「―――マッ、『マシンガンズゥー』!! 言っただろうが、『鶴屋さん』を呼べとォォォ!!」
「アァー!? ウルセーナ、コイズミカ? テメー!
ンナモンワスレチマッタゼェェ!! ……デヨォー、ナンテイウンダッケ?」
……『メリミー』の腕の中で喚く『マシンガンズ』と、その本体である『古泉一樹』。
俺たちにしか聞こえない、喧しい口喧嘩を耳の端に捕らえながら。
俺は、軽いめまいを覚えた。
「『鶴屋さん、廊下に出て来てください』だよッ!!
『古泉です』も『非常事態です』も覚えられねえってェーから、省いてやったんだろうがッ!!!
いいやっ、ぼくは最後には『鶴屋さん』と呼びまくるだけでもいいとまで言ったんだッ!!
このバケモノが、たった五文字も覚えられねェ――のかッ!?
この粗大ゴミがッ、ガラクタがァーッ!!」
「ウルセェーンダヨ!! メシモクワセネェークセニ
エラソウニオレニ『サシズ』テンジャネェーヨッドボゲガッ!!
『ノウ』ニ『エイヨウ』ガイカネェーンダヨ!!」
「こっの……何を食わせようと一瞬で『弾丸』にしちまう癖にほざいてんじゃねェーぞ、この妖怪がァッ!!!
大体が、おまえに『脳』なんて大層なモンが付いてるのか!? バラバラに分解して確かめさせて貰いたいもんだ!」
……えーと、俺の目の前で。体毛を逆立てながら、とんでもなく口汚く叫んでいる、このネコ。
本当に『古泉一樹』なのか? ……誰かが化けてるとかじゃあ、ないよな?
「こっ、古泉くんッ、落ち着いてください、あんまり鳴いたら、先生たちに気づかれちゃいますからっ!!」
「いいやっ、今度こそ頭に来た!
朝比奈さん、あなたの『スタンド』で、その手の中のクズ鉄が、二度とふざけたクチを利けないように、『ブッ壊し』てください!!」
それ、本体のお前もブッ壊れないか。
「ギャッハァー!! ソイツァイーゼェ!
コンナ『ビジン』ニブッコワサレテヨォ
オマケニテメェーミテーナクソ『ホンタイ』トモオサラバデキンダ、ネガッテモネェーゼ!!
アー、デモヨォ、サイゴニ、『アレ』クイテェーナァー!!
エート、ナンダッケ、アレ? オマエ、シッテル? アノ『フワフワ』ダヨ、フワフワ!」
……俺に聞くな、知るわけないだろうが。
「ぐっ……テメェー、この間『覚えた』んじゃなかったのか、『カステラ』はッ!!
『カステラ』も覚えられねェーゴミクズがっ、贅沢をほざくなァ――ッ!!」
「アァー! ソレダヨ、『カステラ』ダ『カステラ』!
アレクッテカラブッコワサレテェーナーァ!」
……あの、これ、いつ終わるんですか?
などと、意識が遠のきかけた直後。俺たちの頭上から、『救いの声』が降り注いできた。
「あー、はいはい!
『いっちゃん』も『マシンガンくん』も、そこまで! また今度! ね!」
「あっ……つ、鶴屋さんっ!!」
俺が、声のした頭上を見上げるよりも早く。
朝比奈さんが、その名前を呼んだ。
―――『鶴屋さん』! どうやら、この大ゲンカの声を聞きつけて、出てきてくれたらしい!
「んー、見たところ、コッチの白ちゃんが『みくる』で
黒くんは『キョン君』なのかなっ?
ま、とりあえずね? ここだとちょーっと、喋りにくいから
とりあえず『階段』までいこうねっ?」
……女神だ。微笑むそのお姿が、今の俺には、女神にしか見えない……
神様仏様スタンド様。この方を、俺たちの仲間にしてくれて、本当にありがとうございます。
―――
「なるほどねぇー、いやはや、久々だね、ハルにゃんじきじきの不思議事件も! っていうか、あたしがまともに見るのは、初めてじゃないかい、もしかして?
