外伝 ジョジョの奇妙なクリスマス

12月24日、俺はハルヒや徐倫達とのクリスマスパーティーを終え、家の布団にくるまっていた。
うとうとしながらもなぜか寝付けず、12時直前の事だ。2階の俺の部屋の窓を誰かが叩いた。
「……誰だ………」
「おい、キョン。とっととこれに着替えろ。時間がねーんだ」
そう言った誰かは俺に赤い服を渡した……ってこれサンタの服じゃねーか!そう言おうと見上げると、
「徐倫!?」
しかもサンタの姿だ。朝比奈さんが着ていたようなミニスカではなく、伝統的なズボンのサンタ姿だ。
「な……なんでそんな格好………」
「つべこべ言わずにさっさと着替えろォォォォォォォ!」
「は……はいーーーーーッ!」

10分後、俺達はトナカイに引かれた空飛ぶそりに乗っていた。
「サンタってなんで始まったか知ってるか?」
当たり前だ。聖ニコラスが貧しい人達にプレゼントを配ったのが始まりだろ?
「正解だ……1か所だけ間違いだが」
「何処がだ?」
「聖ニコラスはスタンド使いだったんだよ」
……………は?
「よく考えてもみろ、いくら聖人だからって家に忍び込んで配れるわけねーだろ」
まともな奴には無理だろーな。
「聖ニコラスのスタンドがどんなだったかは分からない……何度か遺体を調べようって話にはなったけどな」
遺体なんて残ってんのか?
「イタリアのバリにある。今でも安置されてるはずだ」
「ふーん……で、なんで徐倫がサンタの格好してんだ?」
「お前馬鹿だろ……いくらスタンド使いでも一人でカバーできる範囲はたかがしれている。聖ニコラスは仲間を集めたんだ」
「なるほど」
「その仲間達が次の世代のスタンド使い達に伝えてさらにその世代が次の世代に伝えて……って続いてきた伝統なんだよ」
信じがたい話だが、嘘とも思えない。……まあ宇宙人に超能力者、未来人までいるんだ……サンタがいてもおかしくはない。
「なあ……じゃあ今日はアナスイとかも………」
『ヘイッ!キョンじゃあねえか!懐かしーな……元気してたか?』
エルメェス!?
『エルメェスはアメリカ担当じゃなかったの?』
『幸い代わりの人が見つかってよ~~ここらへんに空きができたって聞いたから無理して変わってもらったんだよ!』
二人が会話で盛り上がる。……話すんなら日本語にしてくれ。英語は分かんねーんだよ。と、その時、
「徐倫~~~~~~~ッ!」
こっちに猛スピードでそりが走ってきた。徐倫のそりの側に来た瞬間、
ゲシッ
徐倫のトナカイが鈍い音と共にそりに乗った男を蹴った。
「ちくしょ……俺最近こんなんばっか………え?もしかして俺の出番これだけ?……………ちくしょーーーーーーーーッ!」
一台のそりが街のはずれの雑木林に落ちるのと同時に2台のそりがこちらにやってきた。
『さっきのそりはなんだ?』
ウェザーさんだ。
『気にすんな』
「……お前達、おしゃべりはそこらへんだ。急がないと間に合わないぞ」
承太郎先生が言う。
「……そうだな。そろそろプレゼント配りに行かねーと」
『んじゃ、また後でなッ!』
エルメェスの声が合図になり、4台のそりは別の方向に向かう。
「なあ……徐倫………」
「なんだ?」
「最初は何処だ?」
「みくるの家だな」
そうか……朝比奈さんの家か………ってハア?

朝比奈さんの家は長門とはまた別の高級マンションだった。
「なあ徐倫………」
「なんだ?」
今俺達は扉の前にいる。
「どうやって朝比奈さんの家に入るんだ?合鍵でもあんのか?」
「無い」
「じゃあ窓から不法侵入か?」
「いや……ピッキングだ。あたしのストーンフリーならそれができる」
そう言って徐倫は鍵穴の前に座る。
「……もしかしてみんなスタンドで鍵をこじあけてプレゼント配ってんのか?」
「方法は人によって違うけどな……開いたぞ」
靴を脱いで忍び足で朝比奈さんの寝室を目指す。朝比奈さんの家は女の子らしいファンシーな小物やカーテンで溢れかえっていた。
「盗んだら犯罪だぞ」
………残念だ。
朝比奈さんはベッドでスヤスヤと眠っていた。実にかわいらしい。天使のようだ。
「あんま騒ぐな。起きられたら厄介だ」
ところで……朝比奈さんはどんなプレゼントを欲しがってんだ?
「あーー……ちょっと待てよ……」
そういうと徐倫は持ってきたゴミ袋ぐらいの大きさの白い袋に手を入れる。
「ここらへんに……あれ?おかしいな?どこ行った?」
そういうと徐倫は今度は顔から上半身をまるごと袋に突っ込んだ。……嘘だろ?どう見たってそんな大きさに見えない。
「お……あったあった………」
そう言いながら徐倫は高級そうなお茶とお茶入れを取り出した。
「朝比奈さんらしいな」
「だろ?」
カメラがあったら撮りまくっているであろう朝比奈さんの寝顔と名残惜しく別れを告げると俺達は次の家を目指した。
「で……何処だ?」
「古泉だ」

