第44話 「空条徐倫の消失 5」
エンターキーを押すとジェットコースターに安全ベルト無しで乗せられたみてーな激しい揺れと耳鳴りにあい、周りがどんどん暗くなっていき、気付いたらあたしは誰かの上に立っていた。
あたしの下には今や見慣れた日常の一部であり、この2日、(いや、3日か?)一番会いたかった一人である地味顔で仏頂面の男がいた。
「感動の再会のとこ悪いが………とっとと人の上からどけ、徐倫」
「悪いな、キョン」
キョンの上からどいたあたしはそこが見慣れた文芸部室だという事に気付いた。
「しかし……暑いな………」
そうか?
「お前はへそだしで薄着の上にコート羽織ってるだけだからだろ……つか今迄寒くなかったのか?」
フロリダの冬は日本ほど厳しくねーんだよ。
「そうなのか………」
キョンはその仏頂面に少し感心と驚きをブレンドしたような表情を浮かべた。
「ところで……今はいつだ?」
そう聞くとキョンは苦虫を噛んだような顔をする。
「心当たりが無い訳じゃあない………けど調べた方が早いだろ?」
「……それもそうだな」
学校のあまりにいい加減なセキュリティのお陰で脱出はすんなりといった。あとは今日が何日かだが………。
「コンビニはまだなのかよ………」
「結構遠いんだよ……お陰で買い食いがしにくくてな」
二人でそんな愚痴を言いつつも、10分程でコンビニについた。さっそく目についたスポーツ誌を開く。
「……3年前の……7月7日………か」
キョンが目を細め、懐かしむような顔をする。
「……なんかあったのか?」
「色々な。多分これから行く場所に関係してるだろうから行きながら話すよ」
キョンの話はなかなか面白い話だった。3年前の七夕にタイムスリップさせられ、3年前のハルヒと東中の校庭に訳の分からない模様を書かせられ………
「………それで長門の助けを借りて帰ってきたんだ」
「……という事は………」
「着いたぜ、ここだ」
キョンに連れてこられたのは変わりもの達のメッカ、光陽園公園だった。キョンは心なしかキョロキョロと周りを見回し、落ち着きがない。
……なんか後ろ暗い事でもあるのか?
「……何でもない……早く行こうぜ」
キョンに案内され公園の外のフェンスにやってきたあたしは面白い物を見た。みくるに膝枕されているキョンだ。
みくるはキョンの頬をツンツンしたり耳に息を吹き掛けたりして遊んでいた。
「いいなあ俺、俺、俺と変わりたいぜ………」
俺俺言ってるだけじゃ誰が誰だか分かんねーよ。大体口をあほみたいに開けてよだれ垂らしてると変態みたいだぞ。
「え……あ……うッ………」
その次の瞬間、もう一人のキョンが目を覚ます。
みくるとキョンは何か話を始めた。……が、距離が遠くて何を言っているのかは分からない。………まあいいか、後でキョンを問い詰めればいい。
すると突然みくるが倒れ、その後ろから………
「あれ……みくる……だよな?」
が、あたしの知るみくるより少し背が伸びており、プロポーションも成長しており……あれでまだ成長途上だったのかよ……
白い長袖ブラウスに紺色タイトスカートの姿は小学校の教師みたいな印象を受ける。
「便宜上俺は朝比奈さん(大)と呼んでる」
「未来人のみくるのそのさらに未来の姿……か」
今から5ヶ月程前のキョンと未来のみくるが未来のみくるから見た過去のみくるを眺めながら話をしているのを5ヶ月程前のキョンの未来のキョンと一緒にあたしは様子を伺っていた………って何がなんだか分かんねーな。
時間ってのはややこしい。……きっと親父やDIOみたいな時間を操るスタンド使いは戦闘でもすげー頭使うんだろうな………等とどうでもいい事を考えているとみくる(大)はキョンとみくる(小)と話を終えたらしく去っていった。
あたし達はみくる(大)を慌てて追う。ここまできて失敗はいやだからな。
「朝比奈さん!」
どんな返事がくるのかと思っていると………
「こんばんは、キョン君。あなたとはお久し振りですね、それと……徐倫さんにとっては……はじめまして、ですね」
どうやらあたし達の歴史はここでようやく繋がったらしい。
「でも、よかった……今でもポカが多くて会えなかったらどうしよう……って」
そのドジっ子キャラがハルヒによって植え付けられた物でない事を祈る。横のキョンは口を半開きにして口元に薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「確かに今のみくるは可愛いがよ……見とれてる場合じゃねーだろ。間抜けに見える……いや、もう十分間抜けだな」
「うるせぇ」
キョンが憮然とした顔をする。
「何処かに座りましょうか。わたしも色々話したい事がありますし」
あたし達はさっきの公園に戻り、先程のベンチへとやってきた。
「徐倫さんは……座らなくていいんですか?」
別にいいわよ。
「それで……時間の流れはどうなっているんです?俺達がいた改変された未来と朝比奈さんのいる未来は……繋がっているんですか?」
「詳しい事は話せません……というより解るように説明できません」
「ハ?」
キョンが答えが分からないテスト問題に詰まっている時のような顔をした。
「わたし達のSTC理論は……言葉を用いない概念です。言葉を用いないものは言葉以外のものでしか伝えられません。無理に説明してもわたしが初めて正体を明かした時みたいな説明になるの」
「………ますます分からん」
「要するにだな……スタンド使いじゃない奴にスタンドは見えないってのと同じようなもんだよ。見えない物を説明するのは不可能だ」
「………分かりやすい解説ありがとな」
「あ……そういえば、前に長門が未来のコンピュータは物質に依存しないとか………」
SFとかでよくある脳に依存するネットワークシステムってやつか。
「はい。TPDD……タイムプレーンデストロイドデバイス……いわゆるタイムマシンもそうです」
色々と英語の使い方に突っ込みたかったが、そこはこらえる。
「で……結局原因はなんなんですか?いつ未来は変わったんですか?誰がやったんですか?」
「詳しい事は長門さんが知っていますが……結論から言うと『今』から3年後の12月18日早朝です。犯人は……涼宮さんでもあなた達の知らない第3の人物でもありません」
みくるはそこで少し声を暗くトーンを下げ、言った。
「あなた達もよく知っている人です」
時間の余裕があるらしく、みくるはSOS団での思い出を語りだした……が、
「アナスイの話が多いと思わないか?キョン」
「気のせいだろ………」
キョンの目が泳いでいる。
「3割ぐらいアナスイとの思い出話の気がすんだが………」
「気のせいだよ」
キョンの目の焦点がずれ始めた。
「しかもなんかアナスイがかっこよく描かれてる気が………」
「キノセイキノセイ………」
キョンの目が虚ろになり、何も見ていない。………次は有希に会うんだが………こいつ……大丈夫か?
「色々あったけど、楽しい思い出です」
「だってよ」
「キノセイキノセイキノセイキノセイキノセイキノセイキノセイキノセイ……………」
「……………」
「……………」
To Be Continued・・・
最終更新:2008年07月29日 13:37