第86話 「未来からの第6指令 2」

バレンタインの翌日、俺が学校に登校すると校門を入ってすぐに人だかりができていた。
「おい、お前」
手近にいた奴に声をかける。
「何でしょうか?」
振り返ったのは女だった。肩にかかるくらいの長さの髪を、首あたりで両側にふ
んわりまとめている。落ち着いた雰囲気で、大和撫子といった感じの可愛らしい奴だ。
「これはなんの騒ぎだ」
「ああ、涼宮さん達ですよ。SOS団からのバレンタインプレゼントだそうです」
またかよ……しかし凄い人だな。
「今は抽選の受け付け中らしいです。抽選自体は昼休みからだそうですけど」
「なんだと?」
「どうかしましたか?」
「………何でもない」

「参ったぜ………」
教室で机に突っ伏す。昼休みにこの時間の朝比奈を1週間前に送り込むつもりだっ
たんだが……これじゃ相当やりにくくなった。涼宮も余計な事しやがる。
「……しゃあねえ……長門にイカサマを頼むか」
そう呟くと俺は席を立とうとした。が、
「イカサマは止めときなぁ!」
「………鶴屋?」
「ニョロ!」
鶴屋が立ち塞がった。しかしなんだか今日はいつもと違う。いつもからハイテン
ションだが、今日はさらに3割増しといった感じだ。
「何の用だよ?」
「例のお宝の件さッ!」

「あれがどうした?」
「いやー……かなーりビックリ!」
何がだ?
「見つかった金属板ね……オーパーツだったのさッ!」
「オーパーツ?」
「見つかった壺ね、あたしの御先祖様が埋めた物なんだけど、当時の技術じゃ作
れないレベルの合金だったのさッ!」
未知の物質、オーパーツは確かそんな感じの意味だったはず。通りでいつもより
ハイテンションな訳だ。
「ふーん………」
「……あんまし興味無さそうだねぃ………」
実際興味が無いからな。
「そだ……あとは……おっとと、いっけね徐倫に口止めされてたんだった!」
「気になるじゃねえか………」
「ごめんよッ!口が滑ったさッ!……でも本当に言えないんだ。大事な事らしいからね」
「……なら仕方ねえか………」
「うんうん、理解の早い子は大好きさッ!そいじゃねー!昼休みのバレンタイン企画頑張れよッ!」
「おぅ」
鶴屋は俺に手を振りながら駆け足で去っていった。

その後、俺は長門のクラスメイトを取っ捕まえて長門を廊下に呼び出させた。ク
ラスメイト達は何故かおっかなびっくりの様子で俺達を眺めている。
「長門、てめえいつもこんな扱いか?」
「そう」
まぁ分からないでもない。俺だってSOS団じゃなかったらこいつらと同じ態度
だったかもしれんしな。

「今日の昼休みの抽選会……イカサマしてくれないか?」
「分かった」
理由もなにも確認せずに分かっただ。相変わらず物分かりの早い奴だ。
「んじゃ、よろしく頼むぜ」

昼休み、抽選会場の中庭は凄まじい喧騒だった。学校内では関わるとろくな事に
ならないと評判のSOS団だが、こういうイベントは歓迎されるらしい。
「そりゃそうだろ……ここの女子連中のレベルは高いぞ」
「キョン、てめえに言われなくても分かってる」
「学園のアイドル朝比奈さんに、静かですが高いレベルの容姿の長門さん、徐倫
さんも白人系の美人とバリエーションが豊富ですからね」
古泉のどうでもいい解説を聞いていると涼宮がスピーカーを持ち出した。
「はーい!それじゃ抽選始めるわよォ!一等はみくるちゃんから手渡しでチョコをプレゼント!」
「うおーーーーーッ!」
「俺が求めるものはただ一つ!一等だけよーーーーーッ!」
「俺は一億のラッキーボーイだッ!いけるッ!いけるぜェーーーーーッ!」
皆の、特に野郎共のテンションが一気に上がる。
「それじゃ、行くわよッ!」
涼宮はそう言うと用意しておいたあみだくじの線を一人目から引き始めた。……当たりの方から引けばすぐなのに……めんどくさい奴だ。
「………あれ?」
1本目を引き終えた瞬間、涼宮がすっ頓狂な声を出す。
「当たっちゃった………」

涼宮の言葉で会場全体が白けた雰囲気になる。ま、そりゃそうだ。だが俺は急いでいるからな。悪い。
「涼宮、早く名前読め」
「分かってるわよ………」
腑に落ちないといった顔で涼宮が当選者を読み上げる。出て来たのは1年の女子だ
った。当たった事にビックリしたらしく、朝比奈からプレゼントを渡された時など卒倒しかけていた。
「ふぅ………」
「来い、朝比奈」
プレゼントを渡し終えて舞台から降りた朝比奈の袖を掴み、急いで部室を目指す。
「……ふえ?ふえ?」
「いいから着いてこい。後今から俺の言う通りにしろ」
「あ……はい………」

部室な着いた俺は朝比奈をロッカーに放り込む。
「いいか、今から1週間前の放課後に行け。後はそっちにいる俺がなんとかしてく
れる。いいな?」
「え?え?でもそんなの申請しても……え?最重要コード?一体………」
「後1分しかねえ……早くいけッ!」
「は、はいッ!」
朝比奈の返事と同時にロッカーを勢い良く閉める。
「………よし、1分立った」
ロッカーの扉を開ける。するとそこには
「ただいまですよ、アナスイ君」
「ふん……んじゃ、とっとと行くぞ朝比奈」
「はい!」

朝比奈を連れ、こっそりと会場に戻る。戻ると長門と古泉が何故かチョコを配っていた。
「よし、バレずにすみそうだ……しかしあれはなんだ?」
「有希がね、外れた人用にって残念賞を急に発表したのよ」
「へえー……流石長門さんですね」
………待てよ?今俺達は誰と喋っているんだ?朝比奈も気がついたらしく、こちらを怯えた顔で見てくる。
「ね?あたし見ちゃったんだぁ……アナスイがみくるを連れ出す所………」
二人で錆び付いたぜんまい仕掛けのようにゆっくりと後ろを向く。そこには怒りのオーラを全身から放つキョンと涼宮がいた。
「白状しな……今なら10分の9殺しで許してやる………」
「やっぱこうなのかァァァァァァァーーーーーーーッ!」
その時、俺は気がついていなかった。いつもなら真っ先に俺をいじめに来る徐倫が、舞台の袖で一人考えこんでいた事を………。

To Be Continued・・・

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月12日 14:59