古泉の家は何処にでもありそうな一戸建ての家だった。……少し高そうな所を見ると古泉の家はそれなりに上流なようだ。
「んじゃいくぞ」
ピッキングを終えた徐倫にせかされ家の中へと入る。中はよく片付けられて小綺麗な印象を受ける。
家具や調度品もなかなか高級だ。いかにも古泉らしく、無性に腹が立ってくる。
「古泉の部屋は2階だ。いくぞ」

古泉の部屋はまるで何処かのビジネスマンかと思うような部屋だった。でかい机と椅子、そしてフロイト大先生やフェルマー大先生等の頭の痛くなりそうな学術書ばかりの本棚があり、部屋の隅のベッドで古泉は寝ていた。
「寝顔は見ねーのか?」
どうせいつものにやけ面浮かべてるだけだろ。
「ご明察」
「古泉には何をプレゼントするんだ?」
「本だ。心理学のとびきり難しいやつをな……読むか?」
「遠慮しとくぜ」
んなもん読んだら頭が痛くなりそうだ。俺の頭はそこまでハイスペックじゃないのさ。
「懸命だな」
「次は何処だ?」
「普通の家だ……もしかして有希かハルヒの家を期待したのか?」
「そんなんじゃねーよ」

幾つもの家を配り終え、夜明けも迫ってきた頃、俺達のプレゼントは残り二つとなっていた。
「次は何処だ?」
「お待ちかねの有希の家だぜ」
……なんでお待ちかねなんだよ。
「別に……最近お前有希ばっか見てるしな」
「そんなんじゃねーよ」
徐倫は面白がるような顔を浮かべる。
「分かってるって……まああたしは案外お前と有希はお似合いの気がするがな」
……どういう意味だよ。
「深い意味はねーよ……やっぱハルヒの方が好みか?」
「いきなり何を言い出すんだ」
俺の言葉を聞いて袋を覗いていた徐倫は顔をあげ、少し真面目な顔をする。
「ま、よく考えときなさい」
長門の家にたどり着き、鍵を開けて上がる。しかし最近はよく長門の家に来るな。そう思いながらリビングに入ると、
「……………」
長門が沈黙と共にいた。おい、見られたけどいいのか?
「普通ならぶん殴って記憶を奪っておくとこだが……有希なら別にいいだろ」
「………用事は?」
「有希、サンタクロースって知ってるか?」
「知っている」
「なら話が早い……サンタからのプレゼントだ」
「……………」
長門は少し戸惑い、まるで自分に受け取る資格は無いとでも言いたげな視線を向けてきた……気がした。
無表情なのは相変わらずなのでよく分からん。徐倫も俺と同じ事を思ったのか、
「遠慮しなくてもいいぜ。サンタさんはプレゼントを渡すのが仕事だしな」
「………しかし………」
「クリスマスってよ~~日本じゃXmasって略して英語だと思ってる奴が多いがよ~~
それはギリシャ語で英語じゃねえんだよ!なんで英語でChristmasって書かねえんだ!クソックソッムカつくぜ~~~~」
「……………」
「……………」
徐倫としてはかたくなに拒む長門を和らげようと放った渾身のギャグのようだが………
「あー……悪い……今のは忘れてくれ………か、代わりにピザの歌でも歌うから!ピザ・モッツアレラ ピザ・モッツアレラ………悪い………」
「いい。受け取る」
確かにこれ以上滑るギャグを言わせるわけにはいかないだろう。……しかし徐倫にこんなにもギャグのセンスがなかったとはな。俺のトナカイの一発ギャグの時苦笑いせずに同情するような目だったのはこのせいか?
長門に分厚い本を何冊も渡した後、俺達は最後の家へと向かっていた。
「なあ……何処なんだ?最後の家は?」
「着いてからの楽しみだ」
「まさか……ハルヒ……なわけないよな……無い無いそれは無い………無いよね?無いって言ってくれ………なあ………ほんとに違うよね?」
「……………」
これは確定だな………。

