第38話 「隣の部室からやってきた挑戦者 2」
ゲームを起動し、ジョイパッドをパソコンにつなぐ。少し気合いの入ったタイトル画面が出るが、二人とも無視して対戦に入る。
このゲームは互いのキャラが開始するまで分からなくなっており、キャラの相性を狙った戦略は立て辛い。要は互いの腕しだい、分かりやすいな。
徐倫はジャトロハイムというサイボーグ戦士を選んだ。若干パワーよりでスピードはあまり無いが、豊富な飛び道具と耐久力の高さで攻めるキャラだ。上級者向けといえる。
「……さっさとしな」
「フン」
コンピ研の代表もキャラを選ぶ。そして対戦が始まった瞬間、徐倫が、
「なかなか……手強いな」
相手のキャラはギャラッチョ。氷を使ったリーチの長い攻撃とかなり速いスピード、そして飛び道具を氷で反射できるなどジャトロハイムにとっては苦手なタイプのファイターだ。
スタートの文字と同時に徐倫が凄まじいスピードでコマンドを入力し、技を放つ、が、相手もなかなかのもの、徐倫の攻撃を見事にガードする。
すかさず徐倫が掴み、投げる。落ちてきた所にさらにマシンガンで攻撃し、駄目押し。
「いいわよ!徐倫!そのままガンガンいっちゃいなさい!」
「クッ………」
「どうしたんだ?徐倫?」
「何でもない………」
マシンガンから脱出した相手はスケートのように滑りながら近付き、そのまま攻撃してくる。
徐倫はガードしたものの、少しタイミングがずれたらしく、攻撃をくらってしまう。
一旦距離を取り、徐倫はロケットパンチを繰り出す。敵のキャラに命中し、そのまま倒れた所に再びマシンガンを撃つ。
相手はよけようとしたようだが、一足遅く当たってしまった。
「クソッ………」
なんだ?徐倫?お前のペースなのになんでそんなしんどそうなんだ?
「いや、何でもない………」
その後の試合も徐倫のペースで進み、結局徐倫が勝った。
「1ラウンド取ったじゃねぇか!これなら勝てるぜ!」
「おかしいと思わないか?」
「ハ?」
「……………」
徐倫が俺と長門に耳打ちしてくる。
「さっきあたしは散々攻撃を当てまくった……だけどこんなに時間がかかった……何故だと思う?」
「さぁ………」
すると長門が、
「彼等は特殊なコマンドを入力し、この仮想格闘技を優位に進めている」
「な!?イカサマって事か!?」
「正確には違う。彼等は元々組み込まれていた機能を使っているだけ。私達にも使える」
それはどんな機能だ。
「ハンデ」
「あたしが迂闊だった……ルールにハンデ無しって入れるのを忘れていた……あいつらはそこをついてきたんだ。イカサマじゃあない」
「ならこっちもハンデをつけりゃあどうだ?」
「試合中に設定を変えるのは不可能だ……やるしかねぇな」
「けどな………」
「別に負けてもいいだろ?」
「まあ……な」
実はこの勝負を持ち掛けられた時からやたらと長門が張り切っているのが気になってはいた。だから負けた時どうなるかが気になってしまうのだろう。
「……それにあたしはこの程度じゃあ負けねえよ」
そう徐倫が言うと同時に第2ラウンドが始まった。
敵はハンデをつけていながら負けたというのを警戒してか徹底的にガードを固め、徐倫の隙をついて攻撃を当ててくる一種のヒット&アウェイをとってきた。
さすがの徐倫もなかなか攻勢に移れず、互いに睨み合うだけの時間がすぎる。と、一番こういう展開の嫌いな奴が騒ぎ出した。
「なんなのよ!これ!もっと派手に殴り合いなさいよ!」
「できるんならもうしてるぜ」
「うるさいわね!飛び道具でガンガン牽制しなさいよ!」
徐倫はその言葉と共に動きだした。まずは手始めに銃を撃つ。が、ガードされる。
それを気にせず徐倫は突っ込み、掴みから投げに入ろうとしたものの、動きを読まれカウンターをくらう。
その後徐倫は攻勢に移ったものの、与えられるダメージは僅かで、こちらばかりくらっていく。
「くそっ……ちょこまかウザいな………」
「……対処法はある」
長門が呟く。
「いつものインチキか?あれはやめておこうって言ったじゃないか」
「あなたの指示には違反しない。現在の地球のレベルに応じた対応策を取る」
「有希、心遣いは有り難いけど、それはやめときな」
どういう意味だ?
「あいつらこれだけイカサマ行為をはたらくんだ……最後の勝負でも確実にしかけてくる……有希、あんたの出番はその時だ」
「………しかし」
「キョン、有希、あたしを信じろ」
長門はそれからかなり長い間、と言っても瞬きする時間程だが、迷ったような素振り(に見えた)を見せ、言った。
「了解した」
「だけどよ、負けそうなんだろ?」
「……いつそう言った?」
徐倫は不適な笑みを浮かべながら言った。
「さあ、お仕置の時間だよ、ベイビー」
そして次の瞬間、ガードを解除した一瞬の隙をつき、徐倫がキャラに目から光線を発射させた。すると、相手の動きが一瞬止まる。
ほんの一瞬だったが、徐倫はそれで十分だったらしく、PVとかでしか見たことのない猛烈なコンボを決めていた。
「ガード後の僅かな硬直を狙っていた……タイミングが難しいから今迄できなかったがな……終わりだ」
徐倫が最後の一発を入れるとK.O.の文字と共に試合は終わった。
数分後、対戦相手がかなり沈んだ様子で部室に入ってきた。そりゃそうだろうな、ハンデをつけて負けたんだ。
「これで……最後の勝負で決着がつくわけだな」
「望むところよ!みんな!コンピ研なんかケチョンケチョンにしてやるわよ!」
この後、長門がコンピ研のイカサマを暴き、劇的な勝利をおさめた。そしてプライドをボロボロにされたコンピ研部長はなんと長門を勧誘しだした。
もちろんハルヒは駄目だの一点張りだが、
「なあ……徐倫………」
「あたしは別に……有希の好きにさせてあげたら?」
もちろん俺も徐倫と同意見だ。
「……………」
「長門、パソコンいじりは楽しかったか?だったらたまには行ってみたらどうだ?お前が暇な時でいい。色々な楽しみがあっていいと思うぜ」
「………そう」
そして長門は俺にしか分からないような角度でうなずき、
「たまになら」
そう、言った。
To Be Continued・・・
最終更新:2008年06月12日 11:51