第85話 「未来からの第6指令 1」

バレンタインの日の夜、俺は6個目の指令に従い、いつもの公園のベンチへとやって来ていた。
「そろそろの筈なんだかな………」
「もう来てますよ、アナスイ君」
振り返るとそこには俺の知ってる朝比奈よりも、10歳程年上の女がいた。
「噂には聞いてたが……会うのは初めてだな。朝比奈……えーと………」
「別に朝比奈でいいですよ。あ、名前でもOKです」
……名前は気恥ずかしいから止めておこう。ここはキョンに習って朝比奈(大)だ。もちろん心の中でだが。
「……で、説明はしてくれるんだろうな?」
「もちろんです。その為に来たんですから」

ベンチに二人で並んで座る。朝比奈(大)は何故か横に座る時に嬉しそうに微笑んだ。他意は……うん、多分無い。と信じておく。
「アナスイ君は……もし過去に行って歴史が自分の知っている物と違ったら……
どうします?」
それはこないだの冬の長門の世界改変みてーな物か?
「うーん……ちょっと違いますけどね。まあ、それで認識しやすいならそれでいいです」
「………普通なら、元に戻そうとするだろう?」
「正解です」
小学校の先生のような服装の朝比奈(大)は、これまた小学校の先生のように俺の頭を撫でてきた。

「今回アナスイ君達にやってもらったのはまさにそれなんです」
「待て待て、朝比奈が存在しているのにこの時代に起こるべき事が起こって無い
なんておかしいだろ」
「タイムパラドラックスですよ……未来っていうのは幾つもある物なんです。些
細なきっかけで未来が変わるなんていくらでもありますよ」
「………分かりにくいなぁ」
「まず、最初の空き缶のイタズラですが、あれであの男の人が蹴って怪我をする
……筈だったんですけど………」
朝比奈(大)はそこで苦笑いを浮かべた。そりゃそうだ。敵が襲ってきて目茶苦
茶になったからな。
「まあ、幸い目的の人は怪我したので結果オーライでしたけど……あの後彼は病
院である女性と知り合います。彼がその女性と知り合うのはその時しかチャンス
は無いんです」
「その二人が未来にとっては重要なのか」
「はい。次に亀ですね……これはあの男の子に見せるのがポイントでした」
「どういう事だ?」
「もう少し遠くの未来で……彼はその飼っている亀を見て、亀が川に投げ入れら
れた時の波紋を思い出します。それがある発見に繋がるんです」
なるほどな。
「……………」
「……………」
あれ?おかしいな。まだ全部について説明聞いてないぞ?流石に朝比奈(大)も
気まずくなったのか、
「し、質問タ〜〜〜〜〜〜イムッ!」
テンションを無理矢理上げ始めた。

「何か聞きたい事は?」
「はい」
手を上げる。
「アナスイ君ッ!」
幾つかあるが、まずはこれだ。
「敵のスタンド使いが見計らったように襲ってきたのはなんでだ?」
「簡単です……どうも私達がスパイされてたみたいですね」
あのいけ好かない未来人か。
「恐らくは彼の仲間でしょう……としか今のあなた達には説明できないんですけ
どね。昔よりは禁則事項も減ったんですけど………」
「敵スタンド使いは未来人達と手を組んだ訳か」
「はい」
「ただよ……敵スタンド使いの能力ぐらいは先に教えてくれても良かったんじゃ
ねえか?」
「………それがですね、この私には敵スタンドに襲われた経験なんて無いんですよ」
は?それってつまり………。
「タイムパラドラックス……いえ、もしかしたらそれ以上の何かかもしれません」
「どういう事だ」
「実は彼等、敵のスタンド使いが現われるというのは未来では誰も知らなかった
んです。直そうにもあまりにも巨大な違いで……無理に直すよりそのままにしよ
うという意見になりました」
「それは……つまり………」
「はい、私達の知らない歴史がいつの間にか入り込んでいたという事です……ス
タンド使い達が現われた以外は何も異変はありませんでしたが」
全くもって不可解な話だ。あいつら……訳の分からん奴等だが、そこまでだったとは。

「んじゃ、最後の質問だ……山でひょうたん石を動かしたのはなんでだ?それだ
け説明聞いてねーぞ」
「ただ動かして欲しかっただけですよ」
朝比奈(大)はニッコリ笑顔で答える。笑顔といっても、いつものような物で無
く、まるで古泉のような笑顔だった。
「………ふざけてんじゃあ………」
「ふざけてませんよ?」
「じゃあなんで説明しねえ」
「……ほんとは駄目なんですけど、アナスイ君だから特別にヒントです」
………ヒント?
「私がなんであんな指令を出したかは、この1週間をよーく振り返れば分かるはず
ですよ……答えのパーツは全て教えてますからね」
なんだそりゃ……が、朝比奈(大)は俺がよく知るいつもの笑顔を浮かべて言っ
た。嘘じゃあ無さそうだ。
「それでは、これからも私や皆の事よろしくお願いしますね」
そう言うとベンチから立ち上がった朝比奈(大)は夜の闇へと消えていった。
「……ヒントは全部ある………か」
あのひょうたん石の場所で起こった事は、敵スタンドに襲われたのと涼宮に掘り
返すよう言われたくらいだ……待てよ?涼宮はチョコを何処に埋めていた?
「ひょうたん石の下だ………」
そうだ、間違いない。あのひょうたん石はただの石では無い。恐らく何かの目印
だ。涼宮に見つけられたら困るような何かだ。俺は携帯を取り出し、ある番号に
電話をかけた。

「徐倫じゃないさッ!」
バレンタインの翌日、あたしが買い物を済ませて鶴屋家の山の麓を通った時だった。
「鶴屋さん……スコップを担いで何やってんの?」
鶴屋さんは作業服に軍手、何故かヘルメットと首から白いタオルと完全武装して
いた。
「アナスイ君がねいッ!面白い物が出るはずだからひょうたん石の3mほど横を掘
ってみろってね!」
アナスイが?珍しいな。
「だろだろッ!?徐倫も来るかい!」
「まあ、暇だし行こうかしら」
「分かったさッ!それじゃスコップもう一つあるから掘るの手伝ってね」
………大物なだけじゃなく、意外とちゃっかりしてるんだよな、この人。

30分程すると、例のひょうたん石へとたどり着いた。
「ここらへんだねぃ!さっそく掘るニョロ!」
「ニョホホッ!」
二人で地面を10分程掘り進めた時だった。
「待て、何かある………」
「ほんとだッ!それじゃ引っ張りだしてよッ!」
鶴屋さんに言われて埋まっていた何かを引っ張り出す。それは、
「壺?」
「古そうだねぃ……どれどれ?何か入ってるな」
鶴屋さんがふたを開ける。すると、そこには
「ば……馬鹿な……何故……これが……ここに………」
「ふぇ?徐倫この金属板が何か知ってるのかい?」
「違うッ!それじゃあないッ!横だッ!」
鶴屋さんがそれを取り出す。
「なんだいこれ?ただの……石でできた古そうな矢じゃないか?」
「違う……ただの矢じゃあ無い……だが……何故ここに………」
そう、それはあの忌々しいスタンド使いを産む、弓と矢……その矢だった。

To Be Continued・・・

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最終更新:2009年11月12日 14:57