第42話 「空条徐倫の消失 3」

しおりを手に入れた日の夜、あたしはそのしおりと睨めっこをしていた。このしおりの文面を見る限り、この期限というのはこれを見つけた昨日からニ日か、
世界がおかしくなってから ニ日のどちらかだ。前者なら期限は明後日、後者なら明日だ。
多分後者だろう。悪いケースを想定して動く方が物事は上手くいく方が多い。……だが……この鍵って一体………なんなんだ?
今日は一日中考えていたが、結局結論は出なかった。手掛かり0か………。そう思っていると、あたしの携帯がなった。幸いグェスはいない。電話に出た。
「もしもし………」
『徐倫か!?』
「………キョン!?なんで今迄電話してこなかったんだ?」
『悪い……携帯が壊れててな、修理していた』
全く予想外の相手からの電話だ。だが、こんな状況ではとても頼もしい。
「そっちはどうなんだ?」
『……どうなんだ?……ああ、お前の方もなんかあったのか』
キョンの声には少し呆れた感じが混ざっている。
「大有りよ。起きたらいきなりム所だ」
『………なんだよそれ』
キョンがさらに呆れたような声を出す。……あたしだって同じような気持ちだ。
『俺の方はハルヒと古泉がいなくなって残っていた奴等もトンデモプロフィールが無くなってる。あと朝倉が復活してた』
「誰だ?朝倉って」
『そうか……お前は知らなかったな。なら別にいい』
ま、よかったじゃねえか。あんたの待望の普通の生活だぜ?
『………まぁ……そうだけどさ……』

「………嬉しくねーのか?」
『いや……それはそうと、お前はしおり手に入れたか?』
「ああ、あるぜ……花のイラストがついてるやつだろ?有希のか?」
キョンは電話の向こうで頷いたらしいが、見えない事に気付き、返事をする。
『そうだ』
「だがよ……鍵ってなんだ?」
するとキョンもあたしと同じように困っているような声を出した。
『分かりゃ苦労しねぇよ………』
「だろうな」
『とりあえず今から学校に行く。なにか分かったら電話するからな』
学校……ああ、時差か。………待てよ、このしおりの二日後って……日本時間なのか?アメリカ時間なのか?……ヤバい、ここに来てもう一つの問題が見つかった。
『どうした……?返事ぐらいしろよ。徐倫』
「あ……ああ、それじゃ頼むぜ」
そう返事をすると電話は切られた。

暫くぼーっとしていると突然警報が鳴り、刑務所内が慌ただしくなった。
“警備レベル3の事態が発生、全所員はただちに指示に従い所定の場所へ、繰り返す………”
何が起こったのかと思っているとエルメェスがやってきた。
「大変だ!ちょっと来てくれ徐倫!」
「………なんだ?それにこの騒ぎはなんだ?……警備レベル3ってなんだ?」
「とにかく来いッ!」
そうエルメェスは言うとかなり焦った表情を浮かべ、あたしを引っ張っていった。

連れてこられたのはなんのへんてつも無い階段だった。エルメェスはついた途端周りの目を気にし始める。
「どうしたんだ?別に隠すような何かは無いじゃねーか」
するとエルメェスは驚いた表情をした。
「おい……徐倫……これも忘れちまったのか?」
……マズい、ここには何か重要な物がある場所だったようだ。
「も……もちろん覚えてるに決ってんじゃねーか!」
我ながらかなり苦し紛れだ。鉄分を奪われて慌てて蛙を食べるボスみたいに必死だ。
「……………」
エルメェスは怪しむような目を向けていたが、すぐに踊り場の溝に向けて歩いていき、そしてそこに吸い込まれた。驚きながらあたしも続く。
中には部屋があった。多分スタンド能力で作った部屋だろう。……確かにこういう隠れ場所を忘れていたら怪しまれるに決ってるな。するとあたしは殺気を感じた。
……このストーカーのような殺気は………。
「徐倫……会いたかった……愛しダゴブッ!」
アナスイだ。……確かこの世界ではあたしとこいつは会った事も無い筈だったな。
「誰だてめー?」
「……え?徐倫……俺の事知ってたんじゃなかったのか?」
アナスイが面食らった顔をする。
「エルメェス……どういう事だ?」
「さあな……ウェザーが何か言ったらしいんだが……それから女子房に入ろうとしたからここに閉じ込めてたんだ」
その時、ウェザーが部屋に入ってきた。

「すまん……徐倫……そいつにお前の話をした」
「………何故だ?」
「お前はアナスイを知っているような素振りを見せた……おかしいと思ったんだ、だからアナスイに確認をしてみたんだ」
そう言ってウェザーは苦笑いを浮かべた。
「まさかアナスイが女子房に特攻するとは思わなかったが」
だろうな。この騒ぎはアナスイが原因か。
「そういう事だ」
ウェザーが呆れを通り越して脳みそがクソになっている奴を見る目でアナスイを見ながら話を続ける。
「いくら言っても聞かないからな……お前と直接合わせるのが一番だと判断した」
「アナスイ……馬鹿だろお前………」
「……だってよ……徐倫が俺の事を知ってるって思うとよ……いてもたってもいられなくてな………」
……本物の馬鹿だ。こいつ。……救い様が無い。その時、携帯が鳴った。
「徐倫……なぜ携帯を持っている?」
「ん……まあ……その………な」
電話に出ると興奮したキョンの声が聞こえた。
『見つけたぞ!徐倫!』
「うるせぇ……電話なんだからもう少し小さい声で話せ……それと見つけたって何をだ?主語が抜けてるぞ」
『あ……ああ悪い……ハルヒだよ、ハルヒの居場所が分かったんだ!』
随分と嬉しそうな声だ。この声と台詞をハルヒに聞かせてやりたいね。
「で、何処なんだ?」

『光陽園だ』
「……待てよ、あそこはお嬢様女子校じゃなかったのか?」
『この世界じゃ共学の進学校になってるんだ……今その門の前にいる、そろそろハルヒが来る筈だ。それじゃまたな』
そういうとキョンは電話を切った。
「なあ……今のなんだ?」
あたし以外の3人は階段を登ったと思ったら降りていた時のような何がなんだか分からないという表情を浮かべていた。
……いいチャンスかもしれない。頭がおかしくなったと思われるかもしれないが、あたしはこの訳の分からない二日間の事を話す事にした。
「最後まで何も言わずに聞いてくれ……実はな………」

「………と言う訳だ」
3人の顔を見回す……が、3人とも顔にこいつイカれたんじゃないのかという文字が張り付いている。………駄目だったか……と思った瞬間、
「いや……俺は信じるぜ徐倫」
「………アナスイ……?」
「俺は徐倫の言う事ならたとえどんな絵空事でも信じてやるよ……それにだな、そっちの世界の方が徐倫の側に長くいられるじゃねえか!」
「「「……………ハ?」」」
3人の声がハモった。
「刑務所は男女に分かれてるから会いたくても会えないんだよちくしょーッ!……俺は自分が女だったらと何度……いや、待てよ……それだと……あ、でも………」
無視するか。問題は……後の二人だ。信じてもらえるか………。

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年07月29日 13:34