みくるが、部室に新しいお茶を置いてくるってったきり戻ってこないからさあ。
なんかあったのかなー? とかは、思ってたんだけどねえ?
まさか、こんなカワイイ異常事態が起きてるなんてねえ。ハルにゃんも可愛いところあるんだねえ」
踊り場にて、俺たちを隅っこに隠すように移動させた鶴屋さんは。
『スタンド』を解しての会話の後、そう言って、からからと笑った。
「でもさぁー、みくるさあ、いくら授業に間に合わないかもしんないからって
『ワープ』してまでお茶を置きにいくことないじゃん」
「ご、ごめんなさい、少し日に干してからのほうが美味しいって聴いたから……」
「うん、そっかそっか。ま、とにかくわかったよ。
ハルにゃんに、みんなオヤスミだよーって伝えればいいんだね?
それと、フーゴ先生に……えーっと、なんだったっけ?」
「ぼくらは正門近くで身を隠していますから。
正門まで誰か迎えを送るように、機関に連絡してもらえるように伝えて欲しいんです。
出来れば、森さんが望ましい……
それと、可能なら、一連の事情を伝えてもらえれば」
「うん、わかったよ。いきさつを説明するのは、あたしがしたほうがいいね?
あと、例の美夕紀ちゃんにも伝えておいたほうがいいかな?」
俺の記憶が確かなら、榎本先輩は、今日は軽音楽部のほうで
大事な音あわせがあるらしく、SOS団には参加しないと聞いている。
しかし、念のため、事情を伝えておいたほうがいいだろう。
「じゃ、美夕紀ちゃんにはメールしとこっかな。
たしかA組だったよね? 会長くんと同じ。じゃ、今は体育中かな?
あ、そだ、あたしね、先生には、ちょっと保健室にって言ってあるからさ。
このまま、ほんとに保健室行って、フーゴ先生に伝えてくるよ。
迎えは、正門前だったよね?
じゃ、正門からそれらしい車とかが来たら、出て行けるような場所に、隠れててくれるかな?」
「お願いします。……どうもすみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」
「あっはっは、いーっていーって。
いっちゃんとマシンガンくんが喧嘩友達なのは知ってたしねぇー。
でも、いっちゃんがあんな怒ってるの、初めて見たよっ、貴重なところ見ちゃったなぁ」
……それについては。全面的に同意します。
……まさに己自身である、自分の『スタンド』相手だからこそ出せる、『素』なのだろうか。アレは。
「まっ、まあ、とにかく。あとは、鶴屋さんにお任せして、ぼくたちは正門へ向かいましょう……
まだ授業時間中です、正門側にでしたら、誰もいないでしょう」
俺と一瞬眼が合うと、古泉は、僅かにうろたえるような様子を見せ、早口にそう言い切り、エメラルドの眼の矛先を逸らした。
「ついでだし、連れて行ってあげるよ。
万が一、誰かに見かけられたら厄介なことになるでしょ?
