第91話 「最終決戦~幕開け~」
午前10時ちょうど、天気は快晴、気温は程よい暑さ、作戦決行にはちょうどいいが、喧嘩をしたくなるような天気では無い。
『キョン、うだうだ何考えてんだ?覚悟を決めろ』
電話の向こうから小言が聞こえてきた。言われなくても分かってるぜ。ただ、少し愚痴りたくなっただけだ。こんな素敵な休日に物騒な事はしたくない。
『ハルヒには感づかれてないな?』
「多分な」
『ならいい……囮が動き始めたッ!行くぞッ!』
「承太郎先生、車出して下さい」
「少し荒っぽい運転になるかもしれないが……シートベルトはするな……弓と矢はあるな?」
後部座席に座った俺は、横のニヤけ面が銀色のアタッシュケースを掲げたのを見た。
「中にあるかどうか確認しておけ……相手がスタンド使いである以上、用心は必要だ」
アタッシュケースを開けて中を俺と古泉が覗きこむ。
「へえ……これが弓と矢か」
中には古ぼけた石でできた矢が入っていた。パッと見では以前聞いたような危険な代物とは思えない。
「だが、危険なのは確かだ……絶対に直接触れるな」
「分かっていますよ」
それに触ったら死ぬかもしれねーんだろ?そんなもん触りたがるのはハルヒくらいだ。
「……信号が青になった。出発だ」
「やれやれだぜ」
side of アナスイ
「ウェザー……尾行はされてねーよな?」
『今の所はな』
「はふう……囮も大変ですね」
俺達は町中を割と自然な感じで走っていた。
『尾行されるようにするというのは意外と難しい……見つけて下さいと言っているような行動は怪しまれるし、コソコソし過ぎて見つからないのも困り物だ』
「尾行するのが簡単すぎるのも駄目だしな」
朝比奈難しそうな顔をして銀色のアタッシュケースを抱え込んだ。
「うー……なんだか凄く緊張してきました………」
「おい、ウェザー……いたぞ……車がついてきてる………」
『計画通りだな……よし、このまま尾行されるぞ』
「ああ………」
ついてきている車は青いワンボックスカー。最近流行のエコカーなのは、安いからなのか、それともエコロジストなのか……どっちにしろ例の組織はそれほど裕福では無いようだ。
「……あれ?あの車……段々近付いてきてるような………」
「は?……確かにそうだな………」
見るとさっきは20m程離れていた車が今は10m近くにまで近付いている。
『何故だ?尾行するならさっきの距離でいいはず………まさかッ!』
「ウェザー……そのまさかだ……野郎ッ!スタンドを出した!こっちを攻撃する気だッ!」
『クソッ!囮を攻撃して本物をあぶりだす気かッ!振り切るぞッ!』
side of 徐倫
「森さーん……敵を見つける当てがあるって本当?さっきから適当に走っているようにしか見えねーんだけど」
「うるさいですねえ……音を探しているんですから静かにして下さい」
あたし達はバイクで敵を探していた。森さんは鉄球を手で回転させながら片手で運転するという曲芸じみた動きをしている。
「バイクなら運転出来るわよ?変わる?」
「無免許運転は許しませんよ……ところでなんで出来るんですか?」
「若気の至りだ」
取り付けられたサイドカーにあたしは座り、森さんのサポートをしている。といっても、地図を開きながら今迄周った場所にマークしているだけだが。
「この辺りも反応は無しか?」
「ありませんね………」
森さんは鉄球で様々な音を拾い、敵を探している。
「だけど音だけでどうやって敵を見つけるんだ?」
「様々な足音や、話し声……つまりは総合的な情報でです」
「そんなに音を拾えるのか?それ」
「普通の鉄球は地面に付けないと音を拾うのも無理ですね……ですが私のザ・ミュージックは音に特化した鉄球です。空気中の音波を拾って区別できるくらい感度が良いんですよ」
「ふーん………」
「……!見つけましたよ………」
森さんがバイクを止めたのは、ガソリンスタンドの前だった。
「こんな所に?」
「さっきからこちらを向いている人物がいます」
なんで分かったんだ?
「簡単ですよ……首を動かす時の風切り音です」
「……そんな小さな音でよく分かるな………」
「鍛えてますから!……後、やたらと視線を感じた事ですね、そっちの方が大きいです……気付きませんでした?」
「気付いてたよ。ていうかあれは殺気だな」
ガソリンスタンドの中には帽子を深く被ったやたらと目付きが鋭い女店員がこちらを睨んでいた。……あれ?あいつどっかで見たような………。
「どうします?攻撃しますか?」
「ああ……間違ってたら謝ればいいしな」
森さんが鉄球を構えて投げようとした瞬間、凄まじい爆発がガソリンスタンドで起こった。
「んなッ!?ガソリンに引火したのかッ!?」
「ハァッ!」
森さんが鉄球をあたしと自分に当て、体を硬質化させてガードしてくれる。爆風が飛んできたが、怪我は特に無い。
「クソッ!先手をうたれたッ!奴はどこだ!」
「空条……徐倫……この日を待っていたわッ!」
いつの間にかさっきの帽子の女が後ろに周っていた。
「てめえッ!あの商店街での放火魔のスタンド使いッ!」
「日吉静佳……それがあたしの名前よ……あの時ヒドい目に合わせてくれたじゃない……あんたにあの深い絶望を刻み付けてやるッ!」
「とんだ逆恨みですね………」
「来な……何回やっても結果は変わらないがな」
To Be Continued・・・
最終更新:2009年11月10日 02:02