第74話 「マンドゥ・ディアオ 1」

未来からの指令に従い、石を動かしに来た俺達は、待ち構えていた何者かに襲われていた。
「くっそお……この泥……全然動けねえぞ」
「まるでセメントみてーだな……無理すれば動けない事もねえがな」
二人で半径2m程の泥だまりから脱出しようともがく。
「アナスイ君!キョン君!」
暫く姿が見えなかった朝比奈は、手にタイヤとロープを持って下から登ってきた。
「……それ、どうしたんだ?」
「ごめんなさい……アナスイ君のバイクのスペアタイヤです………」
「いや、でかしたぞ朝比奈!そいつを早くこっちによこせ!」
「は、はいッ!」
「そいつはいけねーな……んな事されたら折角罠にハメた意味がねぇ」
声が聞こえてきた方を振り返る。そこには黒いジャージ……最近流行のプージャーを着て、前を開けている。何故か肌が見えているのを見ると下着は着ずに直接ジャージを着ていると思われる男がいた。
「……てめぇが敵か………」
が、男はその言葉を聞くといきなり人差し指を立て、猛烈な勢いで振り始めた。
「ノンノンノンノンノンノンノンノンノンノンノンノン……江口政木……俺の名前だ。敵じゃあねえ」
「……襲ってきてるなら敵じゃあないか」
「ノンノンノンノンノンノンノンノンノンノン……おい、そこの地味いの……確かキョンだったな」
「……なんだよ?」
「あのな、世の中に敵なんつう名前の人がいるか?」
「……いるわけねえだろ」
「そうだ、そういう事だ」
「……意味が分からん」
全くだ。どうやら別の人種の人間らしい。が、江口は構わず話を続ける。

「いいか?敵っつうのはただの名詞だ…分かるか?」
「馬鹿にしてんのか……こっちは高校1年だ」
「そうか、だが……人には名前……つまりは固有名詞っつうもんがある」
その通りだな。で、それがどうしたイカレ野郎。
「ノンノンノンノンノンノンノンノン……イカレ野郎じゃない……江口だよ。だから、固有名詞があるだろ?それはそれが唯一である事を表してる……それを代名詞や名詞で呼ぶなどナンセンスッ!愚の骨頂ッ!この意味分かるかい?」
「全然分からん」
「悲しいかな……全然理解できないとはな………」
相手にするだけ時間の無駄だな………
「朝比奈ァ!」
「準備できましたッ!えいッ!」
朝比奈が非力ながらもタイヤを精一杯投げる。が、やはり非力なのが変わるわけは無く、タイヤは60cm程しか飛ばない。もちろん俺達には届かない。
「……人が話をしている最中にコソコソと小細工か……マンドゥ・ディアオッ!あの縄を叩き切れッ!」
江口のスタンドが姿を表す。人型だがドロドロしており、B級ホラーに出てきそうななんだかよく分からない化け物といった感じだ。スタンドは一直線に縄へと向かう。
「させるかよッ!ダイバーダウンッ!」
敵の手刀をブロックし、そのままカウンターを放つ。が、後ろに飛んでかわされた。
「朝比奈ッ!ロープを引っ張れ!キョンッ!てめぇは先に行けッ!」
「は、はいッ!」
「あ、ああ」

「かかってきな……イカレ野郎」
「江口だと言っているだろうがッ!」
江口のスタンドが一気に距離を詰めてくる。右のジャブから左のフック、さばいている隙をついて右のニーキックが飛んでくる。
「フン……ダイバーダウンッ!」
ニーキックは余裕で弾き、キックを弾かれ体勢を崩した敵に、右ストレートを叩き込む。
「グブッ………」
「てめぇ、あんま強くねえな……スピードもパワーも大した事ねーぜ」
後ろを見るとキョンがそろそろ沼から脱出しようとしていた。
「んじゃあ……長引くのも嫌だしな……トドメだッ!ダイバーダウンッ!」
「温い考えだな……マンドゥ・ディアオッ!」
その瞬間、殴りかかろうとした足が止まった。下を見ると、
「泥が固まってやがるだとォ!?」
後ろを見るとキョンも足元の泥が固まり、その場に釘付けにされている。
「てめぇの能力かッ!」
「てめぇじゃない……江口だ……気付くのが遅かったな。何故地面がぬかるんでるのか考えなかったのか?」
確かにそうだ。最近雨は降っていない。泥ができるはずが無いのだ。
「この俺、江口の能力だ……土を泥に、泥を土に……どちらでも自由自在に変えられる……まあ、金属とか石はアウトなんだがな」

「ちくしょおッ!抜けねえッ!」
後ろでキョンが騒いでいる。まずいな……俺はスタンドでこいつの攻撃を防げるが、キョンでは絶対に防げない……だが、今の身動きできない状態では本体とスタンド、両方を防ぐのは不可能だ。
「ダイバーダウンッ!」
右の手刀を繰り出す。が、敵のスタンドにガードされてしまう。
「てめぇの相手は俺のスタンドだ……じゃあな……仲間がやられる様をゆっくり見物しときな………」
「そうはさせるか!ダイバーダウンッ!」
本体に右のハイキックをお見舞いする。が、ハイキックは放ちきる前に敵スタンドに防がれてしまう。
「ちいッ!」
「残念だったな……それじゃ、処刑の始ま……ブグッ」
余裕の表情で自慢げに語っていた江口の顔を、誰かが棒でぶん殴った。
「……朝比奈!?」
「こ……こっちは……わ…わたしとキョン君でなんとかしますッ!」
見るとキョンも木の棒を持っている。足を取られて動く事はできそうに無いが、棒でそれをカバーしている。
「アナスイ!スタンドのダメージは本体に返ってくるんだろ?俺達が持ち堪えてる間になんとかしろッ!」
「言われなくてもそのつもりだ……かかってきな」
「馬鹿な奴等だな……一般人が棒持って二人がかりで来ても何も変わんねーよ」
「そいつはどうかな」

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年04月25日 01:14