大丈夫大丈夫、校内に『ネコ』が迷い込んでたから
出口までつれていってあげてるんだって言えば、誰も文句言わないよっ」
お心遣い、非常にありがたいです。やはり、鶴屋さんに助けを求めた、古泉の提案は正解だった。
これがあのバ会長あたりだったら、助けてくれるどころか
ここぞとばかりに俺たちを弄繰り回し、遊ばれていたところだろう。
鶴屋さんが俺たちの前にしゃがみ込んでくれて
その両肩に、俺と古泉が、爪を立てないよう注意しながら、前足をかける。
さすがに、彼女の両腕の中に、俺たちのどちらかが収まるわけにはいかない。
非常に残念だが、その特等席には、朝比奈さんについて貰う。
「あっはっは、三人ともでこれかあ。
いやあ、ホントにネコちゃんなんだねえ、みんな。なんか笑えるなぁーっ」
彼女の肩に密着している俺の胴体に、彼女が喋るたび、振動が伝わってくるのが、なんとなくこそばゆい。
「んん? ……あっはっは、キョンくんったら、そこまでネコちゃんじゃなくてもいいのに」
「……はい?」
「気づいてないの? あ、みくるもだ。二人ともさ、『ゴロゴロ』言ってるよ、『ゴロゴロ』!」
――――
かくして。鶴屋さんの助力のもと、俺たちは無事、何事もなく
昇降口から、初夏の空の下へと抜け出すことができた。
名残惜しい鶴屋さんの体温に別れを告げ、アスファルトの地面の上に着地する。
「じゃ、あたし、フーゴ先生のところに行ってくるから、どっか隠れててくれるかな?
放課後になると面倒だし、できるだけ早くお迎えが来るように言っておくね! あと、ハルにゃんのことは、任せてくれていーからね」
「すみません、鶴屋さん」
「? お礼を言ってくれてるのかな? 気にしない気にしないっ
困ったときはお互い様だよっ。じゃ、ご武運をねっ」
……校舎へ飲み込まれてゆく、鶴屋さんの背中を見送った後。
残された俺たち三人の、俺たちにしか聞こえない作戦会議が始まる。
「よかったぁ、なんとかなりそうですね……」
「ええ。後は、時が解決してくれることに期待する他ないですね。
万が一、明日になってもぼくらが元に戻らなかったりする可能性を考えると
まだまだ問題は残っていますが」
それは、今考えても仕方ない、か。
「です。……とにかく、迎えを待つのに、この人目につく場所はまずいですし、どこかに隠れましょう」
と、そうだった。さすがに校舎内よりは目立たんだろうが
昇降口の前で、三匹のネコが顔をつき合わせているというのは、あまり自然な光景じゃあない。
二人が、周囲をくるくると見回す。それに倣って、俺も視線を周囲に散らばせる……
早々人が注目するような場所ではなく
また、正門から入ってくる迎えにすぐに気づける場所。
そんな場所を見つけるのに、そう時間は掛からなかった。
「あそこがいいでしょう。少し砂埃がうっとうしいかも知れませんが」
古泉がアゴで示したのは、非常階段の脇の、名も知らない低木によって構築された、茂みの影だった。
なるほど、あの場所ならば、体をかがめていれば
覗き込まれでもしない限り、周りには見つからない。少し首を伸ばせば、正門の様子も伺えるな。
「行きましょう」
言うが早いか、古泉が駆け出す。それを追いかけて、俺と朝比奈さんも、アスファルトを蹴った。
……近づいてはじめて気づいたが。その茂みは、アスファルトよりも高い位置にある。
人間の姿の俺たちにとっては、せいぜい階段三段分程度の高さだが
今の俺たちにとっては、その段差は、かなり高いものだ。
今の俺の視点を、普段の俺の視点……
身長174cmほどの人間に換算すると。その高さは、マンションの2階分ほどは十分にある。
『スタンド』に持ち上げてもらう必要があるか?
……などと、俺が考え出した、瞬間。
俺の背後から、頭上を経て、目指す茂みのある高さへと、何事もないかのように飛び映ったのは……朝比奈さんだった。
……『スタンド』の力を借りたんだろうか?
