v本日、土曜日。『スタンド』事件が始まってから、二度目の不思議探索である。
もう二週間が経つってのか。早いものだとつくづく思う。
前半を何事も無く終え、後半。俺は古泉と朝比奈さんと共に、駅前のいつもの店とは別の喫茶店にて、適当に時間を潰していた。
ハルヒは現在、長門と美夕紀さんとともに行動中。尾行についている『機関』の人々の情報によれば、現在西宮のデパートにてお洋服選び中だそうだ。
思うに、俺たちもできるだけハルヒたちの近くにいたほうがいいんじゃないのか? と、思うんだが。

「ええ。ですが、少々お話しておきたい事もありましたので」

なにやら改まった様子で、古泉が、手に持ったカップをテーブルの上に置いた。


キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第8話『スパイダーが来る!』


「これはまだ、仮説の粋でしかありませんが……前回の、『スミレ』さんの一件と、これまでの例から、『犯人像』がすこし固まってきました」

いつものように、手振りを添えながら、古泉が話し始める。

「『犯人』て……えっと、つまり、『矢』を使っている人、ですか?」

「はい。問題は、彼が『矢』を使っている時期です。これまでに『矢』の被害にあった者たちの話から、彼らが『矢』に刺された日にちが分かりました。
 最初に現れた、『パニック・ファンシー』の『宮森翔』は、露伴先生と涼宮さんたちを襲った『日曜日』の四日前、『水曜日』。
 そして、その『日曜日』に、『キョン』……あなたが『矢』で射られています」

はい、マイネームイズキョン。イエス、アイアム。

「次に、『ザ・ブルーハーツ』の『藤田昌利』さん。彼はその翌週の『火曜日』。
 同週の土曜日に現れた『スターダースト・レビュー』の『久保木みやび』君は、藤田さんが矢を受けた翌日の『水曜日』です。
 そして、『ネオ・メロ・ドラマティック』の『榎本美夕紀』さん。彼女は、僕と『ミスタ』が久保木みやびと戦っていた『土曜日』に、『矢』に射られました。
 ……最後に、『スミレ』さんが刺されたのは、彼女の能力が発動した当日。『榎本さん』が攻撃を仕掛けてきた翌日、『水曜日』です。
 お分かりですか。『矢の男』が行動しているのは、『火曜日から水曜日』、もしくは『土曜日から日曜日』に集中しているのです」

……まあ、確かにそうだな。
だが、単純に、日にちを置いて行動を起しているだけじゃないのか?
俺たちだって、何か決まったルーチンを組んで行動したりするだろ。水曜日は本棚の整理とか、木曜日に風呂掃除とか。

「もちろん、それも有り得ます。ですが、そこでもう一つポイントがあります。
 『スミレ』さんの能力が発動した水曜日。『矢』の男は、正午前に彼女を矢で『刺して』います。
 これは目撃例はありませんが、彼女の容態が悪化しだしたのが正午ごろからだということから推定します。
 ……ご存知の通り。矢を使っている男は『スタンド使い』です。
 つまり、矢の男は『スミレ』さんの能力が発動した場合の標的に成り得る存在でした。
 彼女の能力は、現時点で確認できているだけで、少なくともこの市内全体に及ぶものでした」

……つまり、自分が巻き込まれるかもしれなかったのに、何故スミレを刺したのか。って言いたいのか?
しかし、『矢』を刺したからって、そいつにどんな『スタンド』が生まれるかは分からんだろう。
それに、『スミレ』のスタンドは、結果として、午後七時には『解除』されてるんだ。
そんな時間から眠ってるやつも少ないだろ。

「ええ。ですが、『矢』がスミレさんを選んだ時点で、矢の男には想像ができたのではないかと思うのです。
 もはや死の直前にいる、目覚めない少女が産み出す『スタンド』が、いったいどういうものか」

「でも……単に、『避難』していただけ、じゃあないんでしょうか?」

朝比奈さんが、おどおどと口を開く。そうだな、俺もそう思う。
『スミレ』のスタンドが、自分にとっても害をなすような能力だった。そう考えた時点で、俺なら、さすがにここまでは届かないだろ。ってところまで逃げるね。

「僕もそう思います。ですが、その部分は、これまでの『例』と照らし合わせて……
 つまり、『矢の男』は、『水曜日の午後から金曜日』、『日曜日の午後から火曜日』に欠けて、この街を離れる人物であるのではないか?
 それが、僕たちの見解です」

