パンナコッタフーゴの消失
第九話
〜視点・???〜
「臆したか……パンナコッタ・フーゴよ」
俺は一人、ホテルの一室でパソコンに向かっていた。壁じゅうに貼り付けた写真、わが娘、トリッシュと——涼宮ハルヒのものとが、窓からの風になびく。
トリッシュの存在も由々しき懸案事項であるが、それはペリーコロやポルポに任せればおそらく大事にはならないだろう。それよりも重大なのは涼宮ハルヒだ。即刻消さねばならない。
あれは夏の事だった。ドッピオからの「電話」による戦慄するような報告を、俺は思い出す。
「エピタフで……未来視ができないだと!?」
「はい……ボス。ぼ、僕にも何がなんだかわからないんですけど、真っ暗で見えないんです。任務遂行には別段問題ないですが——」
ですが、何なのか。俺は知ることができなかった。突然に俺のドッピオを通した視界はそれまでの光景に別れを告げ、よく使うホテルの一室へと変化したのだ。
「……な、なんだこれは、どういうことだ……?」
どうして自分が瞬間移動しているのか、俺はそのとき理解できなかった。俺は自分がベットに腰掛けている事に気がつき、立ち上がって窓に手をかける。スタンド攻撃かと思ったが、鉄格子がはまっている事もない、ごく普通の窓である。
俺は部屋を振り返った。言いようのない違和感を感じる。数秒遅れてその正体に気がつく。既視感だった。
俺は精神的な寒気に突き動かされ、テーブルの上の新聞を手に取る。
——それは丁度一ヶ月前の日付であった。

その後、俺は二回、ほとんど同じ一ヶ月を繰り返した……ことを認識した。あるいはもっと続けられていたのかもしれない。最近、記憶の残滓とも言うべき奇妙な「予感」を不思議に思っていた。
あれはもしかすると魂がそれらの出来事を既に体験していたためかもしれない。
しかし周囲の人間は、組織のスタンド使いも含めて気づいてなかった。
そう、あろうことか俺と体を一つにするドッピオですら分かっていなかった。俺は心の底から恐怖した。幸い認識している限りのループは二回で終わったが、
俺はこの広範囲なスタンド攻撃とも言うべき現象に興味と畏怖の感情を抱いた。ループが始まる数秒前にエピタフを使うと、ビデオ録画が途切れたように未来を見ることができなかった。
まるで時間軸から切り離されたかのごとく、ドッピオの前髪は暗闇を映し出すばかりであった。
俺はその後、幹部を通して情報チームのスタンド使いに調べさせた。調査は難航したようだが、そうして浮かび上がってきたのが「涼宮ハルヒ」だった。彼女の能力を危険視、あるいは観察対象として、複数の組織が独自の調査を行っている。
それが最近情報チームから上がってきた報告だった。
幸いなことに、涼宮ハルヒは自身の能力を自覚していない。俺にとって好都合だった。反旗を翻した暗殺チームの代わりに、ポルポに任務の人選を命じた。
そうして——今に至る。
俺はディスプレイに映るフーゴからの定時報告を睨む。スタンド使いではない可能性が高いが、念のためもう少し調査を続ける。そんな内容だった。別にどうということはない文章だったが、俺にはその文面から、
フーゴにもう涼宮ハルヒを殺す覚悟がないことが分かった。
恐怖ゆえか、戦闘を避け、挙句の果てにスタンド使いではない可能性がある、ときた。ほとぼりが冷めた頃を見計らって帰還するつもりか。だとしたらやつの能力は宝の持ち腐れ。怪しければまず殺すのがギャングのやり方だ。
「パンナコッタ・フーゴは、不要だな。となると……仕方がない、あまりやりたくなかったが……」
俺は携帯電話を取り上げ、十秒ほど迷った後、番号をプッシュした。
確か、あの男も日本語が喋れたはずだ。闇医が必要と考えて引き入れた事を後悔した、最低の下衆野郎も。

「……チョコラータか、任務を言い渡す。……いや、違う。今回は『暗殺』だ。即刻日本へ飛ぶ準備をしろ。詳細は後からメールで送る……もちろんだ。能力使用を許可する。
後セッコも連れて行け。それからパンナコッタ・フーゴという構成員がターゲットの近くにいるだろうから、そいつも……ああ、頼んだぞ」
電話を切ってから、深いため息をつく。おそらくやつはターゲット近辺をめちゃくちゃにしてまわるだろう。しかしフーゴと涼宮ハルヒをまとめて殺すには、やつらが適任だった。
俺はトリッシュをどうやって安全に始末するか考えながら、フーゴからの文書ファイルを閉じた。

〜フーゴ視点〜
「あなたは、涼宮さんのことをどうお考えになっているんです?」
集合場所の駅前広場から五分ほど歩いたころに発したにやけた男の第一声がこれだ。
「実に魅力的な女性だと思いますよ。ただちょっと、性格が明るすぎるようなところがあるとは思いますが」
当たり障りのない返答。ついでにこちらからも探ってみる。
「古泉君は、どう思っているんです?」
「あなたに同じく。ただ僕はその性格が、また魅力的だと考えていますが……」
沈黙。
僕は考えてみる。この男の雰囲気はギャングほどではないが、どことなく一般人とは離れた印象を受ける。果たしてこの男は涼宮ハルヒについて調べていて、僕の事をある程度知っているのだろうか。長門のように。
パープルヘイズを発現させ、殴りかかり、寸止めしてみる。全然反応しなかった。相変わらず微笑を崩さない。
「ん?どうかなさいましたか?」
「いえ、別に」
……うぜえ。
まあ、敢えて聞く必要性もないか。こちらへ危害を加えようとしないのなら。それにこの男とはあんまり仲良くしたくはない。別に明確な理由はない。なんとなくである。
僕はそう判断して、スタンドをしまった。ただし警戒は解かない。背後に回られないよう気をつかった。

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最終更新:2008年06月24日 15:46