「? どうしたんですか、おふたりとも? はやく、飛び乗ってください」
くるりと上半身をこちらに向け、俺たちを見下ろしながら、朝比奈さんは、そう言った。
……そうか。今、俺たちが『ネコ』であるとするなら。
『ネコ』の跳躍力を持ってすればは、このくらいの高さになら容易く届くのか。
「ほっ」
短い掛け声とともに、アスファルトを蹴ってみる。
すると、俺の体は、まるで風船でも背負っているかのように、ふわりと、容易く。目指す高さまで浮き上がった。
……ネコってのは、随分便利な身体能力を持っているんだな。
「どうやら、『ネコ化』して時間が経つにつれて、ぼくらはこの身体に『慣れて』きているようですね」
俺より一瞬遅れて、段上に飛び乗ってきた古泉が、言う。
「無意識に、ネコとしての『走り方』や、『跳び方』が身についてきているようだ。
始めのうちは、四足で立っているのも違和感がありましたが
今では四足で走ることも、当然のようにこなしている」
「……人間に戻ったときに、二足歩行のしかたを忘れちまてなけりゃーいいがな」
「はは、それは怖いですね。まあ、問題ないでしょう、おそらく。
精神はあくまで人間のままでいられているんですからね。スタンドがその証拠だ」
何はともあれ、俺たちは、予定通り。目指した『隠れ場所』へとたどり着くことができた。
古泉の言うとおり、少しばかり埃っぽい気もするが、この際そこには目をつぶるとしよう。
……何しろ、時刻を確認する手段を軒並み失ってしまったので
放課後まで、どれほど時間が残っているのかわからない。
できれば、授業時間中に、この学校から脱出したいのだが……
などと焦れ出した頃。待ち望んでいた、『迎え』がやってきた。
「! おい、古泉、正門から車が入ってきたぜ……教師の車じゃなさそうだ、仰々しい黒塗りの車だ」
「ええ、ぼくも、先ほどから音で気づいていました。あれは『機関』の車です……やれやれ、どうにか間に合ったようです」
しきりに正門を気にしていた俺の傍らで、古泉と朝比奈さんは、あまり清潔とはいえない土の上に体を丸め、身を隠すことに専念していた。
……と、いうか。朝比奈さんに至っては、なにやら目を細め、気だるげな表情をしている。
どうやら、夢うつつの様子だ。
……確かにネコはよく寝る生き物だが、何もそこまでネコにならなくてもいいだろうに。
「誰か降りてきました……あれは、森さんだ。よかった、彼女となら意思の疎通もできます。
よし、急いで出て行きましょう。……? 朝比奈さん?」
「……ふえ?」
どうやら、本気で眠りかけていたらしい。まあ、無理もないか。
スタンドバトルよりはいくらかマシだが、気疲れするには十分すぎる状況だ。
「迎えが来ました、朝比奈さん。
どうやら、まだ授業も終わっていないようです。今のうちに、学校を出ましょう」
「あ、はい……すいません、なんだか、眠くなっちゃって……
わかりました、行きましょう」
そう言うと、朝比奈さんは、四足ですくっと立ち上がり
寝覚めにしてはやけに軽い足取りで、先ほど上ってきた段差の淵から、軽やかに飛び降りた。
追いかけるように、俺は古泉と顔を見合わせ、人間換算すると二階ほどの高さから、目下のアスファルトへ飛び降りる。
問題なく、着地成功。……しかし、やはり、飛び降りる瞬間には、一瞬の躊躇いを感じる―――
……ふと、思う。
何故、朝比奈さんは。あれほどこの状況に順応しているんだろうか?