俺達の最後の家は案の定ハルヒの家だった。ハルヒの家は俺の家と同じくらいの大きさの普通の家だった。
「なあ……住所は何処なんだ?」
「残念ながら教えちゃいけない決まりだ。鍵開いたぜ……いくぞ」
そして玄関から忍び込み、リビングの横を通ろうとした瞬間、
「待て……リビングに誰かいる」
なんだと?誰か家族が起きてたのか?
「あたしが見てくる……ここで待ってろ」
徐倫はそう言うとリビングに音をたてずに忍び込む。するとすぐに、
「寝ている……入っても大丈夫だ」
その返事を聞いた俺はリビングへと向かう。するとそこには机に突っ伏して寝ている見慣れた奴がいた。
「………ハルヒ?」
「どうもサンタを捕まえようとしてたみてーだな……見ろよ」
徐倫が指差した部屋の隅には網にロープ、はては何処から手に入れたのか、ネズミ挟みまであった。
「サンタを待ってて疲れて寝たのか………」
「ハルヒらしいな」
「で……どうすんだ?」
「ま……プレゼント渡して帰るぜ……と言いたいが………」
徐倫が上司から無茶な命令をされて参った会社員のような顔をうかべる。
「ハルヒがよ……サンタに手紙を出してたんだ」
ああ……フィンランドだかアイスランドにあるサンタ協会とかいう場所か。
「グリーンランドだ……んでその手紙の内容なんだが………」
そう言った徐倫は一枚の手紙を俺に見せる。
『サンタに会わせなさい!』
そうハルヒが書きなぐった文字があった。
「……どうすんだ?」
「ま……こういうのは無視するのが普通なんだが………」
徐倫は言葉を一旦切り、肩をすくめる。
「相手はハルヒだしな、出血大サービスだ……写真撮るぞキョン」
なんでだ?
「今のあたし達がサンタなんだぜ?ほら早くハルヒの横にいけ……タイマー入れたぞ」
徐倫は袋の中から三脚とカメラを取り出し組み立てていた。
「その袋……どんだけ入るんだ?」
「サンタの袋だからな、特別なんだよ」
そしてセットを終え、タイマーを入れた徐倫はハルヒを挟んで俺の反対側に立つ。その瞬間、カメラがフラッシュをたいた。その強烈な光に俺は目を閉じ………

「……ハルヒが起きたらどうすんだッ!」
その叫び声と同時に俺は布団から飛び起きていた。………あれ?さっきまで俺は徐倫といたはずじゃ………まさか……夢……だったのか?その瞬間、俺の携帯が鳴る。
「ちょっと!これどういう冗談よ!」
こんな朝っぱらから電話をかけてくるのは常識の無い奴のする事だ。そしてそんな事をするのは俺の周りでは一人だけだ。
「……なんだ、ハルヒ」
「あたし昨日はサンタを捕まえようとリビングで張り込みしてたのよ。そしたら寝ちゃって……で、起きたら写真があったのよ!」
まさか……その写真って………。
「でもいつ撮ったのよこんな写真……あんたと徐倫がリビングで寝てるあたしの横でサンタの服着て立ってる写真なんて……
そもそもキョンあたしの家来た事無いでしょ?」
確かにそうだ……が、昨日の出来事を言うわけにはいかない。
「……合成じゃねーのか?」
「うーん……まあそうなんだろうけどね………だけどねキョン」
ハルヒの声のトーンが少し落ちる。……ヤバい………
「こんなくだらない事であたしを驚かせようなんて1億光年早いのよ!」
こいつはいつになったら光年が距離だと理解するのだろうか。
「聞いてるの!?バカキョン!いい、あんたには罰としてSOS団員全員にお年玉を払ってもらうからね!」

後日、俺は徐倫やウェザーさん、アナスイを問い詰めてみたが3人とも夢を見たんだろうとあしらわれてしまった。
……けどな、俺は今でもあれは夢じゃないって信じている。だって宇宙人に未来人に超能力者がこの世にいるんだ。サンタがいてもおかしくないし、いてくれた方が楽しいに決ってんだろ?
なあ、あんたはどう思う?

ジョジョの奇妙なクリスマス 完

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最終更新:2008年11月09日 19:07