジャンボが見えた。
「にしても……ハルヒの奴どこ行ったんだ?」
「さあな」
すると、みくるが、
「寂しくなったんじゃないんでしょうか………」
「……………」
「涼宮さん、文化祭が終わってエルメェスさんが帰るって聞かされたときから少し落ち込んでたように見えました」
「ハルヒがか?」
「わたしも……何となくその気持ち分かります」
「未来に帰る……か」
「はい。わたしも……みんなと別れるのはとても辛いです。いくら覚悟してても……です」
みくるは俯きながら、表情を見せず話を続ける。
「涼宮さんは今迄周りから変な奴だと思われ続けていました」
「……あいつの場合自業自得だろ」
「そうだと分かっていても、辛いと思いますよ。だから涼宮さんはわたし達っていう仲間ができて凄く嬉しかったんだと思います」
そう考えてるんならもう少し仲間を労って欲しいわね。

「涼宮さんにとっては……そんな仲間が何処か遠くに行くのは……辛すぎるんだと思います」
でも、ハルヒもいつかはむきあわなきゃいけない事だ。きっとこれはいいクスリになる……と信じたい。
「トンデモパワーで何とかしようとしない分成長したと俺は思うがね」
「そういうもの……かしらね」
「おい、キョン、徐倫、飛行機が離陸準備に入ったぞ」
古泉と並んで外を見ていたアナスイが言う。それを聞いてあたしとキョン、有希にみくるが窓に駆け寄る。
「……やっぱハルヒじゃなくても寂しく感じるな」
そうね、と相槌をうとうとした瞬間、あたしは滑走路にあるとんでもないものを見つけた。
「お、おいキョンッ!あ、あれッ!」
「?なんだよ徐……嘘だろ?」
「徐倫?一体なんだ?」
あたしは返事をせず、滑走路の一点を指差した。
「徐倫さん、あそこに何が……これは……凄いですね」
「……………」
「え?え?あ……ええええええーーーーーッ!」
「こ、こんな馬鹿な事が………」
そう、そこには
「「ハルヒーーーーーーーーィッ!?」」
ハルヒはいつ作ったのやら、でかい旗を持ち、滑走路に居座っている。………どうやって入ったんだ?と、あたしの携帯が鳴った。
『お、おい!なんでハルヒがッ!?』
エルメェスも気付いたようだ。
『知らないわよ!気付いたらあそこにいたんだッ!』
「と、とにかくあそこに行くぞッ!」

けどどうやって行くんだ?」
「長門、あそこまで瞬間移動……」
「不可能。涼宮ハルヒに正体が露見する」
「外から回り込んだら………」
「間に合わないでしょうね」
「アナスイ!窓を開けろッ!」
「徐倫、どうすんだよ!?」
返事はせず、
「ストーンフリーーーッ!」
糸をだし、太く束ねてロープにしていく。
「徐倫ッ!そんな事したら………」
「長さと強度は十分足りる。ハルヒにもバレないだろう。遠目にはあたしがロープを垂らしているだけに見えるだろうからな。行くぞッ!」
アナスイ、有希が真っ先に降り、続いてみくるが恐る恐る古泉のエスコートに従い降り、
そしてキョンが戸惑いつつも降り、最後にあたしが降りる。そして全員が降りると同時に、警備員達が迫ってくる。
「オラァッ!」
「ダイバーダウンッ!」
「……………」
警備員達をあたしとアナスイ、有希で蹴散らしつつ、あたし達はハルヒの元へたどり着いた。
「お前何やってるんだ涼宮ハルヒーーーーッ!旗はともかく理由を言えーーーーッ!」
「揃いも揃って遅刻!?後で全員あたしにおごってもらうわよ!」
「……滑走路に入り込むなんて誰も考えねぇよ」
その時、エルメェスの乗ったジャンボが飛び立ち始めた。
「ほら、手伝いなさい!この旗をエルメェスに見えるように掲げて!」
アナスイとキョンが旗を掲げた数分後、エルメェスが電話をしてきた。
『見えたぜッ!なかなかいいじゃねーか』
その旗には、“SOS団アメリカ支部 支部長エルメェス・コステロを送る緊急集会”と書かれていた。
『……旗に書く事じゃあねぇよな』
『いいじゃない。これで』
あたし達はエルメェスのジャンボが大空に消えるまで、ずっと旗を振り続けていた。

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年05月29日 11:34