……それは、つまり。

「『矢の男』の『職業』が、多少特定できる。そう言いたいのか」

「ご理解が早くて助かります」

と、古泉は微笑んだ。

「たとえば。職場がこの市内にあるのなら、『オアシス』のスタンドを使い、休憩時間などを使って、矢を『射る』ことは可能だとおもわれます。
 ですが、この『矢の男』はそれをしない。つまり、男の『職場』は、この街から遠く離れた場所にあるのではないか?
 男は休みのたびに、この街へ帰ってきて、『矢』を使う。そして、休みが終われば、『職場』へ向かい、おそらく、数日は街を離れたまま」

『泊り込み』で、『休みが不定期』な仕事ってことか。
たしかに、その条件に当てはまる『職業』は少なそうだな。

「どんな職業が思い浮かびます?」

古泉に訊ねられ、俺と朝比奈さんは、しばし思考をめぐらせる。
まっさきに浮かんだのは――――」

「業界人」

「はい、まさにそれです」

古泉が指を鳴らす。

「飽くまでも仮説です。今後の『スタンド使い』の話と照らし合わせて、どうなるかは分かりません。
 現段階で機関が立てている仮の犯人像は―――
 『業界人』、それも、裏方でない。所謂、『芸能人』です。しかし、どのチャンネルにも顔を見せているようなスターではない。
 『週に数日仕事をする』程度の『芸能人』。それこそが、『オアシスの男』……『オノ』の正体なのではないか?」

……暴論だが、一応筋は通ってるか。

「えっと、じゃあ、『オノ』から始まる芸能人の人を漁ればいいんでしょうか……?」

「いえ、さすがに、まだ憶測の粋ですから」

朝比奈さんの言葉に、古泉が首を横に振りながら、それを制する。
『芸能人』か。そういや、聞いた話じゃ――

「はい。『パッショーネ』から脱却した日本の麻薬売買組織は、表向きを『芸能プロダクション』としていました。
 ……その手のコネも、あったと思いますがね」

……『芸能人』の『オノ』か。
まあ、右も左も分からないよりは、真実に近づいた。そう考えて良いいんだろうか?



――――



……土曜日の午後。テストを一ヶ月以内に控えた校内に、生徒の姿は少ない。
『菅原正宗』は、電気のつけられていない廊下を、念のために足音を抑えながら歩いてゆく。
二階へと続く階段を上り、『二年生』の教室が立ち並ぶエリアへと歩いてゆく。
目指すは、『二年五組』だ。
錠が下りているはずの扉を開く『鍵』は、既に手の中にある。『教師』である菅原にとって、其れを手に入れるのは容易いことだった。
もしも誰に目撃されてもおかしくないように、体育用のジャージを身に纏ってもいる。完璧だ。あとは、『攻撃』を仕込む瞬間を見られなければいい。
まもなくして、『菅原』は二年五組へたどり着く。戸を開錠し、静かに開く。其処には当然、誰の姿も無い。
『ヤツら』は今、『市内不思議探索』の真っ最中のはずだ。邪魔が入るはずも無い。
ゆっくりと、『涼宮ハルヒ』と、その相方同然の存在である『キョン』と称される男子生徒の席へと近づく。
まずは、こっちからだ。『キョン』の椅子を『スタンド』で掴み、其処に『仕込む』―――

「おい、何してくれてんだ、『菅原先生』よ?」

……響き渡るその声に、菅原の手が止まる。
……たった今、菅原が錠を外した戸に、誰かがいる。
その低く、澄んだ声には、聞き覚えがある。しかし、その言葉は、菅原の持っている、その人物の印象とは程遠い―――

「マジで『たまたま』だぜ。お前がノッソノッソと、スットロく廊下を歩いてくのをよ。たまたま見かけたんだな、この『俺』が……
 『生徒会長』ってのは仕事が多くてよ。休日でも学校に来なきゃなんねェ事情もあるんだなァ―――。運が悪かったな、ああ? 先生よォ。」

菅原は、ゆっくりとその人物を振り返る。
そこには……菅原の想像通りの人物が、彼の記憶とは異なる表情を浮かべて、立っていた。
この北高の、『生徒会長』を務める男子生徒。
そして―――菅原の属する、『機関』とのかかわりを持つ人物。

