番外編 「文芸部機関誌より抜粋 2」
「てめえー……どういう事だゴラアッ!」
男は窓を叩いた。が、割れない。
「ちくしょお……やたら頑丈だな……このドア」
その後男はドアを破壊しようと何度も試みた。だが、ドアは固く閉ざされたままだった。
「クソッ!このままじゃあマズい……ん?後部座席に食い物があるぞ?」
後部座席には前の持ち主が食べていたと思われるコンビニ弁当があった。
「なんだ?忘れ物か?まあいいや、食ってやれ」
コンビニ弁当にしてはなかなかの味であり、空腹で疲れていた男はすぐに平らげた。
「なんか眠くなってきたな……寝るか………」
3時間程が立った。男は尿意にかられて起きた。すると何故か車は近くの公園の公衆トイレへと来ていた。
「妙だな………」
だが、迫る尿意には勝てず、男はドアを開け、トイレへと向かった。そして、トイレをすませた男はある事に気がついた。
「今ならこの車を捨てて別の場所に行けるじゃねえか………」
男はトイレから出ると、車とは逆に向かい始めた。が、そこに何故かリードが外れた犬が飛び出してきた。そして男の足にリードが引っ掛かった。
「んだあッ!このクソ犬ッ!」
犬は男の言葉には耳もかさず、車へと向かって行く。
「くそッ!リードが絡まって……しかもこのままじゃああの車に逆戻りじゃねえかッ!」
男は辺りを見るととっさに落ちていた石を掴んだ。
「くらえッ!くそ犬ッ!」
が、投げた石は突如カーブした犬のせいであらぬ方向にそれた。
「や、やべえぞッ!……そうだ!」
男は落ちていた木の棒を拾った。そしてそれを車のドアへと押し当てた。車へと突っ込んでいく犬に引きずられ、棒はドアを閉じた。
「フフフ……やったぜッ!ドアを閉めりゃあ中には絶対入らないッ!さてと……リードを切るとすっか………」
男はリードを切ろうとした。だが、男は気がついていなかった。リードは先ほどの木と車のドアに引っ掛かり、限界まで引っ張られていた事、そしてリードがゴム製だという事に。
「切れたぜェ!」
限界まで引っ張られたゴムが切られ、その張力によって弾き出されたゴムはパチンコのように男に襲いかかった。
「グ…グブエッ!」
男はそのまま吹き飛ばされ、車のガラスを破り、再び中へと戻ってきた。
「な……なんだよこれー……ゲッ、腕が切れてやがる……包帯とかは………」
男が後部座席を見るとそこには包帯と薬があった。
「なんでだ?さっきまでこんな物無かったよな……まさか、この車はッ!」
「俺を閉じ込める為の物かッ!くそッ!ヤバい、ヤバいぞッ!」
男は割れた窓から外に飛び出した。が、次の瞬間、放置してあった自転車につまづいた。
「痛ってえな……だが、出られたな。早いとこ車から離れるか」
「おい、そこのてめえ」
男が振り返るとガラの悪そうな不良が声をかけてきた。
「なに人のもん倒しといて何もなしなんだ?」
「君のだったのか?……すまない」
が、その不良は男に顔を近付け、胸倉を掴んだ。
「謝ってすんだら警察はいらねーんだよッ!にしても随分スカした車じゃねえか?てめえのか?」
「………違う」
「そうかよ……まあいい」
不良はそう言うと男を車へ放り込んだ。
「そこに閉じ込められ時なァ!」
不良はそう叫ぶと去っていった。
「閉じ込められとけ?生憎だがもう既にそうなってるぜ」
男が呟いて外を見ると、そこに一人の男が近付いてきた。男に車を勧めた老人だった。
「て、てめえッ!ここから出しやがれ!」
「それは無理です……これはあなたが望んだからですよ?」
「ふざけんなあッ!」
「罪には罰が存在します……あなたが犯した罪に対する罰がそれですよ?」
「てめえがッ!てめえが騙したんだろうがッ!」
すると老人はそこで今迄しなかった表情、自分の事を悔いるような顔をした。
「私もあなたと同じなのですよ………」
「え?」
「私も昔、あなたと同じように罪を犯してしまったのですよ……それからずっと他人を騙す事しかできません」
老人は自分を嘲るような笑みを浮かべた。
「お陰で生活には困りませんけどね」
「……………」
老人は男から顔を逸した。表情は闇に紛れてよく分からない。
「ここは罪を犯した者達が裁きを受ける場所なのです……何故ここがそうなっているのか、何故存在するのか……それは一切分かりませんが」
老人は男の方へ向き直り、礼をした。
「それでは、私はこれにて」
老人はそう言うと、しっかりした足取りで、闇へと消えていった。
「……俺も出るかな」
老人が去って数十分後、一台の車が闇へと消えていった………。
その後、この男の消息を知る者はいない。そして、何故この話が今も伝わっているか……それも分からない。
完
最終更新:2009年10月21日 12:11