第87話 「生徒会からの挑戦状 1」
「没ね」
「ふえッ!?そ、そんなァ!」
「平凡なのよ、面白みが無いわ」
「……そこまで言わなくてもいいだろ?ハルヒ編集長」
「うっさいわね、そう言うキョンは書けてるの?恋愛小説!」
もっか、我らがSOS団はハルヒ編集長の命の元、小説を執筆中であった。何故こんなめんどくさい事になっているのかというと………。
「呼び出し?」
1週間程前、見慣れたニヤけ顔と無表情が、俺達のクラスへとやって来た。
「はい、長門さんが生徒会長から呼び出されましてね。長門さんだけでは色々と不都合でしょうから、あなたと徐倫さんをお呼びしたんですよ」
「……別に構わねえが……おい、徐倫………」
「ハァ………」
「随分と黄昏てますね」
徐倫はここ最近ずっとあの調子だ。一体何があったのかは知らんが、どうもかなり深刻な悩みらしい。……ハルヒに気付かれていないのがまだ幸いだ。
「長門が生徒会長に呼び出されたそうだ……一緒に来るだろ?」
「……有希が?今頃?……変な話ね」
生徒会室のドアを開けると、そこでは既に長門が誰かと向かい合っていた。
「来たか」
そう喋った男はこちらを向く。銀縁の眼鏡をかけ、オールバックにした長身の男。なんとなく野心に溢れる若手エリートっつう感じのする男だ。多分こいつがその生徒会長なのだろう。
「今回君達を呼び出したのは他でも無い……文芸部についてだ」
遂に来やがったという感じだ。いつかは持ち上がるだろうとは思っていたがな……ハルヒに知られると面倒だ。古泉が俺を呼んだのはなんとか俺達で処理しろという事だろう。
「なあ……それって何の話だ?」
「………ハ?」
「あたし初耳なんだが……文芸部の事」
そういやそうだった。徐倫には一度も現在のSOS団のややこしい状況を説明していなかった。
「君達は現在文芸部の部室を、文芸部員である長門有希が何も言わないのを良い事に不当に占拠している……そういうわけだ」
「あー……なるほどね?立ち退き要求?なら無駄よ。SOS団っていう団体はこの学校に認可されていない……無いものを立ち退かせるなんて………」
「なかなか頭が回るようだが、そうでは無い……我々が取る措置は文芸部の無期限凍結、及び部室からの退出だ」
……そうきたか。確かに徐倫の言う通りだ。無いものを無くすなんて不可能だ。それが分かっているこの会長は、先に文芸部という外堀を埋めにきたのだろう。
しかもこの会長の理論はまともで、筋もしっかり通っている。理論での反論は難しそうだ。
「卑怯じゃねえか、今迄放っておいていきなり難癖付けるなんてよ」
「何を言っているのだ。今迄待った方が寛大なくらいだ」
「同好会にするのは駄目か?今なら顧問を引き受けてくれる当てもある……前よりはましな申請書が書けるわよ」
それは暗に俺を非難しているのか?
「君の父親……空条承太郎か……だが、それでも無理だな。今迄の君達の行いは見過ごせるものでは無い」
「……………」
3人共だんまりになってしまう。徐倫にすら反論の隙を与えないとは。敵とはいえなかなかだ。
「そんな事言ってる場合か………」
「何がだ?」
「有希だ……気付いて無いとは言わせないぞ」
ああ……確かにそうだ。長門は黙ってこそいるものの、全身から透明な怒りのオーラが放たれているように感じる。
「仕方ない……有希がキレる前に実力行使で………」
「馬鹿やめろ!んな事したら余計火に油を………」
その瞬間だった。突然長門の怒りのオーラが消え去った。長門の目線が会長では無い別の人物へと向かっている。
「……喜緑さん………?」
「ああ、彼女を知っているのか……我が生徒会の書記、喜緑江美里君だ」
「誰だ?」
「例の巨大カマドウマ事件の依頼者だ」
「………ふうん」
しかし長門は何故喜緑さんを見て何故冷静になったのだ?意味が分からん。するとその瞬間、バガォァンッ!という聞いた事もないような擬音と共に扉を開けた人物がいた。
「こらぁっ!何有希をいじめてんのよへボ生徒会長!」
ハルヒだ。
「みくるちゃんが鶴屋さんに有希が生徒会長に呼び出されたって聞いたのよ、どうせ文芸部を潰して一緒にSOS団も潰そうって腹なんでしょ!だったら正面からまっすぐ来なさいよ!」
相変わらず変な勘の良い奴だ。その時俺と徐倫は生徒会長が古泉に非難の目を向け、古泉がそれに答えるように苦笑した。……なんでこいつらはアイコンタクトが取れてんだ?
「人の話は最後まで聞きたまえ」
こちらを向いた生徒会長は話を続ける。
「我々としてもできれば強制停止は阻止したい……そこで、代わりに文芸部としての活動を行なえ、一週間後までに機関誌を作る事だ」
「ふーん……なーんだ……そんな簡単な事で良いの?」
「部数は二百部、全てさばけないとペナルティを科す」
俺はちらりと長門を見る。が、何故かこいつは生徒会長に目もくれず、ひたすら喜緑さんを見ている。何を考えてんだ?
「手渡しとかは駄目なのか?」
「駄目だ。渡り廊下に置くだけだ」
「ふん!そんなの楽勝よ!……行くわよ有希!まずは機関誌の作り方を調べましょ!」
そう言うとハルヒは長門を掴み、弾丸のような速さで去っていった。
「騒がしい女だ……喜緑君、もういい。退席してくれたまえ」
「はい、会長」
そういうと礼儀正しく会釈した彼女はドアから出ていった。さて、俺達も退出……と思った瞬間、意外な事が起こった。
「古泉、ドアを閉めろ」
そう言った会長は眼鏡を外し、足を机に乗せ、タバコとライターを取り出し、吸い始めた。
「……おかしいとは思ってたが、グルか、お前ら」
「ええ、そうですよ」
「随分めんどくさい事すんだな……ハルヒ好みの会長を作る為か?」
「呆れた話だろ?俺は顔がそれっぽいっていう理由でこの様だ。俺を会長にさせるのにかなりの金をばらまいたらしいしな」
全く持ってその通りだ。つーか金をばらまくってどんな選挙だよ。
「ま、これはこれで旨味がある。内申が上がるし、生徒会は俺が好きにいじくれる……ついでに予算もな」
「とんだ悪徳会長ね……まあ嫌いじゃないけど、そーいうの」
だが、会長がグルという事は、今回のこれは………。
「涼宮さんの暇つぶしですよ」
もうちょいましなやり方は思い付かなかったのかね?
「すいません」
全く悪びれずに古泉が言う。
「それでは、僕達はこれにて……教師の皆さんや仲間には気付かれないよう頼みますよ」
「分かってる……んなヘマはしねえ」
タバコをふかす不良会長を残し、俺達は生徒会室を後にした。
「もう一つ聞いとく……喜緑さんはお前らの仲間か?」
「いえ、違いますよ。気が付いたらいつの間にか書記になっていました……誰も気付かないうちにです」
「んな芸当ができるって事は………」
「長門さんの同族でしょう。といっても朝倉涼子の一派とは違い、長門さんとは対立していないようですが」
だな、あれと比べると遥かに社交的だ。
「キョン……今は新しい宇宙人より考えるべき事があると思うがな」
………そうだな。ハルヒがどんな無茶を言い出すか……考えただけで胃が痛くなりそうだ………。
To Be Continued・・・
最終更新:2009年08月12日 16:04