「『菅原』ァ――――テメェ、さては『矢』に刺されたな?
 そうじゃなきゃよォ――!」

ガコン。という音と共に、『菅原のスタンド』の手の中にあったはずの『椅子』が、空中に浮かび上がる。
見ると……『菅原』とそのスタンドの目の前に、白い体に、無数のレールを走らせた……『会長』のスタンドが立っていた。
その手が、さっきまで菅原のスタンドがつかんでいた、『キョン』の椅子を掴み上げている。

「テメェが『こいつ』に何かする理由なんか、ねェもんなァ――――。おい、『菅原』。俺に『ブッ飛ばされ』たくなかったら、吐きな。
 お前は『何をしようとした』? その『スタンド』で、涼宮の犬ッコロの『椅子』に、何の細工をしようとしたんだァ―――!?」

「……クックック」

菅原の喉から、自然と笑い声が漏れる。

「何だ、何が面白いんだよ、『菅原先生』?」

生徒会長が言う。菅原には、その『余裕』が、あまりにも可笑しい。
なぜなら。生徒会長は既に―――菅原の『スタンド』の術中に嵌っているのだ。
この『椅子』を、スタンドで『掴んだ』、その時点で―――!!

「クックック……『面白い』のはなぁ、『生徒会長』君、テメェの『言動』の全てだよォ――――!」

菅原が、そう叫ぶ。一瞬、会長は、菅原の『気が狂ったのか』と思う。
しかし、其れは違う。なぜなら。菅原は、『機関』に属する者なのだから。
しまった―――『ジェットコースター・ロマンス』で、この菅原が触れた『椅子』に『触れた』のは、軽率だった。

「お前はもう『嵌っている』んだ! 俺の『スパイダー』 の術中になァ―――!!」

そう叫ぶと同時に。
『菅原』は、その傍らにあった―――『キョン』の『机』を掴み上げ、それを『会長』に向かって『投げた』。
……やばい。『会長』は、瞬時にそう考えた、
『会長』の考える菅原のスタンドは、『触れた』物に、何らかの『付加効果』を付ける、と言うものだ、
この教室は、『物』で溢れかえっている。ありとあらゆる生徒の『椅子』や『机』が、そこらじゅうに散らばっている。

「『ジェットコースター・ロマンス』!!』

瞬時に、己の『スタンド』を自らの元へと引き戻し、自分の『体』を掴ませる。
そして、『床』にむけて、投げつけさせる。
同時に、『ジェットコースター・ロマンス』も、床をすり抜け、その足元に広がる世界へと『すり抜けて』ゆく。

「チッ……『逃げた』か。しかし、この学校は既に俺の『スタンド』の支配下にある……貴様はその『毒』に嵌っている!
 一人きり、『逃げられる』かな……ええ? 『生徒会長』君よォ――――!」

無人となった教室で、青紫の『スタンド』を発動させたままで……菅原が吼えた。



――――


「……さすがの私だって、『ビビッた』ねぇ。急に天井から『降って』くるんだもん」

何故、お前がここにいるんだ。『会長』は、まず最初に、それを訊ねた。

「私もこれでも『機関』の協力者だからねェ――ッ! 万が一、『学校内』に『敵』が現れた場合の『警備』に付いていたんだなっ。
 まあ、本音を言うと、『暇』だったから来たんだけどね? 『書道部』の活動もあるしさッ!
 これから『部室』に向かおうと思ってたんだけど―――どうやら、そんな場合じゃなさそうだね?」

その通りだ。

「『菅原』だ。あの体育教師が、『矢』にやられたらしい。
 奴は犬ヤローの椅子に『細工』をしやがった。そういう『スタンド』だ。
 ……おそらく。奴が仕組んだのは、『毒』だ。俺はその『椅子』を掴んじまった。『スタンド』でな」

「へぇ、つまり、君は『毒』に感染しちゃったってことかい?」

『鶴屋』は、現状にはそぐわないあっけらかんとした表情で、そう訊ねる。

「ああ、おそらくな。なんだ、妙に目の前がふらつく。それと、体が痺れている気もする。
 あの野郎は、この毒を『キョン』に差し向けようとしていたんだ。
 『菅原』は機関に所属する人間だ。俺らの『スタンド』の概要も、大概知っているんだろうよ。
 『問題』の中心である『涼宮』、それと、スタンド感知能力を備えた『キョン』。二人を亡き者にしようとするのも納得できる」