彼女は、先ほど、この段差へと飛び乗る際にも。まるで当たり前のようにネコとしての跳躍をやってのけた。
それはまだわかる。しかし、飛び降りる事に関しては。
少なくとも精神が人間である俺たちにとって、目下十数メートルに相当する高さから飛び降りるというのは、どう考えても普通のことじゃあない。
おそらく、臆病さにランクをつけるとしたら、かなり高い順位にランキングされるであろう朝比奈さんが。
俺より、古泉よりも早く、この段差から、何事もなく飛び降りた。見た限りは、一瞬の躊躇いもなくだ。
「ん! どうやら、問題なく保護できそうね」
アスファルトの上を駆け寄る俺たちに気づいた森さんが、腰に手を当てながら、しゃがみ込む。
「どうも、すみません。事情は聞いていますね?」
「ん? ごめん、何言ってるかは分からないけど……
なんとなくわかるわね、えーっと、あんたが古泉? そっちがキョン君ね? すると、この白ネコさんが、朝比奈みくる?」
おっと、ただ喋りかけるだけじゃあ通用しないんだったな。
森さんの確認に、俺たちは、なんとなく肯くような動作で答える。
「……んー、万が一間違えてると困るわね。間違いないようにテストしましょう。
古泉、ちょっとこの場で三回回って、ワンって言ってみて?」
「なっ……」
「古泉、仕方ないだろ」
「…………ワン」
不服そうに目を細めながらも、古泉は、森さんの言うとおり
円を描くように三度周囲を歩き回った後、吐き捨てるように呟いた。
「ぷっ…………くっくっく、おかしーわね、『ニャン』にしか聞こえなかったけど?
ま、あんまりいじめると悪いわ、間違いないだし、早いところ乗っちゃって」
……いつもの姿でなくてよかったな、古泉。
「ネコになんかなってなければ、こんな目に会ってすらいません」
それもそうだ。
ともあれ、森さんが開けてくれた後部座席の扉から、俺たちは車内に飛び乗る。
座席に土足(?)で上がるのは些か躊躇われたが
ありがたいことに、なにやら専用のシートのようなものが敷いてあった。
ほどなくして、車体が動き出す。
……エンジンの音は聞こえるし、スタンドではなく、普通に運転しているようだ。
「さて、事情は大体聞いています。
涼宮ハルヒについては、チンピラ会長と、パンナコッタ・フーゴのほうで、警戒しておいて貰えるよう、言っておきました。
あいつらがどこまで頼れるか分からないけど……
パンナコッタ・フーゴのスタンドについては、詳しい情報は聞いていませんし。
とりあえず、貴方たちは、機関の寮で、ことが動くのを待ってもらいます。それでいいですね?」
運転席に座った森さんが、バックミラー越しに俺たちを見つつ、僅かに義務的な口調で、淡々と告げる。
特に断る理由もないので、再び、ネコ的肯定の動作を行う。
首ごと肩をすくめているようで、なんとなく奇妙な気分だ。
……と、いうか、それよりも。『スタンド』で会話をすりゃあいいんじゃないか? こんなまどろっこしいことをせんでも。
「……ふう、一時はどうなることかと思いましたが。とりあえず、難は逃れた、というところですかね」
不意に、古泉が言う。シートの上に、のっぺりと腹を預けるその姿は、まるでうちのシャミセンのようだ。
それどころか、前足の肉球を舐めだしやがる。……おい、ちょっと待たんか。
「はい?」
「いやな、お前も随分と『ネコ』が身に染み付いてるみたいだがよ。
さっきまで、茂みの土だの、アスファルトだのを踏んづけてた手なんか、よく舐められるな」
「! ……そういえば……いや、確かに。ぼくは何て不潔な真似を……」
は。と、気づいたように、古泉が、シートの上で、立ち上がる。
寝そべる体制については、確かに、この体では、人間のように胡坐をかくのもままならん。
よって、仕方なく、俺もそのポーズを取ってるが……
「! ……あの、あなた、それは……
いえ、別に、これは言葉を返すわけではないのですが……」
「何だよ?」
古泉が、ふと。俺を見て、なにやら訝しげに目を見開いている。
……俺が何か妙な真似をしてるか?
今の俺は……ただ、耳が痒いような気がして、ほじくっているだけなんだが。
「いや、それが『おかしい』んです!
あなただって、ぼくと同じように、さっきまで土足で、四足で立っていたじゃあないですか!
だったら、その『行為』だって、十分『不潔』じゃあないですか!?」
「なっ……!?」
……古泉に指摘されて、初めて気づく。
俺は……今、何をしてる? 耳が痒いな……そう思った時! 『自然』に俺が取っていた行動は!?
