第89話 「生徒会からの挑戦状 3」

「うーむ………」
さっぱり筆が進まん。恋愛などした事も無い奴に恋愛小説など、魚に歩けというような物だ。無理な物は無理だ。
「なあ……徐倫」
「なんだ?」
「進んでんのか?」
「全然」
「だよなぁ………」
互いに黙り込んでしまう。今部室内ではコンピ研よりぱくったパソコンが一人一台セットされている。
筆が進んでいるのは古泉だけらしく、朝比奈さんはメイド服でうんうんうなっているし、長門もポツポツとキーボードを人差し指で押しているだけだ。アナスイに至っては魂が抜けてしまっている。
「朝比奈さん」
「なんですか?」
「どんなの書いてるんですか?」
他の人のを見れば何か参考になるかもしれん。まあ、ジャンルが全然違うのに参考もくそもない気がするが。ダメもとだ。
「あ……はい」
朝比奈さんは素直に見せてくれた。徐倫も横からのぞきこんでくる。
「……………」
うーむ……白雪姫をベースに書こうとしたみたいだが、ハルヒがあちこち口出しした後が見受けられる。なんていうか、軍記物とハルヒ的ご都合主義に種々の童話をぶち込んだという感じだ。
「あれ?文章は出来上がってるじゃない」
「はい……でも涼宮さんが絵を付けろって………」
………まぁ、頑張って下さい。

続いては長門だ。後ろに回り込もうとする。が、長門がパソコンを傾けてブロックする。
「……………」
長門がこちらに向けてきた目は“見ないで”と言っているようだ。ますます気になる。再び回り込もうとしたが、
「……………」
やはりガードされる。暫く俺は長門の後ろで反復横飛びしたが、長門の反射神経には勝てそうもない。すると、
「オラァッ!」
突如徐倫に殴られた。
「なにすんだよッ!しかも今スタンド使っただろッ!多分」
「うるせぇよ……嫌がってんのに無理矢理見ようとするな」
「………すまん、長門」
頭を下げて謝ると、長門は目線だけで“別にいい”と返してきた。
「だけどなんでそんなに長門の小説が気になってんだ?」
例の長門による世界改変事件の時、眼鏡の長門は何かを書いていたからな。そのせいかもしれん。言わないがな。
「……………」
「まあいいや……ところでよーーホラーって好きか?」
大嫌いだ。
「そうか……ネタが無いんだよなぁー」
それこそ体験を元にしたらどうだ?
「恋愛なんかよりも遥かに体験しにくいだろ」
「スタンドなんて半分ホラーじゃねえか………」
すると徐倫はキョトンとした顔を浮かべた。
「その発想はなかったな………」

無かったのかよ………。
「なら楽だな……スタンドをホラー仕立てにすりゃいいんだからな」
そして徐倫はパソコンに向かい、キーボードを叩き始めた。
「まじでどうするんだよ……俺」

「………ハァ」
暫く俺が筆が進まず、天井を眺めていると、徐倫がまたもやため息をついた。そういやこいつバレンタインの頃からずっと様子がおかしかったからな。ハルヒの方は元に戻ったというのに。
「どうしたんだよ」
「………なあ、キョン」
徐倫が真剣な表情で俺を見る。
「なんだ?」
「もしお前が……とても危険な物を手に入れたとする」
「ああ」
「だが、困った事にそれを処分する事は不可能で、しかも早く別の場所に移さないといけない」
なら早く動かせばいいじゃないか。
「……めんどくさい。もう素直に言うわ」
「なんなんだ?」
「弓と矢が見つかった」
それっていつか教えてくれたスタンド使いを増やす矢か?
「そうだ……だが困った事に今SPW財団が例の組織に見張られてて動けない」
「それじゃあ例の組織は弓と矢が見つかったって知ってるんじゃないか?」
「見当もつかない……とにかく今あたしはあんた達の協力が必要不可欠だ」
「なら協力を頼めばいいじゃないか。皆喜んで引き受けると思うぜ」

「そうできない訳があるから悩んでんだ………」
「なんだよ?その訳って」
「………情報漏洩だ」
SOS団の連中がチクるって訳か?そりゃねーぜ。
「そういう心配はしてない……ただ、あいつら個人が漏らさなくても、組織としてはどうだ?」
「スパイか………」
「弓と矢を安全に運ぶには絶対に機関の協力が必要だ。だがここが一番信頼できない」
「朝比奈さんや長門はどうだ?」
「朝比奈さんは見てのとおり下っ端だ。そんなに助けは得られないだろうし、何より前回の漏洩がある」
例のバレンタインの時か。
「有希は確かに信頼できるし確実だ。だが、有希の親玉は援軍なんてくれるたまじゃないだろ?いくら有希でも多数のスタンド使いを相手にするのは不可能だ」
「八方塞がりだな」
「だから悩んでんだよ………」
なるほどな。だけどらしく無いぜ。徐倫。お前はこういう時真っ先にアイデアを浮かべる奴だろ。こんな風にして
「発想を変えろよ……バレてもいいって思うんだ」
「……バレてもいい?」
「ああ」
正直細かい考えなど無いし、適当言っただけだ。だが、徐倫は俺の言葉を聞くと瞬間、いつもの自信に溢れた表情に戻った。
「ありがとよ……お陰でなんとかなりそうだぜ」
「分かったよ……頑張りな」
「ああ………ところで、執筆はどうなってる?」
「……………」

1週間後、俺達はなんとか無事に機関誌を完成させた。長門はなんだかよく分からない私小説じみた物を、古泉は夏休みの三文ミステリー、朝比奈さんは例の童話で、アナスイは……まああまり言わないでやろう。あれは酷かった。
「谷口に国木田……鶴屋さんにコンピ研にまで書かせたのかよ」
谷口はくそ面白くも無いエッセイ。国木田の教科別ワンポイントレッスンはただのウンチク集。コンピ研のゲームレビューはまあまあ良かった。
漫研の奴等の4コマ漫画もあったな。だが何よりも鶴屋さんの「気の毒!少年Nの悲劇」というコメディーは凄まじい面白さだった。
全員腹を抱えて笑い転げ、無表情で読んでいた長門でさえ全身全霊で笑いを堪えていたようにすら見えた。
「あの人、マジに天才だな」
「下手すりゃハルヒ以上だな……そういやハルヒは何か書いたのか?」
「このよく分からん“世界を大いに盛り上げるためのその一 明日に向かう方程式覚え書き”とかいう論文地味たやつでしょ?」
「……これ……そんな………」
ちょうどハルヒの理解不能な論文を読み終えた朝比奈さんは顔面を真っ青にさせて震え始めた。まるで知ってはいけない事を知ったみたいな感じだ。一体なんですか?
「時間平面理論の基礎中の基礎なんです……発案者が謎だったんですが、涼宮さんだったなんて………」
相変わらずの変な勘のよさだな………。

機関誌は即日配布完了となり、生徒会長は捨て台詞をはいてSOS団の存続を認めた。それが今回の顛末だ。

配布完了した日、ハルヒが生徒会室に行っている時だった。
「皆、来週の土曜日、あたしの家に集まってくれ」
「なんですか?」
「弓と矢の輸送作戦……それを皆に説明する」
そして、徐倫のこの言葉が、この1年で最も激しく厳しい戦いの幕開けとなったのだった………。

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年10月05日 12:04