第73話 「未来からの第3指令 2」
鶴屋家の私有山は北校の東にあった。あまり高くはなく、天然林に覆われている丘といった感じだ。舗装された道があればいいのだが………
「無えな」
「獣道ならあるぞ」
くだらない会話をキョンと繰り広げているうちに、辺りを探していた朝比奈が声をあげた。
「ここです。ここから登りました」
「登りました?」
「明後日やるっつう宝探しの時に登ったんだろ?違うか?」
「はい、アナスイ君の言う通りです」
道を見る。なんとかバイクでも登れそうだ。
「あれ?今日来たの原付じゃねえのか?」
キョンが突っ込んでくる。
「今さらかよ……あれはバイクだよ。じゃなきゃサイドカーが付けれるわけねーだろ」
「………だな」
「でも、サイドカーをつけたままで登れるんですか?」
あまり高くないとはいえ、傾斜はそれなりにある。それに道が狭い。確かにサイドカーがあったら登るのは難しそうだ。
「キョン、降りろ」
「……俺に歩けってか?」
キョンが嫌そうな顔で睨んできた。仕方ねえ、少し説明してやるか
「別に俺が歩いても構わねーぞ……お前がバイク動かせるんならな」
「……………」
「ついでに朝比奈を歩かせるという案も………」
「……歩けばいいんだろ」
バイクで田んぼを横に見ながら朝比奈のナビゲートに従い、俺達は山道を登っていた。
とはいえ、不安定な足場のせいで大したスピードは出せず、キョンが走りながらなんとかついてきている。
「……アナスイ君………」
「なんだ?」
「その……さすがにキョン君可哀相じゃないですか?」
「なら歩くか?俺は別に構わねーぞ」
「……………キョン君、ごめんなさい………」
かなり長い間迷った後、朝比奈は2ケツを選んだ。こいつの優しい性格なら歩く方を選ぶかなと思っていただけに、少し意外だ。まあ、優しさよりも楽が上をいったという事だろう。
「ところで、未来についてもうちょい教えてくんねーか?情報が少ないと行動しにくいんでな」
「その……あんまり教えられる事は無いです。特に変わった事もありませんでしたし………」
言っている事は当たり障り無いが、朝比奈は妙にそわそわしている。
「……なんか隠してるのか?」
「そ、そんな事無いですよ!絶対、断じて、隠し事なんて無いです!」
「……………」
その弁解が全てを物語っているが、ここまで言っているのだ。気付かなかった事にしてやろう。そうこうしているうちに、
「あ、ここです。ここら辺を登りました」
「………ここをか?」
朝比奈が言った場所はまさに、道無き道だった。鬱蒼とした急斜面の森である。こんな場所、バイクで登るのはまず無理だ。
「ハァ……ハァ……ハルヒの野郎……こんな場所登らせんのか………」
少し遅れて走ってきたキョンが追い付いた。
「当日はあちこち掘ってましたよ」
「……マジか」
「予行演習だと思え……行くぞ」
朝比奈を先頭に俺、キョンと続く。
「はっ……ふうっ………あう………」
ほとんど崖に近い坂道は、登るというよりロッククライミングに近い。
「あひゃ!?」
もともとドジな朝比奈は、時々ずり落ちそうになった。仕方がないので支えてやる。……その度に朝比奈は顔を赤らめて俺を引き離そうとしたので、よけい危なっかしくなっていた。
そこで、スタンドでこっそり支えるプランに変更する事にした。
「……あれ?なんか急に登りやすくなったような………」
少々怪しまれたが気にしない。よくよく見ると前に誰かが上り下りをしたらしく、崖のところどころが踏み固められている。
……ふむ、スタンドを使わずに登れるわけだ。
「やっと着いたか………」
「十分近くはかかったぞ………」
たどり着いた場所は山の中ほど、あまり広くはない半円形の場所だった。木は無く、雑草だらけで日向ぼっこにはピッタリな場所だが、所々がぬかるんでいる。
……最近、雨降ったっけ?
「ここです……間違いありません」
「んで、問題のブツは何処だ?」
「あの石です」
朝比奈が指差した先にはわりとでかいひょうたんに似ていない事もない白い石が地面にめり込んでいた。
「……かなり埋まってるな」
「掘り出さないといけなさそうですか?」
「いや……周りがぬかるんでる、普通に持ち上げれるな……キョン、反対に周れ」
「分かったぜ」
「日も暮れ始めてる……暗くなると危ないから早く済ませるぞ」
二人で石を両端から掴み、持ち上げようとする。
「せーの!」
「……………」
「……………」
が、持ち上がらない。けっこうな重さだが、二人がかりで持ち上がらない程では無い。………つまり、
「サボんじゃねえぞ……キョン」
「サボってねえよ……そっちじゃないのか?」
「ふ、二人共喧嘩はやめて下さい!」
朝比奈に仲裁された俺達は仕方なく再び持ち上げる事にした。
「せーの!」
「……………」
「……………」
「やっぱ持ち上がってねーぞ、アナスイ」
「……おい、待てキョン」
「どうしたんだよ………」
「なんか……さっきより……石が沈んでないか?」
「……ほんとだな………」
「………まさかッ!キョンッ!足あげろッ!」
「は?……何言って……って上がらないだと?」
「二人共、泥に足を………」
そう、いつの間にか俺達は泥に足をとられていた。
「どうなってんだ!?……クソッ!抜けねえぞ!」
「新手のスタンド使いかッ!?」
だが、俺達が何故ここに来る事が分かったんだ……?そしてこいつの能力は何なんだ?
「こいつはかなりヘヴィな状況だな………」
To Be Continued・・・
最終更新:2009年04月25日 01:12