「な、何だ、こりゃァッ!? 今、おれは何をしているんだ!?
自分の体だから、見えねえが……この『体制』は!
おれは……『後ろ足』を、『耳』ん中に『突っ込んで』るのかよォッ!?
ただ、小指を耳の穴に突っ込むくらいの、軽い気持ちで……おれはこんな行動をしたのかッ!?」
これじゃ、まるで! 『精神』まで『ネコ』になっちまっているようじゃねえか!
んな、馬鹿な! 俺はさっき、2階レベルの段差を飛び降りるとき!
ちゃんと『躊躇』してた……人間として当然の躊躇を感じてたじゃねえか!?
「何よ、さっきっからニャーニャーうるさいわね、雑談なら、もうちょっと静かにやってくれない?」
森さんが、バックミラー越しに俺たちを見ながら、面倒くさそうに言う。
まずいぞ―――ついさっきまで、事はひとまず落ち着いたと、楽観していたが!
この状況は! 俺たちが思っていたよりも、ずっと『深刻』な状況だったかもしれないッ!
「森さん、スタンドを! 『スタンド』を出してください、話があるんだ!」
「……ちょっと、何よ? 腹でも空いた?」
違う! 駄目だ、今のままじゃ、俺たちがいくら必死で訴えても、深刻さは伝わらない!
当然だ、ネコは表情の変化がわかりにくいからなッ!
「『ゴッド・ロック』を出してください!
スタンドを見せれば、森さんも、ただ事ではないと気づくはずです!」
古泉が言う。よし、それだ!
万が一話が通じなくたって、『ゴッド・ロック』なら、何かに文字を書いて
『スタンドを出して会話してくれ』くらいのメッセージは伝えられる!
「森さん、こいつを『見て』ください!!!」
『スタンド』を体から浮き上がらせながら、叫ぶ……もとい、鳴く。
よし、どうだ―――これなら、さすがに気づくだろッ!?
「! ちょ、っと……何よ、『そいつ』はっ!?」
森さんが、反応した! ……しかし、何かおかしい。俺が望んでいた反応と、違う……?
「まさか―――『敵スタンド』ッ!? あんたたち、『古泉』たちじゃあないのッ!?」
……何だって? ちょっと待て、森さんは、俺の『ゴッド・ロック』を知っているはずだッ!
だってのに、どうして! この『ゴッド・ロック』を見て
『敵スタンド』なんて言葉が出てくるってんだッ!?
―――まさか! 数日前!
あの『ネオ・メロ・ドラマティック』で女性化した際に
『ゴッド・ロック』の見た目が変わっていたように―――!!
「ちょ、ちょっと待て……『それ』は、一体どういう事ですか―――まさか、『それ』が―――あなたの、『ゴッド・ロック』なんですかッ!?」
―――俺の体から飛び出した、俺の『スタンド』!
漆黒の巨人、『ゴッド・ロック』は、今!!
―――車体の天井近くに浮かび上がっている―――そいつは、今ッ―――!?
―――"黒い『ヒョウ』の如き姿をしている"――――ッ!!?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョン(♂)
体長/体重:174cm/62kg → 32cm/3.2kg
品種:カラスネコ
毛色:ブラック
目の色:赤みがかったゴールド
スタンド:『ゴッド・ロック』 変化:人型・体長2m→猛獣型・体長1.5m
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
古泉一樹(♂)
体長/体重:179cm/67kg → 35cm/3.6kg
品種:ロシアンブルー
毛色:グレー
眼の色:エメラルドグリーン
スタンド:『セックス・マシンガンズ』 変化:未確認
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝比奈みくる(♀)
体長/体重:152cm/?kg → 30cm/2.8kg
品種:日本猫
毛色:ホワイト
目の色:右目…ヘーゼル 左目…ブルー
スタンド:『メリー・ミー』 変化:未確認
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
to be contiuend↓
最終更新:2014年06月05日 01:33