第40話 「空条徐倫の消失 1」

クリスマスと終業式もあと一週間に迫った12月17日の事、あたしの気分は最悪だった。
「38度……随分と高いわねぇ………」
あたしは一昨日から酷い風邪をひいて寝込んでいた。頭の中で誰かがパンクロック(それもど下手な)を演奏しているみたいに酷い頭痛がするし、
熱のせいでウォッカを3杯くらい飲んでフラフラで立てなくなった酔っ払いのように力が入らない。
『大丈夫か?』
ウェザーが心配そうに声をかける。返事をしたいが喉が焼けるように痛く、声も出せない。
「徐倫……安心しろ。父さんはお前の病気を治すためにDIOをぶっ殺しに………」
「あなたはちょっと黙ってて……とりあえず、今日も学校休みね………」
馬鹿親父をバッサリ切り捨てママが言う。当たり前だ。あたしは腕や足の一本を失ってもスタンドを解除しない何処かのギャング達じゃないんだ。
「徐倫!私はいつも徐倫の事を心から………」
「あなたは早く仕事に行きなさい。ウェザーさん……この馬鹿をよろしく頼みます」
まったくだ。

幸い薬が効いたのか、その日の夕方には熱も下がり、かなり楽になった。……これなら明日ぐらいには学校に行けそうだな。
が、その次の日、あたしはトンでもない事態に巻き込まれる事になった。

翌日、18日
「徐倫……ちょっと……起きなって………」
聞き慣れない声がする。女の声だ。一体誰なんだ?目を開けて文句を言おうとし、
「……………」
あたしは絶句した。そりゃそうだろ。朝起きたら見知らぬ部屋にいたんだ。
2段ベットと備え付けの小さな机が二つ。壁はコンクリートがむき出しだ。
机の上に本があったり、壁に新聞や写真が貼ってあるものの、妙に生活感の欠けた狭くて汚い部屋だ。
「何処だ……ここ?」

「……大丈夫?自分のいる場所ぐらい覚えてなよ」
「いや……マジで分からないんだが」
「徐倫………」
見知らぬ女が心配そうな顔であたしを覗きこむ。というか……
「てめー誰だ?」
「……あたしの事も忘れたの?」
今日初めて会った奴の名前なんて知るかよ。
「病院に行ったらどう?」
ハ?あたしは正常だ。おかしいのは周りの方だ。起きたら見知らぬ場所にいるなんて悪い冗談に決っている。
………まあ、その悪い冗談を現実にできる奴を一人知ってるがな。
「いいからここが何処か教えろ。ついでにあんたの事もだ」
女はため息をついてあたしに憐れむような目を見せてから言った。
「あたしはグェス。ここはグリーンドルフィンストリート刑務所。あたし達はム所住まいって事よ」
………そうか、ム所か……って待て待てェッ!なんで起きたらブタ箱にぶち込まれてんだ?
いくらなんでも突拍子がなさすぎる。あたしは外に出ようとして、鉄格子に頭をぶつけるハメになった。
「飛びてェ〜〜〜〜〜」

………頭が痛ぇ……。
朝食を上の空で食べ終わり、あたしは刑務所内をウロウロしていた。
とりあえず分かった事としては、今あたしが轢き逃げの罪で投獄されている事。
刑務所から外部に連絡を取る方法は有料の電話とパソコンだけという事。
何故かポケットに入っていた携帯で知り合い全員にかけたが、キョンを除いて携帯が使われておらず、肝心のキョンも何故か電話に出ない。

「どうなってんだよ………」
あたしが途方に暮れて廊下を歩いていると、
「ヘイッ!徐倫!何しけた顔してんだ?」
知っている顔に声をかけられた。エルメェスだ。
「エルメェス、あんた日本に行った事ある?」
「ハ?いきなり何言ってんだ?そんな深刻そうな顔してよぉ………」
「じゃあ、ハルヒは有希はみくるは?キョンでも古泉でもこの際敵のスタンド使いでもいい。日本での事何か覚えてねーのか?」
エルメェスはイッちゃってる奴を見るような目をしてこう言った。
「徐倫……お前敵スタンド使いに襲われてんのか?」
全然違う。この訳の分からない刑務所に入れられているのは敵スタンドの仕業かもしれないが、少なくともあたしは正常だ。
………何がどうなってんだ……ほんと………。
「あぁ、そうだ。徐倫に伝えておく事があってな」
何?
「F・Fが暫く働くから姿を見せなくなるってな。後エンポリオもF・Fに付き添うってさ。いつもの部屋は開けとくらしいぞ」
F・F?エンポリオ?二人ともアメリカでの友達だが、何故ここに……?聞こうと思ったが、聞いたら面倒な事になりそうなので止めた。
「お前……ホントに大丈夫か?……顔色わりーぞ」
………一つだけ分かった事がある。このエルメェスはあたしを心配してくれる、あたしの親友である事に変わりは無いということだ。
「……大丈夫よ」
あたしは少しだけ晴れた気分で返事をした。

昼飯を味が全く分からないほどぼうっとしながら食べた後、あたしは刑務所の運動場で壁とキャッチボールしていた。
ムシャクシャした時は体を動かすに限る。……まあ現実から目を逸らしているのは確かだ。
……クソッ……我ながら不甲斐ないとは分かっているが、何がなんだか分からねぇ………。
「どうしたんだ?壁に八つ当たりしても脱獄はできないぞ」
その時、聞き慣れたもう一つの声が聞こえた。

あたしは振り返り、目の前の知った顔の名前を呟いた。
「ウェザー………」
少しあきれたような表情を浮かべながらウェザーが立っていた。
「そんなに強く握っていると、ボールが潰れるぞ」
見ると、どうやら無意識のうちにスタンドを出していたらしく、スタンドの腕がボールを握っていた。
慌ててスタンドをしまい、壁を見ると壁もヘコんでいる。
「随分と速い球だったぜ。大リーガーになれるくらいな」
「ウッ………」
下唇を噛みながら喉の奥で呻き声をあげる。少しやり過ぎた。看守に目をつけられていないだろうな………。
「ところで何があったんだ?随分荒れているが」
「ウェザー………」
「なんだ?」
あたしは意を決してエルメェスにした質問をした。
「日本に行った事あるか?」
「………ない………」
答えにウェザーが詰まる。……少々うろたえている。これは当たりかもしれない。あたしが次の質問をしようとした瞬間、
「と言いたいが………」
が?まさか………
「記憶が無いからな……たとえ日本に行っていても覚えてないんだ。すまない」
……記憶喪失?……ウェザーが?どうやらこの世界ではウェザーは記憶を失っているようだ。
……ハルヒがやったにしては随分と面倒くさい事だ。というかハルヒはこういう事はまずしない。ハルヒの興味は宇宙人や未来人や超能力者や異世界人だ。
記憶喪失の男に興味は無い。あたしは道具を片付け始める
「……もういいのか?できればやりたいんだが………」
「気分じゃねーんだ。エルメェスやアナスイでも探してやってくれ」
「アナスイだと……?おい、待て徐………」
静止しようとするウェザーを無視し、あたしは部屋への帰り道につく。………色々と訳が分からねぇ。ひとまず部屋で考えをまとめよう………。

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年06月24日 15:50