なるほど。と行った具合に。

「そっかあ。内側から来るとはねぇッ。直接ハルにゃんを襲ったって、キョン君やいっちゃんたちにボコボコにやり返されるのは目に見えてる。
 みんなが不思議探索に集中している隙に、『罠』を仕掛けようとしていたんだ!
 うんうん、今回の敵さんは随分『頭がいい』ねェ――! ただしその分、『運』が足りなかったのかな?」

そう笑いながら、鶴屋は机の上に並べた筆記用具を鞄にしまい、それを机に掛け、立ち上がった。
同時に、彼女の『ファンク・ザ・ピーナッツ』が現れる。

「で、会長さんはどうするんだいっ? 『イケる』のかな? それともギブアップかい?」

「冗談じゃねえェ―――! 『やられ』たのに『やり返せ』ねー事は、俺のもっとも嫌いなことの一つだ!
 ただしよォ、鶴屋。こりゃぁちっとばかり『面倒』な戦いになるぜ。
 何しろこの学校中、どこにあのヤローの『毒』が潜んでるかわからねェーからな!」


――――


……『菅原』は、四階の階段の踊り場に居る。
『キョン』を始末するために、『罠』をしかけようとした、菅原の作戦は失敗した。
しかし、ここで『会長』を始末することができれば。
会長は既に、菅原の『スパイダー』の『毒』の仕込まれた『椅子』に触っている。
毒は徐々に体を蝕んでいるはずだ。あの椅子には、『スパイダー』の毒の『ありったけ』を仕込んであった。
もう三十分もすれば、やつは立っていることもできなくなるだろう。それを待てばいい。
それに、予防策として、今、この学校中の『階段』には毒が『仕込んで』ある。
会長が菅原を探して、校内を駆け回れば駆け回るほど、『毒』はより体の中へと入り込んでゆく。
一度でも、距離を置いた。その時点で、勝機は菅原にある。
しかし、その安心が故に。菅原は、自分に忍び寄るその『スタンド』の姿に、気がつくことができなかった。

「『見ツケマシタ』ワァ……」

不意に、頭上から声が降り注ぎ、菅原はその方角を見上げた。
そこに人の姿はない。そのかわりに、体長50cmほどの、赤い服を着た生き物が浮かんでいた。
其れが『スタンド』だということを認識するのに、そう時間は掛からなかった。
これは『会長』のスタンドか? いや、違う。だとしたら、まさか。
『鶴屋』だ。今日、不思議探索がらみにスケジュールを取られていないのは、『会長』のほかには『鶴屋』しかいない。
鶴屋のスタンド能力は―――『引き寄せる』!

「こいつに触れたらやべぇぞ……ちくしょう、『最悪』だ! 俺はどこまでツイてねェんだァァァ!?」

撒くしかない。そして、どこか別の場所に『隠れる』んだ。
もしも『会長』が追ってきたときのことを考え、毒の込められた『階段』に居たのがまずかった。
菅原はあわてて階段を駆け下り、三階の廊下に出る。どうする、下階には、『会長』や『鶴屋』が居る可能性がある。
鉢合わせたら、なんとか圧し勝てるだろうか? スタンドが強力な『会長』には毒が効いているはずだが、鶴屋が感染したかどうかはわからない。
まして、二人がかりなどということになれば、菅原のスタンドが勝利できる可能性は低い。
三階だ。三階の何処かに隠れろ。あの『スタンド』をなんとかして撒き、毒がより回るのを待つんだ。
階段を降り切り、三階の廊下へと飛び出した瞬間。
――菅原の目の前の床から、二人の人物が『飛び出して』来た。
会長と、鶴屋だ。

「惜しかったねェ―ッ! 『ファン・ピーちゃん』たちは、離れててもお話できるんだなぁッ!
 先生がどこに居るのか、見つけてくれただけで十分さっ」

「おいテメェ――。『廊下』は『走るんじゃね』――ってよォ、小学校で習わなかったかよ?」

「『スリヌケル』ノハ 『オー・ケー』ナノデスワ」

二人の人間と、二体のスタンド。そこに、先ほどの小さなスタンドが合流し、菅原の前に立ちはだかる。

「さて、菅原よォ――テメェのこの毒とやらで、俺が動けなくなる前に、お前を『ブッ飛ばさ』なきゃなァ―――!!」

……絶望的だ。会長の毒は、思っていたよりも効いていない。鶴屋のほうは、感染すらしていないようだ。
この二人とまともに戦って勝てるほど、菅原の『スパイダー』は強力ではない。
触れたものに毒を纏わせる以外には、単純に殴ることぐらいしか―――
―――一瞬。菅原の脳天で、小さな爆発があった。
そうだ。『触れたものに毒を仕込む』、それがスパイダーの能力なら―――

