「もうっ」
みくるさんは大いにヘソを曲げた。もっとも、怒るというよりは拗ねているようだが。
こうなってしまうとぼくもお手上げだ。苦笑が浮かぶ。
「悪かったよ。でもびっくりした。話し方が真に迫っていたから」
謝るぼくに、みくるさんはいたずらっぽく笑った。
「あー、やっぱり信じてくれてませんね?」
その笑顔に安心してぼくも笑った。何だか照れ臭い気分がする。
と、からかうように辺りに口笛が鳴り響いた。発したのは一人の男だ。
二十台後半くらいだろうか。くわえ煙草にテンガロンハットが印象的な欧米人だ。
ほほえましい雰囲気を壊されて少しイラつく。一睨みするとそいつはニヤリと笑った。
「お盛んだな。ところで、兄ちゃん。ちょいと聞きてえ事があるんだ」
チンピラか酔っ払いだろう。相手をしてはいられない。
みくるさんに目配せをすると、ぼくらは無視して先に進もうとした。が、男の言葉で足が止まる。
「あんさん、ジョニィ・ジョースターかい?」
なぜ名前を?古泉の「機関」の人間?あるいは「強硬派」?いずれにせよ無視は出来ない。
ぼくは慎重に振り返った。
「お前こそ誰・・・は!?」
改めて男を見て息を飲んだ。男の右手に銃があった。マカロニウェスタンのようにくるくると回している。
「お前・・・!何だ、それは!本物なのか!?」
叫ぶぼくに呼応するようにみくるさんが声をあげる。
だが、それは男に向けてのものではなかった。
「ジョニィくん!?どうしたんですか!?本物って、何がですか!?」
ぼくは耳を疑った。馬鹿な。いくらなんでもあの銃に気付かないなんてあるか。
焦るぼくたちとは対照的に、男は余裕の笑みを浮かべた。
「ほおーっ、コイツが見えるのかい」
銃を投げ上げた。宙を高く浮き、そして落下する先は。
「じゃあ、間違いねーなあッ!」
男の手だ。男は銃口をぼくに向け、一つの無駄な動作もせずに引き金を引いた。
弾丸が放たれる。マズい。男との距離はざっと五m。外すほうが難しい距離だ。
だが、ぼくのスタンドに防御方法はない。一撃を喰らう事は覚悟しなければ。
そう決意するとダメージを最小限に抑えようと身構えた。
が、ぼくの覚悟は予想外の方向で裏切られた。弾丸はぼくを通り過ぎてしまったのだ。
外した・・・?あるいは、威嚇射撃?一瞬思考するが、それを振り切った。
今は反撃する事が先決だ。車椅子に手をかけると一気に距離をつめる。はずだった。
「ぐあああああ!」
右肩に激痛が走った。みくるさんの悲鳴が響く。撃たれた!?
馬鹿な。あいつは一発しか撃ってない。それは外れたじゃあないか!?
痛みに倒れ込むぼくを尻目に、男は抜け目なく距離をとった。
「おい、古泉とかいうヤツを呼びなッ!そうすりゃあお前は助けてやる!」
聞きながら、ぼくは肩の中の弾丸が移動するのを感じた。
一度停止した弾丸が?この弾、「スタンド」か!恐らく、弾丸を操るスタンド。
そう考えれば全て納得がいく。だが、気付くのが遅すぎた。
距離が再び離れた以上、もう反撃は出来ない。あいつが肩の弾丸を少し動かせばやられる。
それも、ぼく一人ではないのだ。みくるさんがいる。
古泉を呼べばぼくらは助かる、か・・・でも断る。負け犬に成り下がるわけにはいかない。
ぼくは腰を抜かしたみくるさんの手を取った。同時に爪を回転させる。
爪を接地。アスファルトを削りながら、ぼくはロケットのように飛び出した。
男は呆然と離れていくジョニィたちを見送った。完全に虚をつかれたと舌打ちする。
「爪をタイヤみてーに・・・そんな使い方もあるのか」
思わず一人ごちる男の背後に影が迫る。
「ホル・ホース」
そう呼ばれた男はびくりとした後、ニヤニヤ笑いながら振り返った。
「何がおかしい?取り逃がしておいて。一思いに始末するべきだったんじゃあないか?」
ホル・ホースが肩をすくめる。
「旦那、俺はあんたらのためを思って生かしたんだぜ。
安易に始末したらヤツらのガードが固くなるだろ?
生かして利用したほうが得だと思うがねえ」
男はフンと鼻を鳴らした。本心を言うと、ホル・ホースと組むのは本意ではなかった。
腕の立つ暗殺者だそうだが、やはり外部の人間は信用ならない。
こんな軽い男ならなおさらだ。そう思ったが、ホル・ホースの意見には一理ある。
「・・・だが、逃げられた事に変わりはない。どうするつもりだ?」
「う、それはよー・・・お。見ろ、旦那。ツイてるぜ」
そう言うとホル・ホースは星条旗と星柄があしらわれた金属質の物体を拾いあげた。
「ジョニィの『携帯』だッ!旦那、わかるよな?俺たちは無敵のコンビだぜ」
男は調子のいいホル・ホースの言動に呆れながらも勝利を確信していた。
「必殺」の方程式。そのパーツが全てそろったのだ。
To Be Continued・・・
最終更新:2008年07月29日 13:17