第96話 「サイレントフォース 1」

時間は少し前後する………

side of 徐倫

「敵か」
「その通りだとも」
日吉を倒して一息つけると思ったあたし達の前に現われたのはフード付きのパーカーにジーパンをはき、黒い髪を後ろで首あたりから一つに細く包帯で巻いた男だった。
「……森さん、逃げてくれ」
「……しかし………」
「鉄球が1個でスタンド使いを相手するのは難しい……あたしなら大丈夫だ」
「………分かりました。弓と矢の方へ向かっておきます。気をつけて下さいね」
そう言うと森さんは火事で置かれっ放しになった給油中の車に乗り込んで、去っていった。
「泥棒だろ……まあいいか、非常事態だ」
だが、それ以上に分からないのが………。
「なんで森さんを止めようとしなかったんだ?てめえ」
敵だというこの男はあたしに襲いかかろうともせず突っ立ったままだ。
「何か問題があるのか?」
「……いや、あたし達としちゃ有り難いんだがな」
「………お前はスタンドの事をどう思っている?」
いきなり何を言い出すんだ?こいつは。
「答えろ」
「別に?自分の才能だろ?」
「そう、その通りだ……スタンドは自らの無意識の才能だ………」
すると男は近くの標識を指差した。
「お前のスタンドはあれを曲げられるか?」

「できるわよ……なめないでくれる?」
「だろうな……だが出来ないスタンドもいる………」
そりゃそうだろう。スタンドは一つとして同じ物は存在しない。親父とDIOのように似るパターンもあるが、あくまで似ているだけだ。
「………ちなみに俺も標識なら曲げられる……フン!」
男が気合を入れると標識が曲がった。……が、それは普通とは異なるかなり奇妙な光景だった。
「スタンドの姿が見えないのに折れただと?」
こいつの能力か?透明なスタンドだとか、そういう可能性はあるが、全くスタンドを使った事を悟らせずに標識を折るなんて出来るのか?
「何を驚いている?……スタンド使いじゃない奴等は常にこれと同じ風景を見ているのだぞ?」
「……………」
男はあたしに話しかけるというより自分に語りかけるように話し出した。
「私はいつも考えている……なぜ私のスタンド能力がこのような物なのか……そして私は知りたい、選ばれし者達の世界になれば私がどう思われるのか………」
なんだこいつ……まさか正真正銘のイカれ野郎じゃないだろうな?
「選ばれし者達の世界っつーのはなんなんだ」
「……お前や私のような人間達の世界という事だ……少しお喋りが過ぎた……いくぞ」

男は一気に間合いを詰め、接近戦に持ち込んでくる。右のフックからジャブ、かわしたところを左のストレート、スタンドでさばくと男は右足でハイキックを繰り出してきた。
たまらず後ろに飛び退く。
「やるじゃない……スタンド無しでそれだけのスピード」
「ならばさらに速くなったらどうする?」
男が地面を一蹴りする。するとなんと数mもの距離をたった一歩で詰められた。
「なッ!?」
「フンッ!」
度肝をぬかれながらも、男の右アッパーをガードする。が、ガードごと数mも上空に吹き飛ばされる。
「馬鹿なッ!?」
「まだ終わりだと思うなッ!」
次の瞬間、下にいた男がいなくなった。
「んなッ!?」
「こっちだ」
声はなんと上から聞こえる。見上げるとそこには男がいた。んな馬鹿な。生身の人間が一瞬で数mも跳躍したとでもいうのか?
「フンッ!」
男が上空で足を思いきり伸ばし、蹴りを繰り出してくる。もちろん身動きが取れない空中だ。蹴りをもろにもらってしまい、そのまま地面に叩き付けられる。
「グウッ………」
スタンドで地面にぶつかった時の衝撃は緩めたが、それでもダメージはかなりでかい。
「なんつう身体能力だ……お前ほんとに人間か?吸血鬼じゃないだろうな?」

「人間だ……大体吸血鬼などが昼間から外にいると思うのか?というかお前は本気で吸血鬼がいるとでも信じているのか?」
いや、実際にいたんだがな。まあ、言ったら長くなるし言わないが。
「……まあいい、だがお前も同じ事が出来るはずだ」
「何?」
「スタンドだ。スタンドを使えばあのレベルの跳躍力やスピードは得られるだろう」
「……………」
確かに男の言う通りだ。少し驚いたがなるほど冷静に考えればそうだ。だが………
「それは無理だな……いくら速く動けたり高く跳べてもそれはスタンドの力だ。あたし達の体がついてこれないんだよ」
「不便な能力だな………」
能力?今奴はそう言った。するとあの凄まじい身体能力もスタンド能力が理由か?
「ゆくぞッ!」
男の姿が消える。恐らくさっきのような超スピードだろう。どっちだ?後ろか?いや、横か?………違うな……こいつは!
「上だろッ!」
上を見上げて迎え撃とうとする。
「いないッ!?」
「残念だったな……前だ」
気がつくと男が真正面にいた。クソッ!さっき消えたのはフェイントか……マズい、蹴りをかわせそうにない………。
「終わりた……グブッ!」
蹴りをガードしようとした瞬間、男があたしの目の前で横に吹き飛んだ。
「間に合った」
聞き慣れた声が聞こえる。顔を上げると、
「………有希ッ!?」
そこには有希がいつもの無表情で立っていた。
「……助けに来た」
「助かったぜ……さあ、反撃開始だな」
「こしゃくな………」

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年11月10日 02:42