「行け、『ジェットコースタ―――・ロマンスゥ』ッ!!」

「畜生ォォォォ! 『スパイダー』!! 『掴め』ェ―――ッ!!」

眼前に迫る白い巨人に向かって、青紫の『スパイダー』の腕が突き出される。

「ッ!?」

『スパイダー』の腕が、『ジェットコースター・ロマンス』の突き出した拳を握り締めた。
其れと同時に、もう一方の手で、浮遊している『ファンク・ザ・ピーナッツ1号』を『捕らえる』。

「あっ!?」

「スパイダー!! こいつらに『毒をぶち込めェ―――』!!!」

「何ぃ―――ッ!?」

菅原が吼えると同時に。『スパイダー』の両腕が、それぞれ掴んだ『スタンド』の中に、直接『毒』を流し込む。

「うおおおおおおっ……馬鹿……ウソ……だろ……」

「くゥゥゥっ―――立ってられないよォ――ッ!!」

……最高だ。
菅原正宗は、『最高にツイていた』!
『毒』を相手に直接『仕込む』。これまで、こんなことを試したことはなかった。しかし、それをたった今、『思いついた』!
目の前に、二人の人物が、力なく倒れこんでいる。

「『最高』だ! 『会長』も『鶴屋』も倒した!
 この『毒』は、俺がスタンドを解除しないかぎりこいつらの体に残り続ける!
 『死に至る』のも時間の問題だ―――勝った! アフター・ロック初、味方の『敗北』ッ!」

あとは。もう一度キョンの私物に毒を―――
そう考えて、初めて気づく。

「これは―――毒が『尽きている』ッ!?
 そうか、こいつらに毒を費やしちまったってのか―――これじゃ、『罠』が仕掛けられねェ!」

まずい。毒の回復には、まだ時間が掛かりそうだ。この週末中に『罠』を仕込むのは難しいか―――
しかし、とにかく、何であろうと菅原は『勝利』した! まさかこの期に及んで敵など―――

prrr prrr prrr

不意に。意識があるのは菅原のみとなった廊下に、電子音が鳴り響く。
音は、倒れる『会長』のポケットの中から聞こえるようだ。
……会長は完全に意識を失っている。それでもできるだけ注意しつつ、会長のポケットから『携帯電話』を取り出した。
モニタに、『古泉一樹』の文字が映し出されている。

「へっ、ヘヘッ、何だ、驚かせやがって―――まァいい、とにかくこいつらは俺が『倒した』!
 『最高』の気分だぜェ―――今すぐこの感動を誰かに伝えてェ―――くらいになっ!」

電子音はまもなく、不通状態にあるとわかったのか、鳴り響くのをやめた。
会長の体の上に、その携帯電話を放り投げる―――

……その瞬間。
『会長』の身体の隣に……そいつは、『現れた』。

「……はぇ? 菅原先生……? きゃああっ、『会長』さんっ!?
 な、なんですか、これっ!? 何がどうなってるんですかぁ―――ッ!?」

……未来人スタンド使い、朝比奈みくる。
何故―――何故!

「何故『お前』がここに『居る』んだよォ―――――ッ!!?」

菅原は思い出そうとした。『朝比奈みくる』のスタンドは、何だ?
スタンド名『メリミー・ー』。それだけは聞いているが、その『能力』はァ―――!!

