第49話「シーズ・ア・ミステリー 1」

そこでは一つのボールを巡った熱き戦いが繰り広げられていた。肉体がぶつかりあい、俊敏な動きで立ち塞がる敵の壁を華麗に追い抜く。そこにあるのは勝つか負けるか……一瞬でも気を抜いた瞬間殺られる………まさに戦場………
「なんだってアメフトの試合なんか見てんだろーな……俺達」
「有希に一目ぼれした奴を見にくるためだろ……ちくしょー!クォーターバック何やってんだ!そこはランじゃなくてパスだろ!」
そう、徐倫の言った通り俺達は長門に惚れたとかぬかす俺の中学のクラスメートを見に来ていた。俺に電話をかけ、長門への愛を語ったそいつは長門に自分の事を知って欲しいと所属するアメフト部の試合を見て欲しいと言ってきた。
最初は俺と長門だけで見に行くつもりがアメフトと聞き付けた徐倫とアナスイ、そして最近ハルヒと知り合い気に入られ、門外顧問の腕章を押しつけられたウェザーさんの3人がノリノリで、結局SOS団全員で見にくる事になった。
「……にしてもアメフト随分詳しいんだな……」
「アメフトの嫌いなアメリカ人なんかいねーよ……いいぞレシーバー!ナイスキャッチ!」
「ねえねえ徐倫」
ハルヒだ。
「アメフトのルール教えてくれない?」
「構わないけど……何すんだ?」
「もちろん草アメフトに参加する為よ!」
………まだ草野球に次ぐその野望を捨てて無かったのか。
試合は地味な展開が続いていた。タッチダウンは無し、ロングパスが通ったりランニングバッグが独走したりも無し。お互いファーストダウンを奪い合うくらいでフィールドゴールでぽつぽつ点が入るぐらいだ……が、不思議と面白かった。
それは………
「今のはクォーターバックの判断ミスだな……ラインに空きがあった」
「ああ……あの46番が穴だな……35番を張り付かせてランで行くべきだろ」
『いや、むしろパスが正解だろう……ここのランニングバッグそこまで速くはなさそうだ』
と、SOS団のアメリカ人3人組が細かい解説をいれてくれるからだ。古泉の解説だとムカつくだけだがこいつらならそう癪にはならない。地味な展開が大嫌いなハルヒですら解説に聞きいって楽しんでいるようだ。
「………これなら今度草アメフトに出られるわね……人数も足りそうだし……よし、出てやるわよ!」
………訂正、徐倫……頼むからハルヒに興味を抱かせるな………。

それは試合が第2クォーターの中盤にさしかかった時だった。
「………キョン」
今迄おおはしゃぎしていた徐倫が俺にこっそり顔を近付け囁いてきた。
「………誰かがこっちを見ている」
そんな奴いくらでもいるだろ。
「違う……殺気を放ってる……普通の奴じゃあない」
「僕もさっきから気になっていたところです」
『俺もだ』
古泉とウェザーさんが口を挟んでくる。
「どうします?」
「行ってみる……古泉、ハルヒを見張っててくれ………」
「分かりました」
返事を聞いた徐倫はウェザーさんと共に、殺気を放っているという人物のところへ向かう。
「キョン、お前もついてこい」
「………なんでだよ」
「何となくだ」
仕方なしについていく……ま、興味が無いと言えば嘘になるしな。徐倫が向かった先は黒いダッフルコートにジャラジャラと飾りのついたシャツとジーンズを着た男だった。
「随分と派手に殺気放ってるじゃねえか……覚悟はできてんのか?」
「当たりめーだ……てめぇらをぶっ殺す覚悟ならな………」
「そうか……ならくらいなッ!ストーンフリーッ!」
その瞬間、敵がスタンドを出し、ガードしたらしい。ウェザーさんがあらかじめ渡してくれていたスタンドの見えるカメラを取り出しカメラを覗く。
スタンドは人型だが、手と足がアルミの針金のように細長く、全身幾何学模様で、目や鼻、口は無い。うむ……結構気持ち悪い。
「なかなか素早いじゃねーか……オラァッ!」
徐倫がさっきよりもより強く早く殴る。するとあっさりガードを弾き、敵にパンチが当たった。
「ぐ……う………」
「情けねーな……その程度か?」
「………フン……お前達はもう遅えんだよ………」
「負け惜しみだな……トドメだ!くらいなッ!」
「人間はよ……なんで服が変わっても同じ人を認識できるか知ってるか?」
いきなり何を言い出すんだ?
「それはな……忘れるからだ……細部まで覚えずにおおまかな形でけ覚えるから認識できるらしいぜ…鳥とかはこの働きが弱いから石が一つ増えただけで場所が分からなくなるらしーぜ」
『………!まさか………』
「その機能が止まったら……こうなんだよぉ!」
男がダッフルコートのフードを被る。と、その瞬間、
「奴が……いない!?」
そこにはダッフルコートのフードを被った男がいるだけだった。さっきの奴だと理屈では分かっているのだが、脳みそは別人だとひっきりなしに言っている。
「こういう事だ……お前達の脳が俺の姿を判断できなくなる……声とスタンドは判断できるだろうがな」
確かに声と、カメラを通じてスタンドは見える。
「俺達の目的は涼宮ハルヒだ……あばよ、そこでウロウロしてな」
男はタバコを取り出すと何処かに行ってしまった。
「マズいな……キョン、古泉に電話しろ。ハルヒを別の場所に移す」
俺が携帯を取り出すと見計らったように鳴り出した。古泉からだ。
「もしもし?」
『すいません、大変な事になりました』
「こっちもだ…敵のスタンド使いの攻撃をくらって敵を見失っちまった。ハルヒの方に向かってるからどっか別の場所に移してくれ」
『……なるほど、これは敵スタンド使いの攻撃だったんですね』
……まさか、てめーも………。
『その通りです……参った事に涼宮さんは寒くなったとか言って手袋をはめてしまいまして……見失いました……実を言うと僕ももって来ていた手袋をつけてしまいまして……涼宮さん達にも僕が誰だか分からないはずです』
クソッ……あいつの思惑通りじゃないか。
『朝比奈さんとアナスイは一緒にいます……この二人は服装が変化してないから分かるはずです』
その時、グラウンドが騒がしくなり始めた。選手が交代の為にヘルメットを脱いだ瞬間、誰が誰だか分からなくなってしまったのだ。
「こいつは……目的の為なら他がどうなろうが構わねえって訳か………」
みたいだな……徐倫、絶対に捕まえるぞ。許すわけにはいかない。
「当たり前だ」

To Be Continued・・・

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最終更新:2008年11月09日 19:09