第39話 「今にも降り出しそうな空の下で」
居座り続けていた夏はいつの間にか去ってしまい、秋を押し退けて冬将軍がやって来た12月のある日、俺は徐倫と下校していた。
「にしても珍しいな……ハルヒがSOS団を休みにするなんて」
大方再来週のクリスマスに向けて気の早い準備を始めるんだろ。
「ハルヒらしいわね………」
「徐倫、お前は来るのか?」
「行けないって言ってもあいつの事だ。家に押しかけてでも参加させるだろ」
だろうな。
「それよりも………」
「なんだ?徐倫?」
「いや、今日ぐらいにあたしの知り合いがアメリカからやって来るんだ」
そうか。
「暫くあたしん家に泊まっていくからあんた達とも顔合わせるかもしれないと思ってな」
……ハルヒが喜ぶような属性持ちじゃないんだろうな?
「あ……飛行機雲!」
ごまかしやがった。多分スタンド使いなんだろう。空を見ると、
「一雨きそうだな………」
俺達が人通りの少ない川沿いを歩いていると、一人の女が立ちはだかった。黒いボディスーツに黒いマフラーを長めに巻き、口と鼻を隠している。……なんだか時代劇の忍者みてーだ。
黒い髪は短く切り揃えてあり、口から鼻をマフラーで覆っているので見た目はよく分からない。
「お主達……空条徐倫に……キョンと見受ける」
「なんだてめー」
「悪いが……その命もらったッ!」
と、時代劇のような台詞と共に女が徐倫に襲いかかる。が、スタンドで軽くあしらわれたようだ。
「その程度じゃああたしは倒せねーぜ」
「フッ……笑止……いまのが本気と思ったのか………」
「じゃあ、その本気とやらを見せてもらえる?」
「ヴァイオレンスッ!」
と、女がスタンドを出したようだ。
「気持ち悪………」
どんな感じなんだ?
「カメラよ。これで見なさい」
と、スタンドの見えるカメラを手渡す。すると、そこには虫がいた。顔は小さく、胴はでかい。
胴からは6本の足がはえ、顔には二つの複眼と、鋭い牙のついたバッタのような顎がある。……要するにあの巨大カマドウマをさらに気持ち悪くしたような奴だ。
「ストーンフリーッ!」
徐倫が右フックから左足でのローキック、二つともさばかれたが、その次の左肘は見事に顔面に入る。
「ウブホッ………」
「なんだ?あまりたいした事のないスピードとパワーだな……勝つ気あるのか?」
「私のヴァイオレンスは力で戦うスタンドではない……策を用いて敵を屠るスタンドだ………」
「何をだ?」
徐倫はそう言うと周囲を見回す。すると、何かを見つけたらしい。
「な!?まさかッ!」
徐倫が驚いてみた方を向くと、
「バ、バッタ!?」
それも1匹ではない。何千匹といる。それが全部こっちに向かっている。巨大カマドウマもなかなか怖かったが、訂正だ。
こっちの方が怖い。なんせ数が半端じゃないからな。
「てめぇの能力……まさか………」
「私の能力は昆虫を操る能力……普通バッタは人を噛まないが……今のそ奴等は噛む」
これだけの数に襲われたらいくら相手がバッタでも………
「ていうか、今は冬だろ!?」
「虫の中には長距離を移動する奴もいるし、冬眠するのもいる。そういうのをあらかじめ呼んでおいたか……
こいつが飼ってるかだな。しかしマズいな………」
バッタは俺達に群がるように攻めてくる。徐倫はスタンドで叩き落としているようだが、数にはかなわず、ジリジリと押されている。このままだとマズい………。
「勝ったッ!その首もらったッ!」
と、その瞬間、凄まじい豪雨が降り出した。バッタがその勢いに耐え切れず、次々と地面に落ちて行く。
「ほう……悪運のいい奴だ………」
『いや……今の雨は運ではない……俺が降らせた』
雨の中から一人の男が近付いてきた。英語で喋っているようだ。
「ま……まさか………」
徐倫の顔に驚きと嬉しさが混じりあったような表情が浮かぶ。
『虫が雨の日にあまり飛ばない理由を知っているか?……答えは簡単だ。水滴で体が重くなるからだ』
男の身長はなかなか高い。男は傘をさし、胸の部分に少しだけ独特な穴を開けた青い服を着、金髪の四角い頭には角が生えている。ん?角?
「キョン、あれは帽子よ」
そうなのか。
『久し振りだな、徐倫』
「ウェザーッ!」
「新手か……ならばお前も屠るまで」
『……………』
ウェザーと呼ばれた男の表情は変わらない。
「ヴァイオレンスッ!」
次の瞬間、足元に大量の蟻が集まってきた。
「クッ………」
「先に言っておく……やはり、その蟻は噛む」
『何も問題はない……ウェザー・リポートッ!』
次の瞬間、凄まじい突風が吹き、蟻が吹き飛んでいく。
「クッ……こしゃくな……だが、この程度で………」
『悪いが今の風は蟻を飛ばしただけじゃない……お前を攻撃した風だ』
ウェザーが英語で何かを言うと、女の腕がパックリ切られた。
「ま、まさか………」
『カマイタチを知っているか?つむじ風が起こった最に発生する真空の渦が引き起こす現象だ。腕や足が鎌で切られたようになる』
「ふ……ふふ……仕方がない……奥の手だ……ヴァイオレンスッ!」
次の瞬間、何百匹ものスズメバチが現れた。
「や、やべぇぞ徐倫ッ!」
が、ウェザーは慌てず、
『心配はない……こういう事もあろうかとあらかじめ呼んでおいた………』
「………何をだ?」
ウェザーは返事をせず、空を指差す、すると空から、
「アマガエルゥゥゥゥゥゥゥ!?」
『さっきの雨や風と同時に集めておいた……冬眠中引っ張りだしたのは悪いと思ったが』
何百匹ものカエルは次々とスズメバチを食べ初めている。
「ぐ………」
『万策尽きたか?』
「く……ここは……退く………」
『悪いがそうはいかない……ウェザー・リポートッ!』
次の瞬間、雷が近くの巨木に落ちて、木が倒れる。
「ザンラプガッ!」
女は下敷きになってしまった。ウェザーは苦笑を浮かべながら近付いてきた。そりゃそうか、どうやら再会していきなりこれみたいだからな。
『……とんだ再会だな……徐倫』
「そうだな。それじゃ、キョン。あたしはウェザーを家に送るわ。じゃーな」
徐倫達が去った後、俺は白い髪に白のロングコートの男がこちらを見ているのに気がついた。
片方だけ赤い目が気味が悪い。……いつからいたんだ?男が何か呟く。
「……沼田まで敗れたか……あの物を手に入れる為には涼宮ハルヒが不可欠だ……そろそろ私の出番かもしれん………」
何を言っているのかは聞き取れない。男は俺が見ている事に気がつくと、何処かに行ってしまった。
翌日
「凄い!凄いわ!あたしが待ち望んでたのはこういうのよ!」
「徐倫……これ、どうすんだ?」
「………知るか」
ハルヒが騒ぎ、俺達が頭を抱えている理由、それは、新聞の一面記事だった。
「゛天変地異!?真冬の虫と蛙!!゛これよこれ!みんな、今日は現場を調べに行くわよ!」
沼田忍 ヴァイオレンス 再起不能
To Be Continued・・・
最終更新:2008年06月17日 11:15