第72話 「未来からの第3指令 1」
「たっく……昨日はひどい目にあったぜ………」
空き缶の罠を仕掛けるという意味の分からないお使いをした翌日、俺は学校へと向かっていた。
「よう、アナスイ」
「……キョンか」
昨日、敵スタンドを倒した後、こいつはウェザーをタクシー代わりに使い、朝比奈を何処かへと送っていた。
「朝比奈は今何処にいるんだ?」
「……なんでお前に教えなきゃならねーんだよ」
「今朝家のポストに未来からの新しい命令書が入ってたんだよ。朝比奈とやれっつう話だから居場所を教えてもらわねーとな」
「………鶴屋さんのとこだ」
「ハ?それじゃすぐにバレるんじゃ………」
「大丈夫だ、鶴屋さんには朝比奈さんの生き別れの双子の妹、みちるさんだって説明してる」
「……………」
多分、そんな嘘は朝比奈ですら信じないだろう。まあ、あの鶴屋さんだ。分かった上で……だろうな。にしてもあの人、ほんと何者だ?
「ちなみに今回の件は古泉も知ってるみてえだ……ところで命令の内容はなんなんだ?」
「それこそてめぇに言う義務は無い」
「とは言ったものの……なんなんだ、こりゃ」
俺は教室で再び届いた手紙を眺めていた。指令の内容は、朝比奈が知っているはずの変な石の置物を西に3m動かすというやはり意味不明なものだった。
……たっく、しかも場所は朝比奈が知ってるだと?未来人はやはり親切心が足りないらしい。
「アナスイ君?」
「……朝比奈か」
現行時間の朝比奈が俺を心配してか、声をかけてきた。
「最近ボーッとしてること多いですけど……何か悩み事があるんですか?」
もちろん。山程ある……が、朝比奈には残念ながら相談できない悩み事だ。
「無えよ」
「ならいいんですけど………」
「心配してくれてありがとよ」
「そ、そそそ、そんな!お礼を言われるような事なんて………」
「みーちるちゃんッ!」
鶴屋だ。
「ふ、ふえッ!?」
「にゃははッ!みちるッ!昼ご飯食べに行こッ!」
「わたしの名前はみくるですけど……」
「あー間違えちゃったさッ!」
多分わざとだ。
「……はぁ」
「お、そうだアナスイ君ッ!」
鶴屋が俺の首に肘を回して顔を近付けてきた。
「……んだよ」
「みちるちゃんがあんたに会いたがってたよッ!」
「……それがどうした」
「いやいやー、キョン君からはそんな話聞いて無いからねぃ」
「……それがどうした」
「もしかして……コレ?」
鶴屋は小指を立てて見せる。
「断じて違う」
「って事は知り合いなのかい?」
しまった。カマをかけられていたようだ。やはり侮れない人だ。
「……そうだよ。鶴屋、俺がみち……朝比奈の妹の知り合いで何が悪い」
名前で言おうとしたが、何故か気が乗らず、設定の方で呼ぶ事にする。
「……別に何でもないさッ!あの子をよろしくって事だよッ!」
そう言って離れた鶴屋は朝比奈を連れて食堂へと向かって行った。
放課後、俺は鶴屋の家へと向かっていた。ある奴と一緒に。
「……お前、バイク動かせたんだな」
「17だからな。免許は取れる」
「……てめーと朝比奈さんを一緒にするのは気に食わねーがな」
「悪かったな」
ちなみに出発してからずっとこんな感じだ。そんななのに、俺達が一緒にいるのはとある理由がある。まあ、単純な話だ。
「いいか、お前を連れて来たのは目的地への経路を確認する為だけだからな」
「おい、アナスイ。素直に鶴屋さん家が分かんないって言え」
……うるせぇ、バカキョン。
そんなこんなで鶴屋邸へとたどり着いた俺の最初の感想は………
「予想はしてたが……やっぱでけえな………」
鶴屋の家はいかにもな古い日本家屋……有り体に言えばいわゆる屋敷だ。とりあえず時代劇に出てきてもなんの違和感も感じなさそうだ。どんだけ金あんだよ………。
インターホンを押しても、何も鳴らない。が、門の向こうから大きな声が聞こえてきた。
「お、キョン君にアナスイ君じゃないかいッ!今から門開けるからちょっとだけ待っててくれよ!」
門が開くと、そこには和服姿の鶴屋がいた。あまり和服には詳しくないのでよく分からないが、こいつの家が普通じゃない事だけは伝わってくる。
「ささ、上がって上がって!」
「別にいい。それより朝比奈の妹を呼んできてくれ」
「……せっかちだねぃ……ゆっくりしていけばいいのに」
鶴屋は口ではそう言っているものの、顔はそうまんざらでもなさそうだ。
「ま……そう言うだろうと思ってもう呼んであるけどねぃ……みちる!」
「は……はい」
現われた朝比奈はパンツルックの上にもこもこしたスーツを着込んでいる。少しサイズがあっていないのを見るに、鶴屋の物を借りたのだろう。
「ほいじゃ、みちるの事よろしく頼むさッ!……それとそのバイクじゃ二人が限界だろッ?このサイドカー貸したげるさッ!」
見ると俺のバイクにいつの間にやらサイドカーが取り付けられていた。
「……呆れた早さだな」
バイクは最初朝比奈をサイドカーに乗せようとしたが、俺の後ろに乗りたがった為、予定変更してキョンをサイドカーへと乗せた。キョンが睨んできたが気にしない。
「未来からの命令だと場所は朝比奈が知ってるって話だったが」
「なら多分、あの山だと思います……宝探しをした………」
「そうか。どの石かは分かるか?」
「ええ……その……多分」
「ところで……宝探しは本当に何も出なかったのか?」
「……ええと……うーん……ちょっと分かりません。行ったら思いだすかも………」
「そうか」
ちなみに、そんな会話を繰り広げていた最中キョンはずっとこんな事を呟いていた。
「空気だからって寂しくなんかないぞ……そうだ……俺は強い子だ……ここんとこ出番が無い徐倫よりはマシだもん………」
……所々怪しげな台詞があるが気にしないでおく。
To Be Continued・・・
最終更新:2009年04月25日 01:10