「あああああァァァァ!! そうだっ、『ワープ』だ! 『顔を知っている人間』の『左隣』に『ワープ』!!
 馬鹿なァァァァ! もう『毒』はねェんだぞォ――――!!?」

「菅原先生、あなたはもしかして、矢に―――!!」

「うおォォ! 畜生、俺は『最高』なんだァァァ!!
 女一人ぐらい、『毒』が無かろうとォ―――!!」

「きゃああ―――っ!? 『メリー・ミ――――』!!!」

現れた『スタンド』は、シルクのような衣装を身に纏い、頭部に無数の薔薇の花が咲いている。
体躯も小さく、線も細い。勝てる。『勝てる』ぞ! 菅原のスタンドが、そのスタンドに飛び掛る。

「『スパイダ―――』!! 殴り殺せぇー!!」

剛毅なる肉体を持つ『スパイダー』の、その、突き出された拳を。
『メリミー』の右腕が、受け止めた。
その瞬間、蹴り上げられた『足』が、『スパイダー』の体を薙ぎ払う。

「んぐぁっ……なっ――――何で……なんでテメェが『強い』んだァァァァ!! 『朝比奈みくる』ゥゥゥゥ――――!!」

「め、『メリー・ミ―――』!!」

「MMMMAAAARRRRRRRRYYYYYY!!!!」

すかさず、菅原の体を『メリー・ミー』が掬い上げ、『ラッシュ』が始まる。
二本の細い腕が、菅原の全身を余すところ無く殴りつけ―――

「MEEEEEEEEE!!!」

最後に、『窓ガラス』に向けて、渾身の『蹴り飛ばし』が決まるッ―――ッ!

「俺は『最高』なんだァァァァァァァ―――!!!」

……残されたのは、朝比奈一人だった。
そして、会長と鶴屋の身体。

「ふ、二人とも、大丈夫ですかぁ―――ッ!?」

あわてて駆け寄り、『脈』を見る。よかった、死んでしまっては居ない。見たところ、『外傷』も見当たらない。
朝比奈には知る由も無いが、このとき既に、外界へと放り出された『菅原正宗』の意識はフッ飛んでいた。
スタンドによる『毒』は解除されている。二人は無事だ。

「……びっくりしたぁ」

古泉の仮定の話を、『会長』にも聞かせておくべきだと、開き時間を使って『学校』にやってきただけだと言うのに。
見当たらぬ会長を探すため、『ワープ』をしたら、突然目の前に『敵』と来たものだ。

prrrr

と、不意に、朝比奈の携帯が鳴る。
液晶に表示されているのは、『古泉くん』の文字。

「朝比奈さん? 『会長』は見つかりましたか?」

「あ、はい……えっと、なんていうか……やっつけちゃいました、先生を」

「……はい?」




本体名 - 菅原正宗
スタンド名 - スパイダー 再起不能


―――――――――――――――――――――――――

スタンド名 - 「スパイダー」
本体 - 菅原正宗(26歳)
破壊力 - B スピード - A 射程距離 - E
持続力 - A 精密動作性 - C 成長性 - B

能力 - スタンドが触れたものの全体、もしくは一部に『毒』を仕込む。
       毒を仕込まれたものに、他人が触れることで感染し
       時間と共に毒に侵されて行く。
       毒を込める範囲などは本体の自由だが
       広範囲に一度に毒を込めようとすれば、それだけ毒の効果は薄くなる。
       また、小さな範囲に集中させれば、それだけ強い毒になる。
       毒は本体の任意で、いつでも解除・回収が可能。
       毒は神経毒に酷似したもので、効果が弱ければ体が痺れる
       意識がふらつく程度。重ければ死に至る場合もある。
       また、触った相手に直接毒を送り込む事も可能だが
       これによって放った毒は回収できない。毒の補充には数日を要する。

―――――――――――――――――――――――――

スタンド名 - 「メリー・ミー」
本体 - 朝比奈みくる(?歳)
破壊力 - A スピード - A 射程距離 - D(能力射程はB)
持続力 - B 精密動作性 - D 成長性 - B

能力 - ウェディングドレスのような衣装を纏った、全長180mほどの人型スタンド。
       頭部に、薔薇のブーケのような装飾を施されている。
       自分の周囲(半径200mほど)に存在する、顔を知る人間の左隣にワープする。
       また、ワープ後、相手とのその距離を一定に保ったまま『ついていく』ことができる。
       離れた位置に居る味方の傍にワープし『逃げる』
       また、逆に、逃げていく敵の傍にワープし『追う』事が可能。
       本体と同時に、スタンドの両手が触れた『人物』や『物』を
       ワープさせる事も可能。つまり、本体を含めて、合計3人まで。
       戦闘面では一転してパワー型。みくるの危機に反応して勝手に戦う。
       半自律行動型。っていうか、みくるが制御しきれてない。

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最終更新:2014年06月05日 01:10